安倍晋三の中東スピーチは身代金要求拒否姿勢の決意表明であり、以後の発言はこのことの自己正当化の強弁

2015-02-09 09:12:31 | 政治


 2015年1月20日、湯川さん及び後藤さんの拘束と身代金要求の映像がネット上に公開された。

 岸田外相は2月2日参院予算委で細野豪志民主党議員に対して「(今年)1月20日(はつか)湯川さん及び後藤さんの映像が公開されるということになりまして、その時点でISIL(アイシル)関係者の犯行による可能性が高いということを把握しました」と答弁している。

 いわばそれ以前は「何者によって拘束されたのか、これについては十分に情報を得ていなかった」としている。

 後藤さんの拘束を外務省が把握したのは昨年11月1日である。 

 後藤さんの妻に犯行グループからメールがあり、そこに身代金要求が記されていたとマスコミが伝えている点については、岸田は「メールで犯人側から何らかの要求があったかは後藤さんの奥様に対する様々なメッセージがあったわけだから、政府としては明らかにするのは控えさせて頂きたい」と、いわばプライバシーに関するという理由で身代金要求があったかなかったについては答弁を避けている。
 
 安倍晋三や岸田が言っていることが事実なのかそうでないのか、細かいことに気になる杉下右京の頭脳明晰には遥かに届かないが、明らかにしないことには落ち着かないものだから、より確実な事実を知りたいとネット上を調べてみて、次の記事に突き当たった。昨年「2014年8月18日」の記事である。見逃していたのか、触れていたが、忘れてしまっていたのかは定かではない。全文を参考引用してみる。文飾は当方。


 《シリアで日本人拘束か 「イスラム国」関与の可能性》asahi.com/2014年8月18日01時36分  

 ドバイ=渡辺淳基
 外務省は17日、内戦が続くシリア北部で日本人とみられる人物が過激派「イスラム国」に拘束された可能性があるとみて、現地対策本部を設置し、確認を急いでいることを明らかにした。

 隣国ヨルダンで業務中の在シリア日本大使館によると、16日にインターネットなどを通じて日本人が拘束されたとの情報を入手し、アンマンに対策本部を設置した。身元や事実関係は調査中だという。

 インターネットの動画サイト「ユーチューブ」で公開された「日本人への尋問」とされる動画では、頭から流血した男性が尋問に対し「ハルナ・ユカワ」と名乗り、「日本から来たカメラマン」などと答えている様子が撮影されている。

 外務省はシリア全土を対象に「退避勧告」を出していた。(ドバイ=渡辺淳基)

 要するに外務省が8月16日にインターネットなどを通じて日本人が拘束されたとの情報を入手したのはネット上に公開された湯川さん尋問の動画がキッカケであった。しかも犯行グループが「イスラム国」の可能性と見ていた。

 動画が現在も残っているか、「ユーチューブ」を探してみた。いくつか残っている。《ノーカット】湯川遥菜氏尋問映像 》がその一つである。明らかに湯川さんと見られる男性が拷問紛いの尋問を受けている。  

 後藤さんが湯川さん救出を目的として昨年の10月23日に「イスラム国」が首都だと宣言しているシリアのラッカに入ったことを直前まで同行していたシリア人ガイドが証言している。ラッカ入りは湯川さん尋問動画を根拠としていなければならない。

 外務省は後藤さんのラッカ入りに対して3回渡航自粛要請を行っている。1回は職員が直接会い、残り2回は電話で行ったと「産経ニュース」が伝えている。   

 これは後藤さんのシリアへの渡航申請を出したことを受けた措置で、後藤さんからシリア入りのより詳しい目的と具体的な目的地を聞き出さずに渡航自粛要請を行ったということはあり得ない。このとき、10月23日というシリア入りの日付も聞き出していたはずだ。

 外務省は後藤さんが10月23日にシリア入りしてその8日後の11月1日に行方不明情報を把握した。その上、マスコミは昨年11月から後藤さんの妻は「イスラム国」から身代金要求のメールを受け取っていたと報じている。

 外務省は後藤さん行方不明情報把握の11月1日当日か、以後の早いうちに後藤さん解放の条件としての身代金要求を把握していた。

 当然、安倍晋三にしても岸田にしても把握していたことになる。

 外務省はヨルダンやトルコのみならず、アメリカとも情報交換を行ったはずだ。アメリカとは行っていなかったとしたら、日本の対米従属主義に反するし、情報収集のあり方に問題が生じる。

 アメリカは現在も自国民が「イスラム国」に拘束されているにも関わらず、2013年6月の北アイルランド開催主要8カ国首脳会議(G8サミット)で採択した「我々は、テロリストに対する身代金の支払を全面的に拒否する」とした首脳宣言を忠実に守り、テロリストに対する人質釈放の身代金支払いを国として拒否する姿勢を貫いている。

 安倍晋三がG8首脳宣言を無視することになるばかりか、アメリカの風下に立つことになる人質解放に身代金を支払うといったことをするのは天皇主義者として、国家主義者として「日本を世界の中心で輝かせる」とした経済的にも軍事的にもそう仕向けたい自らの日本の大国化願望が果たして許すだろうか。大国化願望は自身の自尊心に直結している。自尊心から言っても、アメリカのように毅然としていたいと思ったはずだ。

 アメリカに蔑まれたなら、大国化願望が傷つき、自尊心が損なわれることになる。

 安倍晋三はエジプト、イスラエル、ヨルダン、パレスチナ中東4カ国訪問のうち、最初の訪問国エジプトに1月16日に入り、翌1月17日に中東スピーチを行っている。身代金を支払うまいといった強い意志を持ってスピーチに臨んだ。

 その強い意志が、例えそれが人道支援であっても、「ISILと戦う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します」と、「イスラム国」を名指しして、「ISILと戦う」ことを奨励することになる挑発的な文言となった。

 身代金を支払うまいといった強い意志がなければ、「イスラム国」を名指しすることも、「ISILと戦う」ことを奨励することもなかっろう。結果的に、前以て予測していなかったとしても「イスラム国」に対する宣戦布告となったのである。

 安倍晋三はこの言葉の適切性をマスコミに問われたり、国会で追及を受けると、「テロには屈しない」、「テロの気持は忖度してはならない」等々を決まり文句として繰返し強い語調で反論している。

 2月1日の関係閣僚会議。

 安倍晋三「非道、卑劣極まりないテロ行為に強い怒りを覚えます。許しがたい暴挙を断固非難します。テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わさせるため、国際社会と連携してまいります。

 日本がテロに屈することは、決してありません」

 2月2日の参議院予算委員会。

 安倍晋三「テロリストの思いをいちいち忖度して気を配り、屈するようなことは決してあってはなりません」

 2月3日の参院予算委。

 安倍晋三「小池(晃共産党議員)さんの質問はまるでテロリストを批判してはならないというふうに聞こえる」

 「イスラム国」に身代金を支払うまいという強い意志でスピーチの臨んで、あのような言葉を選んだ。結果として「イスラム国」を挑発し、結果的に2邦人とも殺害という結末となった。 

 そこへ数々の批判が向けられることとなった。だが、最初から身代金支払拒絶の意志でいたことは明かすことはできない。できることはスピーチの文言を正当化し、テロと戦うことの正当性の訴え以外にない。

 そのために様々に情報操作し、テロと戦うことの正当性を通して自己を正当化するという強弁となった。

 特に最後の小池議員に対する答弁は、中東でのスピーチの適切性を問うているにも関わらず、そのことには答えずにテロリストと戦うことの正当性のみに拘っている様子からは、その正当性のみに縋った強弁としか受け取ることはできない。

 少なくとも安倍晋三の中東スピーチは身代金要求拒否姿勢の決意表明であって、そこから始まって会議や国会、記者会見等の様々な場面で行った以後の発言は中東のスピーチ自体とそれが招いた2邦人殺害という結末に対する自己正当化の強弁と読むとこの上なく理解できる。

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