菅首相は常に危機管理を問われるということが頭に入っていなかった

2010-11-26 08:36:01 | Weblog

 昨日(2010年11月25日)のブログ記事で菅首相指示の朝鮮学校無償化プロセスの一旦停止が無償化に強硬反対の自民党と姿勢を同じにすることができることから、無償化についての追及を国会で受けなくて済むメリットがあり、そのことを狙った自民党に対する阿(おもね)りではないかと書いたが、昨日自民党の山本一太議員から、一旦停止の理由を逆に追及され、菅首相は「北朝鮮による砲撃の中で総合的に考えて指示した」としか答えることができず、山本議員から、答えになっていない、ブレている、一貫性がない、定見がないと散々に批判されていた。

 理由にもならない理由で以て制裁にもならないことを制裁として持ち出したのだから、一旦停止から完全停止へと持っていきたい何らかの作為があったはずだが、再開について追及を受けて「推移をみて判断する」と答弁したことから判断すると、制裁にならないまま、何のための一旦停止だったんだと疑問を投げかけられながらの再開というブレを再び見せるかもしれない。

 菅首相昨25日(2010年11月)の参院予算委員会でも官邸でのぶら下がり記者会見でも、北朝鮮砲撃事件に対して「迅速な対応がしっかり取れてきた」と、自身の初動対応に間違いがないことを言っている。

 予算委員会で初動の遅れ、危機管理の甘さを問い質した野党の激しい追及への否定であり、自身の行動を正しいとする肯定となっている。

 菅首相が言っているとおりだとは多くが信用していないに違いない。11月13日の横浜APECでの22分間の胡錦涛国家主席との日中首脳会談で、菅首相は「日中の首脳会談は、尖閣列島は我が国固有の領土であって、この地域に領土問題は存在しないという基本的立場を明確に伝えた」と言っているが、胡錦涛主席が菅首相が伝えた日本側の基本的な立場を受け入れたのか、反論したのかの反応を一切伝えていない。

 この菅首相の無発言は福山官房副長官の発言と相互対応し合っている。

 福山官房副長官(胡主席の反応を含め、会談の詳細について)「外交上の理由から差し控えたい」(asahi.com

 つまり両者とも秘密にして置くという点で姿勢を一致させ、その秘密を守り合うこととなった。

 菅首相が明らかにしたことは、「戦略的互恵関係を確認し合い、改めて私の就任時の6月に戻すという、そういうことを実現することができた」と完全な関係修復への確約であった。

 だが、国民に隠さなければならない秘密を抱えた確約なるものは真の確約とは言えず、矛盾以外の何ものでもない。領土問題を腫れ物として扱い、そのような扱いの上に戦略的互恵関係を築いていく方策を優先させたということなのだろう。

 腫れ物として扱ったなら、「尖閣列島は我が国固有の領土であって、この地域に領土問題は存在しないという基本的立場を明確に伝えた」などと自身に都合がいいことだけを言うべきではないだろう。「領土問題では中国は中国の立場を変えなかったが、戦略的互恵関係を築いていくという点では合意することができた」と事実を言うべきだろう。

 隠すということはそこに何らかのウソがあるということに他ならない。ウソを行うことと言い換えることもできるはずだ。だが、日ロ首脳会談でも抱えたウソを当の会談相手であるメドベージェフ大統領によって暴露させられることとなった。

 菅首相は日ロ首脳会談でメドベージェフ大統領に対して、「大統領の国後島訪問は我が国の立場、日本国民の感情から受け入れられない」と抗議したと言い、「ロシアとは領土問題の解決と経済協力について、2つのフィールドで話し合おうということで合意した」と会談後に明らかにしていたが、メドベージェフ大統領は会談後に自身のツイッターに「日本の首相に会い、解決できない論争より経済協力の方が有益だと伝えた」(47NEWS)と投稿している。

 メドベージェフ大統領は領土問題についての話し合いを「解決できない論争」だと看做し、そのような論争への拒絶反応を会談で示した。この拒絶反応は菅首相が言う「合意」とは言えない代物であるにも関わらず、「2つのフィールド」の一つに入れて菅首相は「合意した」とした。

 メドベージェフ大統領のツイッターの発言を補強するロシア側の立場を伝えている記事がある。「asahi.com」が紹介している。《北方領土「方針転換、2島返還交渉しない」ロシア紙報道》(010年11月16日7時17分)

 ロシアの有力紙コメルサントの11月15日付の記事で、横浜APECロシア代表団の消息筋の話としての報道となっている。〈ロシアは北方領土をめぐる交渉方針を転換し、歯舞・色丹の2島引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言に基づいた交渉はもう行わない、と報じた。〉としている。

 さらに伝えている。〈領土問題は今年、決定的に行き詰まったと指摘。同筋は、プーチン政権時代は日ソ共同宣言に基づいて平和条約締結後に2島を引き渡す用意があったが、今はロシアの立場は変わったとし、表向きは同宣言を拒否していなくても、もう協議する余地はないとしている。〉

 消息筋「日本側はこの問題をある種アニメ的に見ている。我々がまず2島を、さらに4島すべてを引き渡したいと考えたようだが、これらの島はロシア領というのが今の我々の立場だ」

 会談で展開された会話の事実を隠して国民の目に秘密とし、領土問題の話し合いがさも進むかのようなウソの発表で以て誤魔化した。

 首相就任前の発言と異なる主義主張や行動が明示していたことだが、菅首相は既に“オオカミ首相”の人物像をほぼ確立しつつある。自らが築いてきた“オオカミ首相”像なのである。この人物像を確立することとなった前科・前例に照らすと、北朝鮮砲撃事件に対する初動対応が「迅速な対応がしっかり取れてきた」は端からなかなかに信用できない。

 初動対応不信の野党追及の材料となった菅首相の行動を見てみる。

 菅首相は最初砲撃を「報道で知った」と発言している。報道で知った後、3時半頃、秘書官が連絡してきたと。だが、この「報道で知った」を翌24日になって、総理サイドが「外交ルートを通じて担当秘書官から午後3時半ごろ一報が入り、総理がテレビをつけたらニュースでやっていた」(TBS)と訂正している。

 以後、この訂正の線に添って菅首相は国会でも記者会見でも発言している。

 23日の記者会見で菅首相は次のように発言しているのである。

 菅首相「報道で、北朝鮮が韓国の島に砲撃を加え、それに対して韓国軍も応戦したという報道があり、私にも、3時半ごろに秘書官を通して連絡がありました。公邸におりましたので公邸でいろいろ情報を聞いておりましたが、先ほど官邸に移って関係者を集めて官房長官とも連絡を取り、官房長官にも来てもらいました」(asahi.com

 もし秘書官の第一報が事実なら、例えそれが直接の伝達であろうと電話による伝達であろうと、報道を第一報とする記憶間違いを起す神経の緩みを発症していたわけではあるまい。第一報に対しては第二報に対してよりもより強い驚きの感情が伴ったはずで、その驚きの強さに対応してより強い記憶として頭に残るはずだからだ。

 同じウソをつくなら、報道で知ったことを秘書官の連絡で知ったことにすべきだったろう。

 このウソの経緯から窺うことができる事実は、菅首相は立場上、常に危機管理が問われるということを頭に入れていなかったという事実である。頭に入れていたなら、報道で知ろうが何で知ろうが、以後迅速な行動を取ることができたはずである。

 野党時代、地震や豪雨災害等で自民党政権の危機管理とその初動対応を常に追及してきたはずである。民主党政権になってからも口蹄疫問題や尖閣問題で危機管理とその初動対応の追及を受けてきた。だが、何ら学習できず、国民の生命財産を守ることを目的とした危機管理対応が政権担当能力の一つとして大きく占めていることを記憶していなかった。

 菅首相は砲撃から1時間半後の3時半頃秘書官から第一報を受けたのち、4時半過ぎから公邸で民主党の斎藤勁国対委員長代理と30分以上会談している。

 相手は代理の立場で国会対策を役目としている人物である。当然、話題は国会対策についてと受け止めるのが常識である。野党から国会でこの点を追及されると、砲撃事件について話し合ったと言っている。

 だが、常に危機管理が問われる立場にあるという政権担当上の危機感を頭に入れていなかったことは確実であることからすると、この危機管理意識のなさの延長上の国対委員長代理との会談と見るべきであろう。

 北朝鮮の砲撃を受けて民主党の与野党を超えて対応する必要があるとの呼びかけで24日午後4時から国会内で与野党党首会談が開催されている。野党側が対応遅れを批判すると、菅首相は「休日だったので集まるのが遅れた」(テレビ朝日)と釈明したという。

 災害・事故は曜日を選ばずに発生する。このことは一般的常識であろう。野党がこの釈明にどう批判したかしなかったのか記事は書いていないが、理由にならない理由を挙げて釈明したということにとどまらず、常に危機管理が問われる立場にあるという政権担当責任者の常識を頭に入れていなかったばかりか、一般常識さえ一般常識としていない危機管理意識しか備えていなかったことを示している。 

 「休日だったので集まるのが遅れた」やその他の非常識のすべては基本に据えておかなければならない常に危機管理が問われる立場にあるという政権担当上の危機感を頭に入れていなかった非常識から派生的に発生することとなっている諸々の非常識であろう。

 この非常識のメカニズムが他の閣僚の今回の危機管理態度にも及んでいる。

 以上見てきたことからして、菅首相の「迅速な対応がしっかり取れてきた」のこの肯定は事実に反して国民を誤魔化し、自己の危機管理対応無能力を正当化するだけの肯定に過ぎないと断言して間違いないと言える。



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