8/28NHK日曜討論『加藤大臣に問う どう進める働き方改革』:長時間労働で持ってきた日本の経済大国

2016-09-01 12:19:22 | 政治

 日本の悪名高い長時間労働を“働き方改革”を進めて是正していく。

 だが、日本は長時間労働で自国を経済大国に押し上げ、長時間労働で経済大国を維持してきた。

 2016年8月28日放送のNHK「日曜討論」『 加藤大臣に問う どう進める“働き方改革”』でも慶応大商学部教授、経済学者の樋口美雄が長時間労働について次のように発言している。

 「持間を伸ばす方が人を増やすよりは人件費が安く上がり、企業にとって安く済む。残業で25%割でも、ベースのところでボーナスは要りませんとか、生活費は要りませんという形だから、持間を増やす方が仕事もやりやすいということをやってきた」

 人間を1人増やして2人にするよりも、1人で長時間働かせた方が基本給以外のボーナスや家族手当、通勤手当等々の手当が1人分で済む分、残業費25%割増をプラスしても人件費を安く抑えることができる。

 2010年に日本が世界第2位の経済大国の地位を中国に譲り、第3位に転落したのは中国の人件費の安さもさることながら、長時間労働で日本を打ち負かすことができたことも大きな要因であったはずだ。

 長時間労働によって元々安価な人件費を更に安価に抑えることができた。この点、中国は日本の遥か上を行った。

 安価な人件費をベースに長時間労働で仕事量を増やすことで生産量の増加と安価な製品を実現させて国際競争力をつけて企業の利益を増大させていった。

 但し日曜討論で紹介していたように日本の長時間労働の割合は世界第1位の経済大国アメリカよりも大きい。更に長時間労働の割合のアメリカよりも少ないドイツや英国、フランスも経済大国としての地位をそこそこに維持している。

 短時間労働でありながら、それなりの経済規模を維持している要因は何よりも生産性の高さを一定程度保持しているからだろう。いわば長時間労働と労働生産性は反比例の関係とまでいかないまでも、逆行状況にあると言うことができるはずだ。

 労働生産性が高ければ、短時間労働で質の高い製品をより大量に生産可能となるからだ。

 いわば長時間労働の是正は高い労働生産性によって裏打ちされる。

 逆に低い労働生産性のもとでは国際競争力を維持できる安価でなおかつ質の良い製品の大量生産は長時間労働を要件としなければならない。

 この関係性を《日本の生産性の動向2014年版》公益財団法人日本生産性本部)から、「2013年OECD加盟国労働生産性」と「2013年OECD加盟国持間当たり労働生産性」に於ける日本、アメリカ、英国、フランス、ドイツの順位を見てみる。  

 国別ではアメリカ3位 フランス6位、ドイツ6位、英国19位、日本22位。 持間当たりではアメリカ4位、フランス8位、ドイツ9位、英国18位、日本20位。

 生産性が低ければ低い程、その低さを長時間労働で補うか、大量採用・大量労働力で補わなければならないが、後者は人件費の全体的な高騰を招いて、それが製品単価に跳ね返り、国際競争力を阻害することになるから、勢い人件費を抑えることができる長時間労働に向かうことになる。

 それが日本に於いて顕著な傾向となって現れている。

 因みに企業の利益獲得のための長時間労働の誘因剤でもあり、と同時に労働生産性が低い要因となっている正規労働者と非正規労働者の給与の差も番組より引用しておく。

 当然、働き方改革で長時間労働を是正し、是正した持間を男女共に家事・育児、介護に振り向けて、尚且つ現在の経済規模を維持するためには労働時間を減らした分、先進国中ただでさえ低い現在の労働生産性を向上させなければならない。

 つまり労働生産性を如何に向上させるかが長時間労働の是正、働き方改革の先決条件ということになる。

 番組はこういった議論になると思ったが、主として長時間労働の是正策に終止した。

 司会が長時間労働の是正が言われて久しいが、なかなか進まない原因を働き方改革の担当大臣となった加藤勝信に尋ねた。(発言は要約)

 加藤勝信「長時間労働は働き方の身体的な、精神的な影響が非常に大きいという認識が出てきています。更に家庭と仕事の両立、女性のキャリア形成に阻害がある。

 あるいは男性の家事参加・育児参加、あるいは少子化への影響、加えて経団連の会長自身が認めているのだが、生産性を高めていくことに対して非常にマイナスになっているという認識も強まってきています。

 また、これからの経済を考えるときに様々な方々の働きたい希望というものをどう実現していくか、それに真正面から捉えていかないと、日本のこれからの成長・発展はないと思います」

 司会者に長時間労働の是正がなかなか進まない原因を尋ねられながら、長時間労働が及ぼす悪影響の表面的な現状分析にとどまっている。

 経団連会長が長時間労働は生産性向上にマイナスだとの認識を持っている。

 だが、長時間労働が日本人の低い労働生産性を補って生産量を高めている関係性に気づかなければ、マイナスは表面的な解釈にとどまる。

 長時間労働に慣れさせることによって生産性の向上を二の次にしてきた側面もあるはずだ。

 渥美由喜(なおき)東レ経営研究所主任研究員「先程加藤大臣が長時間労働は生産性を挙げる上でマイナスになるとおっしゃったが、生産性を分母を時間、分子を仕事量と考えると、今までは時間を増やして量を増やす、そういう社員を今まで評価してきたが、これからは限られた時間の中で質を上げていくことが大切であって、こういう働き改革の抵抗勢力というのは、そもそも労働時間を減らしたら量と質が下がってしまうのではないかと不安があってなかなかやらない」

 抵抗勢力は今まで長時間労働で支えてきた質と量を生産性を上げることで労働の短時間化へ持っていくという発想がないのだろう。

 長時間労働の是正だけではなく、労働生産性の向上も久しく言われてきた。この両方共、他の先進国に遅れを取る状況をいたずらに続けるだけで、望む成果を達成できないでいる。

 その原因を究明しなければならないが、一向にそういった方向に議論が進まない。

 小室淑恵ワーク・ライフバランス代表「マネージメント層は長時間労働で成功しているから、その成功体験の強さがマネージメントに反映されている。マネージメント層とディスカッションすると介護という問題意識を非常に強く持っていて、長時間労働で得をするような企画が出てしまうと折角転換しようとした企業の阻害要因となる。

 (労働時間の)上限を設定することはフェアな競争をつくる上で非常に重要。自社が7時で店舗を閉めると、相手が8時9時で儲けてしまうということでは転換ができない。社会全体で合意して上限をつくることで、短い時間で高い生産性が勝っていく企業がきちんと仕事で勝って、損をしないというフェアな競争の土壌をつくるのが政治の役割だと思う」

 少々矛盾した言い方となっている。企業が自社労働者に対して高い労働生産性を持たせることができたなら、自ずと長時間労働を脱して、労働の短時間化に向かう。他の企業が従来どおりに長時間労働で対抗しようとしたとしても、いわば自社が7時で仕事を終了し、他社が8時9時まで残業しようとも、さして問題ではないことになる。

 要するに労働時間の上限を設けなくても、「勝っていく企業」となるための第一要件は高い労働生産性であって、上限を設けるとか設けないとかの問題ではない。

 小室淑恵は各出演者に与えられた冒頭発言で、子育て・育児は妻の長時間労働だけではなく、夫の長時間労働の改革、男性の働き方改革も非常に重要だと前置きして次のように発言している。

 小室淑恵「今まで女性が管理職に登用されてこなかった問題は男尊女卑で女性が管理職に登用されてこなかったと言うこと以上に働き方の足切りが大きかったんですね。

 管理職たる者24時間の責任を負えなきゃいけないというところで事実上、管理職に推薦してこなかったということが長く続いてきた。また本格的な仕事も任されなかった。

 その働き方の足切りの問題を解決しないと、女性の活躍というものは本当に進まない」

 小室淑恵は「今まで女性が管理職に登用されてこなかった問題は男尊女卑で女性が管理職に登用されてこなかったと言うこと以上に」と断って、日本人の思考様式・行動様式となっている地位の上の者が地位の下の者を従わせ、下の地位の者が上の地位の者に従う権威主義の派生である男を女性よりも上の権威とし、女性を男よりも下の権威に置いた「男尊女卑」の風潮を二番目の理由として、一番目の理由に「働き方の足切り」を持ってきている。

 権威は才能をイコールさせている。「男尊女卑」とはまた、男の才能は女性よりも優れ、女性の才能は男の才能よりも劣るとする才能の男女差別を意味している。

 女性を管理職のみならず、重要な仕事を任せてこなかった歴史は「男尊女卑」の風潮が男たちにそう仕向けていた歴史であり、最近任せることになったのはその風潮の色濃さから、その色が褪せていく歴史の変遷によるものでもあるはずだ。

 いわば出発点はあくまでも「男尊女卑」であって、そのことが誘発させている「働き方の足切り」であろう。

 現在ではパソコンやスマホでどのような情報も短時間に遣り取りができる。女性が会社から離れて家庭で子育て中だろうと家事のさ中であろうと掴まえることができ、管理職としての如何ような情報発信も可能である。にも関わらず、「管理職たるもの24時間の責任を負えなきゃいけない」などと言うのは男の優位性を男女の性別のみで証明しようとする権威主義の愚かしさの現れに過ぎない。

 東レ経営研究所主任研究員の渥美由喜が権威主義について示唆的な発言をしている。
 
 渥美由喜「ここ数年、若者の就職状況がかなり改善されてきた。バブル期並みに改善されたと言われている。入るまでは若者が企業を選ぶことのできる状況になってきた。

 入ったら、一挙に逆転されるというのは経験知のない若者がやはり会社では弱者であり、日本というのは儒教的と言うか、年功序列的なものが未だ凄く強いんで、逆らえなくて黙っているということが慢性化しているということです。

 長く続いている問題だと思います」

 だから、長時間労働に文句も異議も唱えることできず、従っている、なかなか長時間労働が改善されないということを言いたかったのだろうか。

 儒教は人間関係の上下の秩序を教えとする権威主義、年功序列も単に年齢と年齢に伴った経験を上の権威とする権威主義を構造としている。

 若者が有効求人倍率が改善されて希望に添う会社にいくら就職できたとしても、一旦会社に入ると上の年齢や地位を上位権威とする権威主義に絡め捕られて、例え矛盾する遣り方だと思っても、逆らうことができない。

 そのような権威主義の空気を吸っていくうちに次第に当たり前の遣り方となって、次に新入社員として入ってくる若者に同じ遣り方を求めることになる。

 まさしく権威主義の力学を仕事上の人間関係としている世界が浮かんでくる。

 権威主義は下の者が上の者に従う構造を取っていることから、下の者は上の者の考えや決定に従って行動することを意味する。逆説すると、自らの考えや思考に基づいて行動することとは逆の行動となる。

 特に真の意味での労働生産性は単に上に従うだけの行動からでは満足な形で生まれず、その場その場で臨機応変に自らの考えや思考に基づいて行動することによって満足な形を取っていく。

 こういったことが障害となっている労働生産性の低さであり、その結果としての長時間労働を招いているということであるはずだ。

 小室淑恵は長時間労働の是正に成功した企業、その結果夫が妻の育児・子育て・家事に参加し、二人目や三人目の子どもを希望するようになった例を挙げているが、渥美由喜の日本の企業が儒教的、あるいは年功序列的であるとする発言にもあるように日本の企業が権威主義に支配されていることからすると、小室淑恵が話す成功体験は中小企業に限定された成功体験の疑いが出てくる。

 大企業に於いてマネジメントを策定する上層部はそれを策定する会議の場に於いては自由に発言できる。だが、そこで決定したことを下に降ろした場合、下は上が決定したことに全員が無条件に従う。

 そういった慣行となっている。これが権威主義である。上が決めた決定に下は矛盾を感じようが何しようが、渥美由喜が言うように「逆らえなくて黙って」従う。

 だが、従業員の少ない中小企業の場合、会議に全員か、大半が参加できて、会議の場では、例外もあるはずだが、自由に発言できるから、そこで決定したことはほぼ従業員の希望が実現することになる。

 いわば意図せずに権威主義を無効とした自由な発言が、少なくともそれまで慣行としていた会社内の諸制度を改善することになっていく。

 だとすると、女性の活躍にも繋がっていく長時間労働の是正=働き方の改革は先ずは日本人の思考様式・行動様式となっている上が下を従わせ、下が上に従う権威主義からの離脱から入らなければならないことになる。

 既に触れたように権威主義から離れて、各個人が自らの考えで思考し、行動する。そのことによって労働生産性も向上していく。

 向上すれば、長時間労働は自ずと短時間化されていく。

 となると、気の遠くなるような話だが、学校教育で自分の考えで思考し、行動する権威主義から離れた学びを自ら習得していかなければ、真の働き方改革は始まらないことになる。

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