大学受験に関して、私は謙虚さを強調しました。模擬試験で合格可能性がA判定であっても、受験の際には謙虚な気持ち、「受験します。よろしくお願いします」というような心構えで受けなさいと諭しました。
自分は合格するから・・・という姿勢で受験して、残念ながら失敗した人もいました。
傲慢さは、捨てなければなりません。もちろんプライド、人間としての誇りは持つべきです。しかし傲慢と誇りとは異なります。傲慢は、上から目線でものごとを捉えることです。誇りは、自分自身の生を支える杖のようなものです。
傲慢さは、見えるべきはずのものを見えなくさせます。傲慢な気持ちで受験をすると、注意深さを失います。大学受験の問題をみればわかるように、受験問題には受験生にミスをさせようという意図を持ったものがたくさんあります。傲慢な気持ちを持った人は、その罠に引っかかってしまうのです。自分ではできたと思っても、実際はできていないのです。
傲慢を捨てて、謙虚に取り組まなければなりません。謙虚さは、実は、努力の原動力です。「私は今これくらいの力しかない、しかし努力すればあそこまでは行けるだろう」ということになるのです。謙虚であることは、現在持っている自分自身の力を客観的にはかるということでもあります。自分自身を見つめることでもあります。何がわかっていて(できて)、何がわかっていないか(できていないか)、そういうことを自分自身に問うことでもあります。そこから、わかろう、できるようにしようという意志が生み出されるのです。
つまり、謙虚さは、努力しようという意志を生み出すのです。
私は、人間の意志の力は大きいと思っています。強い意志を持って取り組むと、思いの外結果はよいものになります。
私の例を記しましょう。私が発見した兵士の手紙(日中戦争下、中国の各地で中国人を殺戮したという内容)について、各所からウソだろうとか、偽造するな・・・などと非難されました。当時の手紙ですから史料としては一級です。偽造でもウソでもありません。しかしそれでも私は、その手紙に記されていることが事実であることを証明しようとして二度訪中しました。
私は絶対に手紙の内容が事実であったことを証明するぞという強い意志を持って中国に行きました。その結果、その兵士が駐屯した銀行の建物を発見しましたし、それ以外でも、いろいろな発見をしました。
強い意志は現実を動かすという感覚を、私は何度も体験しています。何事かをやりとげようというとき、ひるむことなく(絶対に退いてはいけない)、強い意志をもって進んでいけば必ず良い結果がでます。
皆さんは、これから、いろいろなことを研究していくことでしょう。
たとえば中山間地域にまとわりついている過疎の問題をどう解決していくか、を考えようとするとき、先進的な事例(たとえば長野県栄村)を参考にしながら、必死に地元の人びとと考え続ける(地元の人びとから教えを受けることでもあります)ことで、何らかの光が見えてくるのではないかと思います。
謙虚さと強い意志があれば、必ず前へ進みます。T君、まちづくりのために強い意志を持って取り組んでください。