――国を預っているのは民主党政権であって、赤字国債発行法案未成立は野田首相の責任事項であるはずなのに、野党の責任であるかのような振舞いをしている――
11月2日(2012年)午後、首相官邸で開催された政府主催の全国知事会で、多くの知事から赤字国債発行法案未成立による地方自治体向けの交付税支出延期が自治体財政の圧迫を招来、野田首相に対して批判が噴き出たという。
年4回の交付で、4回目交付日に当たる11月2日の道府県分2兆1500億円、市町村分1兆9300億円、合計4兆800億円配分を10月30日に既に支出延期を決定、野田政権としては珍しく素早い対応を見せていた。
更に素早く道府県分交付の前回9月分から3回の分割支出としたために、分割延期の自治体の中には民間の金融機関から借入を余儀なくされ、既に金利負担が発生しているという。
地方側は予定されている金額と支出日を基に地方予算の編成と執行を計画しているだろうから、政府の素早い対応に関係なく計画の狂いが生じることに変りはない。
マスコミが伝えるまでもなく、予定外の無視できない金利負担が財政基盤の弱い中小規模の市町村自治体の財政を否応もなしに圧迫するのは目に見えている。
国だけではなく、地方自治体もギリギリのところで予算を編成し、執行している。
金利負担を抑えるべく借入を抑制した場合、公共事業の支払い等に影響が出て、地方経済まで圧迫する要因になりかねないという。
支払い延期対象が下請にまわり回って財政基盤の弱い中小零細企業に回っていった場合、倒産という最悪の事態も招きかねない。
また、自治体の中には職員の冬のボーナス支給を遅らせることを検討し出したというが、このことが消費抑制につながった場合、やはり地方経済に少なからざる悪影響を与えることになる。
影響は地方だけではない。予算執行停止という事態が生じれば、国家運営そのものに悪影響が出てくる。
当然、野田首相は赤字国債発行法案の成立に大きな責任を負っていることになる。
問題は野田首相が成立に対する責任感を強く意識しているかどうかである。
《知事会 交付税支出延期で政府批判》(NHK NEWS WEB/2012年11月2日 18時53分)
野田首相は11月2日の全国知事会で同日予定の自治体への地方交付税4兆円余りの支出延期に関連して次のように発言している。
野田首相「11月になっても赤字国債発行法案が成立していないという異例の状況のなか、予算の執行抑制を余儀なくされている。
このまま赤字国債発行法案の成立がさらに遅れると、国民生活に大きな支障が生じかねない。政局第一の党派間の不毛な対立を乗り越えて法案が1日も早く成立するよう、政府としても最大限の努力を行っていきたい」――
「11月になっても赤字国債発行法案が成立していないという異例の状況のなか、予算の執行抑制を余儀なくされている」とは、何という責任感なのだろう。
「余儀なくされている」とは、止むを得ずそういう状況に置かれているという意味で、積極的に打開を図る強い意志を示す姿勢とは反対の受け身の姿勢を示しているはずだ。
地方の狼狽は何ら感じていないからこそ言える発言であろう。
国を預っているのは民主党政権であって、自民党でも公明党でも、その他の野党でもない。国を預かり、国の運営を任されている以上、国家経営に不可欠な法案を通す責任を政府は一身に負っている。
当然、「赤字国債発行法案が成立していないという異例の状況」はあってはならない状況――「異例」で済ますわけにはいかない状況であるはずだが、そのように認識していることを窺わせる言葉はどこにもなく、単に「異例の状況」だとしている感覚は国を預っている意識に立った発言ではないからだろう。
例え野党が政局から赤字国債発行法案の成立を政府打倒の取引き材料としたとしても、法案を通す責任が政府から野党に転嫁されるわけでなない。
当然、政局は法案未成立の理由とはならない。理由とした場合、政権運営の放棄となる。
にも関わらず、「政局第一の党派間の不毛な対立を乗り越えて法案が1日も早く成立するよう、政府としても最大限の努力を行っていきたい」と政局を法案未成立の理由としている。
地方やその他に悪影響が出る前に既に成立させておかなければならない責任が政府にあるという認識を持ち合わせていたなら、政局を理由とせずに野田首相自身の努力不足・責任不足、あるいはリーダーシップ不足を理由とするはずだが、責任所在意識がないことが政局に理由を置くことになっているはずだ。
山田京都府知事・全国知事会会長「地方交付税は、国民に直結する行政サービスのための財源で、国民生活が重大な危機を迎えているときの支出延期は、国と地方の信頼を根本から損なうものだ。そもそも何の見通しもない予算の執行抑制は、国の責任放棄であるといわざるを得ない」
政府の責任であることから逃げの姿勢でいる野田首相に対して第一義的な責任は政府にあると言っているが、当然の発言である。
飯泉徳島県知事「我々は、お金を借りてでも住民サービスを行わなくてはいけないが、地方交付税が本当に来るかどうか分からないと、身を切るしかない。徳島県では、職員に対するボーナスの遅配も検討している」
野田首相ばかりか、閣僚もその他も政局に責任転嫁している。
10月5日の発言。
岡田ご都合主義原理主義者「予算が成立したら、赤字国債を発行するのは当然だ。赤字国債発行法案を人質に取って、『通してほしければ妥協しろ』という政治が、国民に不信感を持たれており、条件をつけずに速やかに成立させてほしい」(NHK NEWS WEB)
10月6日の発言。
前原口先「このままいくと11月には財源が枯渇してしまうので、赤字国債発行法案は絶対に成立させなければならない。国会がねじれているからといって、それを人質にとって国会審議に入らないのは、野党の責任放棄だ」
いずれも野党に責任転嫁している。
自公は年内解散の確約を条件に赤字国債発行法案の国会審議入りに言及している。
《石破氏 法案成立で年内解散確約を》(NHK NEWS WEB/2012年11月3日 18時4分)
11月3日の発言。
石破自民党幹事長「国民の生活や自治体の資金繰りが困るような事態を打開するのは、与野党双方の責任だ。法案への賛否は今の段階では言えないが、今年度予算のむだづかいをやめることとセットで成立させるのか、まずは法案だけを成立させるのか、話し合う余地はある。
野田総理大臣は自らが求めている、赤字国債発行法案の成立と、衆議院のいわゆる1票の格差の是正、社会保障制度改革国民会議の設置の3つを実現すれば、解散するのか、抽象的なことばではなく、きちんと時間的な軸を示すべきだ」――
赤字国債発行法案成立は「与野党双方の責任」だと言っているが、第一義的には国を預かり、国を運営している政府の責任でなければならない。
主体的立場はあくまでも政府にあるということである。
野党がこのような条件を突きつけている以上、解散を交換条件に赤字国債発行法案成立を図るのが国を預っている政府の責任であろう。
読売新聞社が11月2~4日実施の全国世論調査(電話方式)は、野田内閣支持率内閣発足後最低の19%、不支持率68%の危機的状況を示したそうだが、もし野田内閣が国民世論から高い支持率を獲得していたなら、野党は解散を人質に法案の成立を働きかける政局に走ることはなかったろう。
下手に解散・総選挙ということになったなら、自公は民主党議席増の貢献を担うことはあっても、自らの議席を減らすことになる。
政局を招いていること自体が野田内閣の責任であり、当然内閣の長たる野田首相自身の責任だということである。
国を預り、国を運営している以上、解散を代償としなければならないとしても、なおかつ政権交代を覚悟しなければならないとしても、国家運営の基本に関わる赤字国債発行法案成立を第一番に考えるべきが野田首相の現在の第一番の責任である。