外国人献金問題と暴力団関係者との交際発覚が週刊誌で報道された田中慶秋法相が23日午前9時過ぎ、秘書官を通じて、藤村官房長官に対し、野田総理大臣宛てに体調不良を理由とした辞表を提出して受理され、辞任した。
野田首相による事実上の更迭だとマスコミは伝えている。
要するに自発的辞任を装っているが、詰め腹を切らされた。無理やり切腹させられたということである。
このことは国民の誰もが見通しているはずだ。田中法相自身にしても自発的辞任ではないことを自ら物語ることをしている。
入院先の病院から藤村長官に「辞任の意向はない」(時事ドットコム)と電話したという。
だが、退院翌日の23日午前9時過ぎに辞表提出。
田中氏は10月19日の閣議を欠席して入院。22日に退院。4日間の入院で、4日の間の何日に電話したか分からないが、わざわざ電話して自ら辞任を否定していながら、退院翌日に辞表提出という急変は、待ちに待った初入閣という点から考えても、10月1日野田第3次改造内閣就任間もない22日後の超短期間の在任という点から考えても、詰め腹でなくて何であろう。
また、辞表は自身が首相官邸に赴いて野田総理大臣に直接提出したのではなく、秘書官に持たせて藤村官房長官に手渡したところにも自発的ではない様子を窺うことができるし、野田首相に向けた不快感を見て取ることができる。
次の記事――《田中法相が辞任 野田政権に打撃》(NHK NEWS WEB/2012年10月23日 12時0分)が辞表受理後の野田首相と蕗村官房長官の発言を伝えている。
先ず記事は、〈過去に暴力団関係者の結婚式で仲人を務めたり、暴力団関係者の宴会に出席していたりしたことが指摘されたほか、みずからが代表を務める民主党の支部が、政治資金規正法で禁止されている外国人が経営する会社からの献金を受けていたことが明らかにな〉ったと、今回の辞任騒動の背景を伝えているが、この報道は同時に田中法相の閣僚資格をも伝えているはずだ。
野田首相(閣議後の閣僚懇檀家)「田中法務大臣から辞表が提出された。体調不良のため入院し、検査をした結果、いくつかの症状で治療が必要だということで、大変残念だが受理した」
白々しいとはこのことだろう。詰め腹を切らしておいて、「大変残念だが受理した」と言い抜けている。
この言葉も額面通りに受け止める国民がどれ程いるだろうか。
こういった発言が内閣支持率、野田首相に対する信用に関係してくる。
藤村官房長官(記者会見)「辞任の理由は専ら体調不良だ。体調に関して本人が判断したことで、いかんともしがたく、野田総理大臣の任命責任にはつながらない。暴力団との交際を指摘した報道については、弁護士を通して抗議と訂正を求めると聞いている」
「暴力団との交際を指摘した報道については、弁護士を通して抗議と訂正を求めると聞いている」と言っているが、田中法相に何ら疚しいところがなければ、10月18日に出席を求められていながら、公務を理由に欠席した参院決算委員会に出席していなければならなかったはずだ。
前日の10月19日の閣議欠席は公務を理由とすることができたとしても、外国を訪問するというわけではないのだから、国会審議は最優先の公務であるはずだからだ。
大体が、「公務」が何の公務なのか、国会審議よりも優先が許される「公務」なのか、マスコミは明らかにすることを要求もせずに、単に「公務」で罷り通らせている。
これでは国民に対する情報提供の役目を果たしていない。
女とホテルにしけこむ“仕事”であったとしても、それが露見しなければ、本人が「公務」と言えば、「公務」で罷り通らせることになる。
「辞任の理由は専ら体調不良だ。体調に関して本人が判断したことで、いかんともしがたく」の発言にしても、どれくらい頭から信じる国民がいると思っているのだろうか。
思っているとしたら、相当に国民をバカにしている。
表情も変えずに白々しいことを言って、それが事実であるかのように装う。
「野田総理大臣の任命責任にはつながらない」と言っているが、野田首相自身は任命責任があると言っている。
尤も口だけで言っている任命責任に過ぎない。口ではいくらでも言うことができる任命責任のうちのその一つに過ぎない。
《野田首相“任命権者の責任ある”》(NHK NEWS WEB/2012年10月23日 15時46分)
どこかからか首相官邸に戻ってきて、記者に問いかけられて、珍しく立ち止まって行った発言である。
野田首相「田中大臣からは、体調不良を理由に辞任の申し出があり、受理した。政治経験などを踏まえて、私が選んだ大臣であり、任命した閣僚が職務を全うできなかったという部分においては、任命権者の責任はある。内閣全体で職務にまい進することで、責任を果たしていきたい。
(後任人事について)早急に決めたい」
「田中大臣からは、体調不良を理由に辞任の申し出があり、受理した」は表向きの理由でしかないことを国民は見抜いているはずだ。
いわば辞任の実態を国民が見抜いているにも関わらず、それを隠して国民に説明した。
国民にゴマカシを働いたということである。これでは信用されないし、不信用の結果として支持率は上がるはずはない。
「政治経験などを踏まえて、私が選んだ大臣であり、任命した閣僚が職務を全うできなかったという部分においては、任命権者の責任はある」
この自己責任論は口先だけで言っている責任論となっている。心底から痛感している責任ではないということである。
野田首相は10月1日(2012年)の第3次改造内閣組閣記者会見で田中法相の就任を次のように述べている。
野田首相「法務大臣、拉致問題担当、田中慶州さん。民主党のまさに重鎮として国会や党の要職を歴任され、拉致問題にも長年取り組んでこられた田中さんに、国民に身近な司法を実現し、拉致問題に責任を持って対応するという重要な役割を担ってもらうことといたしました」
法相として、あるいは拉致担当相として発揮するであろう政治的資質を最大限に見込んでいる発言となっている。
そのように野田首相は首相としての、あるいは一国のトップリーダーとしての自らの批評眼を以って田中氏を人物評価し、法相として任命した。
また、そうでなければならない。
この点にこそ、任命責任は生じるはずだ。人物評価が間違っていなければ、職務は全うできるはずである。
例え当初は人物本位ではない、実際には民主党内力学からの任命であったとしても、何かあった場合は自身の任命責任にかかってくるし、国民に対する責任履行という点でも、最終的には野田首相自身の人物評価の関与を絶対条件としなければならないはずだ。
だが、そういう視点は取っていない。「任命した閣僚が職務を全うできなかったという部分」は、田中法相自身の責任であって、第一義的には任命権者の責任ではない。
「職務を全うできなかった」以前の問題として、「職務を全うできな」い人物を法相に任命した事実こそが野田首相自身の任命権者としての責任であって、この失態についての責任には一切言及していない。
いわば、「政治経験などを踏まえて、私が選んだ」通りにはならなかった点についての責任こそが任命権者としての肝心要の第一義的責任であるはずだ。
「内閣全体で職務にまい進することで、責任を果たしていきたい」と言っているが、任命権者としての責任がどこにあるか合理的に判断し得ないばかりか、野田首相が発信する言葉自体が国民から既に信用を失っているのである。どう責任を果たしていけるというのだろうか。
内閣支持率が既に答を出している。
言葉の信用喪失は何よりも3党首会談で確約した「近いうちに国民の信を問う」の言葉に象徴することができる。その信用喪失の舌の根もか乾かないうちに、今度は別の言葉で解散を匂わせている。
《首相“そんなにいつまでもやらない”》(NHK NEWS WEB/2012年10月23日 17時30分)
野田首相は10月22日、みんなの党、共産党、社民党、日本維新の会、新党日本と個別に党首会談を行ったのに続いて23日、たちあがれ日本の平沼代表と会談した。
平沼代表「今の国民感情からすれば、早く衆議院を解散すべきだ」
野田首相「そんなにいつまでもやっているつもりはない」
「近いうちに」が野田首相の言葉の信用性を失わせているのに、 「近いうちに」よりも遥かに曖昧な期間を示す「いつまでも」が「いつまでも」のことか具体性は不明で、信用を僅かにも与えるはずはない。
要するに周囲の状況が許す限り逃げに逃げて、それが許されなくなってにっちもさっちも行かなくなったら、そこで往生しようという魂胆を持った「いつまでも」なのだろう。
橋下大阪市長、日本維新の会代表が10月23日、市役所記者会見で野田首相の田中法相人事を擁護している。《「人事の失敗あり得る」=法相辞任の首相任命責任で-橋下氏》(時事ドットコム/2012/10/23-21:20)
橋下市長「人事の失敗は組織ではあり得る。間違ったからといって直ちに身を引かなければならないというのは、与野党ともによくない。
どういう経緯でどこまで確認をして任命したかを明らかにして、早く適切な人を法務大臣にしないと国の行政がストップする」
確かに「人事の失敗は組織ではあり得る」。だが、「どういう経緯でどこまで確認をして任命したかを明らかに」することはあるまい。
野田政権に貢献のあった議員に対する党内力学からのご褒美人事であったことは疑いがなく、明らかにしないだろうし、このことと任命の最終的絶対条件としなければならない、国民に対する責任履行上の野田首相自身の人物評価が機能しなかった責任についての認識を麻痺させた発言となっている。
必要とする認識を麻痺させた公人の公の発言は、例え国民が気づかなくても、偽情報の発信となる。いわばウソをついていることになる。
当然、「人事の失敗は組織ではあり得る」と一般論化するのではなく、田中法相人事については「直ちに身を引」くべき任命権者の責任を負っているはずだ
巧妙なウソはもういい加減にすべきだ。数々のウソが内閣支持率と政党支持率を低下させている最大要因だと気づくべき時が来ているはずだ。