安倍晋三自身は英国の対EU離脱を世界経済のリスクとして想定していなかったのではないか

2016-06-27 10:14:36 | Weblog

 5月27日(2016年)外務省公表の「G7伊勢志摩首脳宣言」は伊勢志摩首脳会議(G7)で討議されたイギリスがEUから離脱した場合の世界経済に与える影響について述べている。   

 〈世界経済の回復は続いているが,成長は引き続き緩やかでばらつきがあり,また,前回の会合以降,世界経済の見通しに対する下方リスクが高まってきている。近年,世界的な貿易のパフォーマンスは,期待外れの状況にある。弱い需要及び未対応の構造的な問題が,実際の及び潜在的な成長に負荷を与えている主な要因である。非経済的な由来による潜在的なショックが存在する。

 英国のEU からの離脱は,より大きな国際貿易及び投資に向けた傾向並びにこれらが生み出す雇用を反転することになり,成長に向けた更なる深刻なリスクである。

 悪化した地政学的な紛争,テロ及び難民の動きは,世界の経済環境を複雑にする要因である。我々は,新たな危機に陥ることを回避するため,経済の強じん性を強化してきているところ,この目的のため,適時に全ての政策対応を行うことにより,現在の経済状況に対応するための努力を強化することにコミットする。〉――

 触れているのは1行に過ぎないが、離脱の可能性と可能性が現実化した場合のリスクの深刻さに触れている。

 但し前者はイギリス国民が決めることであり、イギリス国民が離脱を決めた場合の考え得る世界経済規模のリスク対処はḠ7各国首脳が決めることになる。

 「イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票」は6月23日(2016年)に実施され、即日開票の結果、離脱派が約52%、残留派が約48%となり、離脱が決定した。

 6月26日日曜日NHK「参院選特集 政策を問う」

 中川緑アナウンサーがイギリスのEU離脱を受けて日本の株が急激に値下がりし、円が急騰したことを説明した。

 太田真嗣司会者「今回のイギリスのEU離脱をどう捉えるか。そのうえで日本としてどのような対策を、あるいは政策をどう進めていくのか」

 稲田朋美「今回のEU離脱、まさしく伊勢志摩サミットG7で総理が提言されで最終合意に至った、まあ、このEU離脱による世界経済の成長を阻害するリスクということが現実化したと思います。

 投機的な激しい円高、株価の下落等々ですね、しっかりと見極めた上で、総理も閣僚会議を開かれて、指示をされておりますけれども、必要とあれば政府は躊躇なく大胆な政策を、対策をしていくべきだと思っておりますし、党として緊急特別本部を私を本部長として立ち上げました。

 政府と連絡しつつ、今回の事態が日本経済に与える影響をしっかりと見極め、必要があれば、対策を打っていくべきだと思っています」

 安倍晋三と同類、国家主義者稲田朋美は言っている。安倍晋三が伊勢志摩サミットで提言して最終合意に至ったイギリスのEUからの離脱の可能性と離脱した場合は世界経済の成長を阻害するリスクとなり得るとしたことが現実化したと。

 と言うことは、「G7伊勢志摩首脳宣言」に書いてある〈英国のEU からの離脱は,より大きな国際貿易及び投資に向けた傾向並びにこれらが生み出す雇用を反転することになり,成長に向けた更なる深刻なリスクである。〉としている懸念は安倍晋三が提言して最終合意に至った文言ということになる。

 そもそもの提言は本家本元のイギリスからではなかったということである。

 安倍晋三は至って先見の明があったことになる。

 つまり安倍晋三はイギリス国民が国民投票でEUからの離脱を選択する可能性とその可能性が現実化した場合の世界経済に与えるリスクを頭に入れていて、世界経済の下振れリスク要因の一つになると想定していた。

 当然、このことは安倍晋三が日本と世界の経済の成長について言及するとき、「EU離脱」は重要なキーワードの一つとして占めることになる。

 安倍晋三は伊勢志摩首脳国会議(G7)後に議長国としての「記者会見」(首相官邸/2016年5月27日)を開いている。

 安倍晋三「今世紀に入り、世界経済を牽引してきたのは、成長の活力あふれる新興国経済です。リーマンショックによる経済危機が世界を覆っていた時も、景気回復をリードしたのは、堅調な新興国の成長。いわば、世界経済の『機関車』でありました。しかし、その新興国経済が、この1年程で、急速に減速している現実があります。

 原油を始め、鉄などの素材、農産品も含めた商品価格が、1年余りで、5割以上、下落しました。これは、リーマンショック時の下落幅に匹敵し、資源国を始め、農業や素材産業に依存している新興国の経済に、大きな打撃を与えています。

 成長の糧である投資も、減少しています。昨年、新興国における投資の伸び率は、リーマンショックの時よりも低い水準にまで落ち込みました。新興国への資金流入がマイナスとなったのも、リーマンショック後、初めての出来事であります。

 さらに、中国における過剰設備や不良債権の拡大など、新興国では構造的な課題への「対応の遅れ」が指摘されており、状況の更なる悪化も懸念されています。

 こうした事情を背景に、世界経済の成長率は昨年、リーマンショック以来、最低を記録しました。今年の見通しも、どんどん下方修正されています。

 先進国経済は、ここ数年、慢性的な需要不足によって、デフレ圧力に苦しんできましたが、これに、新興国の経済の減速が重なったことで、世界的に需要が、大きく低迷しています。

 最も懸念されることは、世界経済の『収縮』であります。

 世界の貿易額は、2014年後半から下落に転じ、20%近く減少。リーマンショック以来の落ち込みです。中国の輸入額は、昨年14%減りましたが、今年に入っても、更に12%減少しており、世界的な需要の低迷が長期化するリスクをはらんでいます。

 現状をただ『悲観』していても、問題は解決しません。私が議長として、今回のサミットで、最も時間を割いて経済問題を議論したのは、『悲観』するためではありません。

 しかし、私たちは、今そこにある『リスク』を客観的に正しく認識しなければならない。リスクの認識を共有しなければ、共に力を合わせて問題を解決することはできません。

 ここで、もし対応を誤れば、世界経済が、通常の景気循環を超えて『危機』に陥る、大きなリスクに直面している。私たちG7は、その認識を共有し、強い危機感を共有しました」――

 世界経済の下振れリスク要因として新興国経済の減速と中国経済の減速を挙げているのみで、イギリスのEUからの離脱か残留かを問う国民投票についても、離脱を選択した場合の世界経済への悪影響についても一言も触れていない。

 とすると、「私たちは、今そこにある『リスク』を客観的に正しく認識しなければならない」と言っているものの、客観的に認識していたのは新興国経済の減速と中国経済の減速のみで、イギリスの対EU離脱の可能性と可能性が現実化した場合の世界経済に与えるリスクは客観的に認識していなかったことになる。

 認識していたなら、当然言及していたはずだ。

 6月1日(2016年)の通常国会閉幕に合わせて開いた「記者会見」でも、宣言した消費税増税の再延期の理由として伊勢志摩サミットで合意したとしている世界経済の減速を挙げている。

 安倍晋三「世界経済は、この1年余りの間に想像を超えるスピードで変化し、不透明感を増しています。

 最大の懸念は、中国など新興国経済に『陰り』が見えることです。リーマンショックの時に匹敵するレベルで原油などの商品価格が下落し、さらに、投資が落ち込んだことで、新興国や途上国の経済が大きく傷ついています。

 これは、世界経済が『成長のエンジン』を失いかねないということであり、世界的な需要の低迷、成長の減速が懸念されます。

 世界の経済の専門家が今、警鐘を鳴らしているのは、正にこの点であります。

 これまで7回にわたって国際金融経済分析会合を開催し、ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授やクルーグマン教授を始め、米国や欧州、アジアの経済の専門家から直接意見を伺ってまいりました。

 その専門家の多くが、世界的な需要の低迷によって、今年、そして来年と、更る景気悪化を見込んでいます。

 こうした世界経済が直面するリスクについて、G7のリーダーたちと伊勢志摩サミットで率直に話し合いました。その結果、『新たに危機に陥ることを回避するため』、『適時に全ての政策対応を行う』ことで合意し、首脳宣言に明記されました。

 私たちが現在直面しているリスクは、リーマンショックのような金融不安とは全く異なります。しかし、私たちは、あの経験から学ばなければなりません。

2009年、世界経済はマイナス成長となりましたが、その前年の2008年時点では、IMFも4%近いプラス成長を予測するなど、そのリスクは十分には認識されていませんでした。直前まで認識することが難しい、プラス4%の成長予測が一気にマイナス成長になってしまう。これが、『リスク』が現実のものとなった時の「危機」の恐ろしさです。

私は、世界経済の将来を決して『悲観』しているわけではありません。

 しかし、『リスク』には備えなければならない。今そこにある『リスク』を正しく認識し、『危機』に陥ることを回避するため、しっかりと手を打つべきだと考えます」――

 議長国記者会見と同じで、世界経済の下振れリスクとして挙げているのは新興国経済の減速と中国経済の減速のみである。

 「『リスク』には備えなければならない。今そこにある『リスク』を正しく認識し、『危機』に陥ることを回避するため、しっかりと手を打つべきだと考えます」と立派なことを言っているが、安倍晋三の以上見てきた発言からはイギリス国民がEUからの離脱を選択する可能性の認識にしても、選択した場合の世界経済に与えるリスクについての認識にしても、共に自らのものとしていたとは到底思えない。

 このことを事実とすると(発言から逆の事実は考えられないが)、稲田朋美が「今回のEU離脱、まさしく伊勢志摩サミットG7で総理が提言されで最終合意に至った、まあ、このEU離脱による世界経済の成長を阻害するリスクということが現実化したと思います」と言っている安倍晋三の「提言」を経た「最終合意」は事実に反しているばかりか、事実に反していることを平気でこのように言う理由は、身内目線に立って一国のリーダーとしての地位にふさわしい先見の明がある人物であることをウリにするためとしか思えない。

 日本のマスコミはイギリス国民が離脱を選択した場合の世界経済のリスクを色々と想定して報道していたが、安倍晋三は、G7各国政府にしても、国民投票の結果が離脱と出ることは想定していなかったようだ。

 つまり安倍晋三にしても、「今そこにある『リスク』を正しく認識」していなかった。


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