「日本」とは何か 日本の歴史00 (講談社学術文庫)網野 善彦講談社このアイテムの詳細を見る |
久々の読書録。
歴史好きで手にした本。逆説の日本史だとか、皇国史観だとか、さわがしい分野だ。
ちょっと違った見方を知りたいと手にした本。これから文庫本で連続して出るらしい。
この著者は、前から面白いと思っていた。なにせ、徹底した民衆の歴史に焦点を当てているからだ。
「日の丸」「君が代」反対!との立場も鮮明にし、彼が既に命の灯火が消え行く中で記したメッセージだ(2004年逝去)。
その死期の間近さが、少々焦りの内容になってしまっている感がある。また結論を急ぎすぎている感もある。
しかし、広くアジアの中での日本列島、「日本」の成立、東西の権力と地域による多様性。瑞穂の国との幻想、百姓と農民の違い、など全く新しい視点での歴史の取り上げに極めて興味深く読んだ。網野歴史学の真骨頂だ。
徹底して民衆にこだわった彼の歴史観の原点が、戦後50年代の東大生であった時の共産党にあるという。彼は当時の山村工作隊の指導的位置にあったことにあるというのも面白かった。当時、その路線に浸かっていた民主科学者協会(通称民科)の生み出した戦術が「国民のための科学」であり、学生の党員は実際に農村へ出かけ、工作に従事したのだ。今となっては全く陳腐ではあるが。その民主科学者協会の主要な柱が地学団体研究会と歴史研究会であった。その民主科学者協会の地学側の指導者が井尻正二氏であったわけだ。
網野氏はもちろん、すぐに共産党から離れ、その時代の自分が最も恥ずべき時代と言っている。戦後教科書で一般的であったマルクス主義の影響の進歩史観(歴史は進歩し、最後は共産主義社会になるということ)は、間違っていることを自らの研究を通じて確信したようだ。
日本の歴史にそれまで全く光が当たっていなかった部分をはじめて研究した内容は大変面白いと評価したい。
私は、独善は右も左も嫌いだ。