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川柳・ボートっていいね!北海道散歩

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ホームレス絶唱 E

2007年12月14日 | 川柳

 お金ない、地位ない、夢はある。古今東西おおよその若者に共通する身の置きどころではないだろうか。

 もう、ずいぶん昔ですが、私が23歳頃の新宿は、ヒッピーと呼ばれる、一種独得な若者文化がまだ姿を現していました。

 そして、また別に、今で言うホームレスも新宿の地下街で新聞紙に包まって横になっていたのを覚えています。

 一週間の仕事を終え、新宿に繰り出し遊び終えて、終電車を待っているとき、静岡弁丸出しで、心のすばらしい、ルームメートのセッちゃんと私の5メートルほど後ろに、身なりは汚いのだけれど、瞳が静かに美しく輝いてキリストのような50歳くらいのおじさんがこちらを見ていました。

「セッチャン・・ガム食べる?」私
「食べるよおーん!」セッチャン

   ロッテクールミントガムをポケットから取り出し封をあけていたら・・・。

「わたしたちばかりガム食べていちゃあ・・だめだによお・・お在所のかっさんにいつ も言われたダニー・・なーんでも食べ物はみーんなで分け与えなさいって・・」セッチ ャン

「あのおじさんに?・・あげるの?」私
「そうだらよお!・・みな・人間だによお・・!」セッチャン

 仕事では、バリバリの共通語で、仕事を離れるとバリバリの静岡弁に変わる器用な女性である。油絵を書くのが好きで、懐メロが大好きで、美空ひばりの「越後獅子の唄」は彼女のテーマソングでした。
 
「あーんたねえ・・だーれが好き好んで乞食になるねえ・・東京の人間は冷たくて嫌いだにい・・」セッチャン

そのおじさんに、ガムを2枚さしだし「「たべませんか?」と言ったら、「ありがとう!」と、今にも泣き出しそうな顔で二枚のガムを見つめていました。

    私は、やはり・・ちょっと怖いのでセッチャンに寄り添っていました。

「ありがとう・・ありがとう・・ほんとにありがとう・・!」と何べんも、何べんも頭を下げ出したおじさん・・。ガム2枚でこんなに感謝されたことのない、わたしたちふたりは、ただ・・「いいえ・・いいえ・・」と、手を小さく横に振ることしか出来ませんでした。

やがて、終電車に乗り込んだふたりでしたが、ドアが閉まっても・・電車が動き出してもまだ、頭を何度も下げていました。

電車の中でセッチャンは・・「わたしらは・・ガム2枚もらって・・あんなに感謝できるかい?あのおじさんに教えられたわ・・明日はわが身だって!」なんとも言えぬ想いが胸にジーンとたぎった。

 今だかつて、こんなすばらしい「ありがとう!」と「感謝のこころ」をこれほどいただいた体験をしていない。正真正銘の「ありがとう」だったような気がします。

         そして、そのこころがとても美しかった。

    わたしがホームレスの句を作るときは、このおじさんがモデルです。

            哲学の道に彷徨うホームレス






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