孤発性筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態モデルマウスの運動ニューロンの変性と脱落および症状を遺伝子治療によって食い止めることに世界で初めて成功したと発表がありました(QLife Pro)。ALSの多くを占める遺伝性のない孤発性ALSにおいて、ADAR2という酵素の発現低下が運動ニューロン死に関わっていることが既に突き止められていたそうです。これを受け、血管投与により脳や脊髄のニューロンだけにADAR2遺伝子を発現させるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを開発。従来、静脈投与は脳や脊髄に遺伝子を導入することは困難とされていたが、このニューロンのみで遺伝子を発現するAAVベクターは、一回の静脈注射で効果的な量のADAR2遺伝子の発現を長時間持続させることに成功。1回のベクターの静脈内投与により、約20%の確率で脊髄運動ニューロンのみにADAR2遺伝子を発現させ、肝臓や血液などの中枢神経のニューロン以外には発現しないこと、副作用もないことを確認。実験では、既に開発されている孤発性ALSの病態を示すコンディショナルノックアウトマウス(AR2マウス)を用い、AAVベクターによるADAR2遺伝子の導入で、約2ヶ月で運動機能の低下が抑制され、投与7ヶ月後には対照群と比較して脊髄でのADAR2発現は1.5倍に上昇、運動ニューロンの変性や脱落が抑制されていたというもの。また、ADAR2遺伝子発現による異常なグリア細胞の反応は見られなかったとも。このベクターによるADAR2遺伝子の運動ニューロンでの発現は、ALS発症前だけでなく、発症後に投与した場合でも、ALSの一連の過程を副作用なく止めることができ、運動ニューロン死による症状の進行を抑止したということです。AAVウイルスは安全性が高い遺伝子送達ベクターとして知られ、世界的にも遺伝子治療の臨床試験に用いられているそうです。今回の結果はモデルマウスでのものですが、有効な治療法のないALSに光をもたらすものと考えられるそうです。また、静脈内投与により脳や脊髄に遺伝子治療ができるこのAAVベクターは、ALS以外の中枢神経系疾患への治療への応用も期待されるそうです。
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