4月19日(2012年)、北九州市路上で福岡県警察本部の元警察官が嘱託勤務の市内病院に出勤途中、男に拳銃で狙撃され、重症を負った事件。元警察官は警官時代、指定暴力団工藤会の捜査担当をしていたことから、その報復と見て捜査しているとのこと。
松原国家公安委員長が4月21日、事件現場を視察した。いくつかの記事を見てみる。《国家公安委員長 元警官銃撃現場視察》(NHK NEWS WEB/2012年4月21日 12時10分)
〈福岡県などでは暴力団との関係を断とうとする企業が襲撃される事件や対立抗争によるとみられる発砲事件が相次いで〉いると解説、社会的に物騒な状況となっているようだ。
何のための事件現場視察かというと、捜査幹部から当時の状況などについて説明を受けるためだと書いてある。
松原国家公安委員長「こうした事件を抑止できず、検挙できないことにはじくじたる思いがある。警察が悪との戦いに全力で取り組んでほしいし、私としてもこうしたことが起きない社会を作るため法整備も含めて頑張ろうという思いを強くした」
この発言は国会提出中の改正暴力団対策法成立に全力を挙げて法整備を図る考えを示したものだと解説している。
要するに警察の全体的な対暴力団警戒態勢が法律の制約等により十分に機能していないことへの危惧を述べた発言ということになる。
《松原国家公安委員長が現場視察 北九州の元警官銃撃事件》(asahi.com/2012年4月21日13時49分)
〈松原委員長は午前8時20分頃現場に到着。北九州地区で暴力団捜査を担当する県警幹部から、元警部の広石保雄さん(61)が19日朝にバイクの男に銃撃された直後の様子や、薬莢(やっきょう)が落ちていた位置などの説明を受けた。〉
松原委員長(記者団に)「銃撃事件は法治国家の日本に対する挑戦。断固として許せない。事件を解決し、治安を回復していきたい」
この記事は「銃撃事件は法治国家の日本に対する挑戦」との発言を取り上げて、警察が暴力団と見ている狙撃組織の悪質性に重点を置いている。
以上二つの記事の発言を併せると、悪質化した暴力団に対して警察の対暴力団警戒態勢が法律の制約等を受けて機能していないことへの吐露となる。
だからこそ、国会提出中の改正暴力団対策法成立に全力を挙げ、法律の制約を排除、警察に対してより強力な武器となる新たな法律の後ろ盾を与えようということなのだろう。
このことと現地視察して銃撃直後の様子や薬莢落下位置等の説明を受けることとどう関係があるのだろうか。改正暴対法成立に全エネルギーを注入すれば済むことである。
顔見せ・存在感アピールのパフォーマンスということなのだろうか。
記事の次の解説が松原委員長の銃撃直後の様子や薬莢落下位置等の説明を受けた現地視察を見当違いの行為に見せる。
見当違いなら、顔見せ・存在感アピールのパフォーマンスに過ぎなかった現地視察ということになる。
〈広石さんは県警で約33年間、指定暴力団工藤会(本部・同市小倉北区)などの暴力団犯罪の捜査にあたった。県警は、工藤会から襲われる恐れがあるとして、退職後、自宅周辺などを警戒していた。〉・・・・・
県警が自宅周辺等を警戒していたにも関わらず、銃撃された。
ということなら、事件全体の様相が異なる姿を見せることになる。
県警による自宅周辺等の警戒は次の記事も伝えている。《退職前後から自宅周辺に暴力団員》(NHK NEWS WEB/2012年4月20日 14時54分)
記事を要約すると、元警部が退職する前に別の事件で工藤会の幹部の自宅を捜索した直後から、工藤会の暴力団員が自宅周辺にたびたび姿を現すようになり、退職後も続いた。
そのため警察は元警部の自宅周辺などをパトロールし、暴力団員を見つけた際は職務質問などをしていた。
記事は最後に、〈警察は、暴力団員が嫌がらせをしていたとみて、銃撃事件との関わりについても調べています。〉と解説しているが、嫌がらせと言うよりも、捜査から手を引け、引かなければ、どうなっても知らないぞという捜査妨害を意図した暗黙の威嚇行為であろう。
それが直接攻撃へと変じた。
このニュースをテレビで伝えたとき、近所の女性住人がインタビューを受けて、「元警部の自宅周辺にパトカーがいつもきていたから、何事なのだろうかと思っていたが、事件が起きて初めて納得した」といった趣旨のことを口にしていた。
自宅周辺のパトロールにはパトカーによるパトロールも含まれていたことが分かる。
だとすると、暴力団の悪質化を受けて警察の全体的な対暴力団警戒態勢が法律の制約等により十分に機能していないということよりも、これと思い定めた危機に対する管理(=危機管理)を満足に機能させることができなかった、法律とは直接的には無関係の警察の姿勢、あるいは能力の問題となる。
報復の恐れがあると警戒していたということなら、特に出勤途中、帰宅途中は特段に要警戒だったはずだ。相手は襲撃しやすい場所を比較的自由に選ぶことができる。出勤途中・帰宅途中は、今回は起きなかったが、無関係の第三者を巻き添えにする危険性を排除できない点も、要注意だったはずだ。
要するに警察の全体的な対暴力団警戒態勢が法律等の制約を受けて十分に機能していないといった点や国会提出中の改正暴力団対策法成立に全力を挙げるといったことよりも、それ以前の問題として警察の日常普段のより直接的な危機管理姿勢・危機管理能力を問題としなければならないことになる。
このことを問題としない現地視察は、やはり顔見せ・存在感アピールのパフォーマンスの疑いが濃くなる。
千葉県警習志野警察署がストーカー被害を受けていた女性の父親が被害届の提出に赴くと、「1週間待ってほしい」と提出を保留させて2泊3日の北海道旅行に出かけ、その間に女性の母親と祖母がストーカーによって殺害された事件も、習志野署担当者の危機管理姿勢・危機管理能力の欠如が招いた事件であろう。
特に市民の命を守るという強い意識を持った危機管理姿勢を全く備えていなかった。だから、「1週間待ってほしい」と言って、旅行を優先させることができた。市民の命よりも自分たちの旅行の愉しみだったわけである。
姿勢がなければ、能力は育たないし、仕事上、幾分かの能力を育てていたとしても、その能力さえ発揮不可能となる。
警察の捜査に於ける危機管理上の失態、あるいは不作為は全国的に発生している。例え法律を改正しても、警察の日常普段の危機管理姿勢・危機管理能力の不備を改めないことには、いわば使命感といった心がけを改めないことには、法律だけの変更に終わる気がしないでもない。
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