責任の所在の明確化は大臣が先ず範を垂れるべき
福田首相は韓国訪問に先立つ首相官邸での記者会見で、<海上自衛隊のイージス艦と漁船の衝突事故を受け、野党が辞任を求めている石破防衛相について「防衛省の問題点をよく知っている人が、全責任を負って改革の先頭に立つことが必要だ」と述べ、辞める必要はないとの考えを明確にした。内政の安定が外交上も重要だとの観点から、民主党との大連立にはなお意欲的で、「相手次第」と語った。
首相はイージス艦の事故について「防衛省の体質にかかわる問題なら、防衛省のあり方を根本的に変えなければいけない」と指摘。そのうえで、「(石破氏を)うっかり代えてしまうと、(改革は)できなくなる。新しい大臣が一から勉強して、どうしましょうかみたいな話で本当にいいのか。そんな無駄なことはすべきでない」と述べた。(後略)>(08.2.24asahi.com≪福田首相 防衛相は辞任の必要なし、大連立は相手次第≫)と言う。
だがである。「防衛省の問題点をよく知っている人が、全責任を負って改革の先頭に立つことが必要だ」は言っていることに矛盾がある。「防衛省の問題点をよく知ってい」ながら、重大な事故を起こすまで放置していたことになるからだ。問題が起きても何が「問題点」か気づかないのも問題だが、「問題点をよく知ってい」ながら、何か問題が起きてから、「さあ、改革だ」では、「改革」は何か起きるまで待つことになって、なおさらに始末に悪い。福田首相や石破防衛相なら何か起きるまで眠っている式の危機管理といったことならお手の物だろうが、それでは危機管理の意味を成さない。
今回問題となったのは航行時の見張り体制の不備と事故発生後の連絡体制の不備である。
双方共に深く危機管理に関わっている。石破大臣はその「問題点をよく知ってい」たと福田首相は言う。何ら改善を施さずに手をこまねいていたということは知っていながら防衛大臣としての役割を果たす責任を果たさなかったということなのだから、役割を果たせなかった者に改革の役割は期待しようがなく、その無策・無責任だけを取っても辞任に値する。
連絡体制に関して石破防衛大臣の責任を具体的に言うなら、防衛省は05年の9月事務次官通達で重大な事件・事故が発生した場合、発生から一時間以内をめどに一報を受けた各幕僚監部が内局を経由せずに防衛相や副大臣に概要を直接通報することを義務付けたそうだが、今回の「あたご」衝突事故ではそれが忠実に遵守されず、防衛相への連絡が事故発生から1時間半もかかっている。首相への連絡はさらに遅れて2時間後だそうだ。
たった2年半前の義務付けも守ることができなかった役割遂行意識の欠如・無責任。石破防衛相はその「問題点をよく知ってい」た。「知ってい」ながら、放任していた。
このようにも手をこまねくばかりだった大臣に「全責任を負」わせて「改革の先頭に立」たせるという判断を正しいことだと言えるだろうか。例え「一から勉強」し直すことになっても、「新しい大臣」のもとで「どうしましょうかみたいな話」とすべきということになる。
海上保安庁の取調べに乗務員の証言が小出しなのも、証言に連続性がないことも事の重大さに比例する責任の重さを少しでも軽くしようとする責任回避意識からの細工なのは明らかである。いわば自己を有利な立場に置こうとすれば、証言に細工をせざるを得ないが、細工した証言の矛盾点を追及されて止むを得ず話すから、結果的に証言が小出しの状態ともなり、証言に連続性を持たないことにもなる。そしてよく使う逃げの手が「よく覚えていない」である。
このような事故と証言の経緯は与えられた役割を果たす責任を果たさない無責任と無責任によって生じた結果に対して負うべき責任を果たさない無責任によって成り立っていて、
無責任の二重構造下に立っていると言える。
危機管理はすべてそれぞれの責任意識にかかっているのである。「問題点」はすべてその点に集約される。上から言われたことに単に従う権威主義的行動様式で行うのではなく、上から言われなくても自分から進んで行う自己判断行為とすることで責任の所在がはっきりとし、責任行為はよりよく生きてくる。
この点に関して福田首相も石破防衛大臣も十分に認識していないようだ。無責任構造日本の一員だからでもあるからだろう。当然のことにイージス艦の乗務員だけの問題ではなく、国会議員や中央官僚、さらに地方自治体の首長、地方議員、地方役人にも言える無責任の構図ということになる。
小さい頃から慣らされた権威主義的行動様式に阻害されて、自己判断行為が満足にできず、結果として責任の所在が曖昧となり、責任行為を満足に果たせない。
危機管理のすべてがそれぞれの責任意識に左右されるということなら、責任の所在という点で上の誰かが範を垂れないことにはいつまで経っても責任行為は期待できない状態で推移する。、
「防衛省の問題点をよく知ってい」ながら、何ら対策を打つことができなかった不作為・無能・無責任の点からも、責任の所在の明確化の範を垂れる意味からも、石破大臣は進んで辞任にすべきであろう。どうせ満足な改革などできないのは分かりきっている。できることは「辞任」ぐらいしかないにだから。
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