7日土曜日朝早くニュース検索サイト「グーグル」を検索していたら、ミャンマーで被災者支援を行っていた人気コメディアンが軍事政権に拘束されたことを伝えるマスコミ3社の報道見出しを載せていた。
「CNN」は2008年06月06日14時21分のアップロード記事。 「asahi.com」は2008年06月05日20時21分。「Msn産経」は2008年6月6日00時46分。3社ともそれぞれに所属する記者たちはこの情報を6月6日の日中には共有していたはずだし、共有していなければならなかったはずである。例え部署を違えていても、世の中の動きを知るために自分たちの報道部門がどのようなニュースを流したか知っておくべきだろう。
またマスメディア全体の使命からしたら、いつ・どこで・何があったか、事実をただ伝えるだけではその使命は全うしたとは言えないはずである。全うしたとするなら、「権力の監視」の役目を担うことにもなる社説やコラムでミャンマー、その他の人権抑圧国家に対してその権性を批判したり非難したり、あるいは民主化を求める主張を展開する必要は生じないことになり、実際にはしていることと矛盾することになる。
いわば新聞・テレビはいつ・どこで・何があったか事実を伝える以上のことをして、初めてその使命を果たすことができる。
だが、上記マスコミ3社はミャンマー軍事政権が人気コメディアンを拘束した事実を記事にした以上のことをしていないようである。
では、何をすべきだったのか。予め3社の記事を引用しておく。
≪ミャンマー軍政、被災地支援活動のコメディアンを拘束≫(CNN/2008.06.06 Web posted at: 14:21 JST Updated - AP)
<ヤンゴン(AP) ミャンマー(ビルマ)でサイクロン被災地の支援活動に取り組んでいた人気コメディアンのザルガナル(本名・マウン・トゥラ)さん(46)が4日夜、ヤンゴン市内の自宅で軍事政権に拘束されたことが分かった。ザルガナルさんは今週、英BBCなど複数の外国メディアとのインタビューで、軍政に批判的な姿勢を示していた。
家族らによると、ザルガナルさんは最大被災地のイラワジ川下流地域に救援物資を届け、自宅に戻ったばかりだった。警察が自宅を捜索したうえで、本人を連行したという。
ザルナガルさんは最近、タイの情報誌「イラワジ」とのインタビューで、ミャンマー国内の芸能人ら400人以上とともに、被災者支援のボランティアとして活動していると語った。メンバーは現地訪問を繰り返し、被災者に食料や毛布、蚊帳などを配布。ザルナガルさんは「一部地域にはどこからも救援の手が届いていない」「現地で軍政側と対立することもある」などと話していた。
軍政は先月末、被災地への外国人の立ち入りを許可すると表明したが、その後も事実上、立ち入り制限は続いている。国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによれば、一部の被災地では住民が食料と引き換えに労働を強制されたり、軍政側が救援物資を差し押さえたりするケースが報告されている。
ザルガナルさんは、これまでも軍政への批判的言動で注目を集めてきた。不法な政治活動を行ったなどとして、88年以来少なくとも3回拘束されている。昨年9月には、反政府デモに参加した僧侶に食料を提供したとして、3週間拘束された。
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≪軍政、被災者支援の人気コメディアン拘束 ミャンマー≫(asahi.com/2008年06月05日20時21分)
<【バンコク=山本大輔】国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは5日、バンコクで会見し、ミャンマー(ビルマ)でサイクロンの被災者支援にあたっていた同国の国民的な人気コメディアンのザガナル氏が軍事政権に拘束されたと発表した。
ザガナル氏は5月7日から被災者への援助活動を始め、タイに拠点を置く情報誌を通じて「援助活動は全く行き届いていない」などと被災地の現状を報告していた。
アムネスティなどによると、ザガナル氏は4日夜、ヤンゴンの自宅で当局に拘束され、サイクロン被災地を映したCDなどが押収された。同氏は昨年9月にも反政府デモで僧侶らを激励したとして3週間拘束されている。
アムネスティは5日、ヤンゴンで被災者に食料を配っていた有名俳優のチョー・トゥ氏が、無許可の支援活動をやめるよう軍政関係者にナイフで脅かされ、一緒にいたカメラマンが拘束されたことも発表した。 >
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≪被災支援の喜劇俳優を拘束 ミャンマー軍政≫(Msn産経/2008.6.6 00:46 )
<ミャンマー軍事政権は4日、同国の人気男性喜劇俳優ザルガナールさんを拘束した。家族が5日、明らかにした。軍政は拘束の理由を示していないが、サイクロンの被害が大きかった地域で個人的に被災者支援活動を行い、その様子を映像に収めていたことを「個人の宣伝目的の支援」と判断した可能性が高い。
ザルガナールさんは軍政に批判的で、昨年9月に軍政が反政府デモを武力鎮圧した際、抗議行動に参加した僧侶に仲間の俳優らとともに食べ物や水を提供、3週間拘束されていた。(共同)>
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3社はサイクロン被災者救援の人道支援を行い、軍事政権の彼らに対する対応を批判し、昨年9月の反政府デモ僧侶を激励までしていた人気コメディアンのミャンマー軍事政権による拘束の事実を伝えた。繰返し言うことになるが、それだけで終わっている。
軍事政権はこの権行為に対して外国政府が何らメッセージを発しなかったなら、
何ら関心を払わなかったと看做し、結果的には軍事政権に対して無事遣り過ごさせ、見て見ぬ振りの免罪の機会を与えることになるだろう。このことは黙認と同じ経緯を踏むことにならないだろうか。
同じ権行為であるいじめに対して自らを傍観者の立場に置き見て見ぬふりをした場合、結果的には黙認したと同じ行為となるのと同列のことだからである。
外国政府が何らメッセージを発しないことによって生み出されることとなる黙認・免罪の付与は軍事政権の権行為の肯定、もしくは正当化につながっていくに違いない。担任教師がいじめに気づいていながら、いじめ生徒に対して何らメッセージを発せずに見て見ぬ振りをしたなら、いじめ生徒自身の中でいじめは正当化され、いじめ生徒はどのような制約も受けずにいじめを展開することが可能となる。と言うことは担任生徒は見て見ぬ振りをすることで間接的にいじめ生徒のいじめを正当化させたことになる。
外国政府が自ら何らメッセージを発しないということなら、ミャンマー軍事政権の権行為を正当化させないためにも記事を伝えたマスメディアが自らの使命としてメッセージを発せさせるべきで、そうすることもニュースを伝える者の使命ではないだろうか。記者会見でのマスメディアの側からの質問はそのことのためにもあるはずである。質問し、メッセージを発せさることで国民、あるいは質問対象の当事国政府に外国政府がどのような態度を示しているか、どのような考えを持ったか、あるいはどのような評価・判定を下したか直接知らしめ伝え、正当化させない制約(=ブレーキ)の役目を持たせる。
そこまでしなくてもいいというなら、発生した事実を記事にすることだけではなく、社説やコラムで批判したり非難したりすることは自分たちマスメディアの問題とのみ限定した活動となり、情報媒体としてのその社会性と矛盾することになる。
日本政府はミャンマー軍事政権の権行為に対して批判し、民主化要求までしているのである。福田首相は昨07年11月の東アジアサミットでミャンマーのテイン・セイン首相と会談しミャンマーの民主化の進展を直接的に求めている。
高村外相も同じ東アジアサミットでミャンマーの外相と会談し、同じく民主化要求を行い、他の様々な機会を把えて発しているメッセージを通して同じ要求を行っている。
町村官房長官にしても記者会見で「日本は随時申し上げているが、ミャンマーの民主化とか人権の状況、大変強い懸念をもっていることは外務大臣ベースでもお伝え申し上げているし、国際会議でそういうことは申し上げて、国連の場などでも申し上げているところでございます。したがって、今後、引き続きミャンマー政府に働きかけていく。その一環として、藪中外務審議官も行っているということでございますから、また、今後いろいろな国際機関などの場での議論も進んでいくであろうと思いますから、そうした結果を踏まえながら、強い措置を含めてさまざまな方策について考えたいと思います」(≪ミャンマーにカメラ返還確認求める 町村官房長官会見詳細)MSN産経/2007.10.1 11:39 )と同じ立場を示している
さらに言えば、昨年のミャンマー民主化要求デモに対する軍事政権の武力弾圧の際、取締り官憲が日本人映像ジャーナリスト長井健司氏を巻き込み銃撃死させている未解決問題も日本政府は解決する責任を負っている。
上記3社だけではなく、如何なるマスメディアもミャンマー軍事政権の人気コメディアン逮捕に関して福田首相や高村外相、さらに町村官房長官に記者会見の場を利用して質問し、軍事政権のそのような権行為に関して、民主化要求しているのだから当然批判することになる、あるいは遅々として進まない民主化に苛立って非難することになる何らかのメッセージを発せさせたという記事・ニュースに出会わないから、事実を記事で伝えた止まりで済ませてしまったのだろう。
このことは福田首相や高村外相、町村官房長官ら政府の人間をミャンマー軍事政権の権行為に対して結果として傍観者の立場に立つことを許し、福田や高村、町村をしてミャンマー軍事政権に見て見ぬ振りの免罪の機会を与えたことになるばかりか、マスメディア自身も権行為の事実を記事で伝えたものの、そのことに対する日本政府要人のメッセージを引き出さなかったことによって、例え社説やコラム、その他でそのことを批判したり非難したりしたとしても、日本政府の傍観を許し、見て見ぬ振りの免罪の機会を与え、結果的に黙認させたことに変わりはなく、その点で自分で自分たちをミャンマー軍事政権の権行為に対する傍観の共助者、あるいは共犯者に仕立てたことにならないだろうか。情報媒体としてのその社会性を一部欠いたことになる。
社説やコラムで人気コメディアンの不当な拘束を批判したり非難したりして自らのみを傍観者に立たしめない部分的完結で済ますのではなく、何よりも福田や高村、町村といった政府要人を傍観者で終わらせない非傍観の普遍化を心がけることも、このことは国民に対しても言えることだが、自らが社会的使命としている情報伝達と権力の監視(監視は内外の権力にまで範囲を広げているはずである)、あるいは世論の喚起に添うことになるはずである。
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