菅首相が昨15日午前、仲井真沖縄県知事と会談した。仲井真知事の上京に合わせて首相側が要請して実現させた会談だと、《「辺野古は困難」菅首相と初会談の仲井真知事》(YOMIURI ONLINE2010年6月15日11時38分)が伝えている。
会談時間は約30分間。記事が伝えている両者の発言を拾ってみる。
仲井真知事「共同声明は遺憾だ。実現は極めて難しい」
仲井真知事「県民は、民主党政権が掲げた県外、国外(移設)に希望を込めていた。日米共同声明でまた辺野古へとの方向が出て、期待が失望に変わった」
菅首相「日米共同声明は踏襲する」
菅首相「沖縄の負担軽減については誠心誠意取り組みたい」
その上で、23日に就任後初めて沖縄を訪問する意向も伝えたという。
〈首相は先に応接室に入って知事を待ち、会談後は、同席した仙谷官房長官らと共に官邸のエントランスホールまで知事を見送る配慮を見せた。〉――
これは沖縄からしたら、配慮違いと言うものであろう。配慮の履き違え。国外・県外の配慮こそが沖縄に叶う配慮となる。市民運動家出身を勲章としているだけあって、人の気持を読み取る能力に優れているようだ。
仲井真知事にしても、エントランスホールまで見送られる配慮に気持を擽られて、そのお返しに辺野古移設を受入れましょうとなる程、柔な人間ではあるまい。
同じ菅・仲井真会談を伝えた《菅首相、沖縄知事と会談 日米合意踏襲と負担軽減伝える》(asahi.com/2010年6月15日12時44分)
仲井真知事「『少なくとも県外』と言った民主党に対する県民の期待は失望に変わった。日米合意は遺憾で、(辺野古移設の)実現は極めて厳しい」
「asahi.com」記事は菅首相の直接の言葉は何も書いていない。「YOMIURI ONLINE」記事とほぼ同様に、〈沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をまとめた先の日米合意を踏襲するとともに、沖縄の負担軽減に取り組む考えを表明。〉と伝えたうえで、〈仲井真氏が普天間移設とは別に米兵が関係する事件事故についても「大幅な軽減に取り組んでほしい」と要望したのに対し、首相は応じる意向を示した〉と会談内容の一端に触れている。
「YOMIURI ONLINE」記事は触れていないが、菅首相の沖縄訪問の23日は沖縄慰霊の日(沖縄全戦没者追悼式)に当たり、仲井真知事もこれを歓迎したと書いている。
訪問日を沖縄慰霊の日に決めたのも相手の気持を擽る配慮なのかも知れない。石とか卵とかを投げつけられないように気をつけるべきだろう。
「asahi.com」記事の“配慮”は次のよう描写になっている。
〈約30分間の会談には仙谷由人官房長官らも同席。首相が応接室に先に入り知事を出迎える配慮を見せた。〉――
会談後の仲井真知事の発言――
仲井真知事「普天間は危険な飛行場。そのまま置いておくのはおかしい。なるべく早く返還してもらうことが元々のスタートだ。政府が責任を持ってきちんと解決してもらうのが筋だが、どうまとめていこうとしているのか、よく分からない」――
菅首相は「広く開かれた政党を介した国民の積極的な政治参加」を謳い上げているが、その最重要・不可欠な要件が情報公開でありながら、相手をして「よく分からない」と言わしめる情報公開に徹している。いわば沖縄に対しては全然「広く開かれ」ていない不透明な政党、「広く開かれ」ていない不透明な政権となっている。政治に参加したくても、参加できないこの不透明な状況が逆に沖縄県民の反対意志を強固にしている一因となっているに違いない。
この「よく分からない」不透明政治発言は「毎日jp」記事――《菅首相、沖縄知事と会談 日米合意踏襲と負担軽減伝える》(2010年6月15日 11時24分)も簡単に伝えている。
仲井真知事「まだどういう道筋でまとめようとされるのかよく分からない」
仲井真知事「民主党は『少なくとも県外』と(昨夏の衆院)選挙やその後も言ってきたが、共同声明で『辺野古』の方向が出て県民の期待が失望にものすごく変わってしまった」
菅首相「(沖縄の)負担軽減については政府として誠心誠意、努力したい」
会談終了後の閣僚懇談会。
菅首相「官房長官を中心に内閣一体で取り組んでいきたい」
古川元久官房副長官の首相が23日に沖縄県主催の沖縄全戦没者追悼式に出席することを踏まえた同15日午前の記者会見での発言。
古川元久官房副長官「まずそこから、首相はじめ内閣として沖縄の皆さんと一緒に負担軽減について努力したい」
首相が戦没者追悼式でいくら深々と頭を下げたからといって、いくら言葉巧みに戦前から戦後にかけて沖縄が払った犠牲・苦労を語ったからといって、それで辺野古に基地を受入れましょうとなる程、沖縄県民も仲井真知事と同様、気持が擽られるような柔な人間ばかりではないはずだ。
大体が負担軽減についての努力を菅首相が戦没者追悼式の日の沖縄訪問を出発点として、「まずそこから」始めるとしていることにしても、菅首相が仲井真知事と会談、「沖縄の負担軽減については誠心誠意取り組みたい」と意思表示することにしても、順序が逆ではないだろうか。
沖縄に対して「負担軽減」を言う前に負担引受け先を探し、決定してから、軽減の総量を見せて、これだけの負担軽減を図ることができますと言って相手に納得してもらうのが順序であり、それが誠意ある態度であろう。
沖縄側にしても、具体的な軽減量をテーブルの上に乗せて見せて貰わないことには、話のしようがないはずだ。
徳之島への訓練の一部移転でさえも、徳之島の町自治体も町民の大多数にしても反対し、負担引受けが決定していない状況にある。鳩山前首相が全国知事会を開いて負担引受け自治体の申し出を要請しても、橋下大阪府知事一人が、大阪府民はどういう態度に出るか分からないが、要請に応えたのみであった。
負担を引受ける先が決定していない先から、当然、どのくらい負担軽減を図ることができるか分からないうちに、バカの一つ覚えのように「負担期限」を振り回して納得させようとしている。不確実を確実を装って高額金融商品の購入を持ちかける詐欺商法紛い同然のことをしていることとたいして変わらない。
例え時間がかかろうが、普天間飛行場代替施設建設期限(=普天間返還期限)の2014年が切れようと、先ずは負担引受け先を探して、どのくらいの負担ができるか示してから、沖縄を訪問するなり、交渉に入るのが順序であろう。
それとも2014年が近づくのを待って、それでは普天間の危険を野放し状態にさせることになるぞ、危険除去には辺野古への移設しかないぞと、普天間の危険を逆手に取って、無理やり辺野古移設を納得させる手に出るつもりでいるのだろうか。
負担軽減の総量の提示もできない、沖縄側の辺野古案反対の姿勢を変えることもできない。そのために普天間返還が先延ばしされることになって基地危険の状況がそのまま続くことになるというなら、普天間駐留部隊の縮小を図ることで危険の除去も図るべきだろう。
民主党が掲げる「国民の生活が第一」、菅直人が掲げた「最小不幸社会」(=不幸を最小に抑える社会)という約束に合致させることになる。
勿論、負担軽減の総量を提示できたからといって、その総量に納得して辺野古案を受入れる保証はない。だが、交渉の順序が逆であることだけは確かである。
最後に6月14日、菅総理所信表明演説に対する衆議院本会議で行われた代表質問から、菅総理大臣ではなく、国政に関わる政治家個人としての基本的な安全保障観を窺うことができる社民党重野安正議員の質問と対する首相の答弁を参考のために「衆議院インターネット審議中継」HPから普天間問題に関する質問と答弁のみを文字化してみた。
重野安正「(冒頭部分略)さて、社民党は、この8ヶ月間、連立与党の一翼を担い、生活再建、生命を大切にする政治の実現のために、奮闘してまいりました。沖縄問題についても、国外、最低でも県外という、鳩山総理の言葉を支持し、政権発足に向かって結んだ3党合意に基づき、沖縄県民のフタイ、負担軽減の立場で、全力を傾けてまいりました。
しかし、地元の合意も、3党の合意もないままに、日米合意を先行させ、しかもその日米合意及び閣議決定には、またもや辺野古に新たな基地を建設すると、明記しました。問題の解決に大きな期待を寄せていた沖縄県民を裏切り、公約違反の閣議決定への署名を拒否した我が党の福島党首は、鳩山総理より罷免されました。
社民党は生活再建、道半ばでもあり、これから本格的に、取り組む課題が多く残っておりましたが、沖縄県民、政権3党、アメリカという、三つの合意を前提とする、鳩山首相の国民への約束を裏切ることは、できないとの思いから、政権離脱を決定いたしました。
今後は、政党の、政治の品質保証役として、菅新政権のよい政策は応援するし、悪い政策にはブレーキをかける立場で、厳しく、政治をチェックしていくことを、先ず以って表明いたします。
――(中略)――
重野安正「社民党の1丁目1番地である、普天間基地問題について、お伺いいたします。鳩山総理は、普天間基地の問題と政治とカネの問題を、辞任の理由に挙げました。いわば普天間基地問題での公約、違反が、総理辞任の大きな要因であります。私たちは鳩山総理に、5月末決着に拘るべきではない、再三求めてまいりましたにも関わらず、米軍、普天間飛行場問題を米国の意向に添った形で、決着させ、自らは辞任しましたが、沖縄切捨てで加担した、3人の担当閣僚が再任されています。前総理と共に、大きな責任があるはずであります。なぜ再任されたのか、お伺いいたします。
さて、総理は、政治学者である松下圭一先生に学んだ市民自治の、思想が原点であると言われています。市民自治とは、市民が公共社会の主体であり、公共社会を管理するために政府をつくるという意味であります。平和的生存権を謳い、また地方自治を重視する、憲法の規定を踏まえれば、例え防衛や安全保障までの重要問題であっても、住民が自ら意思表示できることを憲法の地方自治の本旨に合致するものであることは言うまでもありません。
市民自治が原点であるならば、また地域主権と言われるのであれば、アメリカとの合意ではなく、先ず沖縄県民の意思、地元の合意が尊重されるべきではないですか。総理の明快な答弁を求めます。
また、総理自身も過去、1998年、海兵隊は沖縄に駐留する必要はない。装備だけ沖縄に置き、兵隊はグアム、ハワイ、米本国など、後方であってもアジア安保の空白にはならない。2001年、海兵隊をなくして、訓練を米領域内に戻す。日本は米国の51番目の州、小泉首相が米国の51人目の、州知事でになろうとしている、と発言。
2003年、第3海兵遠征軍のかなりの部分を国内、国外を問わず、沖縄から移転すべきだ。2006年、沖縄は基地をなくしていこうという思いがある。普天間飛行場を含め、海兵隊を米国などのグアムに、移転するチャンスだ、などと一貫して、基地の海外移転を訴えております。
総理はその場の思いつき、でも、リップサービスでもない、政治家として、私の責任として述べたものである、とまでホームページに書いておられます。海兵隊が沖縄にいなければならない理由は特別にはない。アメリカ国内に戻ってもらうべき、北朝鮮の状況や、日米の財政状況が変わってきているな中で、沖縄にとって重い負担になっている沖縄海兵隊の、日本国外移転について、真剣な検討が必要、とおっしゃっておられました。
普天間基地移設問題で辺野古に新基地を造る、日米合意、閣議決定を踏襲するのではなく、沖縄に、新たな基地は要らない、という沖縄県民の願いを真摯に受け止め、もう一度真正面から、アメリカと交渉すべきであると考えます。
にも関わらず、総理にショウリ、就任するや、間髪を入れずにオバマ大統領に電話を入れ、日米合意に基づき、実現を図ることで、一致したとのことであります。過去の発言と違和感を感じます。
古い政治との決別には、金権体質や利益誘導型政治の一掃に加え、対米追従外交からの大胆な転換が含まれているはずであります。最低限、日米協議の遣り直しと、閣議決定の見直しを強く求めます。総理自身、沖縄県民の声に謙虚に耳を傾け、改めて国外、県外の可能性を検討するお考えはありますか。
あとは、まさか、実行できるかどうかにかかっています、と言うのは、地元の合意のないまま、日米共同声明、及び閣議決定の内容を実行することではないと思いますが、総理、如何ですか。(後略)」
菅首相「エー、普天間問題を担当した、閣僚の再任について、エー、ご質問がありました。先月の日米安全保障会議に於ける合意との関係で、関係閣僚が、アー、そのまま、アー、再任したということについて、でありますけれども、エー、他の議員の方にも申し上げましたように、私は、アー、アー、この、三、閣僚含めてですね、エー、適材適所を基本にして、エー、任命をさせていただきました。
ま、このー、日米安全保障会議に於ける合意、は、普天間飛行場の移設、返還と一部海兵隊のグアムに移転等を、実現し、沖縄の負担軽減を前進させるため、日米両国政府で合意した、ものであると認識しております。
残念ながら、沖縄県民のみなさんのご理解を得られたとは言えませんけれども、今後真摯な対話を通して、地元のご理解を得られるように尽力をしたいと、考えております。
エー、米国との合意ではなく、地元との合意を尊重すべきとのご質問であります。エ、本年5月28日、日米合意を踏まえるという、原則については、マ、これは、政府と政府、国と国との合意でありますので、エ、しっかりと守っていきたいと思っております。また、同日の閣議決定でも、強調されたように、沖縄の負担軽減に尽力することも、併せて、エー、頑張っていきたいと思っております。
このような原則の元、今後、移設計画や負担軽減の具体策について、沖縄県を始め、地元の方々に誠心誠意説明し、理解を求めてまいる所存であります。
(毎日繰返される分かりきった伝言を読み上げるような感情の篭っていない機械的な早口で原稿を読み上げていく。)
県外、国外移設の可能性について、ご質問をいただきました。我が国周辺の東アジア、アー、安全保障環境には最近の朝鮮半島情勢、などに見られるとおり、不安定性、不確実性が残っております。従って、海兵隊を含む、在日米軍の、抑止力は安全保障上の観点から極めて重要だと、認識をいたしております。
エー、他の議員の方々からのご質問にありましたが、エー、私は色んな発言をしていることを、その発言があったこと、そのものを否定するつもりはありません。エー、と同時に、エー、この国際状況の変化、というものを、併せて、考える中で、エー、内閣総理大臣として、就任し、エ、責任を持った立場で、今の状況を、考えた中で、ただ今申し上げましたように、エー、在日米軍の抑止力は、安全保障の観点から、極めて、重要だと、いう認識を、ヲー、持っていることを改めて、申し上げたいと、このように思っております。
(相変わらす毎日繰返している同じ連絡事項を事務的に伝えるような熱の篭っていない口調の答弁となっている。)
従って、米国との再交渉や、閣議決定の見直しを、行うつもりはありません。まあ、あの、すべてをですね、対米追従外交、オー、からの、脱却というふうに、おっしゃるんですけれども、私は、この対米追従外交からの脱却ということを考えるときには、――
(老眼鏡を外し、原稿を見ずに重野議員の方を見、言葉に熱を込めて喋り出す。半ばムキになった口調となっていく。)
自分たち自身が、この国をどういう国でありたいか、自分たち自身がこの国に対してどういうところまで責任を持つのか、私が敢えて、所信表明で、エー、亡くなられた永井陽之助先生の『平和の代償』という本を、ヲー、挙げたのはですね、そういうことについてしっかりした、アー、国内の、状況が、なければ、なかなか、アー、他国に対して、しっかりとしたものが言えなくなるということを、私自身が長年感じておりましたので、そのことを申し上げたことも、ここで、エー、改めて申し上げておきたいと、このように思います」
財政健全化の答弁に移る。
まるで安全保障に関わる自身の過去の発言を誤魔化すためにムキになって、「この国をどういう国でありたいか、自分たち自身がこの国に対してどういうところまで責任を持つのか」云々を持ち出したように聞こえた。
菅直人が考える、「この国をどういう国でありたいか、自分たち自身がこの国に対してどういうところまで責任を持つのか」の安全保障に関わる自発的責任体制が、菅直人の過去の安全保障観と駐留米軍と自衛隊を並存させた現在の日本の安全保障に関わる責任体制をつなぎ、そのことに整合性を与える合理的な理由となっているのだろうか。
菅直人は過去、米軍抜きの日本の安全保障観を持っていた。そのような安全保障観に則った安全保障体制の「国でありたい」と自発性を持ってすることも可能であるし、そのような安全保障体制で自発的に「この国に」「責任を持つ」とすることも可能だからである。
もし、自身が思想としていた過去の安全保障観が「最近の朝鮮半島情勢」や「国際状況の変化」によって変質したと言うなら、現在の安全保障体制を枠組みとした、「この国をどういう国でありたいか、自分たち自身がこの国に対してどういうところまで責任を持つのか」の安全保障観に至った思想上の経緯を述べて、納得を得るべきではないだろうか。
そうしたとき初めて、国民に思想変遷の整合性を印象づけることができる。
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