昨2月23日、午後4時から菅首相対谷口自民党総裁、山口公明党代表との党首討論が参議院第一委員会室・国家基本政策委員会合同審査会主催で行われた。最初の菅首相対谷口自民総裁の党首討論の冒頭、谷口自民総裁が日本時間22日午前9時前発生のニュージーランド南部地震を取り上げて、その対応が少々遅れていなかったか問い質した。
対して菅首相は「迅速な対応ができた」と答えたが、果して迅速な対応だったろうか、地震に関する遣り取りのみを取り上げて私なりに検証してみる。
《(1)首相、小沢氏の処分に「党としてのけじめはできた」(23日午後)》(MSN産経/2011.2.23 17:02)
菅直人首相は23日午後、首相就任後、2回目となる自民党の谷垣禎一総裁との党首討論に臨み、民主党の小沢一郎元代表を党員資格停止処分としたことについて、「党としてのけじめはできた」と述べた。詳細は以下の通り。
谷垣自民党総裁「まず、冒頭に昨日、ニュージーランドのクライストチャーチで直下型の大きな地震が起きました。被害も甚大であり、心からお見舞いを申し上げますと同時に、邦人も安否が確認されていない方がまだたくさんいらっしゃるわけですね。ですから、政府には、まず邦人の保護と被災地の支援に全力を挙げていただきたい、このことをまず、お願いしておきます。
実は、あの-。きょう、昼前にですね、現地に、クライストチャーチに住んでおられる日本人の方から、悲痛な電話をいただきました。あの、わが自民党本部にお電話があったんですが、あの-、富山の方々が通っておられる学校、2次災害等々心配されるんで、救援活動が止まっていると。非常に不安に思っておられるわけですね。もうそうなると、日本からの救援隊が命綱だと。1日も早く政府専用機と救援隊を送ってもらいたい。台湾とニュージーランドは、あっ、台湾とオーストラリアはもう来て、活動しているけど、日の丸を見たい、こういうご趣旨でございました。
もうすでに、2時過ぎに日本から発たれたようですから、この方々たちにはご苦労ですが、がんばっていただきたいと思います。ただ、私はですね、これ、きのう民主党はいろいろ、党内のいろいろのもめ事を解決しておられたと思いますが、私は昨日から取り組まれたら、昨日の夜にはもうたてたんじゃないか、そうすると、今朝には着いて、もう行動を開始できたんじゃないか、こういうふうに思います」
菅首相「まず、昨日、日本時間の午前8時51分にニュージーランド南部で地震が発生いたしました。そして、昨日の段階で第1回の関係閣僚会議を開き、きょうの予算委員会の前に第2回の関係閣僚会議を開きました。ニュージーランドから正式な国際緊急援助隊の派遣の要請がありました。
それまでに、既に、昨日の段階で3人の先遣隊を民間機で出して、きょう朝には現地に入っておりました。その情報も合わせて、成田にあるいろいろな資材を、千歳にありました政府専用機を成田に運び、そして、約8、70名の消防庁、あるいは警察庁、あるいは海上保安庁などの中から選抜したメンバーを、その政府専用機できょうの午後2時過ぎに、成田から出発をいたしました。あす午前の1時には、現地に到着することになっております。まずは、被災に遭われた方にお見舞いを申し上げますとともに日本の留学生なども災害に遭われてますので、そういう人たちの救出はもとより、この被災に遭われた皆さんに対する救出活動に全力をあげていきたい、私はこのまだ支援の要請がある前に、3人の先遣隊を出したということはその後の作業に大変、迅速な対応ができた、私はこのように思っているところであります」 |
谷垣総裁は菅首相の「大変、迅速な対応ができた」の発言に対して一言も言及していないから、「迅速な対応」を事実として受け入れたのだろう
地震発生からの政府対応を他の記事も参考にしながら時系列で箇条書きにしてみる。
●日本時間22日午前8時51分(現地時間2月22日午後1時前)、ニュージーランド南部で地震発生。地
震の規模はマグニチュード6.3。
●22日、政府は地震発生後、ニュージーランド政府に対して直ちに緊急援助の用意があると伝達。(時
事ドットコム)
●22日夕、情報収集のための先遣隊として外務省や国際協力機構(JICA)、などによる3人の調査
チームが日本を出発。
●22日夜、ケネディ駐日ニュージーランド大使が外務省で前原外相と会い、正式に支援を要請。
●23日午前第1回関係閣僚会議
●23日午前、予算委員会の前に第2回の関係閣僚会議。
●23日午後2時半、警察関係者22人、海上保安庁14人、消防関係者17人と、外務省や国際協力機
構(JICA)職員、医師らの計67人の選抜メンバーからなる国際緊急援助隊が政府専用機成田から出
発。
●24日午前4時15分(日本時間同24日0時15分)頃、被災地のクライストチャーチに到着。
菅首相は「成田にあるいろいろな資材を、千歳にありました政府専用機を成田に運び、そして、約8、70名の消防庁、あるいは警察庁、あるいは海上保安庁などの中から選抜したメンバーを、その政府専用機できょうの午後2時過ぎに、成田から出発をいたしました」と言っているが、もう少し日本の主語と述語の関係を成り立たせた起承転結で話して貰いたいものだが、そもそもから合理的感覚を欠いているから無理な注文かもしれないが、ケネディ駐日ニュージーランド大使から正式な支援要請を受けた22日夜以降のことであるはずだ。
なぜなら、要請を受けたのちの直ちの出発ではなく、半日以上、あるいは15、6時間前後置いた23日午後2時半となっているからだ。現地到着は地震発生の日本時間22日午前8時51分(現地時間2月22日午後1時前)から1日半経過した約39時間後の日本時間同24日0時15分(現地時間24日午前4時15分)となっている。
そして谷口自民総裁の指摘によるが、何よりも「台湾とオーストラリア」が既に現地で活動している。
オーストラリアはニュージーランドに近いから早いのは当然だとしても、台湾と日本との時差は約1時間だと言うから、台湾-ニュージーランド間は約3時間の時差で、NHKニュースが言っていた日本-ニュージーランド間の約4時間の時差と1時間の違いしかない。「台湾週報」によると、台湾政府は地震発生当日の2月22日夜に捜索救援隊22名を派遣している。
これは速い遅いの競争で言っているのではなく、危機管理上の初動対応の迅速性の点で重要だからである。この迅速性は外国の自然災害に関してのみ必要な対応能力としてあるのではなく、国内の自然災害に於いても生かすことができ、適応可能な能力となるから、国内外の場所如何に関わらず、常に的確な判断に基づいた迅速な初動対応が求められることになり、いずれの場合でも必要とされる要請に対応可能な初動態勢を取ることができているかどうかの常なるバロメーターとなるはずである。
条件にもよるが、一般的には地震発生から72時間が生存者救出の限界とされているのだから、1時間の遅れも許されないとする態度で危機管理に臨まなければ、より多くの人命救助は自ら困難な作業に陥れることになる。
問題は22日夜、ケネディ駐日ニュージーランド大使から正式な支援要請を受けてから、千歳空港に駐機していた政府専用機を成田に移動させ、成田空港に保管していたのか、「成田にあるいろいろな資材」を政府専用機に積み、メンバーを乗降させて出発させたという手順である。そして地震発生から1日以上、約29時間経過した23日午後2時半、国際緊急援助隊を乗せた政府専用機が成田から出発。
22日の何時の段階か正確には分からないが、日本時間22日午前8時51分地震発生後、菅内閣はニュージーランド政府に対して直ちに緊急援助の用意があると伝達しているのである。
その段階前後で、理想を言うなら、地震発生直後の震度を知った段階で菅首相はなぜ政府専用機を千歳から成田空港に移動させる手続きを取らなかったのだろうか。勿論、その段階ではニュージーランド政府が緊急援助隊派遣の申入れを受け入れるかどうかは分からない。だが、ニュージーランド政府の要請受け入れを受けてから緊急援助隊派遣準備の行動に移るのでは、派遣の申し出から要請を受取るまでの時間のロスが生じる。
例え申し出を、多分丁重にだろう、断られたとしても、緊急援助を申し出た段階前後の時点で政府専用機を千歳から成田に回し、必要とする人材と人員を用意し、成田空港近くのホテルに待機させ、要請を受け次第出発できるように準備しておくべきではなかったろうか。
今回の地震では少なくない日本人が被害を受け、救助されずに行方不明者を出しているといった特殊な事情に関係なく、こういった早手回しの初動対応が国内外を問わないすべての自然災害には必要な危機管理上の初動対応となるはずである。
勿論、ニュージーランド政府から緊急援助隊の派遣は必要ないと断られた場合は早手回しの準備にかかった時間とカネを無駄にすることになるが、あらゆる場合の自然災害に備えた初動対応を遅滞なく的確に発動する訓練ともなる機会と看做して、そのことへの投資と見れば、このような訓練が将来生きて一人でも多くの被害者の救出に役立つ可能性も考えることができ、少しくらいの時間とカネの無駄、メンバーを煩わせたことを帳消しにして決して少なくない利益をもたらすはずである。
2010年1月12日16時53分日本時間=13 日6時53分)発生のハイチ地震でも民主党は当時の鳩山内閣が国際援助隊医療チーム派遣の初動対応が遅れたと批判された過去の実績を抱えている。各国が早々と救援隊や医療チームを派遣した中で、医療部隊を派遣したものの、治安の悪化状況を理由に救出部隊を派遣しなかったことも批判を受けた。
当時の岡田外相は救出部隊を派遣しなかったことと医療部隊派遣の遅れを次のように釈明している。《ハイチ支援 遅れの指摘で検証》(NHK/NHK/10年1月22日 21時44分)
岡田外相「現地は、国連のPKO=平和維持活動の部隊が展開するなど、治安情勢がきわめて悪いという特殊事情があることを理解してもらいたい。アメリカや中国は、PKO部隊に隊員を派遣しており、自国の救援隊を守ることができるが、日本はそういう体制にはない」
「現地の状況を把握するため、先に出した緊急調査チームとともに医療チームを出発させ、近くで待機させれば、1日ぐらい早く現地に到着できたかもしれない」――
派遣したのが救出部隊ではなく医療部隊であったとしても、医者不足・医薬品不足の状況にあったことと地震発生から72時間=3日間が生存者救出の限界とされている関係からして遅い被救出者程早い治療を必要とする切迫した状況を考えると、その「1日」が大切であり、その「1日」をムダにしてはならない。にも関わらず、後付けで「1日ぐらい早く現地に到着できたかもしれない」と言うことができるのは人命意識を欠いているからこそ言える発言であろう。
いずれにしても対応の的確性について「今後の災害に備えて」より早い支援ができなかったか外務省内で検証を行う考えを示した。
「近くで待機させれば」とは、ハイチの首都まで飛行機で1時間半のアメリカのフロリダ半島マイアミか国境を接している隣国ドミニカ共和国のことを指す。
だが、緊急調査チームを先遣させ、その調査を待って遠い国、日本から出発させたために他国に遅れを取ることになった。当然、医者不足・医薬品不足の状況にあったから、到着の遅れが救える命を死なせてしまう事態を生じせしめたことも考えることができる。
このことは2010年1月22日の当ブログ《岡田外務大臣のハイチ対応に見せた詭弁-『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に書いた。
岡田首相はハイチ地震における危機管理、初動対応が的確に機能したかどうかの検証を行うとした。今回のニュージーランド地震に於けるニュージーランド政府からの正式支援要請を受けてからの政府専用機やメンバーの準備が岡田外相の検証とハイチ地震経験の学習に応じた対応だとしたら、初動対応に不足を見い出さざるを得ない。
検証を約束しながら、それを怠っていたとしたら、ハイチと同じことの繰返しを今回のニュージーランド地震でも演じたことになる。
岡田外相は2010年1月22日夕方、外務省会見室で記者会見を行っている。《外務大臣会見記録 ハイチにおける地震に対する支援》
岡田外相「国会でも申し上げましたが、調査隊が出て、それから一日か二日置いて本隊が出たということを見た時に、なるべく早く本隊も出して、そして例えばマイアミで待機をするとかそういうことはできたかもしれません。見込みで出すということですね。その場合に一日ぐらい早く着いたかもしれないという思いはあります。今日は小池議員からもそういうことはやるべきだというお話もありました。それは税金の無駄遣いではないと。もちろん時と場合による訳ですけれども、私(大臣)自身はその可能性が果たしてなかったのかどうか、今後のこともありますのでよく検証してみたいと考えているところであります」
例え「税金のムダ遣い」となったとしても、1人でも多くの人命救助に役立てば、あるいは1人でも多くの人命救助につながる訓練となるなら、税金の有効な遣い方となる。
1年前にハイチ地震で学習しているはずだが、今回地震発生後直ちに救援隊の準備に入り、成田空港で待機させて1時間でも時間を省くといったことはしなかった。単にそれが時間的に早いというだけの調査の先遣隊を先ず派遣し、次に派遣要請を待って派遣飛行機と派遣メンバー、さらに必要資材の準備に入る過去の例に倣った手順を機械的に踏襲している姿しか浮かばない。
地震発生当日に「台湾とオーストラリア」の救援隊が現地入りしているというのに、菅首相は「私はこのまだ支援の要請がある前に、3人の先遣隊を出したということはその後の作業に大変、迅速な対応ができた、私はこのように思っているところであります」と、先遣隊の派遣を以って、その後の作業でも「迅速な対応ができた」と自身の危機管理に於ける初動対応を自負している。
どことなく抜けている。何が抜けているかと言うと、勿論人命意識である。菅首相の念頭にあったのは内閣支持率低下の状況下で初動対応が遅れた場合の批判への回避意識のみであったのではないだろうか。
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大変参考になるご意見、「うんうん」と肯きながら拝見いたしました。
しかしながら、下記時系列は誤記載?誤認?かと思います。
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国際緊急援助隊が政府専用機で成田から出発したのは、「23日午後」だと思います。
老婆心ながら....m(_ _)m 雲