・・・続き。
六 アイヌ新法
・ 1984年5月、ウタリ協会総会で制定要求が決議された「アイヌ民族に関する法律(案)」(略称「アイヌ新法」)
「声明」
一、 明治三十二年制定のアイヌ民族差別法である北海道旧土人保護法の撤廃を要求する。
一、 北海道旧土人保護法による多年にわたった民族の損失を回復するためにアイヌ民族に関する法律を制定することを要求する。
一、 アイヌ民族に関する法律の制定は北海道旧土人保護法撤廃と同時とする。
「本法を制定する理由」(北海道侵略の経過)
北海道、樺太、千島列島をアイヌモシリ(アイヌの住む大地)として、固有の言語と文化を持ち、共通の経済生活を営み、独自の歴史を築いた集団がアイヌ民族であり、徳川幕府や松前藩の非道な侵略とたたかいながらも民族としての自主性を固持してきた。
明治維新によって近代的統一国家への第一歩を踏み出した日本政府は、先住民であるアイヌとの間になんの交渉もなくアイヌモシリ全土を持主なき土地として一方的に領土に組みいれ、また、帝政ロシアとの間に千島・樺太交換条約を締結して樺太および北千島のアイヌの安住の地を強制的に棄てさせたのである。
土地も森も海もうばわれ、鹿をとれば密猟、鮭をとれば密漁、薪をとれば盗伐とされ、一方、和人移民が洪水のように流れこみ、すさまじい乱開発が始まり、アイヌ民族はまさに生存そのものを脅かされるにいたった。
アイヌは、給与地にしばられて居住の自由、農業以外の職業を選択する自由をせばめられ、教育においては民族固有の言語もうばわれ、差別と偏見を基調にした「同化」政策によって民族の尊厳はふみにじられた。
戦後の農地改革はいわゆる旧土人給与地にもおよび、さらに農業近代化政策の波は零細貧農のアイヌを四散させ、コタンはつぎつぎと崩壊していった。(中略)
アイヌ民族問題は、日本の近代国家への成立過程においてひきおこされた恥ずべき歴史的所産であり、日本国憲法によって保証された基本的人権にかかわる重要な課題をはらんでいる。このような事態を解決することは政府の責任であり、全国民的な課題であるとの認識から、ここに屈辱的なアイヌ民族差別法である北海道旧土人保護法を廃止し、新たにアイヌ民族に関する法律を制定するものである。
「具体的法案」
第一、 基本的人権(民族的差別の絶滅)
第二、 参政権(国会と地方議会での民族代表としての議席の確保)
第三、 教育・文化(アイヌ子弟のための対策、とくにアイヌ語・アイヌ文化のための積極的育成策)
第四、 農業漁業林業商工業等(先住者権にもとづく生産基盤の優先的確保など)
第五、 民族自立文化基金(アイヌ民族が自立をするための援助基金)
第六、 審議機関(アイヌ民族政策を国政・地方政治に正しく継続的に反映させるための審議会の設置)
日本の首相と建設相への手紙――アイヌ民族の訴え
竹下登首相殿
小此木彦三郎建設相殿
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日本の先住民族・アイヌが主張するように、北海道はアイヌが日本に売ったものでも貸したものでもなく、究極的には武力をかさに全く一方的に日本人が侵略し、私有化・社有化・国有化をすすめた結果であります。この事実に議論の余地はありません。
オーストラリアの場合も同じです。イギリスをはじめとするヨーロッパ人に対して、先住民族はこの大陸を売ったわけでも貸したわけでもなく、かれらが勝手に押しかけてきて侵略したのでした。「侵略」と一言で表現しても、そのひどい体験のない日本本土人には内実の恐ろしさがなかなか理解できにくいのですが、要するに虐殺・強姦・ドレイ化すべて勝手放題にされるということです。豪州の場合、地域によってその被侵略史に程度の差があり、タスマニアの先住民族などは数千人いたのに、虐殺・強姦のはて約100年前(1876年)にはほとんど絶滅にひんしています。かれらにとって、ヨーロッパ人は「白い悪魔」以外の何ものでもありません。
しかしながら、それ以後の日豪両国の先住民には大きな違いがあります。
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まず「先住民の領土」として公認された地域があります。
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アイヌ民族にたとえてみれば、北海道を侵略で全部強奪されたあと、最近になってその「国有林」なり「社有林」なりの一部をアイヌに返還したようなものです。いかに辺境の不毛地とはいえ、日本のアイヌの現状に比べたら天地の差、オーストラリアのほうが明らかに民主的措置といえましょう。・ ・ ・
豪州北部準州では先住民の合意なしには企業がはいれないことになっています。
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北海道・日高地方のサ沙ル流川で起きたニ風谷(ニブタニ)ダム事件であります。
二風谷はアイヌ民族の神話にもあるような民族誕生の聖地、日本神話にたとえれば伊勢神宮に相当するようなところです。豪州先住民領土にも聖地があり、こんなことは絶対にかれらが許さぬ暴挙でしょう。そこへ強引にダムをつくり、アイヌたちの農地を水没させ、反対するアイヌの土地は「土地収用法」で強奪することに、今年二月の北海道収用委が強行採決しました。 ・ ・ ・
(『朝日ジャーナル』1989年4月28日号)
二風谷ダムと長良川河口ダムの日本型構造
・ 長良川の河口ダム
要するに目的が消失するたびに、必死で「目的」を創作し、でっち上げているのだ。なぜ目的の消失とともに計画を中止しないのか。この答えは、どんなに考えても一つしかない。
「つくることが目的だから」
なぜ「つくること自体」が目的なのか。これも次のただ一つ以外にどうしても出てこないのだ。
「土建業界と手先の役人や政治屋がオイシイ生活をしたいから」
* *
そして全く同じ図式にあるのが、北海道のアイヌ民族の聖地・沙流川である。
去年の暮れに北川環境庁長官は長良川河口堰に対して環境の再調査を求める見解を出した。すると、建設相は「工事を進めながら調査する」という噴飯もの、世界の嘲笑をまた招く「方法」を実行している。調査が終わるころには完成させてしまうためだ。かつて林野庁が知床国立公園で「調査しながら伐採する」という無茶苦茶をやった場合と同じである。完全な無法国家・ ・ ・ 。
(『朝日ジャーナル』1991年9月27日号)
付録1 アイヌ民族破壊を弾劾する簡略なる陳述
――萱野茂・貝沢正両氏
一 萱野茂氏の陳述
・ アイヌは好き好んで文化や言語を失ったのではありません。明治以来の近代日本が同化政策という美名のもとで、まず国土を奪い、文化を破壊し、言語を剥奪してしまったのです。この地球上で何万年、何千年か、かかって生まれたアイヌの文化、言語をわずか百年でほぼ根絶やしにしてしまったのです。
二 貝沢正氏の陳述
・ 北海道開発政策で生存権を奪われ、ようやく農民となったやさきに、また土地を取り上げる。こういう開発政策には私は納得できないのであります。・ ・ ・ 狩猟民族であるアイヌに狩猟権と漁業権を与えるようにしていただきたいなと思います。
あとがき
・ ある国の政治や民度を測定するための有力な方法のひとつは、そこでの弱者に対する姿勢でしょうから、少数民族や障害者への政府や支配民族(ヘレンフォーク)の態度を知ることによって、「たてまえ」や「官僚の作文」のウソを見破ることができる。日本の場合は「たてまえ」そのものからして世界の恥さらしであることを、多少とも他国の先住民族の実態を知った人であれば痛感しているでしょう。
以上
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