8月10日(08年)のNHK「日曜討論」で展開した太田農水相「消費者がやかましい」発言が「消費者を蔑ろにする発言だ」と批判を受けている。
8月10日の「47NEWS」≪太田農相の発言要旨 日本の消費者やかましい≫がその「発言要旨」を伝えている。
<太田誠一農相の10日の「食の安全」に関する発言要旨は次の通り。
評論家のようなことを言うようだが、社会主義の国と日本のような民主主義の国は違う。消費者としての国民がやかましくいろいろ言うと、それに応えざるを得ない。中国のように、基本的には何も教えなくてよい、まずいことがあっても隠しておいてよい、消費者のことを考えないでもよいという国とは違い、常にプレッシャーにさらされている。特に日本の場合は潔癖だから、基本的に私は食の安全というのは国内は心配しなくてもよいと思っている。ただこの数年間、トレーサビリティー(生産履歴)やHACCP(総合衛生管理製造過程)の仕組みがだんだん定着してきたので、それを進めていきたい。食の安全については、今でも日本は安心なんだけれど、消費者や国民がやかましいから、さらに徹底してやっていく。>・・・・・・・
大田農水相の弁明
「(日本は)民主主義の国だから(国民が)きちんと主張できて、それに政府が応えるという仕組みのことを言っている。文脈をみてほしい」
「わざわざ(やかましいという言葉を)使ったわけではなく、1つの弾みだ」 (47NEWS/2008/08/10 20:59 【共同通信】)
「自由主義社会は消費者主権。消費者が堂々と権利を主張し、安全性についてものを言っていける社会。それは良いことだと言っている」
「やかましい」と言ったことに対して、「健全に、正当に自らの権利を主張しているということを言っている」(同47NEWS)
適切な表現かの問いに、「一人一人の(受け止め方の)ニュアンスだと思う」 (47NEWS/2008/08/11)
「意識の高まりがあると言ったの。そういう意味です。意識が高まっているから、あの、消費者がですね、正当に、えー、安全性を要求する時代になっている、と言ったんです」(08.8.12/TBS「みのもんたの朝ズバッ」)
(10日のNHK番組出演後)「言葉尻をとらえず、前後の文脈を見てほしい。それは揚げ足取りだ」
(15日の閣議後記者会見)「既に(メディアの)質問には答えているので、それに付け加えることはない。生番組で報道されていることで、それが事柄のすべて。あえて付け加えることも、差し引くこともない」(時事通信/2008/08/15-11:58)
福田首相「消費者がやかましいなんて言うんでしたらね、やっぱり適切な言葉ではないと思いますよ。そこんところをよく見てみないと分からない」
野田聖子・消費者行政相「意識を高めていただきたいと思います。誤解がないように、きちっと取り組んでいただきたいと思います」
(08.8.12/TBS「みのもんたの朝ズバッ」)
福田首相「日本の消費者は世界的にみても厳しい選択眼を持っている。そのことが良い製品を作る原動力になっているのではないか」
(「毎日jp」2008年8月12日)
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「消費者としての国民がやかましくいろいろ言うと、それに応えざるを得ない」――この言葉は子の親に対するよくある要求の言葉に変えてみると理解できる。
「子供がディズニーランドへ連れてってくれ、連れてってくれとやかましく言うと、仕事が忙しくて連れていく暇なんかないけど、一度は連れていかざるを得ない」
大田農水相が言っている消費者と政治の関係にしても後者の子供と親の関係にしても、消費者、あるいは子供がやかましく言うことで要求が実現する呼応性にある。裏返すと、やかましく言わないと、実現しない呼応関係となる。
やかましく言うことで実現する、あるいはやかましく言わないと実現しない状況とはやかましく言うまで放っておかれる状況にあることをも意味するはずである。
そして今の日本の国民、今の日本の消費者が「やかましく」言える、あるいは「健全に、正当に自らの権利を主張」できる条件(=やかましく言うことで要求が実現する条件)は問題発言からも弁明発言からも窺うことができるように、日本が「民主主義の国だから」であり、「自由主義社会は消費者主権」だからということに置いている。
いわば国と国民(=消費者)の関係性を太田誠一なる政治家の中でそのように決定づけさせている条件(判断根拠)とは、子供にディズニーランド見学をせがまれた父親がやかましく言うまで放っておいた事情(判断根拠)が仕事の忙しさであったこと(=仕事優先であったこと)に対して、日本が中国とは違って社会主義国ではないこと、民主主義国家であること、そう看做しているということであり、その証明はNHK「日曜討論」の発言からも具体的に説明できる。
改めて「47NEWS」が伝えていた大田農水相の発言要旨の冒頭部分。
「社会主義の国と日本のような民主主義の国は違う。消費者としての国民がやかましくいろいろ言うと、それに応えざるを得ない。中国のように、基本的には何も教えなくてよい、まずいことがあっても隠しておいてよい、消費者のことを考えないでもよいという国とは違い、常にプレッシャーにさらされている。」――――
「中国のように、基本的には何も教えなくてよい、まずいことがあっても隠しておいてよい、消費者のことを考えないでもよいという国とは違い」とは、日本が中国と同じような国であったなら、「基本的には何も教えなくてよい、まずいことがあっても隠しておいてよい、消費者のことを考えないでもよい」ことになるが、「社会主義の国と日本のような民主主義の国は違う」ために「消費者としての国民がやかましくいろいろ言うと、それに応えざるを得ない」ということで、明らかに日本が民主主義国家であることを条件として、国民・消費者に対して自らの政治姿勢を決定している。
これは国家体制を条件とした状況主義を意味しないだろうか。
日本が中国と同じような国であったなら、「基本的には何も教えなくてよい、まずいことがあっても隠しておいてよい、消費者のことを考えないでもよい」と間接的に受け取ることができる物言いは国家優先の政治姿勢を示す言葉であろう。
当然のこととして、日本が現在の中国以上に全体主義的であった戦前のような軍国主義国家を条件としていたなら、国民は国の発展のためにのみ生かされる最悪の状態に置かれることになる。
国家優先の政治姿勢とは国民無視の政治姿勢なのは断るまでもないからだ。
太田誠一なる政治家が国家優先・国民無視を本質的な血としているからこそ、昨日の終戦記念日に靖国神社に率先参拝することになったのだろう。「国のために犠牲になられた方々」とは言うものの、国家優先を目的として犠牲を強いた「国民無視」の歴史的側面を忘れてはいけない。
福田首相の「国民目線」とは国民が何を望んでいるのか、国民の政治に対するニーズに目を向け、そのニーズに応えていく国民の要求に対する自発性を持たせた政治を言うはずである。
大体が福田首相の「国民目線」は安倍前首相の国家優先・国民無視の政治姿勢が誘発した「国民目線」を欠いた政治姿勢が国民の反発を買って参院選敗北の原因となり、その反省に立った、それを補う後付のスローガンなのだが、内閣一体となって、あるいは内閣と党一体となって「国民目線」政治を成果とすべく鋭意邁進するならまだしも、その内閣の一員たる大田農水相が日本が民主主義国家であることを条件としてのみの「国民目線」政治ということなら、国民に対して一歩も二歩も距離を置いた状況主義の犯罪を犯すもので、福田内閣の「国民目線」政治の綻び、あるいは「国民目線」内閣の不一致を示すこととなり、このことは任命権者たる福田首相の監督不行き届き、あるいは指導力不足を示す重大事態ではないだろうか。
ということなら、福田首相は、野田聖子にしても似たり寄ったりだが、「適切な言葉ではないと思いますよ」とか、「日本の消費者は世界的にみても厳しい選択眼を持っている。そのことが良い製品を作る原動力になっているのではないか」とかの問題として済ますわけにはいかないはずで、自身の指導力、任命責任に置き換えて把えるべき問題ではないだろうか。
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