新聞報道に基づいた質問を「拙劣」とするのは仙谷官房長官の危機管理無能力の隠蔽

2010-10-19 09:45:44 | Weblog

 10月14日の参議院予算委員会の質疑で自民党の山本一太議員の新聞記事を基に書いてあることは事実かと問い質す質問方法を把えて仙谷官房長官が「拙劣」だと答弁したことが問題となっている。その場面を動画見て、「拙劣」云々の問題でなく、仙谷官房長官自身の危機管理能力欠如を、質問を「拙劣」だとすることで質問者の能力の問題にすり替えて誤魔化す狡猾な自己正当化の強弁を嗅ぎ取った。

 官房長官にこの発言をさせた発端は山本一太の新聞記事に基づいた質問に対する菅首相の答弁だった。

 山本「おとといの衆議院の委員会で石原幹事長が言及した共同新聞の記事があります。これ、船長逮捕の報告が遅れたことに対して、総理は官邸に集まった秘書官を前に、俺は逮捕6時間も知らなかったから、野党から攻められると怒鳴ったと。それで、答弁書を修正したと。これ記事にありますけども、総理、これは事実無根なんでしょうか」

 菅首相は石原幹事長に、「修正と言うのは何か発表して、それを変えることを修正と言う」とこじつけた、あるいはイチャモンをつけたのとほぼ同じく、「私が何を修正したのか、何をどう修正したの言ってくれないと、きちっと答えることができない」と、事実か事実無根かの確認を修正問題にすり替えた。このことで既に怒鳴ったのは答弁できない事実であると証明したも同然だが、元々合理的認識能力が未成熟にできているから、自分の今の発言が間接的事実認定になるとは気づかない。

 山本一太の方は気づいて、さらに追及する。

 山本「この記事は読まれておりますよね。共同通信の記事は読まれているのですか」

 菅首相「ご存知のように共同通信は色んなところに配信している。共同通信の元々のニュースは私も読んでおります」

 山本「総理が逮捕を6時間も知らなかったということはこの記事の中でも書いてある。事実は総理は逮捕を6時間も知らなかったと。野党から攻められると、怒鳴ったと。これは事実でしょうか」

 菅首相「事実関係を申し上げた方がいいと思いますんで、私の方からも申し上げたいと思います。先ず逮捕の方針が伝えられたのは、事件がありました9月7日の18時15分頃、福山副長官から報告を受けました。そして翌朝の午前0時56分、逮捕状が発布され、午前2時3分に逮捕状が執行された。

 それが事実関係であります。私には明けた午前8時に逮捕状が執行されたということを、秘書官から報告を受けました」

 山本「私がお聞きしているのは、この記事の中にある船長逮捕の報告が遅れたことに対して総理が官邸に集まった秘書官を前に俺が逮捕を6時間も知らなかったから、俺が野党から攻められるんじゃないかと、怒鳴ったという記述があるんです。

 これ、総理、事実なんですか。事実じゃなければ、事実じゃないと言ってください」

 菅首相「私は、今報告しましたように、逮捕の方針を聞いたのは9月7日の18時15分、であります。また逮捕状は請求されていませんが、今から逮捕状を請求して、逮捕するというのは、既にその方針として聞いておりますから、別にそのことが執行されて、翌朝執行されたことを聞いたからといって、別に全く不思議はありませんし、それに対して私が異を唱えることも、全く必要でありませんから、そんなことに、ような唱えるはずはありません」

 何度聞き直しても、「怒鳴るはずはありません」ではなく、「唱えるはずはありません」に聞こえた。「怒鳴るはずはありません」と言うつもりでいたのが、事実ではないから、「そんなことに、ような」といった意味が通じない発言となったのだろう。

 山本にしても「怒鳴るはずはありません」と聞こえなかったから、再度聞くことになったのだろう。
 
 山本「簡単にしてください。総理が秘書官等を集めてですね、俺が6時間も知っていなかったら困るだろうと、怒鳴ったというのは全くのガセネタなんですね。それだけ総理、言っていただければいいんです。事実じゃないって」

 菅首相「今後のこともありますから、一言だけ申し上げますが、やはり新聞記事がどの程度正確であるかどうか、みなさんも色々な機会に、えー、実感されていると思うんです。ですから、せめて、このですね、予算委員会では、単なる伝聞とかここにこう書いてあるからじゃなくて、もうちょっとですね、山本さん本人が、確かだと思わせるような、(山本、席から何か言う)確かだと思うような、根拠を持ってですね、えー、質問された方が、いいのではないかと思います。

 私は別に、時折イラ菅などと言われておりますから、私の普通の言葉をどう受け止められるか知りませんが、私の気持として、怒鳴った覚えなどありませんし」

 周囲の印象の問題にすり替えた答弁に過ぎないが、事実かどうか問われただけのことに対してこうもあれこれとこじつけた答弁に終始する一国の総理大臣の煮え切らない威厳のない姿からはリーダーシップという力強い意志の力を感じることはできない。

 山本「総理、ここの書いてあることに全く事実無根だと、総理、言っていただければいいんですよ。今の総理の何かモゴモゴした、よく分からないことを聞いたら、ああやっぱり、事実なんだって、みんなもそう思いますよ。総理もう一回言ってください。事実無根なんですね。それだけで結構ですから、事実見無根なんですね」

 菅首相「あの、山本議員ですね。私もたくさん質問をしておりますのでよく分かりますけど、つまり、山本さんが、それが事実だというんであれば、根拠を示してください。それから、(ヤジに)逃げているんじゃなく、・・・。

 そしてそれがどういう問題であるのかですね、それも指摘してみてください。先程申し上げていますが、前の日の夕方の18時15分頃、その報告を、逮捕するという報告を、方針の報告を受けて、そしてその(翌日の)8時に話を聞きましたと。

 その間(かん)で私は自覚的にですよ、怒鳴ったとか、何とかという事実はありませんということを申し上げたんですから、それ以上何を私に言わせたいんですか」

 山本は記事が示している事実を根拠に記事どおりの実体を備えた事実かどうかの確認を求めているのであって、事実の根拠は菅首相かそこに集まったという秘書官の証言に頼るしかない。新聞にしても、その記事が事実なら、秘書官か、秘書官を介した誰かの証言を根拠にしているはずだ。

 山本「事実じゃないって言っていただければ、総理、別にいいんですよ。それを言わないで、モゴモゴ言うから、全部本当だって、みんな思うっていうことですよ。あのね、新聞記事が本当だなんて思っていません。だけど、そういう話が出ているから、事実かって聞いているだけなんですよ、おかしいじゃないですか。

 分かりました。それは総理が事実じゃない、事実無根だとおっしゃっています。これ相当内部の方から出ていますからね、勿論100%ガセネタだと、この委員会の場所で言っていただきました」

 山本一太の「新聞記事が本当だなんて思っていません」も問題発言だが、本当でないなら、「モゴモゴ言うから、全部本当だって、みんな思う」の発言とも矛盾することになる。

 どちらにしても、事実無根と直截に答えた場合の後で持ち上がるかもしれない問題を恐れて、何とかこじつけて言い逃れようとしたが、逆に山本の事実かどうかの直截な質問に逃れる術を失いながら、なお往生際悪く事実の根拠を示してくれと的外れな要求で言い逃れの藁に縋ったといったところなのだろう。

 言い逃れに言い逃れを重ねる姿には毅然とした要素は期待しようがない。

 山本は尖閣関連の他の質問に切り替えるが、以上の遣り取りが「拙劣」の前哨戦となっていたはずだ。多分、満足に切り抜けることができない首相に影の首相としてイライラしていたに違いない。俺が表に出ないとダメかと。

 山本「この尖閣を巡る事件の真っ只中に(フジタの)4人が拘束されたわけですよ。それについて官房長官、最初の記者会見で、何かね、この4人の拘束はね、多分、尖閣とは関係ないんだと、そういうことをおっしゃいましたよね。何でそういうことを言うんですか。例えばこの事件で中国が4名を拘束したんだったら、そういう、これは報復措置の可能性もあるって言わないんです?それは」

 仙谷「エー先程から山本さんのご質問を聞いておりますと、何か、新聞記事のある部分は、ある部分は、それを前提にして質問をされていらっしゃるんだけれども――」

 山本(席から)「確認をしている」

 仙谷「新聞記事を確認する質問なんて、私聞いたことがないし――」

 山本(席から)「そんなことありませんよ」

 仙谷「いや、いや、こういう事実があるかどうかは質問としてあり得てもですね、その新聞記事が本当かどうかなんていう国会質問は聞いたことがない。いいですか――」

 山本(何か叫んでいる。)

 仙谷「それで、いいですか、いいですか。そこで、そこで(ヤジで何度も繰返す)、新聞記事の中でも、例えば官房長官という職責ですから、記者会見で私が述べたことは当然、それは前提にしてお聞きいただいてもて結構でございます。そこで、そこで、(ヤジを抑えるように殆んど怒鳴る)そこで、フジタ事件の関連についても、私は記者会見で随時中国の、このフジタの社員の拘束と言いましょうか、軟禁と言いましょうか、これについては終始疑問を呈し、外交当局から抗議や、あるいは解決、解放の申し入れしているということも述べてきております。何も言わなかったわけではありません。

 ただ、ただ、事実が分からないもんですから、つまりどのような容疑で、どのような手続きに従って彼らがどこで何をしていて、どうしてこういう事態になったのかという、事実が分からないわけですから、それを山本議員のように報復であるとか何とか、そういう評価が、できないと、できなかったと。

 つまり事実関係を押さえない限りですね、それは評価というのはできない。軽々とそんな評価はできない、そういう前提で発言をしていたわけであります」

 菅首相の先程の「モゴモゴ」の往生際悪い言い逃れと同じ文脈となっている。あらゆる場合を想定して、「今回の尖閣問題と関連があるかどうか調査中です」と記者会見で答えるべきで、最も重要な初動段階で尖閣と切り離して把握するような発言をしていたとしたら、あらゆる場合を想定することを忘れた危機管理の問題となる。

 また、「外交当局から抗議や、あるいは解決、解放の申し入れ」は後続段階での対応――殆んど謂われなき逮捕という事実が判明し出してからの後付の対応であったはずだ。

 山本「あのね、官房長官、じゃあ、事実が分からないんだったら、事実が分からないって言えばいいじゃないですか。何で一報が入ってきたときに、関係ないだろうって言うんですか。おかしいですよ。今言っていることと矛盾していますよ」

 仙谷「私の記者会見を、記者会見を確認して、えー、ご発言していただいた方がいいと思うんですが、私はそのような発言を記者会見、あるいは公的に申し上げたことはありません。事実が分からないとか、ことを前提にして、お話をしていると思います」

 山本「官房長官、その前のご発言、新聞記事の事実をかざして、これを事実なのかということを聞いた答弁は、聞いた質問に今までないとおっしゃいました。それは民主党が野党時代だって週刊誌の記事とか、新聞の記事を持ってきて、例えば閣僚に対して、総理に対して、こういう記事がありますけれども、これは事実なんですかって言ったことはありますよ。一回もないって、それ事実誤認ですよね。これ間違ったら、官房長官、辞めてくださいよね」

 山本一太の発言は短いから時間を取らないし、キーを叩く面倒も短くて済むし、助かる。

 仙谷「あの、言い方変です。あの、(ヤジに対して)座席でそういうあんまり激した発言をすると、発言できませんけれども、こういう事実がありますかと、書かれている事実を前提に、こういう事実がありますかという聞き方は、聞き方はある。ただ、速記録をめくっていただいたら分かるけども、この新聞の報道は事実ですかという聞き方を、山本さんが数回されたもんですから、その種の聞き方は、私は1年生議員のときから、先輩から教えられたのは、最も、最も、(ヤジと張り合うように声を大きくし)最も拙劣な質問方法で、それだけはやらないようにと教育を受けてきたから、先程申し上げたんです」

 山本「あのね、今の本当に失礼ですよ。官房長官、そんなこと聞いていません。ね、一度もそういう質問なかったって言ったんですから、――」

 多分野党議員だろ、かなりの数が委員長席を囲み、何か抗議。6、7分程して再開。

 委員長「仙谷官房長官の発言中に不適切な言辞(「ゲンリ」と聞こえたが、)があるとご指摘がありました。『拙劣』という発言は速記録から抹消いたします。委員長といたしましては、後刻理事会に於いて速記録を精査の上、適切な処置を取ることといたします。続けてください」

 山本「今、最も拙劣な手法と言ったことに官房長官、謝ってください」

 仙谷「えー、私が申し上げたのは、そういうふうに先輩から教えられてきたということでございます。が、そのことが、不穏当であったとすれば、謝罪をいたします。申し訳ありませんでした」

 中途半端に頭を下げて席に戻る。山本一太は菅・温家宝の日中首脳会談ならぬ、日中「立ち話」の質問に移る。

 「拙劣」であるかどうかの問題では決してない。

 「書かれている事実を前提に、こういう事実がありますかという聞き方」は許されて、「この新聞の報道は事実ですかという聞き方」は「拙劣」で許されないとする。だが、両者はどう違うというのだろうか。

 「新聞の報道」と言うとき、記事に「書かれている事実」を指しているのであって、その「事実を前提」にしているのだかから、「こういう事実がありますかと」と聞くのと、「事実ですかと」と聞くのとでは何ら違いはないはずだ。 

 要するに自身の危機管理能力の失態・無能力を逆に質問者の質問にケチをつける強弁、こじつけで隠蔽し、言い逃れたに過ぎない。

 菅首相にしても仙谷官房長官にしても、こうも卑劣であると同時に、誰が聞いても強弁、ウソと分かる「拙劣」な言い逃れで事実を事実とすることから回避するようでは国民は信用できない首相であり、信用できない官房長官と看做さざるを得なくなる。既に二人とも、“オオカミ首相”、“オオカミ官房長官”に成り果てているのではないのか。

 最後に中国人船長の釈放を伝える中でフジタ社員拘束時の仙谷官房長官発言を取り上げている9月24日付「YOMIURI ONLINE」記事――《検察判断で釈放決定、政府は追認…官房長官》を引用しておく。

 仙谷「結びつけるのは強引過ぎる」

 官房長官が自ら証言している「私はそのような発言を記者会見、あるいは公的に申し上げたことはありません」は裁判で言えば明らかに偽証罪に当たる発言となる。

 初動段階で尖閣とは関係なしの危機管理となっている。菅首相が温家宝首相との25分間の「立ち話」でフジタ社員の釈放に何ら言及しなかった危機管理意識と対応した仙谷官房長官のお粗末な危機管理意識とも言える。

 菅総理及び仙谷官房長官のこの欠格は、国民の生命・財産を守るという責任と義務の点のみならず、中国漁船衝突事件全般に関わる危機管理の点でも、政府を担う資格がないことを示唆している。

 そして釈放について、仙谷官房長官は、「粛々と国内法に基づいて手続きを進めた結果だ」と発言したことを記事は伝えている。

 多くがウソで固めたと分かる答弁の中で、「粛々と国内法に基づいて手続きを進めた結果だ」だけを事実だと誰が受け止めるだろうか。


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