杉田水脈の子どもを作らないことを生産性で解釈する人間存在への排除の論理以上に問題な二階俊博の姿勢

2018-07-26 09:25:36 | 政治

 2018年7月23日付「朝日デジタル」記事が、自民党衆院議員杉田水脈(みお―51歳)が7月18日発売の月刊「新潮45」に「『LGBT』支援の度が過ぎる」と題した一文を寄稿、〈「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」と行政による支援を疑問視〉、〈「『常識』や『普通であること』を見失っていく社会は『秩序』がなくなり、いずれ崩壊していくことにもなりかねません」などと主張した。〉と伝えている。

 記事は、〈人権意識を欠いた記述だと批判が上がっている。〉とし、自民党内の批判の声も紹介している。

 記事末尾で、〈杉田氏は2012年に初当選し、2期目。元次世代の党で、自民党が昨年の総選挙で比例中国ブロックに、比例単独候補としては最上位の17位で擁立した。〉と自民党(総裁安倍晋三)の厚遇ぶりを伝えている。

 このことは「Wikipedia」が「杉田水脈」の項目で紹介している2017年9月29日の櫻井よしこのツイッター投稿文、〈【速報】『杉田水脈氏、自民党から出馬』 「小池百合子、中山恭子から希望の党に来てくれと、猛烈なアッタクを受けたがそれを断り、自民党から出馬する事に。安倍さんが杉田氏は素晴らしいと。希望の党に希望を持つことができない。しっかりした自民党から出たいと、筋を通した」〉云々の安倍晋三の歓迎ぶりと対応する。

 先ず「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない」と言っていることの正当性を考えてみる。正当性ある主張なら、「税金を投入する」ことへの疑問も正当性ある主張と看做すことができる。

 杉田水脈が言っている「生産性」とは生きている上で世の中に役立って、様々な経済的価値を生むということを意味させているはずだ。

 経済的価値はたいして生まなくても、文化的価値を生む場合があるが、そのような価値は頭にはないのだろう。

 子どもを設けることができるか否かに「生産性」という言葉を当てて、その「生産性」の有無に人間存在としての価値の有無を置いている。いわば子どもを設けることができるか否かを「生産性」の全てとしている。

 子どもを設けることができなくても、そのことに取って代わって補う(生きている上で世の中に役立って、様々な経済的価値を生むことができる)何らかの「生産性」の存在を認めようとする度量はなく、人間存在に対する価値観を固定している。

 あるいは経済的価値は左程生むことができなくても、文化的価値をそれなりに周囲に与えるケースがあることは考慮に入れていない。

 「生産性」にしても多種・多様であり、人間存在に備わっている価値観も多種・多様と見る多様性への視点は杉田水脈の頭の中には影さえも宿していないようだ。

 このように「生産性」を基準とした価値観の固定=多様性の排除は自ずと人間排除の姿を取ることになる。一定を対象とした人間排除とは特定対象の人権の否定に他ならない。

 杉田水脈は、「日本国憲法 第3章国民の権利及び義務 第11条」の「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」、「世界人権宣言 第1条」の「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」の否定論者に位置していることになる。

 「日本国憲法」と「世界人権宣言」に従わなければならない国会議員が衆議院議員として2期も務めている。当然、国会議員の資格がないことになるが、このような杉田水脈を安倍晋三が歓迎し、厚遇したというのは皮肉な判断となる。

 上記「朝日デジタル」記事は自民党内でも批判が上がっていることを紹介しているが、自民党幹事長二階俊博は問題視しない考えを示したと各マスコミが伝えていたから、その記者会見のテキスト分を拾ってみた。

 「二階俊博幹事長記者会見」(自民党/2018年7月24日(火)10:41~10:55)

 記者「TBSです。自民党の杉田水脈議員が月刊誌に対する寄稿で、LGBTの当事者に対して次のように寄せられております。『LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるのか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』が無い』ということであります。

 一方で杉田議員は、生き辛さに係わることをクリアできれば、LGBTの方々にとって日本はかなり生きやすい社会になるとも述べているんですが、この発言に対して野党や自民党内から批判の声が上がっています。

 自民党内からは、生産性の無い人間などはいない、政治では無く、ただのヘイトだという主張を寄せる議員もおります。自民党の政権公約の中で、多様性を受け入れる社会の実現を図るということを公約にも掲げているということで、この発言に対して幹事長のご所見をお伺いしたいと思います」

 二階俊博「この当事者の方が社会・職場・学校の場で辛い思いや不利益を被ることの無いように多様性を受けて入れていく社会の実現を図るということが大事だと思っておりますから。そういうことに今後も努力をしていきたいと思っております」

 記者「TBSです。このような発言が上がるということになると、党としては多様性を認めるということを掲げている一方でこういう主張をするということで残念だという声も上がっているんですけれども、幹事長は率直にどのように、ご発言を受け止めますか」

 二階俊博「いろんな考え方の人がおりますからね、それを右から左まで各方面の人が集まって自由民主党は成り立っておると思っておりますから。こういう発言があったということは、そういう発言だということに理解をしていくということで進めて行きたいと思っております」

 記者「TBSです。なかなか案件をたくさん抱えていらっしゃる中で、考えの中には無いのかもしれないですけれども、杉田議員から直接、幹事長室としてお話を聞くという機会を設ける考えはありますでしょか」

 二階俊博「今のところは特別そういう考えは持っておりません」

 ――(中略)――

 記者「朝日新聞です。杉田議員の寄稿について、かつて他の政党に所属していらっしゃって、落選中も同様の発言等をされておりましたけれども、その後に自民党が公認候補として擁立した責任を問う声も出ておりますが、この辺について幹事長はどうお考えでしょうか」

 二階俊博「まぁ人それぞれ政治的立場は元より、いろんな人生観もありましょうし、いろんな変化があるわけで、元野党に所属しておって今自民党ということだって有り得るわけですから。別にそのことに大きな驚きを持っているわけではありません」

 要するに二階俊博は杉田水脈の月刊「新潮45」寄稿文に現れている、日本国憲法や世界人権宣言に反する特定の人間存在に対する多様性の排除、特定対象の人間排除、同じく特定対象の人権否定の思想そのものは何ら問おうとはしていない。

 但し内容に問題があることには気づいている。だから、杉田水脈の思想とバランスを取る意味で、「多様性を受けて入れていく社会の実現を図るということが大事だ」などと言って誤魔化している。

 思想そのものの問題点を問おうとする気持がないことは、「いろんな考え方の人がおりますからね」とか、特に朝日新聞記者が「落選中も同様の発言等をされておりましたけれども、その後に自民党が公認候補として擁立した責任を問う声も出ておりますが」の問に対して「まぁ人それぞれ政治的立場は元より、いろんな人生観もありましょうし」との発言で、国会議員の資格があるとは思えない杉田水脈の思想を自民党に数多くいる政治家の中の単なる一政治家の一考えに過ぎないとしている点に如実に現れている。

 つまり公認の際に強く推挙したと言うことで安倍晋三自身の人を見る観察眼が疑われたり、あるいは思想の親近性を疑われた場合、こういったことが内閣支持率に影響したり、安倍晋三の人格そのものの評価に繋がることを避ける意味から、問題視しない事勿れな選択をしたということなのだろう。

 海千山千の政治家だけのことはある。総裁選三選を狙う安倍晋三のために騒ぎ立てまいとする嗅覚が働いた。だが、二階俊博や安倍晋三側に自分たちだけが利益とするどういった事情があるにせよ、「多様性を受けて入れていく社会の実現を図るということが大事だ」といったことで杉田水脈の差別思想を問題ないとすることはできない。LGBTの「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がない。そこに税金を投入することが果たしていいのかどうか」といった差別思想を持ち、杉田水脈が国民の選良の一人であることに変わりはない以上、そのような差別思想をそのまま放置していい理由とはならない。

 放置した場合、国民の立場よりも自分たちの立場を考えてのこととなる。

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