玄葉外相の、普天間移設「国外、最低でも県外」の鳩山発言は「誤りだった」とする狡猾な責任回避

2011-10-27 12:53:58 | Weblog

 玄葉外相が昨日(2011年10月26日)の衆院外務委員会で鳩山元総理の普天間移設「最低でも県外」発言は「誤りだった」と、自民党の河井克行議員の質問に対して答弁したという。

 《外相 “最低でも県外”は誤り》NHK NEWS WEB/2011年10月26日 19時57分)

 玄葉外相「選挙中にあの発言を聞いて、鳩山政権が誕生すれば、おそらく、この問題で終わるんじゃないかと思った。現実のものになってしまったというのが率直なところだ。あの時点で、ああいう発言をされたのは誤りだったと思う。

 鳩山元総理大臣自身も、『あのときの発言は間違っていた』と認めたから、総理大臣をみずからお辞めになり、責任を取ったと理解している」

 この質問箇所を「衆議院インターネット審議中継」からダウンロードして聞いてみた。上記玄葉外相の発言の後半部分は河井議員が普天間問題の挫折・行き詰まりで日米同盟が揺らいだ、民主党が国益を毀損した今、責任を衆院を解散することで取るべきではないかと迫ったの対して鳩山元首相の辞任を以て責任は果たしたとする発言である。

 河井議員はこの答弁に対して首相一人の責任ではない、民主党全体の責任だと反論するが、このことに関しては深く追及せずに次の質問に移っていく。

 前半の答弁を取り上げてみる。玄葉外相は「あの時点」でと、鳩山元首相が衆院選前の選挙応援で沖縄に訪れた2009年7月の時点のことを言っている。要するに他の時点ならいいがという意味であろう。

 玄葉外相の前半部分の発言のあと、河井議員は鳩山元首相の「県外」発言を誤りだとする玄葉外相の評価との関連で2008年7月8日策定の《民主党・沖縄ビジョン2008》にも普天間の県外・国外移設が書いてあるとして、このことに対しても玄葉外相の評価を追及している。

 《民主党・沖縄ビジョン2008》には普天間移設に関して次のように謳っている。

 〈在沖縄米軍基地の大幅な縮小を目指して日本復帰後36年たった今なお、在日駐留米軍専用施設面積の約75%が沖縄に集中し、過重な負担を県民に強いている事態を私たちは重く受け止め、一刻も早くその負担の軽減を図らなくてはならない。民主党は、日米安保条約を日本の安全保障政策の基軸としつつ、日米の役割分担の見地から米軍再編の中で在沖海兵隊基地の県外への機能分散をまず模索し、戦略環境の変化を踏まえて、国外への移転を目指す。〉――

 玄葉外相「安保環境っていうのは変わると思うのですね。戦略環境も変わると、いうふうに思います。(2009年の)総選挙の時の安保環境というのは、もう既に、今に近い、そしてさらに私は安保環境は厳しくなっているというふうに思っております。

 そういう意味ではですね、あのー、私自身が、安保環境を持ち出すのは、まさに今の文脈からであると。

 じゃあ、2008年はどうだったかと、オー、言うと、まさにそれは恐らく戦略環境がどこまで変わっていくかということによるのではないかと。あるいは将来ですね、えー、ちょっと私、手元に、その文書がないものですから、どこまで正確にですね、申し上げられるかということがありますけれども、ただ同時にですね、恐らく、沖縄の負担軽減というものをですね、当時の鳩山代表は考えて、先程申し上げたように私自身誤りだったと言うふうに思ってましたけど、何とか県外移設の試み、検討っていうのをやろうっていう、ま、そう意図だっんだろうというふうに。

 当然ですけれども、そういうふうに解釈をしております。ですから、ちょっと2008年の話をですね、出来れば、改めて文書をチェックさせていただいて、お答えさせていただければというふうに思っております」・・・・

 玄葉外相が「あの時点で」と言ったのは安保環境の時期的変化の文脈で発言したことが分かる。

 要するに玄葉外相は2008年の《民主党・沖縄ビジョン2008》策定当時と比較した戦略環境の変化、あるいは安保環境の変化を挙げて、普天間の県内移設を正当化していると同時に戦略環境の変化、あるいは安保環境の変化前の策定だと、《民主党・沖縄ビジョン2008》で謳った県外・国外移設をも逆に正当化している。

 菅前首相も既にご存知のように野党時代、普天間の県外・国外移設を掲げていて、首相になるや、安保環境の変化を理由に県内移転を正当化している。

 2001年7月21日の那覇市での記者会見。

 菅幹事長(当時)「海兵隊はいろんな軍事情勢、極東情勢を勘案してみて、沖縄に存在しなくても日本の安全保障に大きな支障はない。(海兵隊は)アメリカ領域内に戻ってもらうことを外交的に提起すべきだ」

 2010年8月5日の参議院予算委員会。

 菅首相「過去の発言について、色々言うことは控えたいと思いますが、えー、私なりの、今現在の、おー、日本の要請、あるいは、あー、アジアを巡る情勢、えー、そういったことを含めての、オ、判断であります」

 いわば情勢の変化――安全保障環境の変化を挙げて、「過去の発言」とは異なる県内移設を正当化している。

 このことは逆に「過去の発言」の正当化でもある。

 だが、菅前首相にしても玄葉外相にしても、この自己正当化の論理には矛盾がある。特に安全保障政策となると、長期的展望に立って策定する責任を負っているはずである。

 玄葉外相自身、「(2009年の)総選挙の時の安保環境というのは、もう既に、今に近い、そしてさらに私は安保環境は厳しくなっているというふうに思っております」と、安保環境の年々の急激な変化を口にする以上、そのことを念頭に置いた長期的展望を《民主党・沖縄ビジョン2008》にデザインして置かなければならなかったはずだ。

 突然変異のように今までなかったものが急激に現れたというわけではない。

 だが、長期的展望をも含むはずの《民主党・沖縄ビジョン2008》は2008年から1年経過しただけの2009年のより厳しくなった安保環境の変化に《民主党・沖縄ビジョン2008》策定の安全保障政策は追いつくことができなくなった、適応しなくなったということになる。

 このことは沖縄の米軍基地に関係するだけではない、他の安全保障にも関係することになる安全保障政策の立案の能力を民主党自体が欠いていることの、至って滑稽なことだが、証明としかならない。

 この証明は単に鳩山前首相が長期的展望を欠いた安全保障政策に基づいて普天間基地の国外・県外移設を主張したという個人的な政治的資質の問題にとどまらず、民主党全体の政治的資質の問題となるはずだ。

 安全保障環境の変化の中には当然の如くに北朝鮮と中国の軍備増強を入れている。だが、北朝鮮がミサイル実験をしたのは第1目回が1993年、2回目が1998年、三回目が2006年であり、核実験は2回目は《民主党・沖縄ビジョン2008》策定2008年の1年後、2009年ではあっても、第1回目は《民主党・沖縄ビジョン2008》策定2年前の2006年である。

 また北朝鮮の韓国に対する直接的な敵対行為のうち、2010年3月の韓国哨戒艦「天安」に対する北朝鮮の魚雷攻撃による沈没と2010年11月の韓国のヨンピョン島に対する砲撃事件は《民主党・沖縄ビジョン2008》策定の2008年以後のことではあっても、1983年の韓国政府要人を狙った北朝鮮工作員によるビルマのラングーン爆破テロ事件、1987年の金賢姫他1人の北朝鮮工作員を使った大韓航空爆破事件は《民主党・沖縄ビジョン2008》策定以前のことであり、敵対行為の規模、あるいは惨劇の規模・衝撃としては後者の方が遥かに大きい。

 こういったことを踏まえた北朝鮮に対する長期的展望に立った《民主党・沖縄ビジョン2008》でなければならなかった。

 また中国に関しては21年連続2桁増の巨額な軍事費、その内容の不透明性から、1990年代後半には既に中国脅威論が台頭していた。《民主党・沖縄ビジョン2008》策定の10年近く前である。

 前原誠司が民主党代表時代の2005年12月にワシントンで講演、中国の軍事力増強を「現実的な脅威」と発言したのは、この中国脅威論に彼なりに基づいていたはずだ。

 安全保障は軍事力だけに負うものではなく、経済力や政治力(=外交能力)によっても左右される総合力として構築しなければならない政策であるゆえに軍事力のみから見た「中国脅威論」には私自身は与しないが、中国の海洋進出が例え新たに現れた最近の安全保障環境の変化であり、危険な徴候であったとしても、以前から経済政策や外交問題と共に長期的展望に立って備えていなければならなかった対中国安全保障政策であり、在沖海兵隊基地の県外・国外移転の《民主党・沖縄ビジョン2008》でなければならなかった。

 だが、玄葉外相はたった3年しか経過していないのに、《民主党・沖縄ビジョン2008》で民主党が構築した安全保障政策は現在の安全保障環境下では状況的に合わないものになっていると、長期展望の必要性と矛盾したことを言っている。

 この矛盾は民主党全体の問題であるにも関わらず、普天間基地移設先の「国外、最低でも県外」の鳩山発言を「誤りだった」と鳩山元首相のみの責任に帰している矛盾と同様、あまりにも狡猾に過ぎる責任回避に当たらないだろうか。

 玄葉外相は河井議員との質疑応答の中で沖縄の安全保障上の地理的優位性・地理的特性を挙げて沖縄県内の施設でなければならないと主張しているが、だとすると、軍事費削減の理由からだが、アメリカ国内にも存在する米軍海外基地の米本土移転の主張はどう説明するのだろうか。


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