サーッカーワールドカップ、0対0の引き分けで終わったクロアチア戦。テレビでの試合後のコメントを宮本選手は「30度近くもあって、きつかった。ブラジル戦は夜9時からだから、体力的には楽だ」といった敗因の理由にもならないことを話していた。
相手だって暑くてきつかったろう。柔道やボクシングの体重別階級とかいったように、試合は気温何度以下で行われるといった制限がルールされているわけのものではない。寒暖は乗り越えなければならない条件と最初から決まっている。
対日本戦の夜9時からの気温の恩恵はブラジル選手にも同じように配分される。日本選手のみに惠となった降り注ぐわけではない。相手のことまで考えに入れることができない自己中心性は戦う相手があって成り立つスポーツ選手には致命的な感覚としてあるものではないだろうか。
テレビのニュースを見た限りだが、走りながら目指した相手にパスをまわすにしても、走りながらそのパスを受け取ってシュートするにしても、正確性に欠けていたことが得点につながらなかったのではないだろうか。確度に欠けるパスであっても、それを補ってシュートを決める技術力があれば、少ないチャンスをモノにすることも可能だが、その技術力さえ劣るから、ボールがバーを越えたり、ポールを大きく外れたりする。技術力に匹敵した試合運びがもたらした0対0の引き分けといったところではないか。
点を取る・取らないによっても、疲れは違ってくる。チャンスを潰してばかりいたら、疲れは普段の体力の消耗以上に襲いかかってくるだろう。勝てば、どんなに疲れていても、快い疲れとなる。試合後にあれこれ言うのではなく、そういったことまで前以て予想しておくべきだろう。
新聞やテレビは日本チームの決定力不足を言うが、正確性に欠けるから、決定力不足となって現れているのであって、決定力なるものが他と無関係の単独の能力として存在しているわけではないはずだ。
朝日新聞のスポーツ欄の見出しは2面ぶち抜きの横書きの大文字で「侍魂 耐え抜いた 攻めた あと一歩」となっていた。どこが「侍魂」なのか、実力相応の結果であって、それを「侍魂」と美化する。宮本選手の弁解以上に悪趣味で倒錯的な、敗因を曖昧にする煽て以外の何ものでもない。日本の選手やサポーターをその気にさせて甘やかすには役に立つ。日本の愛国者たちが日本という国を実体以上に美化するのと同じ線上にあるマヤカシに過ぎない。
クロアチアよりもシュート数・ボール獲得率も優っていたということだが、それで1点も取れなかったということは世間一般で言う決定力不足ということにもなるだろうが、実態としてはシュートにしてもパス回しにしても無駄が多かったことの証明でしかない。その結果の0対0でもあり、このことのみを以てしても「侍魂」は過大評価そのもので、日本というチッポケな島国では通用する評価だろうが、世界の強豪と比較した場合、その実力差からおこがましい限りではないか。
宮本選手の弁解にしても、「朝日」の見出しにしても、日本の愛国者たちの日本礼賛にしても、マヤカシをマヤカシと気づかないのは、物事を〝相対化〟する感性に欠けるからだろう。〝相対化〟とは断るまでもなく他との関係で考えを構成することを言う。他者を省いて自分だけの立場・自分だけの能力を材料として価値判断を下そうとすると、そこに比較対照する他者を存在させていないから、自己をすべてとする独善に陥る危険に付き纏われることとなる。
日本チームが強くなるには、まず〝相対化〟の感性を磨くことから始める必要があるのではないのか。「他との関係で考えを構成する」〝相対化〟は結果として自己の位置、あるいは自己の裸の実力を知る謙虚さにつながっていく。
それでもブラジルとの最終戦は何が起こるかわからない。それだけを頼りにスタミナ切れも何も考えずに動きに動いて、走りに走って、挑戦するしかないだろう。
勝ちに行く姿勢なら、得点に執着することとなって、硬さや焦りにつながり、正確性をなお損ないかねない。その反対にスタミナ切れを考えない動きは当然後半の息切れを誘って、動きが鈍くなり、点を取られやすい不利な状況を招くが、それでも相手の能力がすべての点で上である以上、負ける覚悟で相手以上に動きまわり、相手以上に走りまわる無我夢中のうちに自分を置く戦術を何が起こるかわからない意外性を誘う唯一の方法として、そこに活路を求めるしか道は残されていないのではないか。
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