アキバのみなさんが麻生の命運を握っています
16日からスタートという自民党総裁選の渋谷での街頭演説会に先立って自民党本部で午後2時から行われた立会い演説会の模様を伝えるNHKの一昨夕(07.9.16)7時の「ニュース・セブン」
「急拵えでつくった合意は簡単に崩れます。慌てて纏めた多数派も成立のその瞬間から瓦解への方向に動き出す。我が自由民主党は既にそのことを過去の歴史から学んだはずです。強くて頼りになる指導者をこそ必要としています」
アキバのオタクに超人気だと自認している麻生太郎の演説である。渋くて太い声を一語一語しつこく引きずるような感じの勇ましい力強い語り口調と格調高い言葉遣いで対立候補である福田元官房長官の候補選定の過程を批判したが、如何せん、原稿に目を落としながらの演説であった。
安倍辞任を受けた07年9月13日の『朝日』朝刊≪路線継承か否か≫は、<麻生氏、戦略狂う 禅譲消え逆風に≫の中見出しで、<惨敗の見通しが伝えられた参院選の開票前、麻生氏はいち早く公邸の首相を尋ね、続投を支持。その段階で、幹事長就任は約束されていた。麻生氏が描いていたのは、首相が解散しないまま辞任し、禅譲を受けること、16人の少数派閥を率いるゆえの策だった。>と総理・総裁実現戦略を安倍首相の「禅譲」に置いていたと解説している。
「禅譲」は安倍首相の出身派閥である自民党最大派閥の町村派の容認が前提条件となる。安倍首相自身が派閥の領袖ではないからだ。町村派には影の差配者・前派閥会長の森元首相もいて、派閥運営にそれなりの発言力を確保している。いわば安倍「続投支持」を通して自民党最大派閥の町村派支持を見込み、それをスタート地点として最大派閥の動向が他の派閥の動向に影響を与えることを計算した全体的思惑からの「続投支持」で、その向こう側に町村派やその他の派閥との談合成立を暗黙裡に予定調和していたと言える。
ただ単にそれが成功しなかったから、表に現れなかった派閥談合であって、福田談合と五十歩百歩、どっちがどっちとも言えないのだから、批判も非難もする資格は麻生太郎にはない。ないにも関わらず、自身は談合力学から遠く離れている正義のキャラの如くに装って批判し、非難する。その厭味、鉄面皮なキャラ、破廉恥心は図々しいばかりで如何ともし難い。
所詮派閥とその力(=数)の基盤なくして行動できない他力本願・他律性を行動様式としている日本の政治家なのである。麻生太郎自身、16人の小派閥といえども、派閥という集団形式で群れなければ行動できない派閥依存の似た者体質のキャラの持主なのである。
麻生太郎は上記立会演説会で国民は「強くて頼りになる指導者をこそ必要としています」と言っている。昨9月17日の『朝日』朝刊≪時時刻刻 自民総裁選演説会≫の記事も同じことを伝えている。
<なかでも強調したのが「強さ」だった。
「今ほど日本が危機に臨んで強い指導者を必要としている時はない。安定した指導者ではない」
日本の発する言葉とは、せんじ詰めたところ首相の言葉だ。私は強い言葉を発する首相になりたい」>
「強くて頼りになる指導者をこそ必要としています」、あるいは「今ほど日本が危機に臨んで強い指導者を必要としている時はない」と言い、それは自分だと自己を「強い指導者」像になぞらえ、「強い言葉を発する首相」を目指していることを国民向けの宣言としている。
だがである、無責任にも首相職を途中で投げ出した安倍首相は「強いリーダ-シップ」を謳い、「規律ある凛とした美しい国づくり」、あるいは「戦後レジームからの脱却」と歴史を変えようとする壮大な大風呂敷を広げ、国のために命を投げ捨てた特攻隊を例に出して、「ときには自分の命を投げ打っても守るべき価値が存在する」と個人よりも国家を上の価値とする国家至上主義をぶち上げ、靖国参拝では、「国のリーダーたるもの、国のために戦った人に追悼の念を捧げるのは当然。次の総理もその次の総理も靖国に参拝してほしい」と戦前の日本の戦争を善と把えて自己の歴史認識を絶対視する、そのようにも「強い言葉」を次々と発してきたが、何一つ実現も思想化もできなかったばかりか、実現の取っ掛かりも果たせず、思想化の片鱗も見せることもできず、カラ手形で終わらせている。実現も幻想、思想化も幻想ということは言ってみれば、それぞれに用いた「強い言葉」が詭弁(=こじつけの議論)の範囲にとどまったいたからだろう。
このように安倍首相の「強い言葉」が詭弁の性格を持ったものであったことと、「強い言葉」で掲げてきた政治思想・政策が自民党の参院選総括委員会が大敗の主たる一因に位置づけていたように「民意とズレ」ていたとしていることから判断できることは、問題とすべきは「言葉」の強弱ではなく、自らの「言葉」が国民に対する約束となり得るかどうか(=民意とズレていないかどうか)の合理的・客観的な認識能力と約束したことを実効化し得る実施能力の有無であろう。
そのためには具体性を持った必要性とより明確な成果の見通しを前後に配置した政策の「言葉」を提示・発信すべきで、それができてこそ浜矩子・同志社大教授が言う外国語に翻訳可能ともなり、「知的緊張感」を備え得た「メディ時代の宰相の条件」に当てはまる言語能力ということではないだろうか。
麻生太郎の「今ほど日本が危機に臨んで強い指導者を必要としている時はない。安定した指導者ではない」といった言葉を聞くと、それを必要とする説明も、「強い指導者」であることを限定した可能性(「安定した指導者」には望めない可能性)の説明もなく、前後を省いて必要、必要とのみ言っているように聞こえる。大体が「強さ」だけを求めて、参議院民主党第一党という現実を乗り切ることができるのだろうか。どう見ても参議院の現実を視野に入れていない口先だけで終わる言葉にしか思えない。
安倍首相の言葉と同じ口先だけという運命を辿るのではないかという疑いである。
とすると、安倍首相を継ぐ総理・総裁としての必要資質は小泉・安倍改革が遺産とした各種格差の是正や年金記録問題及び政治とカネの問題等の解決のみにとどまらず、自民党の参院選総括委員会が敗因理由として掲げた「安倍首相の政権運営が国民の目線に沿っていなかった」ことや「安倍首相の政策優先順位が民意とズレていた」とする問題点を教訓として、それを反面教師に自らの政治姿勢を構築することで、安倍首相の二の舞となりかねない「強い言葉」などではないことに気づくべきところを気づいていないとは、安倍内閣で外務大臣・幹事長と要職に就きながら、何も学習していないことを見事に物語っている。
かくも学習能力なき政治家・麻生太郎こそが次の総理・総裁にふさわしいキャラだと確実に言える。
拉致問題でも麻生太郎は安倍首相と同レベルの詭弁を用いている。「圧力がなければ対話に行かないということは経験則でかなり出てきた。日本のこの数年間の対応は決して間違っていなかった」と「圧力と対話」方式でも「圧力」優先を口にしていたが、昨日のテレビでは「拉致された方が帰ってきたが、残念ながらその後の進展がない」とする福田康夫に対して、「拉致被害者が取り残されているが、後退したわけではない」と反論している。
この約1年、対北朝鮮強硬外交の安倍首相のもとで外務大臣を務めていたのだから、自らの職務上否定するわけにはいかない肯定論のぶち上げという側面もあるだろうが、拉致被害者5人が帰国してらほぼ5年が経過している。その家族が帰国してから3年。これは当然の帰結事項で、これさえも解決できなかったなら(人道支援名目の25万トンの食糧及び1000万ドル相当の医薬品の無償供与を手土産の交換条件としている)、日本の外交はあってもなきに等しい無能外交となる。
だが、彼ら以外の拉致被害者に関しては何ら進展状況にない、膠着状態のままだということは、そこに5年の年月の経過を計算に入れると、5年間手をこまねいていたわけではない、5年間外交手段を講じているのである。当然何らかの進展を見ていもいい5年間のはずで、プラス(=進展)があって然るべき5年後の現在の地点から小泉第一次訪朝の02年の地点まで遡って、その間の成果を他の拉致被害者に限ってゼロと見た場合、プラスからゼロへと後退していると見ることができる。いや、外交問題を扱っていた麻生太郎に関して言えば、厳しい目で後退と見なければならないだろう。
5年という時間の流れを見た場合、先に進まず同じ場所にとどまっているということは後退そのものであろう。日本の対北朝鮮外交が如何に無力だったか、そのことの証明以外の何ものでもない。
5年間、あるべき進展から何もない後退状況にありながら、そういったことへの視点もなく、「拉致被害者が取り残されているが後退したわけではない」と成果がないにも関わらず対北朝鮮外交を正当化しているようにも聞こえることを正々堂々と言っている。これを以て詭弁と言わずに何と表現したらいいだろうか。
民主党が政権交代を果たすためにも、「強い指導者」・「強い言葉を発する首相」を理想の宰相像とする詭弁キャラ・麻生太郎こそ、キャラが立ち過ぎて古い自民党には評判は悪くても、日本の次期総理・総裁に似つかわしい人物とすべきだろう。
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