なぜかくも政治家にはご都合主義が多いのか
5月末の各マスコミの内閣支持率世論調査で鳩山内閣は軒並み20%を切り、朝日新聞では17%の最悪状態を呈した。
これは「政治とカネ」の問題が響いたと言うよりも、何よりも普天間基地移設問題の迷走が招いた支持率の危険水域への突入であった。国民の多くから、その指導力に疑問符をつけられた。
内閣支持率低下と時を同じくして、民主党内では参議院側を中心として、これでは参院選が戦えないとの危機感から首相退陣論が表面化。輿石参議院幹事長を交えて、小沢幹事長と鳩山首相が会談を重ね、6月2日、民主党両院議員総会を開催して、鳩山首相は退陣を表明、特に「政治とカネ」の問題を抱えた小沢幹事長とW辞任となった。
そして6月4日、民主党代表選挙。菅副総理兼財務大臣が291票、対立候補の樽床衆議院環境委員長が129票。菅直人を新代表に選出。
そして主だったマスコミが早くも6月6日配信の朝刊で菅新内閣の世論調査を発表。「菅首相に期待」が60%前後から、60%半ばまで達し、民主党支持率も参院選比例区投票先も5ポイント前後から10ポイント前後の間にまでプラス回復した。これを以て、マスコミは「V字回復」と呼んだ。
要するに民主党にとっては参議院選挙を戦うには絶好の世論動向を示すに至った。勿論、野党は逆の状況に追い込まれた。野党は参院選を少しでも先延ばししたいがためにだろう、菅内閣の方針を質すとして全閣僚出席の予算委員会開催を要求、そのための日時獲得に会期延長を求めたが、民主党は拒否、会期延長が見送られ、6月16日に通常国会は150日間の会期を終えて閉会。
閉会後の臨時閣議で、やることが早いと言うべきか、参院選の24日公示、7月11日投開票の日程を決定。郵政改革法案の採決まで見送られるトバッチリを受けた国民新党代表、亀井静香郵政改革・金融相が「公党間で約束している法案をやった上で信を問うのは当たり前だ。そこから逃げ出して、『支持率が高いうちに選挙をやっちゃえ』なんて考える人は立候補する資格はない」と批判、抗議の大臣辞任のオマケ一騒動がついたが、民主党としては「支持率が高いうちに選挙をやっちゃえ」とばかりに、予算委開催拒否、会期延長拒否、郵政改革法案採決先送りで参院選に向けてひた走った。
ところが、通常国会閉会翌日の6月17日の民主党マニフェスト発表の記者会見で、菅首相が消費税増税発言。〈与党の立場上、消費税増税に関わる世論誘導の主導権を握らなければならない地位にいながら、〉と少し前のブログに書いたが、主導的立場を示さずに税率は「自民党10%案参考」発言。
早くもその効果が現れて、21日付の新聞世論調査では菅内閣は発足時の成果とした支持率回復を5ポイントから10ポイント近くの間に下げる新たな成果を打ち立てることになった。
NHKが6月18日から行った世論調査では、菅内閣を「支持する」と答えた有権者は先週の調査の61%から12ポイントも下がって49%、「支持しない」と答えた有権者は23%から6ポイント上昇の29%となっている。
それでも菅首相はめげなかった。参院選応援の街頭演説で消費税増税を訴えた。大阪市での街頭演説。
《各党党首 街頭で支持を訴え》(NHK/10年6月24日 12時22分)
菅総理大臣「日本経済を20年間低迷させてきたのは、まちがった政策によるもので、必ず経済を立て直し、日本を成長軌道に乗せていくことを約束する。財政再建には、第一がむだの削減、第二が並行して行う経済の強化だが、それだけで十分なのかという議論を行わなければならない。わたしが消費税を取り上げると、税金を上げることを言ったのでは応援できないと言われるが、毎年40兆円程度の国債を発行すると借金が増え続け、2~3年でギリシャのようになるという人もいる。それを避けるために自民党など他党との話し合いを呼びかけている。去年の政権交代以来、試行錯誤を繰り返してきたが、今度は危ういリーダーシップではなく、約束したことを実行できる力を与えてほしい」――
少なくとも消費税増税に向けた指導力を与党首相として発揮する意志を見せた。
そして参議院選挙の民主党の勝敗ラインについて菅首相は24日のNHK番組で次のように発言したと、《民主 勝敗ラインで駆け引き》(NHK/10年6月26日 6時47分)が伝えている。
菅首相「現有議席が54なので、それを超えることがまず目標であり、できるだけ大きく超えたい」
その上で、54議席以上を獲得できなくても総理大臣を直ちに辞任する考えはないことを明らかにしたと記事は書いている。
「勝敗ラインで駆け引き」の相手は小沢前幹事長と小沢派の高嶋参議院幹事長。
小沢前幹事長「政党である以上、政権を担うことが最大の目標なのだから、常に過半数が目標というのが筋道だ」
〈非改選を含め単独で過半数となる60議席を目指すべきだという考えを示〉したと記事は解説している。
高嶋「国会運営を考えれば、参議院選挙で単独過半数を目指すことは当然だ」
菅首相の「現有議席が54なので、それを超えることがまず目標であり、できるだけ大きく超えたい」は、半月少しの間で内閣支持率を下げた世論調査を受けた慎重さからきた発言なのは明らかではあるが、現有議席から「できるだけ大きく超えたい」と言ってはいるものの、「現有議席」の54に当選ラインの基準を置いている以上、責任の基準も54議席に準ずることとなる。54議席でも責任は回避できるし、55議席なら、1議席上回ったことになり、責任におつりがくる。
いわば小沢前幹事長の、多分に揺さぶりの意図が込められているように思えるにしても、「常に過半数が目標というのが筋道」からいくと、否応もなしに自身を安全地帯に置いた議席目標と看做さざるを得ない。高いところに目標を置いて、そこに達しなかった場合の自身に降りかかる責任を回避できる安全地帯に当初から自身を退避させたのである。
ここには選挙を戦い、議席を獲ち取るという内閣の責任者としての強い決意は見えない。見えるのは責任回避の自己保身のみである。だから、低いところに目標を置くことになった。
指導力は強い決意によって裏打ちされる。選挙での指導力を放棄したと言い換えることもできる。
そして25日夜、菅首相はG8出席のためカナダのトロントに向けて政府専用機で羽田空港を出発。《G8サミット:菅首相外交デビュー 日本の存在感回復に躍起》(毎日jp/2010年6月26日)によると、現地時間25日午前(日本時間同25日夜)、日本の参議院選挙についてカナダのハーパー首相と次のような遣り取りをしたと書いている。
菅首相「56議席を得ることで与党が過半数を確保できる。非常に厳しい戦いだが、全力を尽くす」
この与党過半数目標発言は、「現有議席が54なので、それを超えることがまず目標であり、できるだけ大きく超えたい」と言っていたことと1日程度で違えた発言となっている。しかも、「非常に厳しい戦いだが、全力を尽くす」と、言葉に強い決意を忍ばせている。
これは責任回避の自己保身を図るべく退避していた安全地帯から一歩踏み出し、より高いところに目標を置いてそれなりに率先して選挙を戦う決意を表した発言であり、指導力を打ち出そうとした意思の現われでもあろう。
だが、このそれなりの決意、指導力の発揮表明も2日程度しか続かなかった。「56議席を得ることで与党が過半数を確保できる。非常に厳しい戦いだが、全力を尽くす」とカナダのハーパー首相にに語ったのは現地時間25日午前(日本時間同25日夜)。約2日後の26日夜(日本時間27日昼)にカナダ・トロント市内のホテルで同行記者団と記者会見を開き、次のように発言している。
《菅首相:発言要旨》(毎日jp2010年6月28日)
菅首相「現有議席54をいかに確保し、それを超えていくことができるか。その考えは変わっていない。人事を尽くして天命を待つ気持ちで、人事を尽くすところに全力を挙げたい。(衆参がねじれた場合)政権運営上難しい状況で、その場合は他党ともいろんな形で話し合うことが必要になるだろう。(選挙後の内閣改造の可能性については)54を超えていけるよう全力を尽くす。それ以外は考えていない」――
当初の責任回避可能な安全地帯に自身を再び退避させる発言へと後退させている。カナダ首相に語った発言に秘めたそれなりの決意表明、指導力発揮意思は何だったのだろう。しかも過半数維持ができなかった場合を早くも想定して、「政権運営上難しい状況で、その場合は他党ともいろんな形で話し合うことが必要になるだろう」と早くも連立模索に走っている。
選挙情勢を見て、政権維持の危機管理から政権の滞りない運営維持のために計画上、連立、あるいは連携を模索するのは当然な動きだとしても、選挙中はあくまでも議席獲得に強い決意と指導力を示し、選挙の結果を見てから、過半数に達しなかった場合、連立、あるいは連携の模索にかかるべきを、選挙中から、連立・連携意思を見せている。
首相の決意や指導力が選挙の情勢に少なからず影響を与えるからだ。何ら影響を与えなくなった決意や指導力は国民から口先だけのものと足許を見透かされるに至っているからだろう。
また実際の話、選挙を終えてからではないと連立や連携に向けたどのような具体的な動きもできない。にも関わらず、前以て過半数割れの敗北を予想する。これは一種の敗北主義であろう。
カナダ首相に示した“56過半数確保”意思から、記者会見での「現有議席54」確保意思への回帰は、その2日の間に行われた日本の新聞の参院選情勢の世論調査が影響した豹変以外に理由を考えることはできない。
いずれの世論調査も、与党過半数微妙、50議席程度とか、50議席台前半と出している。
もしも世論調査結果からの回帰だとしたら、世論調査に振舞わされる首相という印象を拭うことはできない。世論調査を受けた回帰ではないとしても、2日程度で変わる発言のブレからは指導力を窺うことはできない。指導力が確固としていないから、発言がブレたり、世論調査に振り回されることになる。
上記「毎日jp」記事は触れていないが、同じカナダでの記者会見を扱った「NHK」記事――《首相“人事尽くし天命待つ”》(10年6月27日 14時47分) は菅首相の目標議席についての発言を次のように伝えている。
菅首相「わたしが代表に選ばれる前の段階では、民主党の置かれた状況はたいへん厳しかった。そうしたなかで、まず考えたのは現有の54議席をいかに確保して、それを超えていこうというもので、その考え方は今も変わっていない」――
この発言には狡猾なまでのゴマカシがある。
「現有議席54」に目標を置いたことの理由に鳩山前内閣末期の内閣支持率に置き、菅内閣発足時の内閣支持率V字回復、「支持率が高いうちに選挙をやっちゃえ」と野党要求の予算委開催拒否、会期延長拒否、国民新党要求の郵政改革法案採決先送りで通常国会を予定通りに閉会、参院選に向けてひた走ったものの、自身の消費税増税発言で折角V字回復した内閣支持率を後退させた途中の経緯をご都合主義にも一切省略している。
政治家というものは狡猾なご都合主義者ばかりに見えてくる。
この省略も自身に降りかかる責任を回避できる安全地帯に自らを置こうとする作為が働いた省略であろう。
このような作為からも、菅首相には指導力というものを感じ取ることはできない。
菅首相の連立模索意思に呼応したのか、枝野幹事長も27日夕方の都内での記者会見で同じ意思を示している。《“政策面で連携呼びかけたい”》(NHK/10年6月27日 21時24分)
枝野幹事長「参議院選挙が終わったら、民主党の議席数にかかわらず、政策が一致したり、近い部分では、どの党とも協力できるところは協力できるし、その流れになるように努力したい。・・・・少なくとも、みんなの党とは行政改革や公務員制度改革のかなりの部分で一致していると思う。政策的な判断としては、いっしょにやっていただけると思う」
「民主党の議席数にかかわらず」とは言っているが、過半数を割る可能性を考えた発言であろう。割らなければ必要ない発言だからだ。
選挙の結果が出ないうちの選挙中でありながら、過半数を割った場合の対策に取り掛かる。この首相にしてこの幹事長ありの相互対応した敗北主義と言える。
対してみんなの党渡辺代表の突き放した発言を記事は伝えている。
渡辺代表「みんなの党は、アジェンダ=政策課題が明確だ。民主党とどこが一致できるのか。みんなの党の重点アジェンダである公務員制度改革は、まるっきり別だし、郵政民営化も、われわれは完全民営化を主張している。民主党のマニフェストと全然違うので、どこがいっしょにできるのか教えてもらいたい」――
例え内心に連携の意思があったとしても、選挙終了後の情勢を見てから、国民に納得のいく説明を用意した上での連携となるだろう。そうでなければ、選挙前、選挙中の与党民主党批判がウソになる。
いわば、すべては選挙が終わって各党の議席獲得状況を見てからでないと、何事も始められない。何事も始まらない。にも関わらず、民主党は選挙中から始めている。
さらに国民新党下地幹事長の発言。
下地幹事長「今は与党で過半数を超える議席を得ることを目指すべきで、選挙後の連携のあり方を模索する時期ではない。そのような発言は過半数をとれないと認めるメッセージにもなるだけに、選挙戦を戦っている候補者にも失礼だ」
首相、幹事長とも、この程度の指導力しか見せることができない。後ろ向きの指導力と言ってもいい。何とも頼りない内閣ではないか。
このような民主党を支持した覚えはないが、私の支持など目もくれていないか。
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