菅首相のロ大統領国後島訪問に見せた流れに身を任せた指導力ゼロ姿勢

2010-11-02 09:14:09 | Weblog

 昨日(2010年11月1日)のTwitter

 テレビ東京と日本経済新聞が先月週末に実施した世論調査、菅内閣支持率が40%(前回-31ポイント)、不支持率48%(+24ポイント)の逆転現象。支持しない理由「指導力がない」は今や定番。菅首相と言えば指導力がない。指導力がないと言えば菅首相の代名詞化。

 ロシア大統領メドベージェフが11月1日午前、国後島を訪問した。昨夜7時のNHKニュースが訪問の様子を伝えていた。地熱発電所を訪れ、地熱発電は効率がいいとか、水産加工所を訪れ、イクラの本土輸送問題を話したり、一般住民とも話し、体育館をつくる、体育館は健康にいいとか、女性住民が「学校が欲しい」と要望すると、検討するようなことを言っていた。

 生活水準を本土並みとし、「人々がこの島にずっと居られるようにしたい。開発が進むよう今後も必ず予算をつける」(NHK記事)ことも約束していた。

 「人々がこの島にずっと居られるようにしたい」は永久にロシア領土としておくという意思表示、自国領土化の意思表示であろう。

 そのような意思表示に基づいた訪問行動となっていたと言うことである。

 日本側はロ大統領の国後島訪問と訪問で示したこの意思表に優るインパクトある訪問に対する抗議と北方四島は日本の領土であるとするインパクトある意思表示を示さなければならないし、菅政府は示す義務と責任を負っている。

 前原外相が露大統領国後島訪問後の正午過ぎ、ロシアのベールイ駐日大使を外務省に呼び出して抗議した。《菅首相「我が国の領土」 前原外相、ロシア大使呼び抗議》asahi.com/2010年11月1日13時0分)

 ベールイ駐日ロ大使(会談後に記者団に)「この訪問は純粋にロシア国内の話で、対外的、国際的な側面はないと話した。日本側に冷静な対応を呼びかけた」

 記事は前原外相が具体的にどのような言葉を使って抗議をしたのか書いていない。「北方四島は我が国固有の領土であることを伝えた」といったありきたりの抗議であったために記事に書く価値を見い出さなかったということもある。

 駐日外国大使を関係省庁に呼び出して抗議するという外交手段は既にありきたりな儀式となっている。儀式となっている点で既に実効性を失っているだけでなく、「国内の話」とすることは予定の手順だったろうから、ロシア側は最初から一つの儀式・行事の類と看做していたに違いないし、前原外相にしても呼び出しはしたものの、儀式となっているとおりの結末を結果としたに過ぎないことになる。

 1945(昭和20)年の東京湾上でのアメリカ戦艦ミズーリで降伏文書の調印が行われた9月2日をロシアが「第2次世界大戦終結の日」と新たに制定したのは、「NHK」記事は「北方四島の領有はこの大戦の結果だ」とする立場を強化する狙いだとしているが、日本は1945年8月14日にポツダム宣言の受諾を決定、翌8月15日に玉音放送、3日後の8月18日からソ連軍の北方四島に対する侵攻が開始、9月1日に終了、翌9月2日の降伏文書調印、この9月2日を以って「第2次世界大戦終結の日」と制定、北方四島侵攻は戦争終結以前の日本との戦争過程で発生した事態だとすることで戦争による領土化であることを既成事実化する目的からの制定であろう。

 最初の「NHK」記事は1日の衆院予算委員会で自民党の「偉大なるイエスマン」武部勤元幹事長の露大統領国後島訪問についての質問に答えた菅首相の発言を伝えている。

 菅首相「北方四島は我が国の領土であるという立場をずっと一貫してとっており、その地域に大統領が来られたというのは大変遺憾なことだ」

 訪問の背景について――

 菅首相「ソ連が崩壊してロシアになり、当初は西に向かっていたエネルギーが東に向かってきている。極東地域(開発など)にロシアが力を入れている」――

 ロシアの領土拡大意志のエネルギーがどこにどう向かっているかといった解説はどうでもいい。「北方四島は我が国の領土である」も言い尽くしてきたことなのだから、ロシアには何の打撃にも何の役にも立たない、単に改めて言うだけのことで終わる。そのことに気づかずに、「北方四島は我が国の領土である」をバカの一つ覚えのように繰返している。

 ロシアが「西に向かっていたエネルギーが東に向かってきている。極東地域(開発など)にロシアが力を入れている」と分析しているなら、そのことに対してどのような対抗手段を模索してきたのか、それを言うべきだったろう。解説で終わるだけなら、「北方四島は我が国の領土である」も言うだけで終わっていて、何のための日本の総理大臣か分からなくなる。

 前原外相の答弁

 前原外相「日本の原則的立場と全く相いれず、日本国民の感情を傷つけるもので極めて遺憾だ」

 これも領土問題解決に一歩も進展することにつながらない繰返される常套句でしかない。

 次に仙谷官房長官の1日午前の記者会見での発言――

 仙谷官房長官「事実関係やこれから大統領、ロシア政府がどう言うのかを把握して、しかるべき対応を考えないといけない」

 「しかるべき対応」はこれからの判断だとしている。

 記事は今回の訪問について外務省の判断を伝えている。
  
 〈メドベージェフ大統領は、日本が議長国を務めて今月中旬に横浜市で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議への出席を目前にした北方領土入りとなった。外務省内には、将来的な可能性を認めつつも、このタイミングではないとの見方があった。同省幹部は1日朝、記者団に「結果として判断が間違っていた」と認めた。 〉――

 判断の間違いなどどうでもいい。メドベージェフ大統領は9月29日の訪問予定を悪天候のために中止している。そのとき、「わが国の重要な地域であり、必ず行かなくてはならない」(MSN産経)と発言していたのである。「わが国の重要な地域」としていること自体が既にロシア領土とすることの意思表示となっていることを見抜き、今年になってから9月2日を「第2次世界大戦終結の日」と新たに制定したことと併せて、大統領自らがロシアの領土だと意思表示するために訪問することに備えて、何らかの対抗策を用意しておかなければならなかった。

 それを外務省は「このタイミングではないとの見方があった」などと言い、菅首相にしても前原外相にしても、領土問題に於ける常套句を繰返すだけで終わっている。

 訪問について、Twitterに投稿した。
 
 〈 「日ロ関係に重大な支障が生じることになる」(前原外相)と言うよりも、「誰が訪問しようと、北方四島は日本の領土であることに変わりはない」と言うべきではないだろうか。どうせ訪問するだろうから。〉

 〈菅首相、前原外相共々、尖閣諸島と北方四島に関して言葉を一つしか覚えないオームと同じで「我が国の領土」オームのまま成長停止状態では?オームはそれで済んでも、閣僚はそれでは済まない。〉

 11月中旬のAPEC首脳会議に合わせてメドベージェフ大統領が来日し、菅首相との会談が予定されるかもしれないから、国後島訪問はないと見た。その見方の裏をかいて、メドベージェフ大統領の方は訪問はあくまでも国内問題だから、APECは関係ないとするために敢えて「このタイミング」を狙った可能性も疑うことができる。
 
 ロシア外相が駐日ロシア大使を呼び出した日本の抗議に逆抗議している。《ロシア外相 日本の抗議に反発》NHK/2010年11月1日 23時34分)

 ラブロフ露外相「島はロシアの領土であり、大統領は国内を訪れた。日本側の抗議は受け入れられない。・・・・ロシア側の立場をわかりやすく、まちがいのないよう確認する必要がある」――

 このようなロシア側の北方四島に対する自国領土既成事実化に対抗し得る発言、もしくは何らかの対抗措置を日本側は模索し、構築しておくことを何ら準備していなかった。

 このことは何らかの予測していた事態に対しても、そのような事態の事実化に対しても単に流れに身を任せた姿勢を取っていたことになる。何らかの指導力と危機管理上の創造性を発揮して有効な対抗策を打ち出そうとする姿勢とは正反対の姿勢であろう。

 いわば上記外務省同様、菅内閣は何の予防措置も講じていなかった。《「APECでどなたと会談するか未定」1日の菅首相》asahi.com/2010年11月1日21時17分)

 ――ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土を訪問した。前原外相が駐日大使に抗議したが、政府としてこの問題に次の一手をどうお考えか。

 「この北方四島。我が国の固有の領土であるという、その姿勢は一貫しております。それだけに、今回の訪問は大変遺憾に思っています。前原外務大臣のほうから、大使に抗議をいたしました。今後のことは、どういった形で対応するか検討していきたい、こう思っています」

 ――今月中旬のAPECでは日ロ首脳会談も調整されると思うが、この問題について、会談実現の際には大統領にどのようなメッセージを伝えるか。

 菅首相「APECでどのような二国間会談が行われるのか、まだ、いずれも決まっておりません」

 ――かたちはどうであれ、大統領にはどういったメッセージを伝えたいか。

 菅首相「ですから。APECは多くの首脳が来られますが、まだ、どの首相と会うかということが、決まっているわけではありません」」

 ――尖閣衝突事件のビデオを衆参予算委員会の理事らが見て、中国側の反発も予想されている。ハノイでは正式な日中首脳会談が実現せず、APECで実現したいとのお考えがあるかと思うが、ビデオ公開の影響はあると思うか。

 菅首相「いま申し上げたとおり、APECで、どういう方と二国間会談をするか、決まっておりません。ですから、決まっていないことについては、それ以上申し上げることはありません」

 ここには自分から動いて打開策を講じるといった積極的姿勢を見ることはできない。会談が決まらなければ、何もしない、何も言わないことになるからだ。

 但しメドベージェフ大統領、もしくは胡錦涛主席と個別会談に持ち込むことができたとしても、例の如く、「原則的なことを申し上げました」といった対抗策に何ら良薬にも毒薬にもならない菅首相十八番の常套句で終わる可能性が高い。

 首相自身がこのように反射神経を欠いた鈍感な反応しか示し得ない危機管理意識の持主なのだから、政府がロシアに対して何らかの対抗措置を検討すると言っても、効果ある措置はたいして期待はできないに違いない。

 《政府、ロシアに対抗措置を検討 大使召還には慎重》47NEWS/2010/11/01 23:51 【共同通信】)

 菅首相が「今後のことは、どういった形で対応するか検討していきたい」と述べたことと、前原外相が「適切な対応をとっていかざるをえない」と述べたことから、対抗措置として検討し得る可能性として挙げることができる「大使召還」であるようだ。 

 河野雅治駐ロシア大使の召還や一時帰国がそれに当たるが、〈13日から横浜市で開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた大統領訪日を控えていることから、大使召還など強硬措置には慎重な意見が根強い。〉と書いている。

 この対抗措置に対して仙谷官房長官はここでも今後の判断だとしている。

 仙谷官房長官「日ロ関係がただちに決定的にどうこうということはない。ここ数日間は状況の推移を見ないといけない」

 ロシア側は国内問題で、APECは関係ないとするためにAPEC開催日時が迫った時期の訪問とした可能性だけではなく、大使召還といった対抗措置を取らせないために「このタイミング」を狙った可能性も出てくる。

 こういった手を前以て打っておくことが海千山千の国際外交と言うものであろう。

 駐ロ日本大使召還だけではなく、ロシア大統領の日本の領土である国後島訪問は認め難い抗議として駐日ロ大使の帰国を命じるべきだろう。

 北方四島が日本の固有の領土だと相手に直截に伝え得るメッセージを第一番に持ってこなければならないからだ。

 この強硬策以外に北方四島が日本の固有の領土だと相手に伝えることができる何らかのメッセージを示し得るなら、話は別である。

 一時的な関係悪化を恐れて、毅然とした態度を取ることができない。それとも相互に必要とする関係にあるのだから、関係悪化は一時的で終わると判断するだけの認識能力を示し得ないのだろうか。

 最後にロ大統領の国後島訪問は来年の大統領選に向けて強い指導者であることを示す必要からではないかという見方があるそうだが、そういった目的からの訪問だとしても、「人々がこの島にずっと居られるようにしたい」等の示した目標は示した目標の制約を受けることになる。その過程で訪問の動機は問題でなくなる場合もある。

 制約を無視した場合、発言に対する国後島住民の受け止めは記憶されているだろうから、「メドベージェフはウソつきだ」といったことを記録される反動は覚悟しなければならない。

 今年3月(2010年)に日本の外務省が北方四島に関するロシア人を対象に行った意識調査がある。《“北方四島はロシア”半数以上》NHK/10年8月1日 6時35分)

 無作為で選んだロシアの国民3600人を対象としている。

 「日ロ関係はとても良好」または「良好」――73%(6年前調査+10ポイント)
 「日本とロシアの交渉が続いていることを知っている」――76%(6年前調査+9ポイント)
 「日本とロシア双方の主張を知っている」――47%(6年前調査+9ポイント)
 「日本とロシアの交渉で解決するべきだ」――32%(前回調査-7ポイント)
 「これからも北方四島はロシアに帰属する」――53%(前回+5ポイント)
 
 最後の回答は初めての半数以上だそうだ。

 今回のメドベージェフ大統領の国後島訪問行動が「これからも北方四島はロシアに帰属する」の53%を押し上げない保証はない。


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