

車を運転しながら
小山卓治の〈YELLOW WASP〉を聴いた。
映画「グラン・トリノ」に登場するアメリカに生きるモン族の若者たちと
〈YELLOW WASP〉の中の日本に生きる残留孤児2世の若者たち。
彼らは共に、自分が生まれる前に起こったとっくに終わったはずの戦争のおかげで
自ら望んでやって来たわけではない国にいて
自分の居場所をみつけられずに哀しみと怒りと絶望を抱えて生きている。
モン族がベトナム戦争でアメリカに利用されて、戦後、祖国ラオスから追われたこと
太平洋戦争後、多くの日本人が中国に取り残され、そこで生きるしか方法がなかったこと
そういった事実も長い間知らずにいて、日本という平和で超Bigになった(と錯覚してた)国で
自分のことばかり考えて大人になってしまった。
「グラン・トリノ」の映画には泣けるエンディングがあっても、現実のモン族はそこに生き続けるし
小山卓治が歌った〈YELLOW WASP〉の現実は、20年を経ても風化せずそこにある。
戦争の傷跡が世代を超えてそこにあること
忘れちゃいけない。
YELLOW WASP
詞:小山卓治 曲:小山卓治
盗んだバイクにまたがって
女をケツに乗せて走りだした
浦安のボーリング場の
駐車場で決闘が始まる
夜の9時コンビニの前
集まったバイクと車の群れ
急げばまだ間に合うはず
5月28日のこと
俺や仲間達は
いつでもこう呼ばれる
残留孤児2世
黄色いワスプの住んでるこの国じゃ
暗闇の駐車場の隅
俺達は族に囲まれた
ナイフや曲がった鉄パイプ
キラリと光って襲いかかる
殴られて必死に逃げて
迷いこんだ袋小路
金網にへばりつきながら
盗んだナイフ握ってた
殺される
この国へ来てから
いつだってこうだった
黄色いワスプの住んでるこの国じゃ
言葉も分からないうちに
この国の学校に入れられた
喋れないだけで殴られ
先生は俺を馬鹿呼ばわりした
戦争が終わった時に
お袋はまだ5歳の女の子
俺と兄貴が生まれ育った
黒竜江を後にして
7年前の朝
親父だけを残して
俺達帰ってきた
黄色いワスプの住んでるこの国へ
うめき声が聞こえてくる
俺の足元にうずくまる男
吹きだす血の音が聞こえ
俺は水たまりにしゃがみこんでた
やられっぱなしじゃないぜ
俺は腰抜けじゃないんだ
だけど震えながら見あげる
今にも降りだしそうな空
中国へ帰りな
てめえらは臭いぜ
この不良ども
黄色いワスプの住んでるこの国じゃ
俺の手に手錠がかけられ
男は病院で冷たくなった
俺のすり切れた指紋は
殺人者の烙印に変わった
検察は俺をにらみつけ
ぶちこんでやると叫んだ
弁護士は正当防衛と
傷害致死を主張した
中国が恋しい
この国は俺のこと
好きになっちゃくれない
黄色いワスプの住んでるこの国は
親父はいつでも自分を
中国人だと思い続けてた
お袋はいつでも自分を
日本人だと思いたがってた
俺はいつでも自分を
人間だと思っている
国籍が違うってだけで
どうしてそんな目で見るんだ
おまえらも黄色だ
みんな黄色じゃねえか
同じ黄色じゃねえか
黄色いワスプの住んでるこの国じゃ
鑑別所 家庭裁判所
高等裁判所と回された
タマネギ臭い指をした
仲間達が俺を見守ってくれた
心から話しあえるのは
同じ境遇の仲間だけ
俺は一体誰なの
どこの国の人間なの
3月17日
5回目の判決で
俺はたたき出された
黄色いワスプの住んでるこの国へ
北京の広場じゃ仲間が
戦車にひかれ死んじまった
古いボートに乗った仲間
東シナ海を越えてくる
俺達一握りの自由に
命賭けて戦ったのに
この国じゃでっかい自由を
クソまみれにしているんだ
こいつは俺達の
俺達の戦争だ
俺達の戦争だ
黄色いワスプの住んでるこの国じゃ