1984.3.23
朝日ジャーナル
2種の人類
本多勝一
たとえば違星北斗の遺稿集『コタン』(草風館)というような本を読むと、人類にはこの種の本に「感じる種族」と「感じぬ種族」の2種族があるのではないかという思いをまた新たにしてしまう。
1929(昭和4)年に27歳で死んだこのアイヌ歌人の随筆と短歌は、生まれながらにして差別され、言葉さえ奪われた民族の心が、それを「感じる種族」に対してはあたかも神の言葉であるかのように伝わって、人類のパーセンテージとしては大多数を占める「アイヌ的存在」への共感にシンクロナイズ(同調)せしめるだろう。
だが、もう一方の「感じぬ種族」に対しては、血へどを吐く思いでつづる歌も「馬の耳に念仏」「猫に小判」の類でしかない。
そしてこの2種の人類は、いわゆる「教育」の“程度”とは何の関係もなく、大学教授や文筆業者の中にも「感じぬ種族」はたくさんいる。
この2つの種族はもちろん先天的なものではないから、一人の人間が生涯のある時期に変わることもある。
「感じる種族」も巧成り名とげると鈍磨する例が案外多いようだ。
日常的に加えられる民族差別と、それに耐えきれず自暴自棄に陥ってゆく同胞の姿に、深い悲しみ・怒り・嘆きをたたきつけた北斗の歌の数数。そして「アイヌと云ふ言葉の持つ悪い概念を一蹴しようと、
『私はアイヌだ!』と逆宣伝的に叫びながら、淋しい元気を出して闘ひ続け」たあとの短歌は―
アイヌと云ふ新しく よい概念を 内地の人に与へたく思うふ
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