安倍晋三の子どもの貧困対策は親の貧困を作っておいて支援する対処療法

2015-12-04 11:04:33 | 政治


 《子どもの貧困対策の推進に関する法律》が安倍政権下の2013年6月26日に施行されている。

 第1章総則 第1条で〈この法律は、子どもの将来がその生まれ育った環境によって左右されることのないよう、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備するとともに、教育の機会均等を図るため、子どもの貧困対策に関し、基本理念を定め、国等の責務を明らかにし、及び子どもの貧困対策の基本となる事項を定めることにより、子どもの貧困対策を総合的に推進することを目的とする。 〉と当法律の理念を述べている。

 それから約2年半、競艇の収益金を元に海洋船舶関連事業の支援や公益・福祉事業、国際協力事業を主に行なっている日本最大の資産規模を持つ公益財団法人であり、初代会長はマスメディアからは「右翼のドン」と呼ばれた笹川良一、現会長がその三男の笹川陽平である日本財団が、〈貧困状態にある子どもに教育などの支援を行わなかった場合、個人の所得が減る一方で、国の財政負担が増えることから、経済や国の財政に与えるマイナスの影響=「社会的損失」は、15歳の子どもの場合、4兆円に上る〉とする推計を公表したと各マスコミが伝えている。

 「NHK NEWS WEB」(2015年12月3日 17時07分)記事から見てみる。   

 現在貧困状態にある17歳以下の子どもの割合は国の推計で6人に1人。

 この6人に1人と言うのは《NHK時論公論 「待ったなし!子どもの貧困対策」》(2015年05月07日 (木) 午前0:00~)を参考にすると、国民の平均的な所得の半額値を言う「貧困ライン」以下の低所得の世帯に占める子どもの全子ども数に対する割合で、人数は約300万人、率にすると、16.3%、2012年の貧困ラインは122万円だという。

 但し母子家庭などの「ひとり親世帯」の子どもは2人に1人、貧困率は54.6%にも達するという。

 そしてこのような子供の貧困状態の背景には格差の拡大があると解説している。〈離婚などによるひとり親世帯の増加に加え、政府が規制緩和を進める中で、企業が正社員を減らし、賃金の低い非正規労働者を増やしてきたことが貧困率を押し上げている〉と。

 つまり政府が原因を作って、生じた結果に対して対策を講じているが、そういった対処療法がその結果に対しても満足に追いついていない構造を見ることになる。

 そもそもからして原因を作らないための原因療法が必要なのだが、それが疎かになっていることも一因となっているなかなか追いつくことができない状況でもあるはずだ。

 こういった子どもたちの深刻な状況を解決するために《子どもの貧困対策の推進に関する法律》を施行させたということなら、当然、原因療法に向かわなければならない責任を国は負ったことになるはずだ。

 調査対象は現在15歳の子どものうち生活保護世帯やひとり親家庭のおよそ18万人。

 調査は二つのケースを想定している。

 ・現状のまま進学や就職をした場合。

 ・学習支援などを行って高校や大学への進学率を貧困でない世帯と同じくらいにした場合。

 この二つのケースの場合、就職や所得がどのように変化するかを予測。

 ・現状のままの場合。

 正社員として就職する若者が9000人減。
 無職になる若者が4000人増。
 生涯所得2兆9000億円減。

 要するに後者のケースでは上記各数値が修正されてゼロに近づくことになる。

 この結果、税収や保険料の減少を招くことで生じる国の財政的負担は約1兆1000億円増。 

 経済や国家財政に与えるマイナスの影響としての全体的な「社会的損失」は所得の減少と国の財政負担の増加を合わせて4兆円に上ると推計。

 この調査は「社会的損失」の推計値として現れる膨大な金額を想定して、それを防ぐために社会的損失が現れる前段階でそれ相応の国家予算を注ぎ込んで、原因療法となる対策を打つべきだとの警告でもあろう。

 安倍晋三は「日本人の命と幸せな暮らしを守り抜く」と兼々宣言しているのである。
 
 《子どもの貧困対策の推進に関する法律》は「子ども等に対する教育の支援」、「生活の支援」、「就労の支援」、「経済的支援」等の施策を講ずることを定めている。

 ところが上記「NHK時論公論」記事によると、《子どもの貧困対策の推進に関する法律》の施行から1年2カ月後の2014年2カ月後の2014年8月29日、法律の具体的な対策として「子供の貧困対策に関する大綱について」を閣議決定しているが、大綱の決定が法律施行から1年以上も経過していること自体がどれ程の熱心度か窺うことができ、法律に規定した通りに対策の柱を「教育支援」、「生活支援」、「保護者の就労支援」、「経済的支援」の項目に置いたものの、実際には勉強が遅れがちな子どもへの学習支援など「教育支援」が中心で、貧困家庭の解消をめざす対策――いわば原因療法は殆ど盛り込まれず予算がつかなかったと解説している。

 つまり大綱で「貧困の連鎖を防ぐための幼児教育の無償化の推進及び幼児教育の質の向上」と題して、〈幼児期における質の高い教育を保障することは、将来の進学率の上昇や所得の増大をもたらすなど、経済的な格差を是正し、貧困を防ぐ有効な手立てであると考えられる。このため、全ての子供が安心して質の高い幼児教育を受けられるよう、「第2期教育振興基本計画」等に基づき、幼児教育の無償化に向けた取組を財源を確保しながら段階的に進める。〉と謳っていることは、子どもに教育支援を施して可能な限り大学教育まで受けさせて所得を保障しようという将来的な格差の是正策、いわば将来的な原因療法であって、それまでは現在の格差はそのままにして子供の教育支援は対処療法で行うという政策と言うことになる。

 しかも国の予算を使わずに、民間の資金を当てにしている。

 このような姿勢が2015年11月24日発表のGDPに占める教育機関への公的支出の割合は日本は2012年は3.5%、加盟国34か国のうちでスロバキアと並んで最下位というOECD調査に現れる一因ともなっているのだろう。

 当然、親たちの現在の格差に対する原因療法は対象外と言うことになる。

 対象外としていて、子どもたちに対する主として民間資金依存の将来的な原因療法でゆくゆくは格差は是正されていくのだろうか、甚だ疑問である。

 なぜなら、正規社員が減少し、非正規社員が増加している現実があるからだ。

 「日経電子版」によると、厚労省の2015年11月4日発表の調査で、非正規雇用の理由は「賃金の節約」が38.8%(前回調査-5ポイント)を占めて最多、「仕事の繁閑への対応」33.4%(前回-0.5ポイント)、「即戦力・能力ある人材の確保」31.1%(前回調査+6.6ポイント)となっている。 

 「賃金の節約」が前回調査よりも5ポイント減っているものの、人手不足から節約を言っていられないという事情もあるのだろうが、他の質問を併せて全体的に見ると、「仕事の繁閑への対応」33.4%は不景気になって仕事が暇になれば、非正規という地位にある以上、最初に人員整理の対象となるだろうし、「即戦力・能力ある人材の確保」にしても、同じ境遇に立たされない保証はない。

 しかも非正規の賃金が上がったと言っても、2014年の1年間の平均給与で見てみると、正規労働者が1.0%増の478万円、派遣社員などの非正規労働者が1.1%増の170万円と、たったの1.1%であり、正規社員の36%しかなく、しかも平均であるから、非正規社員が増加している状況下では平均以下の所得が多くを占めているはずである。

 このような格差の根を断つ原因療法を施さない限り、現在貧困ライン以下にある子どもたちに対する教育支援を行ったとしても、少なくない誰かが非正規社員の生け贄に合い、親から子への貧困の連鎖は続くことになるはずだ。

 安倍晋三は所得の嵩上げに熱心だが、そのおこべれがほんの僅かに非正規社員に届き、その一方で企業が非正規社員を増やして利益を上げることを許している。

 ここに親の格差・貧困の根を断つ原因療法に思い至らない背景があるはずだ。


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