<金曜は本の紹介>
「ダチョウ力(塚本康浩)」の購入はコチラ
この本は、ダチョウを愛する著者が、愛弟子の研究者たちとともにダチョウの可能性を発見していく過程とダチョウ抗体をめぐる人々の思いをつづった本です。
ダチョウは身長は2.5メートルを超え、時速60キロを超える俊足、年間100個もタマゴを産む高い生殖能力、60年も生きる生命力を持っているとのことです。
またその抗体は鳥インフルエンザに強く、マスクや清浄機フィルターに使われているとは驚きました。
また、ガン治療にダチョウ抗体を活用できる可能性もあるようです。
これからダチョウが注目されるかもしれませんね。
また、著者は少年時代から鳥好きで、はじめてのペットでスズメを飼い、大学でニワトリを研究し、獣医師となり、そしてダチョウの研究とまさに天職で、人生を楽しく有意義に過ごしていると思います。まさに成功者の人生かと思います。
とてもオススメな本です。
以下はこの本のポイントなどです。
・僕は世界ではじめてダチョウのタマゴから「ダチョウ抗体」をつくり、取り出すことに成功した。ダチョウ抗体は人類を救うための数々の手段に応用できる。ダチョウ抗体はインフルエンザウイルスに強い。溶液をマスクに塗れば、体内に入ろうとするウイルスを退治し、観戦を防ぐことに役立つ。フィルターに抗体溶液を塗って、空気清浄機にセットすればウイルスの室内侵入を防ぐこともできる。研究のなかでダチョウの免疫力の高さも証明した。ダチョウ抗体でアトピー性皮膚炎やペットの炎症防止の実験も行い、実用化を進めている。最大の目標はガン治療にダチョウ抗体を活用することだ。ダチョウ抗体がガン細胞の転移を抑える可能性がある。人類の最大の敵ともいえる病をダチョウが救う日が来ることを思うと、ときめきを抑えられない。
・ダチョウは「自己チュー」(自己中心的)な鳥である。ダチョウは集団行動をする。群れをなして行動しているダチョウの一羽が羽を広げると、群れの一部も同じように羽を広げて走る。僕がそれまで飼育した鳥には見られなかった行動だ。サバンナに生きる草食動物たちは、天敵の接近に仲間の一頭が気が付くと、全員にサインを送って、集団で避難する。リーダーが先導して、群れを引っ張る動物の集団もいる。ところが、ダチョウの場合、群れにリーダーはいないし、一羽が動き出すのも危険を知らせて仲間を守るというような高尚なものではないことが次第にわかった。何も考えていない一羽が何かの気まぐれで走り出し、それにつられて周囲のダチョウも走り出すというだけなのだ。
・体重が100キロを超す巨体でありながら脳みそが約300グラム。人間の脳の約5分の1だ。小さなハンバーグのような形をした、厚さ2センチ、直径4センチの脳みそは、ネズミの脳のように表面がツルツルでしわがない。脳みそより大きい目玉がセンサーの役をはたし、脳は視覚から送られる信号に反応しているだけなのだろう。
・恋といえば、鳥たちの恋愛の特徴は美しい鳴き声や求愛のダンスだ。ダチョウは鳴かないし、求愛ダンスにいたっては悪魔を呼び寄せる儀式のようにしか見えない。春先からはじまる発情期には、いやでも目に入ってしまう。ダチョウのオスはくちばしが真っ赤になり、メスの前で座り、長い首をくねらせながら羽を大きく広げて踊りだす。これに対してメスは、くちばしの色に変化は見られないものの、オスより低い姿勢でベターっと地面にはいつくばるように座り、妖怪のように、首をヌ~ッとのばして、くちばしをパクパクさせる。そのたびにおぞましい気持ちになるが、ホラー映画を観ているようで楽しくもある。
・食べ物を呑みこむ姿もグロテスクだ。ヘビが食用ガエルなど大きなかたまりを飲み込むと、食道がふくれあがって食べたものが胃に落ちていく様子が観察できる。同様にダチョウも食道から胃に到達するまでの様子が外側から観察できる。一般的な鳥の消化管は口から続いて、食道の途中にエサをためこむ「そのう」があり、エサをついばんでいると、首の下のあたりがモコッとふくらむ。ダチョウはそのうが発達していない。食道はスライダープールのようにS字状だ。もやしであろうが、配合飼料であろうが、何か食べると、あっちがふくらんだり、こっちがふくらんだりS字を描きながら10分くらいかけて落ちていく。僕はそのゆるゆるした動きをジ~ッと見ているだけで、時を忘れてしまう。
・もやしの製造販売会社を経営している小西さんは、もやしを産廃処理せずに家畜に食べさせ、処分することを思いついた。片っぱしから家畜の本を読んで調べると、ダチョウがマメ科の植物を好むことを知った。もやしもマメ科だ。自社工場の広大な敷地を利用してダチョウを飼えば、産業廃棄物のもやしを処分できる。ダチョウを繁殖させて食用にするか、毛皮をとればビジネスにもなる。
・ダチョウが病気をしたときに治療をするという条件で、牧場に立ち入ってダチョウを自由に観察することが認められた。29歳で獣医学博士号を取ったその年に、僕は大学教員として働く一方で、ダチョウ牧場の主治医になったのである。
・顕微鏡下のダチョウの細胞は、他の動物の細胞よりはるかに速く歩いていた。鳥類は41~42℃と体温が高く、細菌が繁殖しづらいので全般に傷の治りが早い。そのことを差し引いても、ダチョウの傷の治り方は並外れて早い。その秘密は傷口の細胞の動き方の速さにあり、驚異的な免疫力の持ち主であることを教えられた。
・ダチョウを解体して調べた結果、人間でいう脚のふとももの前面から足首にむかって伸びている大腿直筋という筋肉が、断裂をおこしていることがわかった。この大腿直筋は、ちょっとくらいの負荷で断裂するようなヤワな筋肉ではない。それがブチッと切れてしまうのは成長期の肥え過ぎが原因。牧場のダチョウたちも肥満が原因で歩行困難に陥っていることが判明した。飼料のペレットの分量を減らし、もやしやおからなどを多めに与え、寒さをしのぐために脂肪が必要になる冬期間だけ米ぬかを与えれば治るはずだ。「ダチョウたちはダイエットすれば治りますよ」。牧場オーナーの小西さんと田中さんに診断結果を伝えると、「ほんまですか。コスト削減になるよって、そのほうがありがたいわ」と手をたたいて喜んだ。いつも飽きもせずダチョウをボケ~ッと見ているヘンな学者と怪しまれていた僕の株も、これで急上昇した。
・ペットブームの影響なのか、最近は、獣医を目指す高校生が増えている。ところが全国には獣医学科が16校しかなく、定員も多くて80名、たいがいは30名程度だ。したがって競争率も高くなり、近年は浪人して入ってくる学生の割合も増えてきた。若い人たちが獣医を目指す理由はたくさんあるだろう。身近なペットの死を体験して、動物を救いたいと一念発起した人も少なくない。僕も獣医を目指したのはペットを亡くしたからだ。ペットといってもたいていは家族同然だったイヌやネコがほとんどなのだが、僕の場合は「鳥」だった。小学校6年生のとき、かわいがっていた桜文鳥を自分の不始末で死なせてしまったのがきっかけだった。足元にいたクロちゃんに気づかずかかとで踏んでしまったのだ。仲のよすぎたことが災いとなった。ペットショップから戻りその夜は一晩じゅう、クロちゃんを手のひらで温めた。しかし肛門から飛び出した腸は時間とともにニョロニョロ出てくる。やがて呼吸も浅くなっていった。翌朝、クロちゃんはぼくの手のひらの中で冷たくなっていた。後年、獣医になってからも、このときのことは未だによく思い出すが、そのたびに悔しい思いがこみあげる。あの頃、自分にもう少し知識がありなおす方法を知っていたら、初期の段階で飛び出した腸を押し戻してやり、切れた肛門を縫えば助けられるかもしれなかったのに、と。その後、獣医になることを決意した最大の理由は、クロちゃんを救えなかった自分の無力感がずっと忘れられなかったからだ。
・ダチョウは自宅ではなく大学で飼うしかないが、研究者だからといって自由に飼うことは許されない。獣医学科といえでも実験計画書を提出し、教授会で内容が認められなければ、大学は飼育を許可しないのだ。逆に実験計画が認められさえすれば、簡単に飼えるのである。どのような研究にこじつけて飼うことができるか、5年間、ダチョウ牧場に通いながら、テーマを考えてきた。注目したのはダチョウの平均寿命の長さと免疫能力の高さだ。ダチョウの平均寿命は50~60年。猛禽類のトンビやフクロウなどと同じくらい長寿だ。ダチョウは年間に卵を数10個産むことができる。ダチョウ牧場にに通い始めた頃は牧場の人たちも卵に関心を向けていなかった。ところが、僕が主治医として、足の筋肉の断裂防止のためにダイエットさせるようになってから、卵を産む回数が増えだした。鳥は飢餓に近い状態におかれたほうが、子孫を残そうとするからなのか、卵をよく産む。産卵数が多いというのは女性ホルモンがしっかり分泌されていることを意味する。分泌を司っているのは脳の中にある脳下垂体という部分だ。脳下垂体の細胞の代謝がよく、たえずリフレッシュされていると、ホルモン分泌もスムーズに行われる。つまりダチョウは老化の進行が遅いのだ。動物が寿命を待たずして死ぬ主な原因は、病原体の感染だ。ダチョウも病原体にはたえずされされている。にもかかわらず長生きできるということは免疫力が高くて感染症にかかりにくいということを意味する。ダチョウの長寿のナゾを解くには、血液や脳を調べ、ホルモンの分泌パターンと免疫力を調べるのが妥当だ-。ダチョウを飼いたい一心で、このような理論を組み立て、ニワトリの伝染性気管支ウイルスの診断薬開発の可能性を探るという実験計画書を作り、大学に提出した。申請書の内容がもっともらしかったのか、ダチョウの飼育は認められた。許可を知らせる職員からの電話には無感動に答えていたが、内心はうれしくてしようがなかった。
・牧場でダチョウ観察を行っている頃から、しょっちゅうダチョウ肉をもらっていたわが家では、もも肉の部分を一口サイズにカットして塩胡椒をし、しばらくおいてから電子レンジで蒸し焼きにしたものを食べていた。僕はマトンのようなにおいが苦手で、ほとんど手をつけないがうちの嫁が蒸し焼きにすると肉がやわらかくなるのを発見し、レンジ調理をはじめるようになった。唐揚げ粉をまぶして油で揚げてもけっこうイケる。ダチョウ肉は低脂肪でカロリーが低く、鉄分が多いといわれているからなのか、ダイエットに最適と男の人より女の人の間で評判がよい。ホテルなどでダチョウ肉の料理会などが開かれると、たたきで食べるのがいちばんおいしいという意見もある。
・ダチョウは米ぬかや飼料などカロリーの高いエサをいっぱい与えて太らせてしまうと、たちまち卵を産まなくなる。ストレスをかけても産卵回数が減る。牧場のダチョウ観察で、ダチョウの体重と産卵回数の関係に気づき、産卵場所となる飼育棟の照明時間を1日17時間にして、もやしを主食とするダイエット食で太らせないように工夫したところ、年間で平均40~50個といわれている産卵数が2倍に増えて、最大で、年間100個も産むようになった。産卵用のニワトリの年間290個には遠く及ばないものの、春から秋の半年たらずで100個も産むのだから多産の部類にはいるだろう。
・鶏卵の目玉焼きは黄身がこんもりと盛り上がり、白身は白身らしく純白の白さで黄身の黄色をきわだたせる。ところがダチョウの目玉焼きは、黄身はプレートにベタッとへばりつき、白身は半透明のプラスチック容器のような色合いをしている。しかもなかなか固まらない。「なんや、ねば~ッとしてるわ」しょう油をかけ、黄身を口に運んだ足立くんは、目を白黒させている。粘稠度が高いのは脂質の量が多い証だ。「味はけっこう淡白やん。そこそこおいしいわ」次に白身に箸をつけた。ところがこれがボヨンボヨンとゴムのように硬く、食べた感じもゴムをかんでいるようだった。だし巻きは、ダチョウ卵1個で、市販のだし巻きの5~6本分できた。
・恥ずかしい出来事があったものの実験は大成功だった。今回のインドネシアの実験では、ヒヨコにダチョウ抗体ワクチンとウイルスを接種した3日後、再び研究所に行き、ケージのヒヨコたちの様子を確かめた。その結果、ダチョウ抗体を打っていなかったヒヨコは全滅。打っていたヒヨコはウイルス感染でぐったりしていたものの、死ななかった。結果は、望んだとおり良好だった。ニワトリにとっては致死率100%の高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1に、ダチョウ抗体ワクチンは勝利できたのである。
・僕はダチョウ抗体の提供を約束し、新たなプロジェクトをスタートさせた。富士フィルムのライフサイエンス研究所にいる上山さんたちは、恐ろしいほど熱心に取り組んだ。入れ替わりで大学の研究室に来て、空気中のウイルスを無害化する実験を徹夜で繰り返した。そして、1人が1分間に1回、4ヵ月間咳をしてもウイルスを無害化できる高性能の抗体フィルターを開発した。消臭フィルター、抗菌フィルター、抗体フィルターの3種を搭載した「空間清浄機KPD1000」を2008年12月から販売するようになった。現在のところ、病室や家庭向けの小型サイズしか出していないが、開発チームの目標は公共施設での普及だ。
・動物の糞は肥料となるくらいだから、植物の生育によいのはわかるが、ダチョウの糞は動物のなかでも一流と言えるのではないだろうか。瓦礫から緑が再生してしまうということは、ずば抜けて土を再生する力が高いということだ。ダチョウの糞はおだんごを重ねたようなかたちをしている。ニオイも驚くほど少なく、観察するとハエがたかっていない。一般的に鳥類は腸が短いが、ダチョウの場合、腸は直径10センチもあり、長さも2メートルと非常に長い。この煙突のような腸管で、消化吸収に40時間ほどかける。主食のもやしは水分と植物繊維がほとんど。ダチョウは食物繊維をムダなく消化しているのだろう。
・「これな、ダチョウの油なんや。英語でいうたらオーストリッチオイルということになりますな。これを塗ると水虫がイチコロなんや」ダチョウの傷は治りが早い。それは傷口の組織の細胞の歩き方が早く、傷口がふさがりやすいからだ。ダチョウの皮下脂肪からとったオイルが水虫で荒れた皮膚に効いたとしても不思議ではない。小西さんは牧場の人たちにも配ったというので感想をきいてみると、アトピー性皮膚炎でも使用できた、アカギレが治りやすくなった、ひげ剃り後の傷の治りが早い、肌がしっとりするなど悪い話がひとつも出てこなかった。科学的に実証するためにダチョウのオイルでマウスを使った実験を行ってみた。皮膚の一部を丸くえぐる器具を使い、人為的に作った傷口にダチョウオイルを塗り、細胞の状態を観察した。経過は予想どおり細胞が傷口をふさごうとして歩く速さがオイルを塗らないときより早かった。
・ダチョウ抗体は抗原(病原体など)によって対応しにくいものもあるが、現在開発中の肺ガン治療薬では、ガン細胞の転移に関与しているギセリンに対する高い精度がたしかめられている。低コストで量産化でき、高精度の抗体ができる。この特徴はこれからのガン治療に新たな可能性を広げてくれそうだ。肺ガン治療用の抗体治療薬は、抗ガン剤との併用を考えている。10年後の実用化を目指しているが、日本国内におけるガン治療の最先端は、国内を二分して行われているペプチドによるガンワクチン療法で、ここに食いこみ臨床試験にこぎつけるまでには、残念ながらかなり時間がかかりそうだ。
面白かった本まとめ(2009年下半期)
<今日の独り言>
6歳の子供と部屋でビーチボール遊びをしていると、ボールが壁掛け時計に当たって、時計が落下!見事自分の頭に落ち、たんこぶができてしまいました!痛~い!!一瞬真っ暗になり、何が何だか分かりませんでした^_^;)
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ダチョウは身長は2.5メートルを超え、時速60キロを超える俊足、年間100個もタマゴを産む高い生殖能力、60年も生きる生命力を持っているとのことです。
またその抗体は鳥インフルエンザに強く、マスクや清浄機フィルターに使われているとは驚きました。
また、ガン治療にダチョウ抗体を活用できる可能性もあるようです。
これからダチョウが注目されるかもしれませんね。
また、著者は少年時代から鳥好きで、はじめてのペットでスズメを飼い、大学でニワトリを研究し、獣医師となり、そしてダチョウの研究とまさに天職で、人生を楽しく有意義に過ごしていると思います。まさに成功者の人生かと思います。
とてもオススメな本です。
以下はこの本のポイントなどです。
・僕は世界ではじめてダチョウのタマゴから「ダチョウ抗体」をつくり、取り出すことに成功した。ダチョウ抗体は人類を救うための数々の手段に応用できる。ダチョウ抗体はインフルエンザウイルスに強い。溶液をマスクに塗れば、体内に入ろうとするウイルスを退治し、観戦を防ぐことに役立つ。フィルターに抗体溶液を塗って、空気清浄機にセットすればウイルスの室内侵入を防ぐこともできる。研究のなかでダチョウの免疫力の高さも証明した。ダチョウ抗体でアトピー性皮膚炎やペットの炎症防止の実験も行い、実用化を進めている。最大の目標はガン治療にダチョウ抗体を活用することだ。ダチョウ抗体がガン細胞の転移を抑える可能性がある。人類の最大の敵ともいえる病をダチョウが救う日が来ることを思うと、ときめきを抑えられない。
・ダチョウは「自己チュー」(自己中心的)な鳥である。ダチョウは集団行動をする。群れをなして行動しているダチョウの一羽が羽を広げると、群れの一部も同じように羽を広げて走る。僕がそれまで飼育した鳥には見られなかった行動だ。サバンナに生きる草食動物たちは、天敵の接近に仲間の一頭が気が付くと、全員にサインを送って、集団で避難する。リーダーが先導して、群れを引っ張る動物の集団もいる。ところが、ダチョウの場合、群れにリーダーはいないし、一羽が動き出すのも危険を知らせて仲間を守るというような高尚なものではないことが次第にわかった。何も考えていない一羽が何かの気まぐれで走り出し、それにつられて周囲のダチョウも走り出すというだけなのだ。
・体重が100キロを超す巨体でありながら脳みそが約300グラム。人間の脳の約5分の1だ。小さなハンバーグのような形をした、厚さ2センチ、直径4センチの脳みそは、ネズミの脳のように表面がツルツルでしわがない。脳みそより大きい目玉がセンサーの役をはたし、脳は視覚から送られる信号に反応しているだけなのだろう。
・恋といえば、鳥たちの恋愛の特徴は美しい鳴き声や求愛のダンスだ。ダチョウは鳴かないし、求愛ダンスにいたっては悪魔を呼び寄せる儀式のようにしか見えない。春先からはじまる発情期には、いやでも目に入ってしまう。ダチョウのオスはくちばしが真っ赤になり、メスの前で座り、長い首をくねらせながら羽を大きく広げて踊りだす。これに対してメスは、くちばしの色に変化は見られないものの、オスより低い姿勢でベターっと地面にはいつくばるように座り、妖怪のように、首をヌ~ッとのばして、くちばしをパクパクさせる。そのたびにおぞましい気持ちになるが、ホラー映画を観ているようで楽しくもある。
・食べ物を呑みこむ姿もグロテスクだ。ヘビが食用ガエルなど大きなかたまりを飲み込むと、食道がふくれあがって食べたものが胃に落ちていく様子が観察できる。同様にダチョウも食道から胃に到達するまでの様子が外側から観察できる。一般的な鳥の消化管は口から続いて、食道の途中にエサをためこむ「そのう」があり、エサをついばんでいると、首の下のあたりがモコッとふくらむ。ダチョウはそのうが発達していない。食道はスライダープールのようにS字状だ。もやしであろうが、配合飼料であろうが、何か食べると、あっちがふくらんだり、こっちがふくらんだりS字を描きながら10分くらいかけて落ちていく。僕はそのゆるゆるした動きをジ~ッと見ているだけで、時を忘れてしまう。
・もやしの製造販売会社を経営している小西さんは、もやしを産廃処理せずに家畜に食べさせ、処分することを思いついた。片っぱしから家畜の本を読んで調べると、ダチョウがマメ科の植物を好むことを知った。もやしもマメ科だ。自社工場の広大な敷地を利用してダチョウを飼えば、産業廃棄物のもやしを処分できる。ダチョウを繁殖させて食用にするか、毛皮をとればビジネスにもなる。
・ダチョウが病気をしたときに治療をするという条件で、牧場に立ち入ってダチョウを自由に観察することが認められた。29歳で獣医学博士号を取ったその年に、僕は大学教員として働く一方で、ダチョウ牧場の主治医になったのである。
・顕微鏡下のダチョウの細胞は、他の動物の細胞よりはるかに速く歩いていた。鳥類は41~42℃と体温が高く、細菌が繁殖しづらいので全般に傷の治りが早い。そのことを差し引いても、ダチョウの傷の治り方は並外れて早い。その秘密は傷口の細胞の動き方の速さにあり、驚異的な免疫力の持ち主であることを教えられた。
・ダチョウを解体して調べた結果、人間でいう脚のふとももの前面から足首にむかって伸びている大腿直筋という筋肉が、断裂をおこしていることがわかった。この大腿直筋は、ちょっとくらいの負荷で断裂するようなヤワな筋肉ではない。それがブチッと切れてしまうのは成長期の肥え過ぎが原因。牧場のダチョウたちも肥満が原因で歩行困難に陥っていることが判明した。飼料のペレットの分量を減らし、もやしやおからなどを多めに与え、寒さをしのぐために脂肪が必要になる冬期間だけ米ぬかを与えれば治るはずだ。「ダチョウたちはダイエットすれば治りますよ」。牧場オーナーの小西さんと田中さんに診断結果を伝えると、「ほんまですか。コスト削減になるよって、そのほうがありがたいわ」と手をたたいて喜んだ。いつも飽きもせずダチョウをボケ~ッと見ているヘンな学者と怪しまれていた僕の株も、これで急上昇した。
・ペットブームの影響なのか、最近は、獣医を目指す高校生が増えている。ところが全国には獣医学科が16校しかなく、定員も多くて80名、たいがいは30名程度だ。したがって競争率も高くなり、近年は浪人して入ってくる学生の割合も増えてきた。若い人たちが獣医を目指す理由はたくさんあるだろう。身近なペットの死を体験して、動物を救いたいと一念発起した人も少なくない。僕も獣医を目指したのはペットを亡くしたからだ。ペットといってもたいていは家族同然だったイヌやネコがほとんどなのだが、僕の場合は「鳥」だった。小学校6年生のとき、かわいがっていた桜文鳥を自分の不始末で死なせてしまったのがきっかけだった。足元にいたクロちゃんに気づかずかかとで踏んでしまったのだ。仲のよすぎたことが災いとなった。ペットショップから戻りその夜は一晩じゅう、クロちゃんを手のひらで温めた。しかし肛門から飛び出した腸は時間とともにニョロニョロ出てくる。やがて呼吸も浅くなっていった。翌朝、クロちゃんはぼくの手のひらの中で冷たくなっていた。後年、獣医になってからも、このときのことは未だによく思い出すが、そのたびに悔しい思いがこみあげる。あの頃、自分にもう少し知識がありなおす方法を知っていたら、初期の段階で飛び出した腸を押し戻してやり、切れた肛門を縫えば助けられるかもしれなかったのに、と。その後、獣医になることを決意した最大の理由は、クロちゃんを救えなかった自分の無力感がずっと忘れられなかったからだ。
・ダチョウは自宅ではなく大学で飼うしかないが、研究者だからといって自由に飼うことは許されない。獣医学科といえでも実験計画書を提出し、教授会で内容が認められなければ、大学は飼育を許可しないのだ。逆に実験計画が認められさえすれば、簡単に飼えるのである。どのような研究にこじつけて飼うことができるか、5年間、ダチョウ牧場に通いながら、テーマを考えてきた。注目したのはダチョウの平均寿命の長さと免疫能力の高さだ。ダチョウの平均寿命は50~60年。猛禽類のトンビやフクロウなどと同じくらい長寿だ。ダチョウは年間に卵を数10個産むことができる。ダチョウ牧場にに通い始めた頃は牧場の人たちも卵に関心を向けていなかった。ところが、僕が主治医として、足の筋肉の断裂防止のためにダイエットさせるようになってから、卵を産む回数が増えだした。鳥は飢餓に近い状態におかれたほうが、子孫を残そうとするからなのか、卵をよく産む。産卵数が多いというのは女性ホルモンがしっかり分泌されていることを意味する。分泌を司っているのは脳の中にある脳下垂体という部分だ。脳下垂体の細胞の代謝がよく、たえずリフレッシュされていると、ホルモン分泌もスムーズに行われる。つまりダチョウは老化の進行が遅いのだ。動物が寿命を待たずして死ぬ主な原因は、病原体の感染だ。ダチョウも病原体にはたえずされされている。にもかかわらず長生きできるということは免疫力が高くて感染症にかかりにくいということを意味する。ダチョウの長寿のナゾを解くには、血液や脳を調べ、ホルモンの分泌パターンと免疫力を調べるのが妥当だ-。ダチョウを飼いたい一心で、このような理論を組み立て、ニワトリの伝染性気管支ウイルスの診断薬開発の可能性を探るという実験計画書を作り、大学に提出した。申請書の内容がもっともらしかったのか、ダチョウの飼育は認められた。許可を知らせる職員からの電話には無感動に答えていたが、内心はうれしくてしようがなかった。
・牧場でダチョウ観察を行っている頃から、しょっちゅうダチョウ肉をもらっていたわが家では、もも肉の部分を一口サイズにカットして塩胡椒をし、しばらくおいてから電子レンジで蒸し焼きにしたものを食べていた。僕はマトンのようなにおいが苦手で、ほとんど手をつけないがうちの嫁が蒸し焼きにすると肉がやわらかくなるのを発見し、レンジ調理をはじめるようになった。唐揚げ粉をまぶして油で揚げてもけっこうイケる。ダチョウ肉は低脂肪でカロリーが低く、鉄分が多いといわれているからなのか、ダイエットに最適と男の人より女の人の間で評判がよい。ホテルなどでダチョウ肉の料理会などが開かれると、たたきで食べるのがいちばんおいしいという意見もある。
・ダチョウは米ぬかや飼料などカロリーの高いエサをいっぱい与えて太らせてしまうと、たちまち卵を産まなくなる。ストレスをかけても産卵回数が減る。牧場のダチョウ観察で、ダチョウの体重と産卵回数の関係に気づき、産卵場所となる飼育棟の照明時間を1日17時間にして、もやしを主食とするダイエット食で太らせないように工夫したところ、年間で平均40~50個といわれている産卵数が2倍に増えて、最大で、年間100個も産むようになった。産卵用のニワトリの年間290個には遠く及ばないものの、春から秋の半年たらずで100個も産むのだから多産の部類にはいるだろう。
・鶏卵の目玉焼きは黄身がこんもりと盛り上がり、白身は白身らしく純白の白さで黄身の黄色をきわだたせる。ところがダチョウの目玉焼きは、黄身はプレートにベタッとへばりつき、白身は半透明のプラスチック容器のような色合いをしている。しかもなかなか固まらない。「なんや、ねば~ッとしてるわ」しょう油をかけ、黄身を口に運んだ足立くんは、目を白黒させている。粘稠度が高いのは脂質の量が多い証だ。「味はけっこう淡白やん。そこそこおいしいわ」次に白身に箸をつけた。ところがこれがボヨンボヨンとゴムのように硬く、食べた感じもゴムをかんでいるようだった。だし巻きは、ダチョウ卵1個で、市販のだし巻きの5~6本分できた。
・恥ずかしい出来事があったものの実験は大成功だった。今回のインドネシアの実験では、ヒヨコにダチョウ抗体ワクチンとウイルスを接種した3日後、再び研究所に行き、ケージのヒヨコたちの様子を確かめた。その結果、ダチョウ抗体を打っていなかったヒヨコは全滅。打っていたヒヨコはウイルス感染でぐったりしていたものの、死ななかった。結果は、望んだとおり良好だった。ニワトリにとっては致死率100%の高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1に、ダチョウ抗体ワクチンは勝利できたのである。
・僕はダチョウ抗体の提供を約束し、新たなプロジェクトをスタートさせた。富士フィルムのライフサイエンス研究所にいる上山さんたちは、恐ろしいほど熱心に取り組んだ。入れ替わりで大学の研究室に来て、空気中のウイルスを無害化する実験を徹夜で繰り返した。そして、1人が1分間に1回、4ヵ月間咳をしてもウイルスを無害化できる高性能の抗体フィルターを開発した。消臭フィルター、抗菌フィルター、抗体フィルターの3種を搭載した「空間清浄機KPD1000」を2008年12月から販売するようになった。現在のところ、病室や家庭向けの小型サイズしか出していないが、開発チームの目標は公共施設での普及だ。
・動物の糞は肥料となるくらいだから、植物の生育によいのはわかるが、ダチョウの糞は動物のなかでも一流と言えるのではないだろうか。瓦礫から緑が再生してしまうということは、ずば抜けて土を再生する力が高いということだ。ダチョウの糞はおだんごを重ねたようなかたちをしている。ニオイも驚くほど少なく、観察するとハエがたかっていない。一般的に鳥類は腸が短いが、ダチョウの場合、腸は直径10センチもあり、長さも2メートルと非常に長い。この煙突のような腸管で、消化吸収に40時間ほどかける。主食のもやしは水分と植物繊維がほとんど。ダチョウは食物繊維をムダなく消化しているのだろう。
・「これな、ダチョウの油なんや。英語でいうたらオーストリッチオイルということになりますな。これを塗ると水虫がイチコロなんや」ダチョウの傷は治りが早い。それは傷口の組織の細胞の歩き方が早く、傷口がふさがりやすいからだ。ダチョウの皮下脂肪からとったオイルが水虫で荒れた皮膚に効いたとしても不思議ではない。小西さんは牧場の人たちにも配ったというので感想をきいてみると、アトピー性皮膚炎でも使用できた、アカギレが治りやすくなった、ひげ剃り後の傷の治りが早い、肌がしっとりするなど悪い話がひとつも出てこなかった。科学的に実証するためにダチョウのオイルでマウスを使った実験を行ってみた。皮膚の一部を丸くえぐる器具を使い、人為的に作った傷口にダチョウオイルを塗り、細胞の状態を観察した。経過は予想どおり細胞が傷口をふさごうとして歩く速さがオイルを塗らないときより早かった。
・ダチョウ抗体は抗原(病原体など)によって対応しにくいものもあるが、現在開発中の肺ガン治療薬では、ガン細胞の転移に関与しているギセリンに対する高い精度がたしかめられている。低コストで量産化でき、高精度の抗体ができる。この特徴はこれからのガン治療に新たな可能性を広げてくれそうだ。肺ガン治療用の抗体治療薬は、抗ガン剤との併用を考えている。10年後の実用化を目指しているが、日本国内におけるガン治療の最先端は、国内を二分して行われているペプチドによるガンワクチン療法で、ここに食いこみ臨床試験にこぎつけるまでには、残念ながらかなり時間がかかりそうだ。
面白かった本まとめ(2009年下半期)
<今日の独り言>
6歳の子供と部屋でビーチボール遊びをしていると、ボールが壁掛け時計に当たって、時計が落下!見事自分の頭に落ち、たんこぶができてしまいました!痛~い!!一瞬真っ暗になり、何が何だか分かりませんでした^_^;)