オーストラリアの人権団体「ウォーク・フリー・ファンデーション」が5月31日、「現代の奴隷」としての生活を余儀なくされている人が世界中で約4600万人に上り、最も奴隷の数が多かったのはインドで、人口比率では北朝鮮が最も高く、日本は数で25位、人口比率では41位となると発表したと、6月1日付「ロイター」記事が伝えている。
この団体は3年前から167カ国を対象に、生まれながらにして奴隷状態にある人や性労働のため人身売買された人、強制労働者など、各国の奴隷状況や政府の取り組みを調査、ランダムにサンプルを抽出して推定値を引き出した報告書を発表していると言う。
2016年版は25カ国、53の言語で米世論調査会社ギャラップが約4万2000人に行ったインタビューに基づいた調査だそうだ。
2015年の奴隷の数4580万人は2014年の3580万人から100万人増。同団体の設立者であるアンドリュー・フォレスト氏は奴隷化の状況は難民の急増等により悪化していて、あらゆる形態の奴隷リスクが高まっていることを懸念しているとしている。
各国の奴隷数を見てみる。いずれも推定値。
1位:インド1840万人
2位:中国340万人
3位:パキスタン210万人
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24位イエメン約30万人
25位日本約29万人
26位シリア約26万人
対人口比率奴隷数
北朝鮮人口2500万人の4.4%、20人に1人
その他ではウズベキスタンやカンボジアが高い比率にあると書いている。
記事は、〈衣服や食料品などの世界的なサプライチェーンにおいて単純労働者の多いアジアは、奴隷状態にある全体人数の3分の2を占めていることが明らかとなった。〉と報告書を解説している。
奴隷化への対処国
オランダ
米国
英国
スウェーデン
オーストラリア等――
「現代の奴隷」とは奴隷状態に置かれている人々という意味なのだろうが、そうであっても日本国憲法第14条で、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定している民主国家日本に約29万人も存在するというのはピンと来ないかもしれないが、私自身は逆にもっと多く存在するのではないかと思っている。
「奴隷」とは「人間としての権利・自由を認められず、他人の私有財産として労働を強制され、また、売買・譲渡の対象ともされた人」と『goo辞書』が紹介している。
確かに言葉の正確な意味での奴隷は日本には存在しないかもしれないし、現代の世界でもそれ程多くは存在しないように思える。しかし奴隷を生み出す精神的土壌は人間が本質的に持つ権威主義性に基づいているはずだ。
「権威主義的パーソ ナリティ」(権威主義的人格)とは『社会心理学小辞典』(有斐閣)に「自己の所属する集団・社会の権威や伝統、さらに上位者や強者に対して無批判に同調・服従し、逆に他集団や下位者・弱者に対して敵意を向け、絶対的服従を要求する傾向を持つ性格特性をいう」と出ている。
私自身は権威主義を「上の者が地位や金銭等に所属する権威を利用して下の者を従わせ(同調・服従させ)、下の者が上の者のその権威に無条件に従う(同調・服従する)上下の関係性」と意味づけて、このような上下関係に縛られているパーソナリティ(人格)によって構成された行動様式・思考様式だと解釈している。
この権威主義が最も過酷な姿を取り、言葉の意味通りの奴隷を世界に出現させたのが奴隷制度であろう。
かつての奴隷制度時代、人種は平等ではなく、白人種が自らを人種上の最優越者として権威づけて他の人種の上に君臨し、そのような権威主義に基づいて自らの権威を利用、黒人種を筆頭に有色人種を奴隷として駆使した。
奴隷制度の時代は去ったが、権威主義までが退化したわけではない。自身が担っている権威を他の権威に優越するものとして、その権威を利用、下の権威の者をして自らの権威に従わせ(同調・服従させ)、下の者が上の者のその権威に無条件に従う(同調・服従する)権威主義性は奴隷制度時代の権威主義の矮小化されたバリエーションとして人間の中に今も生き続けている。
上記人権団体は人身売買被害者や強制労働者被害者等を「現代の奴隷」としているが、それが権威主義に基づいた上下の人間関係が成立させているおぞましい生存性である以上、大企業が下請の中小企業に対して元請として持つ、あるいは上位者として持つ自らの優越的地位を利用して、製品単価の強制的値下げや消費税分の強制的負担、あるいは労働力の強制的な無償提供といった下請という下位者に対する強制力の行使は、それが法律で禁止されているにも関わらず今なお存在するのは、「上の者が自らの権威を利用して下の者を従わせ(同調・服従させ)、下の者が上の者のその権威に無条件に従う(同調・服従する)」権威主義をそれぞれがパーソナリティとしていなければ成り立たないし、尚且つ民主主義制度下の厳密な意味での平等とは反していることによって成り立つのだから、人身売買や強制労働等の「現代の奴隷」の強制力を弱めた同列と見なければならないし、奴隷制度時代の権威主義の極々矮小化されたバリエーションと見なければならない。
優越的地位の濫用を法律で禁止しなければならないこと自体が、権威主義が今なお生き続け、その横行が存在する証拠となる。
こういった点に上記人権団体が日本の「現代の奴隷」を多い順から世界25位の約29万人と推定していることに対して私自身は逆にもっと多く存在するのではないかと思っている根拠がある。
このことは6月2日付「NHK NEWS WEB」記事が証明している。
〈企業が下請け業者に対して優越的な立場を利用して不当な要求を出すなどの「下請けいじめ」をしたとして、公正取引委員会が、2015年度、勧告や指導を行った件数は5984件に上り、過去最多となった〉と記事は伝えている。
どういった下請けイジメか見てみる。
不当に支払いを遅らせる「支払遅延」
不当に安い価格で商品を買う「買いたたき」
発注時に決めた価格よりも支払い金額を引き下げる「減額」
「売れ行きが悪い」という理由での発注商品の一方的返品等々。
ここで見る優越的権威に止むを得ず従う下請け業者は「現代の奴隷」そのものである。
6月1日付の「asahi.com」記事が伝えている企業内定者が内定した企業から内定の時点で自身の本意に反して研修やアルバイトを求められて断ることができない状況も、それが内定企業の優越的地位と内定者の劣後的地位それぞれの権威の上下に基づいた権威主義性から出ている以上、内定者は断ることができずに嫌々ながら従っている(同調・従属している)のだから、極く極く弱い形であったとしても、「現代の奴隷」の範疇に入る。
もしそれぞれが人間存在として対等な関係にあったなら、対等とは相互に相手の人格を尊重する、上下とは無縁の関係を言うのだから、内定した企業は内定の時点で、その権利はないのだから、研修やアルバイトを求めないだろうし、内定者は例え求められても、自身の本意に反していたなら、自らの意思を明確に述べて断ることをするはずだ。
権威主義が今なお色濃く生きづいている象徴的出来事と見ることができるが、奴隷化への対処国は逆に権威主義性が弱い、より対等な人間関係を築き得ている国民性の国と言うことになる。
4月調査・5月31日発表の連合調査。
2012年3月~2015年3月卒正社員で、内定者向け研修や資格取得、アルバイトなどに参加した559人(複数回答)が調査対象。
「時間的な拘束が大きかった」22・7%
「卒業論文・研究に支障があった」13・1%
「アルバイトに支障があった」12・2%
「授業・ゼミ活動に支障があった」11・3%等々。
自由回答による感想。
「研修という名目だが、人手不足を補うためのアルバイトだった」
「アルバイトに2週間以上入ることを強要された」
「泊まりの研修が厳しかった」
「資格取得の自己負担は疑問」――
上西充子法政大学教授「即戦力とするため、研修や就業体験を前倒しする企業が増えているが、研修は本来、入社後に給与を支払って行うべきだ。アルバイトも強制してはいけない」
要するに内定企業は優越的地位にあることの上位権威を利用して、下位権威者をしてタダ働きさせ、内定学生は下位権威者であることを弱みと把えて、上位権威者に仕方なく従った。
このような権威主義性のメカニズムに両者共に囚われた生存性である以上、下位権威側の内定者たちを「現代の奴隷」と見ないわけにはいかない。
内定企業はさしずめ奴隷制度時代の白人のヒナ型に擬えることもできる。
日本人が今以て色濃く残しているこのような権威主義性から脱しないと、科学技術に於いても、社会性に於いても、真に創造的な発展は望めないのではないだろうか。