――金正恩はそれをカードに自らの独裁体制を生かし続けるだろう――
国連安保理は3月2日午前(日本時間3月3日未明)、北朝鮮のこれまでの国連決議違反となる核実験や長距離弾道ミサイル発射に対する5回目となる北朝鮮制裁決議を全会一致で採択した。
今回の5回目の制裁決議採択は今までの4回の制裁決議がほぼ無効であったことの証明でしかない。5回目も同じことの繰返しにならないためにだろう、今回は前例のない最も厳しい内容となったという。
安倍晋三はこの厳しさに満足したのか3月3日、「全会一致採択を高く評価し、国際社会の北朝鮮に対する断固たる姿勢を示すものである。その実効性を確保するため、関係国と協力し、毅然として対応していく」との趣旨のコメントを発表した。
これまでの4回のように同じ繰返しとならずに今回こそ北朝鮮を追い詰めることができると信じているようだ。「実効性を確保するために毅然として対応していく」ということは実効性確保の可能性を信じているからであり、確保できなければ、自らの行動力の不足を露呈し、「毅然」をウソにすることになる。
だが、実効性の確保は第一番に北朝鮮の貿易額の約90%を占めている中国がカギを握っていると誰もが言っているし誰もがそう見ている。安倍晋三がカギを握っているわけではない。中国が如何に各制裁を決議通りに忠実に実行するかにかかっているし、日米韓などの外国が中国に対して如何にそのように仕向けることができるかに全てがかかっている。
中国が北朝鮮の意向を無視して自律的に決議通りの制裁を実行していくなら何も問題はないが、北朝鮮が以後6カ国協議にも応じない、韓国への軍事的恫喝もやめない、ミサイル発射も続けるようなら、制裁からの経済的困窮に何ら追い詰められていないことになって、制裁に漏れが出ている何よりの証拠となり、中国を先ず疑わなければならない。
そのようなとき、中国と柔軟な外交関係を築くことができていない安倍政権は中国に対して決議通りの制裁を実行しているのか単刀直入に聞くことができる関係にあるのだろうか。
北朝鮮の1月6日の核実験に対する安保理制裁決議のためにアメリカのケリー国務長官は1月27日中国を訪問、北京で王毅外相と会談して安保理制裁決議について話し合い、2月7日の長距離弾道ミサイル発射後の2月12日にはドイツ・ミュンヘンで開催の安全保障会議出席の際、再び制裁決議を話し合うために王毅外相と会談、2月23日にはアメリカ訪問中の王毅外相とワシントンの国務省で会談、同じく制裁決議について話し合っている。
オバマ大統領も習近平国家主席側からのものだが、同じ問題で2月5日電話会談している。
一方、我が日本の外務大臣岸田文雄は1月の北朝鮮の核実験以降、中国の王毅外相との電話会談を要請していたが、「多忙」を理由に一度も応じて貰っていないという。いわば安保理を舞台とする以外では蚊帳の外に置かれている。
日本の首相安倍晋三に至っては北朝鮮の軍事的危険性を言い募っても、その積極的平和主義外交は中国には何ら通じない。
米中がいくら対立していても、外交関係は柔軟に維持している。北朝鮮に対する制裁実効性のカギを握っている中国と柔軟な外交関係を築くことができていないにも関わらず厳しい制裁内容だけを以てして「実効性確保に関係国と協力し、毅然として対応していく」と言うことができる。
いつもの大口にしか見えない。
各マスコミ記事が纏めた制裁内容は次のとおりになるそうだ。
●北朝鮮へのロケット用燃料を含む航空燃料の提供と輸出禁止。但し北朝鮮民間機への海外での燃料販売と供給は認める例外規定が盛り込まれた。
北朝鮮民間機が海外に飛行する際、目的地まで必要とする燃料のギリギリの量で飛んで燃料タンクをほぼ空っぽにし、そこで満タンの燃料を補給して、北朝鮮に戻ってきて、次に飛ぶ海外までの燃料を残した余分を軍へ提供するということはないだろうか。
それを繰返して、軍の燃料を蓄積していく。
●北朝鮮からの金・チタニウム・石炭・鉄鉱石等の鉱物資源の輸入制限。
●違法行為に関与する北朝鮮外交官の追放の義務化。
●12団体と16人に対する渡航禁止や資産凍結の制裁対象リストへの追加。
●贅沢品リストへの高級時計や2千ドル(22万8千円相当)以上のスノーモービルの追加。
●航空燃料の輸出禁止や不正に関わった北朝鮮外交官の追放等々――
中国外務省の洪磊報道官が3月3日午後の定例記者会見で安保理制裁決議全会一致採択を受けて次のように発言している。
洪磊報道官「中国は一貫して国際社会の責務を果たしてきたし、今回も例外ではない。(但し)北朝鮮の人々の暮らしや人道支援に対する影響は、できるだけ避けるべきだ」(NHK NEWS WEB)
制裁の実効性は既にこの発言の中に隠されている。
対北朝鮮制裁に関して「中国は一貫して国際社会の責務を果たしてきた」
前回までの制裁が核開発とその実験、ミサイル開発とその実験を阻止するために開発や実験に資する国連加盟国に於ける北朝鮮関連の資金や金融資産の凍結、経済資源の移動の禁止等を決議していながら、開発や実験を阻止できなかった。
いずれかの国が「国際社会の責務」を果たしていなかったからであるし、北朝鮮の貿易額の約90%を占め、2014年にはそのうち輸入全体の48%にのぼる地下資源大国北朝鮮の石炭1546万トン、鉄鉱石283万トン、合計13億6000万ドル(日本円約1500億円)を輸入し(NHK時論公論)、2014年と2015年2年連続で対北朝鮮石油輸出ゼロの統計を発表しているが、韓国統一省が「例年通り年間50万トンに達する水準で原油支援が行われている」と見ていることと北朝鮮経済が支障を来す程には原油不足の徴候が見られない(産経ニュース)ことから、抜け道を用意していた中国の「国際社会の責務」だと見られても仕方がない。
そして「今回も例外ではない」と言っているのだから、「果たしてきた」としている「国際社会の責務」は従来通りの抜け道ある責務だと既に宣言してようなものである。そしてその根拠を「北朝鮮の人々の暮らしや人道支援に対する影響は、できるだけ避けるべきだ」に置いている。
北朝鮮国民の暮らしや人道支援をカードとすれば、北朝鮮からの金・チタニウム・石炭・鉄鉱石等の鉱物資源の輸入は続けることができることになる。
当然、金正恩にしても、同じカードを逆手に取って、自らの体制を生かし続けることになるはずだ。
国連安保理で制裁決議が全会一致で採択されるや否や、制裁実効性のカギを握る中国は自らが実施する「国際社会の責務」の程度を明らかにした。
勿論、安倍晋三は自らの関係国と協力した毅然とした対応によって制裁の抜け道を塞ぐことはできる。積極的平和主義外交の見せ所ではあるが、中国と柔軟な外交関係を築くことができていない安倍晋三に積極的平和主義外交の出番はあるだろうか。肝心な見せ場では何もできないで積極的平和主義外交である。出番があるようには到底思えない。