今年6月17日午前1時半頃、静岡県の伊豆半島沖でアメリカ海軍横須賀基地配備のイージス駆逐艦「フィッツジェラルド」の乗組員7人が死亡するフィリピン船籍のコンテナ船との衝突事故が起きた。
このような事故は一般的にはレーダー監視も含めて見張員の問題であるはずだ。適切に周囲を見張って、近くに船影を発見すれば、操舵手に注意を促す。
ところが米海軍は8月17日に事故当時見張りに就いていた乗組員約10人の処分だけではなく、艦長・副艦長・上級下士官3人の解任を発表した。
解任にまで発展させなければならなかったということは指揮命令に関して重大な欠陥があったことを示す。いわば部下は規則通りに行動せず、艦長・副艦長・上級下士官の3人は部下を規則通りに行動させる統率力を欠いていたことを意味する。
「CNN」記事は、衝突の発生時、艦長と副艦長は共に就寝中で、上級下士官はブリッジを離れていたと伝えている。
ここで問題となるのは、ブリッジ(軍艦中央部の展望を兼ねた指揮所)を離れていた上級下士官ということになる。衝突時、居るべき場所に居なかった。
艦長と副艦長は上級下士官に対してその規則を守らせることができていなかった。あるいは艦長がブリッジで指揮を取っていないときは副艦長が、副艦長が指揮を取っていないときは艦長が指揮を取って、上級下士官の一人がその補佐を務める規則になっていたが、艦長と副艦長が共に就寝していた上に下士官もブリッジを離れたいた三人揃った規則違反が規律違反に問われたということだろうか。
7人も死者を出したのは事故が夜間で、衝突箇所近くで寝ていた乗組員が浸水や衝突の衝撃で殆ど逃げる暇がなかったからのようだ。要するに衝突するまで気づかなかったことが死者を多くしたことになる。
甲板にいた乗組員がコンテナ船に気付いたときには既に衝突を回避する時間がなかったということだが、上記CNN記事は艦長が衝突前に警報が鳴っていなかった可能性を示唆したと伝えている。
要するに誰かに伝える暇もない程に接近した状態でコンテナ船に気づいた。
この怠慢が就寝中の乗組員に衝突するまで気づかせることができなかった原因となり、7人も死者を出した原因となった。
モラン米海軍作戦副部長(国防総省での会見)「事故原因の調査は終了していないが、(フィッツジェラルドが所属する)第7艦隊のアーコイン司令官は、艦長をはじめとする乗組員が深刻なミスを犯したと認定するだけの証拠があると判断した。艦を率いる能力に対する信頼を失った」
解任という思い切った処罰である程、何よりも艦長自身の「艦を率いる能力」――統率力の欠如の重大さを物語ることになる。そして事故当時見張りに就いていた乗組員約10人に対する一人や二人ではない余りにも多人数な処分。
この関係性から浮かんでくる状況は統率力のない兵士を艦長という重職に就けるということはないだろうから、乗組員の規律の無さに艦長の統率力が及ばなかったか、艦長が何らかの理由で統率力を失ったがために、それに応じて乗組員も規律を失っていったか、いずれかになる。
但し人間は何らかの役目を負っている以上、能力に差はあっても、役目上の規則に応じた行動を取るという習性は保持している。
この習性を自分から損なうよくある原因の一つに飲酒がある。一般社会に於いては一般的には昼と夜の区別をつけて、役目から離れた夜の時間内に翌日の役目に差し障りのない範囲内での飲酒は許されているし、そのことを守っていさえすれば、上記習性は守られていく。
もし艦内で飲酒が禁止されていたとしたら、そのことに反して密かに酒類を持ち込み、隠れて飲酒していたとしたら、極めて規律に関する事柄となり、艦長等の上官の統率力に関わってくる。
あるいは少量の飲酒を許されていたとしても大量に飲む習慣が出来上がっていたとしたら、やはり規律と統率力の問題に帰す。
もし艦長も副艦長も部下と同様に飲酒を習慣としていて、そのことが指導力欠如の原因となり、部下の規律違反に繋がっていたとしたら・・・・
事実は全く異なるかもしれないが、衝突事故では一般的には見張りの問題であるにも関わらず、見張り担当の10人の乗組員の処分で終わらずに乗組員の規律の緩みを誘い出していたことになる統率力の問題として艦長・副艦長・上級下士官3人の解任にまで発展した処罰は飲酒抜きではなかなか考えることはできない。
この推測がゲスの勘繰りでしかなくても、人災であることに変わりはない。人災で7人の乗組員の命を失わせた。
何らかの組織内で引き起こされた事故の多くが人災を原因としている。指導力欠如、規律違反、油断、怠慢等々人間が生み出す過ちが事故を引き起こす。
イージス駆逐艦「フィッツジェラルド」の衝突事故も人災の例として記憶しておくべきだろう。