トランプが打ちだしてくる政策が、世界を混乱させている。
トランプの政治が何を狙っているかは、『週刊金曜日』(4.11号)掲載の三牧聖子氏の文、「この二ヶ月で、トランプ政治の目指すところが、ごく少数の金と権力を持つ人たちがさらに富と権力を増やす一方、庶民は今かろうじて持っているものですら剥奪されていく寡頭政治であることは明らかになっている」とあるように、新自由主義的な政策を推進すれば、当然そうなる。トランプやその周囲にいる者たちは、超富裕者であって、みずからの富をさらに増やすことを考えているのであり、イーロン・マスクの「富裕層に主に恩恵を与える減税の財源として、低所得者層や高齢者を対象とした公的医療保険制度の削減について言及」していることに、それは示されている。
所詮、超富裕層には、庶民の生活などは視野に入っていないのである。それは日本でも同じ。
同誌には、佐々木実氏のコラム「経済私考」もあり、そこではトランプ関税への言及がある。マイケル・ペティスの『貿易戦争は階級闘争である』(みすず書房)の、「アメリカが、アメリカ以外の世界の貿易黒字の半分を吸収するだけの貿易赤字を抱えているからであり、その構造が続く限りは、国内の製造業が全体的に復活する可能性は低いでしょう。アメリカは、貿易相手国の過剰貯蓄を吸収していますが、それはつまり、世界の資本が最後に辿り着く先としての役割を果たしているとも言える」を引用している。
アメリカに輸出して儲けたカネは、それぞれの国の内部に環流するのではなく、アメリカの国債購入などにつかわれ、アメリカの金融経済を支えているのである。アメリカ国債を保有している国は、今年1月時点で、日本が保有高で第1位、1兆793億ドルであり、2位が中国で7608億ドルである。以下、英国、ルクセンブルク、ケイマン諸島と続く。
佐々木氏は、「米国が巨額の貿易赤字、経常赤字を恒常的に計上しているのは、中国やドイツを筆頭に世界の過剰な貯蓄が基軸通貨国である米国に流れ込む構図が定着しているからだ。かつてほどの存在感はないとはいえ、日本も米国へ資金を流す主要国」であり、米国がそうした立場から身を引くことが必要だと、ペティの論をもとに指摘している。
そして「平和を損ないかねない貿易戦争を回避するには、各国の所得の不平等の是正と並んで。「アメリカの金融制度に対する世界の不健全な依存」を改める必要があるとペティス氏は指摘する。所得の不平等と金融制度の問題は関係しているから、マネー資本主義の問題ともいえる。鳴り物入りで発動されるトランプ関税は、しかし、金融部門の問題はスルーしている」と佐々木氏は指摘してコラムを終えている。
世界的な金融構造の最終的な資本受け入れ国としてのアメリカ、そういう位置づけが変わらない限り、アメリカの製造業の復活は、おそらくないだろう。関税をあげるだけでは、まったく解決にはならない。近いうちにトランプも、それを認識することだろう。