ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

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NHK の広場、2、ラジオドイツ語講座(01、主語の「数」)

2005年07月06日 | NHKの広場
 2000年の秋、ラジオドイツ語講座に初めて質問状を送りまし
た。それは、講師の相沢啓一さん(筑波大学助教授、当時)
が、「主語の数(かず)」と言ったからです。

 「昔は、数(すう)と言ったはずだと思うのだが」といぶか
りながら、手紙を書きました。「最近は『数(かず)』と言う
ようになったのですか。それとも昔のままなら、番組の中で訂
正して下さい」と。

 こんな問題になると思っていませんでしたので、質問状を残
しておきませんでした。

 講師と係の2者から返事を頂きました。

牧野紀之様
 拝復、NHKラジオ講座での「数」の読み方に対するご意見
にお答えします。

 この件に限らず、私の担当したラジオ講座は必ずしも現在の
ドイツ語学において主流となっている文法体系や用語に則って
いない部分が数多くあります。その理由は、あくまでNHK ドイ
ツ語講座はドイツ語をなるべく学びやすい形で教える場であっ
て、ドイツ語学やドイツ文法用語を教える場ではないと理解し
ているからです。

 たしかに文法用語を使わずに効率的な説明をすることは困難
であり、私の担当した講座ではむしろ文法用語の使用頻度は他
の担当者の方々よりも残念ながら多いことも認識しています
が、そこで使用した文法用語は、それらの用語学習を自己目的
とするものではなく、あくまでドイツ語を学ぶ上での手段とし
て必要最小限にとどめたつもりです。

 ですから今回のラジオ講座では、話法の助動詞の扱いなどを
始めとして、文法上の体系的整合性を重視する立場からは異論
があろうことは承知の上で、むしろ初学者がなるべく無用な文
法用語習得に労力を費やしたり誤解したりしないで理解できる
ことを第一義に、敢えて既成の文法体系にこだわらない説明を
心がけました。

 そうした講座の中で、「数」という語を文法用語として「す
う」と読まなければならない必要性を私は認めません。より一
般的な目常用語である「数(かず)」によって単数と複数の違
いが意味されていることは、このドイツ語講座では既に十分明
確になっているはずですから、それで学習者の理解に何らかの
支障があるとは思われません。

 むしろ、耳で聞いてなるべく分かりやすいことを旨とするラ
ジオ講座での説明においては、「性・数・格」と並べる場合以
外は目常用語で「かず」と言った方が、ドイツ語を学び始めた
ばかりの聞き手にとって何の話なのか遥かに理解しやすいと判
断した次第です。

 ドイツ語を習い始めたばかりの人にここで重要なのは、単数
・複数の区別を理解してもらうことであって、私たち語学教師
のジヤルゴンに過ぎない「すう」等の文法用語を覚えることで
はありません。

 ドイツ語を学び始めた学生は、ただでさえ覚えることの多さ
に辟易しているはずですから、もしこの文法用語を「かず」と
読んで「おまえは間違えている」などと指摘される学生がいる
としたら、ドイツ語とは何の関係のないところで余計な労力を
強いられることを、私としでは気の毒だと思います。

 以上の見解の相違について、ご理解をいただけるなら幸いで
す。なお、これについて一般学習者に放送の中で説明する要は
ないと思いますので、改めてとりあげることは致しません。ご
了承下さい。
   2000年10月25日
                  相澤 啓一

   係からの返事

 牧野 紀之様
 ドイツ語講座入門編へのご意見、ご質問にお答えします。

NHK は放送用語というくくりで、聴いて分かりやすく、又適
切な用語を使用すべく、担当部局で、常に検証を続けておりま
す。

 ご指摘の「数」については、一般の人々に分かりやすいとい
う点では「カズ」が「スウ」より適切だと考えますし、又「カ
ズ」という読み方が間違いというふうには考えておりません。

 もちろん専門用語としては「スウ」が正しいのだというお考
えがあるのかもしれませんが、前述のように「分かりやすく」
という点から「カズ」を私たちはより適切なものと考えます。

 以上の点は担当の相沢啓一さんの回答でもご理解していただ
けるものと思います。

 尚、放送用語について、牧野様がより詳しく知りたいという
ことでしたら、放送文化研究所の放送用語担当にお問い合わせ
下さい。

 「数」についての私たちの考え方も研究所の見解を確かめ、
お伝えしているものです。

 これからもドイツ語講座をよろしくお願いいたします。

 2000年10月31日
     ラジオドイツ語講座担当、松井 健児


 そこで私はその「放送文化研究所」と電話で話しました。随
分長い電話になりました。この研究所の方は私の意見に明確に
は賛成しませんでしたが、「若くして偉くなるのは困ったもの
だ」という一般論で一致して終わりました。

 主語の数(すう)と主語の(かず)は全然違います。

英文を例にとって説明します。
             主語の数(すう)、数(かず)

 Tom and Jim are friends.  複数    2個
 They are friends.      複数    1個

 又、「主語の数(すう)」を「ジャルゴン(専門家だけの用
語)」と強弁する相沢さんには次の反証を出しておきましょ
う。

 「現代の言語生活において最も普通に用いられる日本語」に
ついての辞書として最も標準的に使われています「新明解国語
辞典」(三省堂)で「数(すう)」を引きますと、「(言語学)
で数を表す文法形式。単数、複数、双数」と書いてありますが、
「数(かず)」を引きますと、何も書いてありません。

 又、ラジオドイツ語講座のリスナーは一般的に極めてレベル
が高く熱心な人が多いことは関係者なら誰でも知っていること
であり、既に英語の授業の中で「数(すう)」と正しく習って
きている人の方が多いと思います。
    (2005年07月06日)