≪役員人事、総裁に一任=自民≫(時事通信/2007/08/24-12:51)
<自民党は24日午前、臨時の役員会と総務会を開き、党役員人事を安倍晋三首相(総裁)に一任することを決めた。中川秀直幹事長が「安倍総裁は新たな党の体制を構築する方針だ。役員の選任について総裁に一任してほしい」と提案し、了承された。新役員の任期は来年9月末までとなる。
外遊中の首相は25日夜に帰国後、人事に本格着手。27日午前に幹事長など新3役を決定し、直ちに内閣改造に踏み切る方針だ。>
党役員人事を安倍首相に一任する。閣僚人事は「派閥の推薦を受けない」、「わたし一人で決めなければいけないと思っている」ということだから、他からの要請によるものではなくても、少なくとも自分自身では「一任」の形式を取っている。
「一任」とは「物事の処理・決定をすべて任せること」(『大辞林』三省堂)ということだから、安心して任せることのできる能力――指導力や統治能力、求心力、人心掌握術、政策立案能力とそれを推進し具体化する実行力等を備えていることによって、「一任」は可能となる。
いわば自民党は安倍首相の指導力、統治能力、求心力、人心掌握術、創造的な政策立案能力等に信頼を置いていることを意味する。信頼が置けなければ、一任はできもしない相談だろうから。
同じ日の同じ総務会で「参院選の敗因を検証した参院選総括委員会(委員長・谷津義男選対総局長)の報告書を了承し」ている。それをSankei Webインターネット記事≪自民党 参院選総括を報告 首相の対応も指弾≫(07/08/24 12:28)から見てみる。
<自民党は24日午前の役員会と総務会で、参院選の敗因を検証した参院選総括委員会(委員長・谷津義男選対総局長)の報告書を了承した。報告書では、敗因を年金記録紛失問題、政治とカネの問題、閣僚不祥事の「逆風3点セット」への対応の不手際だったことを指摘。安倍晋三首相についても「不祥事の後手後手の対応と手ぬるい処分により、国民から指導力・統治能力に疑問を呈された」と指弾し、「国民の目線に沿った政権運営」を求めた。
役員会に先立ち、谷津氏は首相官邸を訪れ、首相あてに報告書を提出した。
報告書では「参院選後も支持率は低迷を続け、党は存立の危機に立っている」と分析。内閣の「論功行賞人事」や郵政造反組の復党問題などへの世間の批判にも触れ、「首相が永田町の政治家の側に立っているようなイメージを持たれた」とした。
また、「政策の優先順位が民意とずれていなかったか。『生活が第一』とした野党キャンペーンに主導権を奪われた」などと分析。党の再生に向けて、「地方や弱者が抱える痛みを解消するための将来展望を具体的に示す必要がある」と結論づけ、新たな支持層の獲得や、きめ細かく分かりやすい広報戦略の必要性を訴えた。
総括委は参院選直後から、党所属の国会議員や地方組織、有識者らから意見聴取を重ねてきた。ただ、報告書に対し、党内からは「近視眼的に問題点を羅列しただけで、具体的な打開策には乏しい」(中堅)など懐疑的な声もあがっている。>
記事に書いてある参院選自民大敗の原因を要約すると、
①年金記録紛失問題、政治とカネの問題、閣僚不祥事の「逆風3点セット」
への対応の不手際。
②不祥事の後手後手の対応と手ぬるい処分によって国民から安倍首相の指導
力・統治能力に疑問をもたれた。
③安倍首相の政権運営が国民の目線に沿っていなかった。
④安倍首相の政策優先順位が民意とズレていた。
⑤民意が求めていた都市と地方の格差、生活格差解消の政策を優先すべきだ
ったが、それを置き去りにした。
⑥「論功行賞」を基準とした閣僚起用や郵政造反組の復党等の人事が国民に
受け入れられなかった。
今後の対策として、国民の目線に立ち、民意が求める各種格差解消の具体的な政策を示して強力に推し進め、国民の将来展望に希望を与える。
政策優先順位の民意とのズレに関して読売インターネット記事≪自民の委員会が参院選総括「国民の側に立っていない印象」≫(07.8.24)は、安倍首相の<「美しい国」「戦後レジームからの脱却」の訴えは浸透せず>と、それが空振りに終わったことを報告書が挙げていることを伝えている。要するに独りよがりを演じていたと言うことだろう。
読売記事は内閣改造後の新閣僚への注文として、<「政治とカネ」の問題が起こった場合は、進んで説明責任を果たし、それができなければ、自ら辞職する覚悟を持つよう求めた。>としているが、注文は注文内容とは逆の事態にあったことを示すから、誰も<進んで説明責任を果たし>ていなかった、そのことは内閣の統括者でもある安倍首相が<進んで説明責任を果た>すことを求めなかったことも原因していた事態で、そのことが国民の納得を得られない一因となったと言うことだろう。
事実「首相は松岡氏が説明責任を果たしていると思うか」との岡田克也元民主党代表の質問に安倍首相は「法律の定めに従って説明を果たしたと私は理解している」などと〝注文内容〟とはズレた状況を演じている。ズレているから、それではいけないと注文が生じることになる。
いわば指導力不足、統治能力不足、人心掌握と人事管理能力の欠如を暗に指摘している。
「報告書」が全体を通して言わんとしていることは、内閣の長としての各閣僚に対する安倍首相の人事管理能力、統治能力、政策やその運営が破綻したときのそれを適正に処理する危機管理能力、あるいは政策修正能力、政治家として民意を読む(=国民の目線に立つ)政策感受能力、あるいは政策立案能力が欠如していたということだろう。いいとこなしである。
安倍首相はそもそもからして国家主義者だから、国民の目線に立ち、民意を読む能力に欠けているのは彼にしたら自然な姿で、そうだからこそ独りよがりに<「美しい国」「戦後レジームからの脱却」>をさも偉大な改革であるかのように振りかざすことができた。
最初に人事の「一任」は一任させる相手が指導力や統治能力、求心力、人心掌握術、政策立案能力とそれを推進し具体化する実行力等を備えていることによって可能となると言った。
しかし自民党参院選大敗の原因を検証した参院選総括委員会の報告書はそれらの能力がすべて不足していることを伝えている。そのような能力不足の人間に人事を「一任する」滑稽な逆説を犯している。「不祥事の後手後手の対応と手ぬるい処分により、国民から指導力・統治能力に疑問を呈された」人間に「一任」なのである。
いや実際は自分たちの逆説に気づいていて、政権維持の都合上、いわば政権を手放したくないから、安倍首相に指導力その他の能力があるように見せかけなければならない。そう見せかけるには「一任」という取り繕いが不可欠だからそういった体裁を取っているだけのことで、本心からの「一任」ではないということもある。
党役員人事は「一任」、閣僚人事は「派閥の推薦を受けない」、「わたし一人で決めなければいけないと思っている」とすることで、安倍首相の指導力その他の能力があるように装わせておいて、陰であれこれ人事や政策の優先順位に注文をつけて、「民意とずれない」ないようにコントロールしていく。
既に報告書の形を取って<「美しい国」「戦後レジームからの脱却」の訴え>が「民意とずれ」ていて不人気だったことを挙げて、優先順位をつけている。「論功行賞人事」はいけませんよと注文をつけている。幹事長が麻生でほぼ決定という状況下で、古賀派は幹事長に古賀誠をとぶち上げている。単なるアピールに過ぎないだろうが、アピールを許すということは現実には「一任」とは異なる状況にあるからで、「一任」が最初から破綻していることを示しているということだけではなく、それが体裁以外の何ものでもないことの証明でもあろう。
注文は今後とも続き、安倍首相は参院選大敗の代償として党からの様々な注文に乗らざるを得なくなるだろう。今回の参院選和歌山選挙区で当選を果たした「美しい国づくり」国民運動担当の世耕首相補佐官が<「街頭ではとても『美しい国』なんて言えませんでした」>と首相に「美しい国」の不人気を訴え、<「生活に密着した政策を打ち出し、憲法改正などとバランスを取るべきだ」と進言。神妙に聞き入っていたという首相は、参院選後は「美しい国」という言葉は口にしていない。>(07.8.3『朝日』朝刊≪「美しい国」私も言えませんでした 広報担当・世耕補佐官が苦言≫)と、早々に注文に乗った首相を演じている。
心(しん)もなく、注文には簡単に乗る首相だと既に足元を見られているに違いない。
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