アルジェリアで発生した武装テロ組織の邦人人質事件を教訓・学習した「自衛隊法改正案」が11月1日(2013年)、衆院を通過した。近いうちにこのまま参院を通過、成立することになるだろう。
何を教訓とし、学習としたのかというと、現行の自衛隊法は航空機と船舶の利用による邦人輸送を認めているが、改正案では「車両」が追加され、陸上輸送をも可能とすることが主たる改正個所だそうだから、陸上輸送を以って主たる教訓とし、学習としたということなのだろう。
要するに右翼の軍国主義者安倍晋三を筆頭とした安倍内閣と日本の国会は10人が犠牲となったアルジェリア邦人人質事件を教訓とし、学習して出した主たる答が邦人保護のための輸送手段として現行の航空機と船舶に新たに車両を付け加えたということになる。
では、具体的にどのような法文に変わったのか見てみる。現行法の邦人保護は、「在外邦人等の輸送」という項目で「第84条の3」と、「在外邦人等の輸送の際の権限」という項目で「第九十四条の五」に次のように謳っている。
〈(在外邦人等の輸送)
第八十四条の三 防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送の安全について外務大臣と協議し、これが確保されていると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる。この場合において、防衛大臣は、外務大臣から当該緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する外国人として同乗させることを依頼された者を同乗させることができる。
2 前項の輸送は、第百条の五第二項の規定により保有する航空機により行うものとする。ただし、当該輸送に際して使用する空港施設の状況、当該輸送の対象となる邦人の数その他の事情によりこれによることが困難であると認められるときは、次に掲げる航空機又は船舶により行うことができる。
一 輸送の用に主として供するための航空機(第百条の五第二項の規定により保有するものを除く。)
二 前項の輸送に適する船舶
三 前号に掲げる船舶に搭載された回転翼航空機で第一号に掲げる航空機以外のもの(当該船舶と陸地との間の輸
送に用いる場合におけるものに限る。) 〉――
〈(在外邦人等の輸送の際の権限)
第九十四条の五 第八十四条の三第一項に規定する外国において同項の輸送の職務に従事する自衛官は、当該輸送に用いる航空機若しくは船舶の所在する場所又はその保護の下に入つた当該輸送の対象である邦人若しくは外国人を当該航空機若しくは船舶まで誘導する経路においてその職務を行うに際し、自己若しくは自己と共に当該輸送の職務に従事する隊員又は当該邦人若しくは外国人の生命又は身体の防護のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。 〉――
改正案は次のように変わっている。
〈(在外邦人等の避難措置)
第八十四条の三 外務大臣は、外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して、邦人の生命又は身体の保護のため必要があると認める場合には、内閣総理大臣に対し、当該邦人についてその避難のために必要な輸送及び当該輸送の際の警護(以下「避難措置」という。)の実施を要請することができる。この場合において、外務大臣は、当該緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する外国人についても、内閣総理大臣に対し、当該避難措置の対象とすることを要請することができる。
2 内閣総理大臣は、前項前段の要請があつた場合には、部隊等に当該要請に係る邦人について避難措置の実施を命ずることができる。この場合において、内閣総理大臣は、同項後段の要請があつたときは、邦人の避難措置の実施に支障を生じない限度において、当該要請に係る外国人についても、当該避難措置の対象とすることができる。
3 内閣総理大臣は、前項の規定による避難措置の実施を命じた場合には、速やかに、当該避難措置の実施につき、国会の承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、速やかに、その承認を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があつたときは、速やかに、当該避難措置を終了させなければならない。〉――
〈(在外邦人等の緊急措置の際の権限)
第九十四条の五 第八十四条の三第二項の規定により避難措置の実施を命ぜられた部隊等の自衛官は、当該避難措置の対象である邦人又は外国人に対する暴行がまさに行われようとするのを認める場合であつて、急を要するときには、その行為を制止することができる。
2 前項の自衛官は、当該避難措置の実施に対して暴行又は脅迫による妨害が現に行われている場合には、その行
為を制止することができる。
3 第八十四条の三第一項の規定する外国において同項の輸送の職務に従事する自衛官は、自己若しくは当該避難
措置の職務に従事する隊員若しくは当該避難措置の対象である邦人若しくは外国人の生命若しくは身体の防護
のため又は前二項の規定による権限の行使に対する抵抗の抑止のため必要であると認める相当の理由がある場
合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第三十
六条 又は第三十七条 に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。 〉――
「第84条の3」に関しては、「輸送」が「緊急措置」という言葉に変わり、「当該輸送の安全について外務大臣と協議し、これが確保されていると認めるときは」が削除されていて、危険状態下でも保護を可能としている。
だから、単なる「輸送」を「緊急措置」と言葉を変え、このことによって武器使用基準の緩和という問題が出てくるのだろう。
「第94条の5」に関しては、現行法の「当該輸送に用いる航空機若しくは船舶の所在する場所又はその保護の下に入つた当該輸送の対象である邦人若しくは外国人を当該航空機若しくは船舶まで誘導する経路においてその職務を行うに際し」を削除して、保護した邦人もしくは外国人の輸送手段として航空機と船舶のみを限定していたが、限定そのものを外して、何も規定していない。
要するに陸路移動中に調達できる輸送手段は何でも利用可能とするということなのだろう。逆に車両限定とすると、例えばの話だが、保護した邦人数が多くて車両に収容できない場合、敵から奪ったヘリコプターは使用できないことになって、選択肢を狭くする危険性が生じる。
だが、アルジェリア邦人人質事件で一番に問題となった肝心要な事柄はこういった性格の保護だったのだろうか。
イスラム武装勢力がアルジェリアの天然ガス関連施設を襲撃、人質を取って立て篭もったのは日本時間1月16日午後2時頃。
ベトナム、タイ、インドネシア3カ国訪問の右翼の軍国主義者安倍晋三が最初の訪問国ベトナム・ハノイに到着したのは事件発生2時間後の日本時間1月16日午後4時10分。
日本の外務省に邦人拘束の第一報が入ったのは安倍ハノイ到着から約20分後の日本時間1月16日午後4時30分。
その20分後の日本時間1月16日午後に右翼の軍国主義者安倍晋三からの指示が入る。
日本時間1月16日午後11時35分、岸田外相がアルジェリアの外務大臣と電話会談、人命第一を要請。
翌1月17日に入って、アルジェリア治安当局が日本時間17日午後8時半頃、軍事作戦を開始。
更に次の日の1月18日に入った日本時間午前0時30分から、タイ訪問中の右翼の軍国主義者安倍晋がアルジェリアのセラル首相と電話会談。
安倍晋三「アルジェリア軍が軍事作戦を開始し、人質に死傷者が出ているという情報に接している。人命最優先での対応を申し入れているが、人質の生命を危険にさらす行動を強く懸念しており、厳に控えてほしい」
セラル首相「相手は危険なテロ集団で、これが最善の方法だ。作戦は続いている」(NHK NEWS WEB)――
アルジェリア政府が「テロリストとは交渉せず」の立場を取っていることは安倍晋三は情報として把握していたはずだし、把握していなければならなかったはずだが、アルジェリア治安当局が軍事作戦を開始してから、首相の立場から初めて「人命最優先」を要請した。
しかもこの電話会談に先立って、日本時間1月17日正午12時00分にタイからキャメロン英首相に電話、約15分間の電話会談を行っている。
例えキャメロン英首相と「人命最優先」と誓い合ったとしても、交渉当事国はアルジェリア政府である。アルジェリア政府が「人命最優先」を確約しなければ意味がないにも関わらず、セラル・アルジェリア首相との電話会談は後回しとなった。しかも「テロリストとは交渉せず」の立場通りの軍事的強行作戦開始後である。
日本時間1月18日午前6時頃、アルジェリア国営ラジオが軍事オペレーションが終了した旨を発表。
軍事作戦終了から1日と18時間後の日本時間1月20日午前0時30分、安倍晋三はセラル首相と2度目の電話会談。
セラル首相「人質救出に向けたすべてのオペレーションが終了し、全テロリストは降伏した。現在、まだ見つかっていない人質を捜索中だ」
安倍首相「わが国として、テロは断じて許容しない。今回の事件は極めて卑劣なものであり、強く非難する。これまでアルジェリア政府に対し、人命を最優先にするようにと申し入れてきたが、厳しい結果となったことは残念だ。
現地の状況について、以前から情報が錯綜している。日本および関係国に、アルジェリア政府が把握している情報を緊密に提供するよう重ねて求めたい」
セラル首相「あらゆる指示を出して最大限の協力をしたい」>(NHK NEWS WEB)――
右翼の軍国主義者安倍晋三は「厳しい結果となったことは残念だ」と言っているが、アルジェリア政府が「テロリストとは交渉せず」の立場を取り、軍事的制圧優先の姿勢である以上、「厳しい結果」は覚悟していなければならなかった結末であるはずである。
と言うことは、軍事作戦を可能な限り遅らせ、人質救出の優先を認めさせなければならないが、安倍晋三自身による「人命優先」要請の電話会談はアルジェリア治安当局の軍事作戦開始後となっていた。
「Wikipedia」によると、死者は被害者側48人、テロ組織側が32人、うち邦人死者は10人。
アルジェリア邦人人質事件の教訓とし、学習しなければならない邦人保護はこの点にこそあるはずである。
テロ武装勢力の制圧下にある人質事件に対して交渉当事国が「テロリストとは交渉せず」の立場を取り、軍事的制圧を優先させている場合に発生する人質人命の危機的状況下での、いわば日本政府が交渉当事国ではなく、日本政府も日本の自衛隊も事件に直接関わることができない人質人命の危機的状況下での「人命優先」の邦人保護はどうするかがアルジェリア邦人人質事件に於ける邦人保護の肝心要の教訓であり、学習としなければならない問題であって、テロ武装勢力の制圧下にない状況下での、自衛隊法改正案が「第84条の3」で言っている日本の自衛隊による「騒乱その他の緊急事態に際して、邦人の生命又は身体の保護」とその輸送が教訓の対象となっていたわけでもなく、学習の対象となっていたわけでもないはずだ。
だが、右翼の軍国主義者安倍晋三を筆頭とした安倍内閣と日本の国会は後者を教訓の成果とし、学習の成果とした。
右翼の軍国主義者安倍晋三はアルジェリア邦人人質事件では盛んに「人命優先」を強調、言い立てていたが、アルジェリア治安当局が軍事作戦を開始してから「テロリストとは交渉せず」の立場を取っていたセラル・アルジェリア首相と電話会談を行い、「人命優先」を要請した経緯から見ても、盛んに言っていた「人命尊重」が首相として口にしなければならないタテマエに過ぎなかったことと、事件の教訓と学習がテロ武装勢力制圧下の邦人保護とその「人命優先」には置かず、保護できる状態下にある邦人の輸送手段やその際の武器使用の議論であることと考え併せると、安倍晋三が思想としている「人命優先」が相当に怪しくなる。
アルジェリア邦人人質事件と類似の事件が世界の何処かの国で再発しない保証はない。人質の中に邦人が含まれ、その国が「テロリストとは交渉せず」の立場を取っていた場合、自衛隊法改正案は軍事的制圧後に解放された邦人が存在したときのその保護と輸送にしか役に立たないことになる。
だが、安倍晋三は国家の存続を優先させ、個人は国家優先の文脈でしか考えない政治家だから、同じ国家存続の優先を原理とした「テロリストとは交渉せず」の姿勢に親近性を感じているはずで、役に立たないことが教訓であり、学習であったとしても構わないのだろう。