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「だから、ぼくは農家をスターにする(高橋博之)」という本はとてもオススメ!

2016年08月05日 01時00分00秒 | 
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 「だから、ぼくは農家をスターにする」という本は、2013年7月に創刊した史上初の食べる情報誌「東北食べる通信」を始めた経緯やその苦労、生産者と読者のつながりとその豊かな世界への広がりだけでなく、生産者と消費者が歩み寄って支え合う「CSA」という仕組みなどについて分かりやすく書かれたものです。

 本書ではその食べる情報誌を通したコミュニケーションだけでなく、FACEBOOKによるつながりを活用し、実際に生産者と消費者が会い、生産を消費者が手伝うこと等により、より食卓が楽しくなり、「生きる実感」や地方活性化にもつながることについても書かれていて、それらはとても素晴らしいと思いましたね♪

ワクワクします♪

 また消費者としては、生産現場のことがよく分かるので生産者について理解や応援が深まりますし、生産者としても消費者の感謝や気持ちがよく分かりより生産に励むことにもなり、好循環が生まれて良いかと思います。

 特に、今まで生産者が抱えてきたたくさんの課題を、消費者と共に一緒に悩み・考え・行動・解決していくこもできて良いかと思います。

 改めてコミュニケーションは大切だなぁと思いましたし、それは食だけでなく、いろんな分野でもこのようなインターネットやリアルでつながりを密にした新しい豊かな社会が、今後始まるのではと感じました♪

 私も「食べる通信」を購読し、CSAに参加してみたいなぁと思いましたね。

 「だから、ぼくは農家をスターにする」という本は、これからのより良い「生きる実感」を持てる社会を考える上でも参考となり、とてもオススメです!

以下はこの本のポイント等です。

・彼が気づいたのが、立ち上げのために集まっているメンバーの「メディアをつくれる」という共通項だった。坂本は、私のビジョンやアイデアにその発想を付加し、こう逆提案してくれたのだ。「食べものと情報をセットにしたメディア。食べもの付きの月刊情報誌をつくろう!」一般的な食材宅配サービスは、送られてくる食べものがメインであり、その説明のためについてくる紙は、食べもの紹介をするサブ的な役割だ。そこで坂本がひめいたのが、その関係を逆転させること。食べものを紹介する紙媒体、つまり情報のほうをメインコンテンツに格上げして、その情報誌で特集した食べものを「付録」としてサブ的に位置づける。「大手の食材宅配サービスと同じ土俵に乗ったのでは勝ち目がない。しかし逆転させれば、従来のサービスとは差別化が図れる。高橋の想いも文章で伝えやすくなるのではないか」主体を情報誌とすることで、他のいかなる食の宅配サービスとも競合にならない、新しい価値を世の中に提供することになった。こうして創刊された、市場初の”食べる月刊情報誌”「東北食べる通信」。会員登録制の定期購読誌で、毎月、編集部が選んだ東北の生産者を特集した情報誌とその人がつくる食べ物が読者にセットで届けられる。食べ物を選ぶことはできない仕組みで、食材によってその都度購入するような形式もとっていない。そこが、「お取り寄せ」とは違う点だ。毎月中旬、会員のもとに「○月号のお届け準備ができました」というメールが届く。会員はそのメールから専用のウェブページにアクセスし、2~3週間の期間の中から希望到着日時を指定する。このとき、追加料金を払えば、食べ物の量を増量することもできる。下旬、タブロイド判16ページの情報誌と、特集された生産者が収穫した自慢の一品がセットで届く。講読料は、消費税と送料も込みで月額1980円(当時)と設定した。

・すんなりと創刊したわけではなかった。実は、坂本に「天からアイデアが降ってきた」のは5月で、創刊は7月。この2ヶ月強はまさに怒濤の日々だった。

・メディアの「顔」である表紙については議論になった。私は「生産者の顔の写真がいいのでは」と思ったが、玉利は頑なに「食べものの写真にしましょう」と譲らなかった。「12ヶ月後、バックナンバーを12冊並べたときに、食材の持つ自然な色が並ぶと美しい。人はカラフルなものが並んだデザインに惹かれ「欲しい」と思うはずです。」数々の雑誌や商品を研究し、そのような結論に至っていたらしい。しかしただ食材だけではおもしろくない。今や「東北食べる通信」の顔にもなった「食」マークのロゴは、このときの議論の中で生まれたものだ。

・牡蠣の生産者である阿部貴俊さんには創刊前の6月に依頼し、交渉していたが、その時点では何人から申し込みがあるのか、まったく読めなかった。10人なのか、100人なのかもわからない・・・。私も阿部正幸も物流の経験がないので、阿部貴俊さんから「何個用意すればいいですか?」と当たり前のことを聞かれても、ハッキリとした数字を答えられなかった。そこで阿部正幸は、創刊パーティを終えてすぐ東京から石巻に移動し、申込状況とにらめっこをしながら翌日から発送準備に取りかかった。私やほかのスタッフも手一杯だったため、ほとんど彼ひとりに丸投げしていた状態だった。現在はパソコンを使って発送伝票を出力しているが、当時はまだそのシステムが完成していなかった。彼は全会員の住所と名前を徹夜で手書きした。さらに、一日に何百という牡蠣を出荷することが大変な重労働だった。牡蠣は、海から引き揚げて終わりではない。まずは、出荷に適した牡蠣を選別する。次に選んだ牡蠣を1個ずつトンカチで叩き、表面のムール貝やホヤの赤ちゃんなどの生物を表面から落として磨き、その後水圧できれいに洗浄し、殺菌や減菌を行うのだ。1個につき約2分かかる。それからやっと梱包、発送である。「当時は、工程の細かいところまではわかっていなかったんですよね。生産者さんの苦労がわかっていませんでした」阿部正幸はそう振り返る。会員は多くが首都圏在住の勤め人なので、到着日に土日を指定する人が多い。量が多い日には一日に200箱ほど発送しないといけなかったので、彼は近くの友人に声をかけまくって手伝ってもらっていた。

・理事や事務局スタッフに加えて特徴的なのが、数多くのプロボノの活躍によって支えられている点だ。「プロボノ」とは、職業上持っている専門知識やスキル、経験を活かして社会貢献するボランティア活動をいう。アメリカやイギリスで、弁護士による無料相談から始まったといわれ、ラテン語の「Pro Bono Publico(公益善のために)」を語源とした造語だ。この「プロボノ」は、とくに東日本大震災以降に注目されるようになった。自分の生業のほかで社会課題を解決したり、困っている人を助けたりすることが、実は自分の人生や暮らしを豊かにする。震災は、多くの人々がそれに目覚めたターニングポイントでもあったと私は思っている。

・試行錯誤を重ね、制作の流れは次のように落ち着いた。発行の前月後半、現地への取材前に、制作メンバーで集まって編集会議を行い、16ページ分の台割(ページごとの内容や構成を表にしたもの)を一応組んでおく。たいてい月末~発行月の初旬が取材だ。実際に現地へ行くと、新たに知ることや「これこそを伝えたい」という要素が出てくるので、現地で台割をがんがん変えていく。取材先や宿泊先へと移動する最中の車内で話し合い「やっぱりこのページは○○にしよう」「この内容にしてビジュアルはこうしよう」などと即席編集会議をやり、解散する前に内容を固める。解散後は、編集担当の保田さえ子がラフ(レイアウトをおおまかに書いたもの)を用意したり、イラストを発注したり、地域の歴史などについて下調べをしたりと動き回る。玉利は、表紙や中面で使用する食べもの写真を撮影する。彼がラフを手がけたり、ページの企画をしたりすることもある。そしてラフをもとに、意見を交換しながら玉利がデザインを進めていく。毎月15日の入稿日は、東京都内にある玉利の自宅兼事務所に制作メンバー全員で集う。コピーライターの坂本が現行をチェックした後、デザインへテキストを流し込み、各所への確認や文字校正を一日がかりで行う。作業が終わらず、翌日へもつれこむこともよくある。そのたびに、編集長の私は叱られている。すべての工程を終えたら、晴れて入稿だ。事務局や各地の生産現場に情報誌が納品され、月末ごろに食べものとともに読者へ発送となる。

・私たちの制作スタイルには、ある特徴がある。それは、徹底した「現場主義」だ。保田以外のメンバーは、出版業界の経験を持っていない。しかし、だからこそ我々にしかできないことがあるのではないだろうか。私のこだわりは、出版業界の常識からすると驚くべき要素に満ちているらしい。取材は、一人または1チームの生産者に対して多いときは4~5回行っている。これに驚く生産者は多い。「また、来るんですか?」と。しかし、私は当然だと思っている。ページ数も文字数もたっぷり用意しているから、深い内容を書きたいし、届けたい。1回程度の取材では、表面をペロッとなめて終わりになってしまう。ビジュアル面の担当である玉利にもこだわりがあり「季節による生産現場も変化を伝えることも重要」と力説している。とくに農産物は、種を植えてから生長し、収穫までに数ヶ月~半年ほどかけてその姿や景色が変化していく。それを伝えるため、お米を特集したときには、玉利は春の田植えと秋の収穫の両方を撮影するため、現地へ足を運んだ。

・書き手としての私が、取材先にたびたび足を運ぶ理由はただひとつ。その人の本当の姿と深い心に迫りたいからだ。たびたび足を運ぶことで、少しずつ心を開いてくれる人もいる。何回も通って酒を交わし、腹を割って話すようになった人たちもいる。

・発送業務は収穫の後、すぐ出せるわけではなく、選別や洗浄、梱包などの手間を経ないといけない。事務局から発送するケースがあるものの、食べものによっては創刊号のときのように「現地泊まり込み」だ。読者全員分を手作業で発送するために、いつも2週間から3週間を発送期間としている。潤沢な予算があるわけではないので、生産現場によってはプレハブや小屋のようなところに泊まり込むこともある。読者全員分、情報誌と生産者直筆の手紙が濡れないようビニール製の袋へ入れて封をし、食べものと共に梱包し、発送伝票を貼って発送する。受け取り希望日時を指定する読者がいるので、その人たちの発送分は指定日に合わせる。しかも食べものが毎月異なるため、冷凍や冷蔵の管理も違うし、箱や袋のサイズも毎回変わる。

・私が生まれる少し前の1970年には、農家は約1025万人もいた。それが年間約10万人の離農が続き、今約239万人に激減した。そのうち実に全体の75%が60歳以上の高齢者で、40歳未満の若い農家はたったの約17万人で12%しかいない。田畑を耕しているのは、年金をつぎ込んでいる高齢者が大半だ。漁師にいたってはさらに深刻で、同じ1970年に約57万人いたが、今や約18万人。過半数が60歳以上の高齢者で、35歳未満はたったの約2万人で全体の11%だ。一方、日本の就業調理師数は約24万人もいる。シェフは若い人にとって華やかで憧れの職業の一つだ。グルメな日本において、食材をおいしく料理するシェフの社会的地位は高いが、その食材を提供する生産者の社会的地位は圧倒的に低い。

・「世なおしは、食なおし。」これは、坂本が考案した「東北食べる通信」のキャッチコピーだ。創刊以来、コアメンバーをつなげている言葉であり、必ず誌面の表紙にも入れているフレーズでもある。私たちは何よりもまず、命の糧である食を取り巻く環境をよりよくしていくことが、この国全体をより良くしていく鍵だと考えている。自然界に働きかけて命の糧を生み出す生産者の生きざまに、都会の人が価値を見出して応援する。そして、関係性と生存実感を取り戻していく。つまり、今後生産者は「世なおし」の旗手になっていくのだ。

・私もどうだったが、震災後、被災地を訪れたボランティアの多くが、人生で初めて漁師に出会ったという。そして、その漁師が育てたり、獲ったりしている魚介類を、海を感じながら、漁師の話に耳を傾け、その世界に驚きながら食べた。同じ牡蠣でも東京のオイスターバーで食べる牡蠣より断然おいしく感じた。この体験を消費地にいながらにして疑似体験してもらいたかった。生産者と消費者が「情報」と「食べもの」でダイレクトにつながり、コミュニケーションをはかる。会ったことがなくても、つながった生産者と消費者は、こうも盛り上がることができうのか。私は改めて驚かされた。阿部さんは、食べて喜んでくれている人々の声に触れ、「いやぁ、もっともっとうまい牡蠣をつくりたいな!」と、生産意欲を増していた。また、読者から編集部に対し、「ありがとうございます」という声も寄せられたが、学ばせてもらったのは私たちのふだった。生産者と消費者がつながったときに発せられるエネルギーは、こうもすごいものなのか、と改めて実感した。つまり、今までは両者が分断されていただけで、「ごちそうさま」を伝える場や機会、関係性がなかっただけなのだ。一般的には、食べものが届いたら、味わって「おいしかった」で終わりだろう。しかし、このように食べ終わった後に始まる交流、そこから広がる価値こそが、「東北食べる通信」の最大の特徴であり、強みでもある。読者は情報誌を通じて、自らの口に運ぶ食べものをつくっている人を知ったうえに、生産者の想いや食べものに秘められたストーリーにも触れる。あたかも産地へ行ったかのような疑似体験をしてくれたのではないだろうか。

・読者グループに並んだのは、温かいコメントや激励ばかり。約60件のコメントが続々と寄せられたのだった。菊池さんは、その一つひとつすべてに返事を書き込んでいた。消費者側が生産者の困った声に触れただけでなく、生産者側も消費者の励ましの声に触れ、交流が生まれた瞬間だった。ある生産者は「これは素晴らしいことです。卸の都合で強いられた条件などは、直接の信頼関係があれば関係ないのですね」とコメントしてくれた。こんなことがあれば、クレームや解約が殺到してもおかしくないが、驚いたことにそうしたことはほとんどなかった。消費者は、消費者然として商品やサービスを「受け取る」ことに慣れている。対価を支払っているのだから当然の権利ではあるが、「お客様は神様」という言葉もあるように、消費者が上から目線の言動をすることもある。提供側に悪意が一切なくても、求めているものが受け取れなければクレームに発展しやすい。とくに近年は、「モンスタークレーマー」などという単語もあるほど、理不尽な要求や文句を口にする消費者も増えている。しかし、と私は思う。消費者は神様でもなければ王様でもない。この「どんこ事件」は、私には、読者がもはや消費者を超えて「つくり手に寄り添う共感者」へと変化を遂げているように感じられた。読者の温かい姿勢に、またも学びを得たのだ。そうか。つくっている生産者の顔が見えないものは平気で買い叩けるし、何かあればすぐに文句も言えるが、つくっている生産者の人柄や現場の状況が見えれば、消費者も簡単には買い叩けなくなるし、トラブルにも理解を示すようになるんだな、と。一連の経緯を知った食品関係の大手流通業者からは「これまでの常識では考えられない、にわかには信じられない」と驚かれた。その後12月までかけて、どんこは全読者へと無事に発送された。

・読者たちの姿勢に、「消費者と生産者をつなぐものをもっと仕掛けていこう」という気持ちにさせられた私たちは、オンライン上だけではなく、実際に生産者と直接会うことができるイベントも企画している。ひとつは、主に都心に特集した生産者を呼び、その生産物を使った料理などを読者と共に味わう食事会「おかわりLIVE」。創刊年である2013年は4回、2014年には8回開催している。「東北食べる通信」の誌面とFacebookを通じて一度生産者に出会っている読者と、食べものを再び提供する生産者は「おかわり」の関係性。いいネーミングだと思った。このイベントには特徴がある。誌面を読んで生産者の半生や哲学を知り、Facebookでコミュニケーションを取った後だと、読者たちは「ついに会える」と高揚するのだ。生産者が登場すると、自然と歓声と拍手がわき上がり、まるでアイドルのように生産者へスポットライトが当たる。生産者も、ふだんそのような機会はほとんどないため、どの人も照れながらもうれしそうだ。職業も住む所も違う、見ず知らずの人たちが一同に会するのだが、生産者を介して、料理の味を堪能しつつ、みんながつながると、一気に垣根が取り払われて意気投合してしまうから不思議なものだ。同じ価値を認めた者同士とはそういうものなのかもしれない。

・仕掛けるのは都内のイベントだけではない。生産者たちが一番輝くのは、言うまでもなくその生産現場だ。読者が生産現場を訪れ、食べものを育む自然に触れたり、生産者の出荷のお手伝いをしたりする「生産現場イベント」も開催している。自腹を切って現地まで行き、無料で手伝いまでさせられるというのに、毎回多くの読者が喜んで参加してくれる。2013年夏から本格始動したもので、創刊年である2013年には2回、2014年には4かいかいさいしている。2014年4月に開催した「生産現場イベント 水揚げ祭り」では、生産者やスタッフと共に、生産現場で出荷作業を体験するイベントにした。単なる出荷のお手伝いではなく、生産者から貴重な話を聞いたり、獲れたての海産物を食べるバーベキューをやったりと、「東北食べる通信」ならではの内容にした。

・たとえば最初はFacebook上でのコミュニケーションには懐疑的だったある生産者は、積極的に漁や町の様子を投稿するまでに激変した。別のある漁師は、我々の読者グループとは別に、自らFacebookグループを立ち上げて消費者とのコミュニティづくりにチャレンジしている。今ではFacebookで毎月約300の「ごちそうさま」がその月に特集した生産者に届けられている。つくる人と食べる人に生まれる化学変化は、これからも続いていくだろう。

・「東北食べる通信」は到着のあと、情報誌を読み、調理し、食べ、学び、出会い、生産者とのコミュニケーションと体験が続く。ふつう、商品は届いて消費された時点で価値がゼロになるのに対し、「東北食べる通信」の場合は、届いて食べ終わった時点から価値がさらに広がっていくのだ。私たちは、情報誌という出版業、食べ物を売る小売業、現地ツアーを行う旅行業をミックスしたはっきり言って何の商売かわからない横断的な活動を展開している。ただこれだけは言える。私たちがやっているのは、月刊誌のデザインでも、ただの食べもの付き雑誌の制作でもない。私たちが提供しているのは、食の体験サービスであり、食を通じたコミュニケーションサービスなのだ。届くたびに小さな価値の転換があり、「生きること」「食べること」「農山漁村」「生産者」などのものの見方が変わる。完成された都市の消費社会で得ることが難しくなった、身体性、精神性、関係性、多様性などの価値に共鳴し、結びついた生産者と読者の間に新しいつながりが生まれ、広がり、コミュニティがつくらていく-。さまざまな交流を積み重ねる中、読者は「共感力」を増していった。人間、相手との関係性が見えて初めて「共感力」は生まれる。今、私たち消費者に決定的に欠けているのは、この私たちの命に直結する一次産業の問題を、自分ごと化する「共感力」だと思う。この国の一次産業を立て直すには、食べものの裏側にいる生産者の生身の人間の存在を知り、つながることで、「共感力」を磨いていくことだ。今は、ほとんどの人が自分の日ごろ食べているものをつくっている人をひとりも知らないという状況だろう。食べる人とつくる人はそれほどまでにかけ離れてしまった。

・私たちが興味を持ったのが、CSA(Community Supported Agriculture)だ。直訳すれば「コミュニティに支えられる農業」。生産者がそれぞれ会員ネットワークを持つ生産物流通のしくみだ。私たちは早速、生産者ごとのCSAサービスの提供を開始しようと考えた。生産者ごとに価格やサービス内容を決定し、Facebookコミュニティが開設され、CSA会員がそれぞれのコミュニティをつくる。CSA会員になれば、季節に応じて定期的に生産物を受け取ることができ、さらに会員限定のイベントや現地ツアーにも参加できる。つまり、会員は「惚れ込んだ」生産者を継続的に応援し、「マイ農家」「マイ漁師」として深い交流ができるのだ。

・我々は、このCSAを「東北食べる通信」と同じ2013年7月よりスタートさせた。料金は生産者によって異なり、月額1000~2670円(税・送料込み)。3ヶ月に1度、3ヶ月分が引き落とされる仕組みだ。現在、この取り組みに共感し、CSAを行っているのは7生産者・団体だ(2015年5月現在)。申し込みは「東北開墾」サイトの専用ページから受け付けている。一般の人でも参加できる開かれたコミュニティを目指しているため、「東北食べる通信」の読者だけではなく、誰もがCSA会員になることができる。

・日本でもわずかながらCSAとして活動を続けている地域もある。北海道夕張郡にある「メノビレッジ長沼」や、神奈川県大和市の「なないろ畑農場」のCSAが知られている。「メノビレッジ長沼」では、周辺や札幌市内いぇ、米や野菜、平飼い養鶏の卵、自家製味噌、天然酵母パンなどを届けている。「なないろ畑農場」では、「その日に穫れた野菜を会員みんなで分かち合うこと」を農場の基本的考え方とし、有機農業への支援やエコロジー型社会の形成への参画がCSAだとしている。生産物の受け取りは、会員が取りに行くか配送で受け取るかの2通り。農業ボランティアにも参加できる。

・「ミーティングに参加していて、CSAとは、生産者がひとりで抱えてきたたくさんの課題を私たち食べ手と共に一緒に悩み・考え・行動していくことなのではと感じました」生産者の抱える問題を共有することで、会員が取り組めることを具体化したのである。目標や方向性のほかにも、コミュニティのあり方について決まったことがある。「生産者とCSA会員が50%ずつの精神的にフェアな関係性を築こうということも決まりました。生産者にとって完全なビジネスでもないし、CSA会員にとって無償の活動でもない。どちらかが上でもないんです。一般的な生産者・消費者という枠を越えてお互いに歩み寄った関係です」と、木戸さん。オーナー制度では、お金を払ってサービスを受けるという従来の消費者然とした関係性がどうしても出やすい。しかし、五分五分ならば、歩み寄りの中で新しい関係を構築していける。実際に、創設当初には厳しい意見を言っていた会員たちが、議事録をつくったり、イベントの手伝いをしたりと、CSAミーティングを機に様子が変わったという。生産者や食べ物への思い入れがあるからこそ、CSAに加入してくれた人たちだ。活発な議論や生産者の情熱に、意識を変えてくれたのかもしれない。ミーティングを通じ、「このコミュニティを良くしていこう」という雰囲気が芽生え、最終的には「みんなで柿木さんの短角牛の価値を広めていきましょう!価値を広める伝導師になろう!」と一致団結したのだ。

・白石さんは、CSAのいいところとして「知産知消」を挙げている。地域でつくられたものをその地域で消費する「地産地消」ではなく、知った人がつくり、お互いに知っている人が消費する関係だ。小規模で顔と名前が一致するCSAでは、それを実現しやすい。「アメリカのCSAには「リスクシェア」という概念もあるそうですが、そうではなくて、楽しいことをシェアする「ファンシェア」のほうがいいのではないかな。「リスクシェア」といっても、こちらはプロですし、特にCSA会員にリスクがかかっているわけではないんです。それを打ち出すといかにもリスクを冒しているみたいですから。おいしいこと、楽しいことをシェアする仲間でありたい」

・私たちは、どのCSAにも通じた全体目標として次の3点を掲げている。
 ・生産現場に理解の深い会員を増やす(集客)
 ・コミュニティ活性化度を上げる(オンライン交流)
 ・都市と地方をかき混ぜる(オフライン交流)
このことを生産者側に伝えきれていなかったため、混乱を招いてしまったこともあった。コミュニティマネージャーになるのあ、読者がほとんどだ。現在は生産者とコミュニティマネージャーが主導権を持って共に設計し、相思相愛でCSAのスタートを切っている。事務局が促さずとも、生産者と会員が自発的にコミュニケーションを取り、イベントやツアーなどが開催されている。事務局としては、より円滑に活動が進むように、今までの活動の中でコミュニティマネージャーが自らの試行錯誤を通じて得た気づきを体系的に蓄積し、誰でもコミュニティマネージャーに挑戦できるようなシステムを確かなものとしていくつもりだ。

・昨今、ファンがアイドルを支え、育てていく風潮が話題になっている。CSAも、消費者自らが参画し、そのコミュニティや生産者を支えていくという意味では同様だ。CSAは、参加型一次産業といえるのかもしれない。それは、コミュニケーション型産業への転換ともいえる。大事なのは、自分の命を支える食について主体的に考え、できることから行動することだ。政治がどう、役所がどう、農協がどう、スーパーがどうではなく、「私」はどうするかだ。CSA的な考え方のすべてに言えるのは、「引き受ける」ということ。生活にふりかかっている課題の解決を他人頼みにせず、自分の課題として「引き受ける」。自分にできることとして参加していくのだ。ただ消費することに飽きている人にとっては、より良い世界を実現するための、積極的な消費行動ともいえる。生産者に意見したり、自分が生産者の代弁者となってなじみのレストランなどで語ったりすることも、新しい消費形態のひとつなのかもしれない。CSAは生産現場と食べる現場の距離を縮める。

・読者の最大数は、1500と決めた。今まで触れてきたとおり、「東北食べる通信」が生み出した一番の価値は、つくる人と食べる人がつながコミュニティにある。しかし参加者が増えすぎるとその価値が失われると考えた。生産者・読者・そして私たち編集部。それぞれがぎりぎり顔の見える規模に留めるべきだと思ったのだ。読者数を限定することは、生産者の選択にも幅を与えてくれる。東北各地の生産者と出会ってきたが、伝えたいストーリーを持っているのはほとんど中小規模の生産者だった。読者が1万人では対応できないような人たちばかりだ。1500人であれば、品質を確保し、ストーリーを持った生産者の食べものを、責任を持って届けられると判断したのだ。

・全国へ「食べる通信」モデルを広げていくことを決めた私たい。全国各地で「食べる通信」が立ち上がり、コミュニティがどんどん生まれる様子をイメージしたら、ワクワクせずにはいられなかった。日本中で都市と地方がかき混ざっていくのだから。では、その横展開はどのようにしたらいいのだろう?コンビニのフランチャイズ制のように「東北食べる通信」の組織そのものを拡大する形で全国へと展開する方法もあったが、各地域の自主性、個性が生きる形で展開できないかと考えた。多様な自然が織りなす本来の日本の姿、豊かさを体現するような形で。「じゃあ、ビジョンだけ共有して、地域ごとに独自性を発揮できるモデルを考えよう。トップダウンではなくて、意志決定もすべての地域がそれぞれでやる」私やスタッフの意見がそのようにまとまりかけたとき、プロスポーツの事業に長年関わってきた理事の大塚が言った。「それは、リーグ制ですえん。プロ野球やJリーグのように、各チームが並列で戦って、みんなでそのスポーツを盛り上げる形式と同じです」なるほど!そうあ、私たちがやりたい形を実現するのは、フランチャイズ制ではなく、リーグ制だと一同納得した。

・「「食べる通信」は、地域もメンバーも、状況も違うから、画一的なものを当てはめなくていいんです。ローカルの特色をどう活かそうか、設計していきました。」瀬戸内海、四国山地、太平洋から恵まれた海や山の幸を伝えるために、主菜になる食材をメインにしながら、複数の食材の詰め合わせにしよう。毎月ではなく隔月発行で、価格は3980円(税・送料込み)。情報誌の判型は297ミリの正方形で、字が大きくて読みやすいデザインに・・・。こうして「四国食べる通信」が自由に設計されていった。「お届けする基本セットを2人前にしたこともこだわりのひとつです。四国にはお遍路にまつわる接待やおもてなし、大皿料理など、食卓を囲む文化があります。それを知ってもらうためには一人前ではないなと。食の本当の楽しさは、誰かと食卓を囲むことにあるのではないかと考えました」2014年5月、ついに2つ目の「食べる通信」が四国で産声を上げた。

・「四国食べる通信」は創刊から1年で読者数は500人を超え、損益分岐点を超えた。2人前を4人または6人前に増量できるオプションがあるため、セット数だと各号600セットほど出荷している。読者の住まいは、関東が約40%、四国が約25%、関西が約20%、残りがそれ以外のエリアだ。上限数は1000人に設定された。

・東松島は「市」だ。東北、四国と展開されてきて、急に小規模になったなと感じた人もいるだろう。しかし私たちは、この規模にこそ「食べる通信」モデルの可能性を感じている。「東松島食べる通信」の読者ターゲットは地元の人が中心で、はなから大規模な運営を目指していない。運営体制もミニマムだ。制作はほぼひとり。デザインだけは外注しているものの、取材、撮影、マネジメントは太田ひとりで行っている。「まちんど」が発送体制を持っていたため、低コストでの制作が実現している。その結果、創刊号の約160人の読者の時点から黒字を出した。小規模で低コストだからこそ、少ない会員数でも回ることを実証したのだ。2015年5月現在は350人を超える読者数に成長している。編集長やスタッフ生産者が同じ地区で暮らしているため、編集部と生産者のコミュニケーションが密であることも特徴だろう。

・各地の「食べる通信」の編集長と、リーグの理事で構成される「リーグ運営会議」は、3ヶ月に一度開催している。各地に展開させることをねらって、東京ではなく毎回全国各地で場所を変えている。業務ノウハウや活動状況、情報などを共有し、ディスカッションする。基本となる会員や売り上げなどの数字はもちろん、会員獲得や紙面制作、カスタマーサポート、発送・・・。各地の好事例と直面している課題を惜しみなく公開し合う。たとえば、太田がFacebookで「いいね!」をしてくれた非会員の人には、個別にメッセージを送るなどの地道な営業をしていることをシェアしたり、眞鍋が複数の品物をひとつの箱に収めて発送する際の大変さなどを話したり。リーグ制の価値は、実はこの”横のつながり”にあるのだ。各編集長をこのネットワークが実務面と精神面で支えている。

・「リーグ運営会議」で重要なのが、新規参画を希望する「食べる通信」の審査だ。事業計画やコンセプト、編集チームなど、創刊の構想を固めた創刊準備チームより代表者を招き、全編集長の前でプレゼン大会が行われる。セミナーによる希望者の募集やその後の企画の詰めなど、「リーグ運営会議」前までは本間が担当し、新規参画希望者をサポートするが、審査は各地の「食べる通信」が対等になって全員で行う。熱い想いだけでは審査に通らない。次のような参加条件および審査における評価基準と提出資料により審議を行っている。
 1.生産者のストーリーを紹介するメディアであること
 2.消費者の心を動かすクオリティの高い紙面であること
 3.生産者と消費者の交流を促すこと
 4.1年以上の発行が可能な安定した経営能力
 5.県域以上の場合は隔月以上で発行すること
そのため提出資料として、事業計画書に加えて、向こう半年分の紹介予定の生産者リストやサンプル誌面(もしくは制作体制)、Facebookグループの運営やイベントなどのコミュニティ運営計画網羅した企画書を各通信がこの日に向けて準備してきている。独自の地域性と熱い想いが重なり合い、企画に驚かされることも少なくない。いくつものプレゼンや、創刊後の展開を見てきて思うことは、最も大切なのは、「コンセプト」と「チームづくり」ということだ。その地域では、生産者と読者とでどのような関係=コミュニティをつくっていきたいのか。読者はどんな人で、会員数はどれくらいがよいのか。この目指すコミュニティのコンセプトが明確であればあるほど、その地域らしい、その編集長らしいサービスができあがる。

・あるとき、伸び悩んでいた読者数がまた徐々に伸び始めていることに気づいた。新聞記事で紹介されてもあまり増えないのに、この「車座談会」のあとは読者が増えている。2時間話せばわかってもらえることを確信した。都市の生活者が何を考えているか。それは。アンケート調査などではわからない。会って話を聞かないとわからないのだ。

・東北から各地への全国展開。なぜ実現できたのかという質問をもらうことも多い。それはひとえに、私たちが経済的インパクトよりもビジョンの実現にこだわり続けてきたからだと考えている。読者を増やし続ける道ではなく、1500人に限定して生産者と読者がつくるコミュニティの価値を優先したこと。より多くを売るということよりも、イベントやツアーなど大きな収益につながらないがコミュニティを強める施策に力を注いでいること。その一つひとつが「食べる通信」ブランドを築きつつあると言えるのではないかと思っている。そしてそのビジョンに共鳴する仲間たちが、「儲かるから」ではなく「共にその世界を実現したいから」集まってきた。そんな私たちのやり方は、いつしか人から「マーケティング3.0」だと言われるようになった。製品をいかに売るかを考える製品中心の1.0から、顧客のニーズに耳を傾ける消費者指向の2.0、そして世の中を良くする価値主導の3.0。確かに「食べる通信」のスタンスは、「消費者は王様ではない」。変わるべきは生産者ではなく消費者であるというものだ。顧客志向の2.0ではなく、あるべき社会の姿のビジョンを提示し、それに賛同する顧客(読者)と共にビジョン実現を目指すやり方は、そう表現できるのかもしれない。

・「食べる通信」は、2015年6月現在11通信が創刊されているが、私たちは2017年までに全国で100通信を立ち上げることを目標としている。モデルを全国へ広げ、各地で1000人の読者を集めれば、合計10万人の会員数になる。その先に見えるのは「もうひとつの日本」だと信じている。この旗が全国各地に広がっていけば、もうひとつの日本は私たちの前にその姿を鮮明にあらわすはずだ。それは、目に見えないだけで、すでにある。私たちがやろうとしていることは、可視化なのだ。現在、創刊している主体は、NPO、株式会社、まちづくり団体、高校生、地方新聞社、テレビ局など多様だ。発行主体の法人格の種別は問わないので、興味のある人はぜひ検討してもらいたい。地域と継続的に関わる外部の人間「関係人口」を増やす手段として、「食べる通信」をふるさと納税に組み込もうとする自治体も現れている。そして、生産者と消費者の間にいる漁協が自ら「食べる通信」発刊に動き始めているところもある。我ことはという人は、ぜひ名乗りをあげてほしい。

・全国に広がるご当地「食べる通信」
01 北海道食べる通信
02 下北半島食べる通信
03 山形食べる通信
04 東松島食べる通信
05 稲花一食べる通信from新潟
06 高校生が伝える福島食べる通信
07 加賀能登食べる通信
08 築地食べる通信
09 神奈川食べる通信
10 兵庫食べる通信
11 四国食べる通信

・「食べる通信」ワールドの入り口
01 おかわりLIVE!
02 車座座談会
03 出荷祭
04 生産現場ツアー

・東北各地のCSAコミュニティ
 ・岩手県山田町 漁師軍団 第八開運丸海賊団CSA
 ・岩手県久慈市 牛飼い 柿木さんちのCSA
 ・岩手県遠野市 米農家 伊勢崎さんちのCSA
 ・宮城県石巻市 5家族の漁師チーム 浜人CSA
 ・宮城県石巻市 牡蠣漁師 阿部さんちのCSA
 ・宮城県南三陸町 阿部さんと仲間たちのCSA
 ・福島県いわき市 農家 白石長利さんちのCSA

良かった本まとめ(2016年上半期)

<今日の独り言> 
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