本書は、共同通信が配信した、姜さんの「思索の旅」を書籍化したものである。したがって、研究書ではないし、一般向けに書かれているので、深く掘り下げた内容ではないが、姜さんらしく、きわめて知的で、読んでいていろいろ刺激を受ける。
それぞれのテーマに関して深く掘り下げているわけではないが、記述の裏に厖大な知の集積があることがよくわかる。記述の中に、文献が引用されているが、それ以外の記述に於いても、たくさんの文献を渉猟し読んでいることが推測できる。
2018年が明治維新から150年ということで企画されたもので、当然、過去を振り返るのだが、現在に対する鋭い問題意識をもって振り返るので、記述は過去と現在が響き合う。
第一四章と終章が、全体のまとめとして有意義である。維新以降の歴史が、現在ともつながり、敗戦が介在していても、変わらないものがあることを示す。それは国家の「酷薄さ」であり、「むごさ」であったし、また変わらぬ「精巧な機械のように合理的に行政を処理できる組織としての官僚」であった。それらが引き起こす災厄のなかで捨てられていった人々。
姜さんは、そういう人々への共感を示し、同時に知識人と言われる人々の「無力」を記す。
たしかに、わたしが若い頃の知識人は躍動していて、あるべき世論を創り出していたように思う。しかし今、知識人は、一方では国家に組みするようになり、他方、知識人達の国家への影響力、社会全体への影響力は大きく減じている。
本書は、近代150年の歴史と現在に、どのような影があったのかを探索し思索する、姜さんの旅をしるしたものだ。
あまり難しくないので、通読することをすすめたい。