「戦後50周年の終戦記念日にあたって」(いわゆる村山談話)より抜粋
昨日(2014年3月3日)午後の参議院予算委で那谷屋正義(なたにや まさよし)民主党議員が「村山談話」の一部分を抜粋したパネルを示して、その部分の歴史認識について安倍晋三に質問した。下線は赤色となっている。
いま、戦後50周年の節目に当たり、われわれが銘記すべきことは、来し方を訪ねて歴史の教訓に学び、未来を臨んで、人類社会の平和と繁栄への道を誤らないことであります。
わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。
私は、未来に誤ち無からしめんとするが故に、疑うべくもないこの歴史の事実を謙虚に受け止め、ここにあらためて痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明いたします。また、この歴史がもたらした内外すべての犠牲者に深い哀悼の念を捧げます。
先に質問の主眼を言うと、「村山談話」が、〈わが国は、遠くない 過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。〉と言っているところの「植民地支配と侵略」 を日本は侵したと歴史認識しているかどうかの追及である。
那谷屋議員「昨年11月の参議院の外交防衛委員会で我が会派の白眞勲(はく しんくん)議員への答弁でですね、この岸田アジア外交の真骨頂として村山談話をしっかり継承する意志を、まあ、明確にされたのではないかと思っておりますが、そのように理解してよろしいでしょうか。外務大臣、お願いします」
岸田外相「いわゆる歴史認識につきましては、累次申し上げておりますが、えー、『我が国は過去、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対しまして、多大の損害、そして苦痛を与えてきた』
こうした認識に於いては、安部内閣は同じであり、えー、歴代内閣を、立場を引き継いでいます。そして、これも度々申し上げておりますように、 えー、この我が内閣としましては、ま、歴代内閣を、歴史認識全体を引き継いでおります。
ま、こういった立場に立って、ご指摘の昨年の参議院外務安全保障委員会、あるいは他の委員会に於いても、答弁をさせて頂いている次第であります」
岸田は安部内閣として歴史認識全体を引き継いでいるとは言っているが、日本の戦前の戦争が「植民地支配と侵略」であったと、直接的に言及しているわけではない。過去に於いて多大の損害と苦痛を与えたと言ったに過ぎない。
だが、那谷屋議員はそうとは解釈しなかった。
那谷屋議員「つまり、この談話をしっかりと継承するという意志と、本当に理解してよろしいでしょうか。イエスかノーかで」
岸田外相「えー、歴代内閣の歴史認識全体を引き継いでいるわけですので、その中の一つの歴史認識、あるいはその一部分を当然引き継いでいると認識しております」
「その中の一つの歴史認識、あるいはその一部分」とは、当然、日本の戦前の戦争が「植民地支配と侵略」だったとしていることを指すはずだ。だが、「その中の一つの歴史認識、あるいはその一部分を当然引き継いでいると認識しております」と言いはするが、安倍晋三と同様に日本の戦前の戦争が「植民地支配と侵略だった」とは決して言わない。
いわば間接的・婉曲的言い回しで片付けている。ここが歴史修正主義者安倍晋三とその一派の歴史認識の胡散臭いところである。
那谷屋議員「それではパネルの方にありますけれども、赤い線、そして黄色く塗った部分ですけれども、『わが国は、遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって』ここまで黄色の部分。
『多くの国々、と りわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました』という部分でございます。
えー総理、色々な場面で質問があったときですね、総理は『わが国は』から黄色い部分を省略されて、『かつて』というふうに言葉を置き替えられております。そして『多くの国々、とりわけ』云々というふうに言われているわけですけれども、今の外務大臣の答弁を踏まえてですね、総理の同じであるというふうに認識してよろしいでしょうか」
那谷屋議員が安倍晋三が「『わが国は』から黄色い部分を省略されて、『かつて』というふうに言葉を置き替え」たと言っていることは、2013年5月23日都内開催の第19回国際交流会議「アジアの未来」晩餐会での安倍晋三のスピーチ等を指すのだろう。
安倍晋三「わが国は、かつて、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対し、多大の損害と、苦痛を与えました。そのことに対する痛切な反省が、戦後日本の原点でした」
村山談話の「わが国は」以下の「遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって」までの文言を省略して、「かつて」という言葉に置き替えことを国会で何度か追及されたとして追及しているのだろう。
安倍晋三「ま、これは、その累次、答弁させて頂いておりますように、累次の機会に申し上げてきたとおりでありますが、『我が国が多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対しまして、多大の損害、そして苦痛を与えてきた』、その認識に於いては安部内閣としても同じであり、これまでの歴代内閣の立場を引き継いでいるわけであります。
戦後我が国は深刻な反省の上に立って、自由で民主的で基本的人権や法の支配を尊ぶ国を造り、戦後の68年に亘り平和国家として歩んできた。この歩みは今も変わらない。
これが累次申し上げてきた私の考えであります」
那谷屋正義議員「累次考えられたことじゃなくて、そこのですね、『かつて』と言われたんですが、ここに書いてある『遠くない 過去の一時期、国策を誤り』云々、ここの同じ認識だと考えてよろしいでしょうか」
なぜもっと端的に、「日本の戦前の戦争は植民地支配と侵略だったと歴史認識しているのかどうなのか」と追及できないのだろうか。
安倍晋三「今申し上げたとおりですね、これまでの歴代内閣の立場を引き継いでいるわけであります」
那谷屋議員「まあ、この際ですから、『かつて』と言われたんですから、そうじゃなくて、この黄色い部分を含めて、どういうふうなことか、ちょっと言って頂くと、なる程なと思うのですけど、如何ですか」
まわりくどいだけで、的を得ない、曖昧な言い方に終始している。村山談話が「遠くない過去の一時期、国策を誤り、戦争への道を歩んで国民を存亡の危機に陥れ、植民地支配と侵略によって」云々と言っている部分を省略して、「かつて」という言葉に置き替えたが、なぜ省略したのかと単刀直入に質問できないのだろうか。
「省いたままなら、村山談話の歴史認識を引き継いでいることにはならない」と。
安倍晋三「あの、今まで、これは何回も、答弁させて頂いていますが、この答弁で確定させて頂いているわけでありますが、えー、誤解があるといけませんので、フクチョウ(としか聞こえなかった。「復唱」のことか?)させて頂きますと、安部内閣としてはですね、侵略や植民地支配を否定してきたことは、勿論、一度もないわけでありまして、その上に於いて、累次の機会に申し上げてきたとおりですね、『わが国は、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた』、その認識に於いては、安部内閣としても同じであり、これまでの歴代内閣の立場を引き継いでいるということであります」
与野党委員が一人ずつ委員長席に近づいて、何か話しかけている間中断。片山さつきが近づく。すぐに再開。
那谷屋議員「一度言った答弁は変えられないという、まあ、堅い話があるのかもしれませんが、しかし外務大臣がその都度質問によって変えられたんです、委員会の中で(岸田外相が自席で否定するよう首を振り、苦笑いする。)。そして最初はですね、今みたいな感じで全体を踏襲するというふうに言われた。
いや、議事録を見て頂ければ、お分かりになると思いますけど。その中で最後の最後までですね、黄色い部分についてもしっかりと踏襲するんですねと、いうお話をしたときに、全体的にも部分的にも踏襲するというお答を頂いたわけです。
この黄色い部分も踏襲するということを是非、あの、するんであれば、答えて頂ければと思います」
言葉の使い方に首を傾げたくなる個所がいくつかある。那谷屋議員は岸田外相が「侵略や植民地支配」という言葉を使わないで、「歴史認識全体を引き継いでいる」と言い、「その中の一つ」、「一部分」を引き継いでいると言うことで、明らかに曖昧さを残している。
安倍晋三「岸田外務大臣は勿論、安部内閣の一員としての、外務大臣としての答弁をしているわけでございます。そして、ま、この、答弁、として、今まで、いわば事実上確定している、安部内閣の答弁としては、この問題について確定をしておりますので、もう一度、お答えさせて頂きますと、安部内閣として、侵略や植民地支配を否定してきたことは一度もないということでございます。
累次の機会に申し上げてきたとおり、『わが国はかつて、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えてきた』、その認識に於いては、安部内閣としても同じであり、これまでの歴代内閣の立場を引き継いでいる。
戦後我が国はこの深刻な反省の上に立って、自由で民主的で基本的人権や法の支配を尊ぶ国を造り、戦後の68年に亘り平和国家として歩んできた。この歩みは今も変わらない、であります」
那谷屋議員「まあ、あの、黄色い部分を『かつて』というふうに要約されたのかな、というふうに理解をしますけども、要約していい部分と悪い部分があると思うんです。あれだけ立派な見解をお持ちなんですから、ここんところを一字一句しっかりと入れて頂くことは、私は大事だということを指摘して置きたいと思います」
安倍晋三の靖国神社参拝問題に移る。
安倍晋三は「村山談話」が認めている「植民地支配と侵略」を要約したわけではなく、無視したに過ぎない。勿論、安倍晋三自身、日本の戦前の戦争を「植民地支配と侵略」を目的としたものだと認めていなからに他ならない。
那谷屋議員は「あれだけ立派な見解をお持ちなんですから」と、盗人に追い銭みたいな賛辞を安倍晋三に贈っているが、その見解とは、「戦後我が国は深刻な反省の上に立って、自由で民主的で基本的人権や法の支配を尊ぶ国を造り、戦後の68年に亘り平和国家として歩んできた。この歩みは今も変わらない」と言っていることを指す。
だが、「植民地支配と侵略」を認めていない上での見解であるなら、見せかけの「立派」となる。
安倍晋三は「安部内閣として、侵略や植民地支配を否定してきたことは一度もない」と二度言い、安部内閣としての確定した歴史認識だとしているが、否定しない=肯定とは限らない。
自身の妻を、「美しくはないと、その容貌を否定したことは一度もない」としても、「美しい」と肯定したことがなければ、決して否しない定=肯定とはならない。
安倍晋三が言っている「否定してきたことは一度もない」が事実だとしても、戦前の日本の戦争を「侵略と植民地支配を目的とした戦争だった」と認めることで、肯定することもしていない。肯定はしない否定に過ぎない。
ここが侵略と植民地支配を明確に肯定している「村山談話」と歴史認識を180度異にしている、見逃してはならない点である。
要するに歴史修正主義者安倍晋三の「侵略や植民地支配を否定してきたことは一度もない」は、肯定しないための狡賢い言葉の詐術――狡猾なレトリックに過ぎない。
安倍晋三が「侵略や植民地支配を一度も否定してきたことはない」と答弁したなら、「では、侵略や植民地支配だったということを肯定するということなのか」と単刀直入、シンプルに再質問すればいいものを、聞くことすらしない。
ムダな言葉ばかり使っている。ムダな言葉遣いは税金のムダ遣いに他ならない。
安倍晋三は歴史修正主義者・戦前の日本回帰主義者である。日本の戦前の戦争を侵略と植民地支配だったと認めるようなことは決してしない。靖国神社参拝にしても、「お国のために戦い、尊い命を犠牲にされた兵士に尊崇の念を捧げる」と、兵士の命の犠牲を尊いとする以上、兵士が自身の尊い命を捧げる対象とした戦前日本国家をも価値ある国家だと、兵士の尊い命の犠牲と等価値としなければ、安倍晋三が口実としている参拝は成り立たないことになり、参拝という儀式自体に侵略と植民地支配否定を秘めていると見なければならない。