野田首相がワシントン近郊キャンプデービッド開幕の主要国首脳会議(G8サミット)に参加。5月18日夜(日本時間19日午前)の最初の討議で北朝鮮の核実験阻止へ各国首脳の理解を取り付け、サミット初参加の立場としてはまずまずの滑り出しを示したという。
ホントーかいな、ホントーかいなと二度思ったが、次の記事にそう書いてあった。
《北朝鮮対応を主導=ハードル高い?経済討議-野田首相》
5月18日の夕食会。野田首相に対して好物の日本酒を特別提供する程のオバマの野田首相に対する気の使いようであったかどうかは、そこまでは書いていない。
もしそのような気の使いようがあったとしたら、ホントーかいな、ホントーかいなとさらに二度思わなければならない。
尤もオレゴン州産とかカリフォルニア産とか日本産に劣らない日本酒が製造されているというから、提供していたなら、宣伝にはなったはずだ。
例え野田首相が美味過ぎるアメリカ産日本酒を堪能することはあっても、政治に於ける対米従属と同様に日本酒に於ける対米従属にハマってしまうことはあるまい。
北朝鮮自制に対するG8首脳協調の呼び掛け発言。
野田首相「国際社会として北朝鮮の悪行に対価を与えない意思を明確に示していくべきだ」
各国首脳「北朝鮮の挑発行為は地域の安定を脅かす」
要するに野田首相は北朝鮮問題で議論をリードしたということであろう。
だが、記事は次のように伝えている。
〈欧米の首脳の関心は実際、イランの核開発疑惑やシリア情勢に向き、「北朝鮮問題は二の次」(外務省筋)。〉
要するに欧米側は北朝鮮問題で議論をリードする気はサラサラなかった。その間隙を突いての野田首相の対北朝鮮議論リードといったところらしい。
但しそのような状況にあったことの謙虚な客観的判断など問題にしないのが日本である。
首相同行筋「野田首相はサミットデビューだったので心配したが、上々のスタートだ」
野田首相は日本時間の5月19日午前、ワシントン近郊の空港で同行記者団の質問に次のように答えている。
野田首相「世界経済と地域情勢について、率直な意見交換ができた」(NHK NEWS WEB)
「世界経済」とは欧州の財政・金融危機を指し、「地域情勢」とは核実験の構えを見せている北朝鮮問題を指しているのは断るまでもない。
「率直な意見交換ができた」とは成功を意味するはずだ。
北朝鮮問題では議論をリードし、会談は成功を収めた。
最初の記事を読んだとき、菅仮免の本格的な外交デビューとなった2010年6月25日・26日閉幕のカナダ・トロントG8(主要国首脳会議)での菅仮免の発言を思い出した。
G8終了時の首脳宣言に盛り込んだ韓国哨戒艦沈没事件(2010年3月26日)に対する北朝鮮非難は菅仮免主導(リード)の功績があったからだと明かしたのである。
6月26日午後(日本時間27日朝)、トロント市内で記者団に語った。
菅仮免「わたしがリードスピーチを行い、非難すべきは非難するよう申し上げ、宣言に盛り込まれた」(The Wall Street Journal)
尤も事実の検証を経ない本人のみの証言だから、真正の事実とは断言できないが、この菅仮免のリードはG8では役立ったものの、本番とも言える肝心要の国連安保理での韓国哨戒艦撃沈事件協議に関しては何ら役に立たなかった。
日韓は法的拘束力があり、加盟国が履行義務を負う、北朝鮮制裁の安保理決議で動いたが、中国の反対に遭って、2010年7月9日(日本時間同日深夜)、法的拘束力のない一段格下げの議長声明全会一致採択で鉾を収めることになった。
この経緯を見ると、対北朝鮮コントロールは中国の出方次第であり、中国にどういう態度を取らせるかの一点にかかっていることが分かるが、北朝鮮の軍事的挑発とそのことに対する国際的制裁働きかけの中国の反対による無効化、あるいは弱体化はこれまでも何度も繰返されてきたことで、経緯を見なくても中国の出方次第は把握しなければならないことで、当然、G8首脳宣言に北朝鮮に対するどのような非難宣言を盛り込もうと効果はないことになる。
菅仮免はこのことを自覚していなければならないはずだったが、「わたしがリードスピーチを行い、非難すべきは非難するよう申し上げ、宣言に盛り込まれた」とさも立派な功績を果たしたかのように言う。
要するに自画自賛に過ぎなかった。
菅仮免は一見対北朝鮮コントロールは中国の出方次第だと自覚していたと窺わせる提案をG8で行っているが、あくまで一見、そう見えるというだけのことである。
菅仮免「中国に一層責任感を高めてもらうため、時には中国をG8に呼ぶことを考えてもいいのではないか」
だが、カナダ・トロントG8、2010年6月26日閉幕翌日の6月27日、早速中国に無視されている。
中国外務省馬朝旭報道局長「G8の文書は知っているが、中国はG8でなくG20のメンバーだ」(日経電子版)
例え菅仮免の提案どおりに中国がG8に参加したとしても、今度は逆に首脳宣言に北朝鮮批判の文言を盛り込もうとしても、従来からの例からして中国の反対にあって実現しないか、あるいは非難や批判を弱めた文言の採択となることは目に見えている。
いわば中国がG8に存在しなかったから盛り込むことがで「わたしがリードスピーチを行い、非難すべきは非難するよう申し上げ」た「宣言」だったと言うこともできる。
要するに菅仮免は日本の首相でありながら、全体を見渡す目を持ち合わせていなかった。
今回の北朝鮮ミサイル発射(2012年4月13日)でも、日韓、アメリカ等が発射が強行された場合、「過去の安保理決議に対する深刻な違反である」と警告を発し、発射後、法的拘束力のある安保理決議を求めていたが、中国の対北朝鮮カードに妨げられて、2009年のミサイル発射実験後の議長声明よりも非難の調子が強まっているというものの、法的拘束力のない議長声明で収まったことは前回と変わりはない。
野田首相にしても、当然、北朝鮮問題で中心に位置していると言える中国をどう動かすかに北朝鮮の脅威払拭がかかっていることになる。
だが、ワシントンG8で、「国際社会として北朝鮮の悪行に対価を与えない意思を明確に示していくべきだ」と中心の中国ではなく、周辺に位置しているG8各国を動かすべく発言し、「世界経済と地域情勢について、率直な意見交換ができた」と、北朝鮮問題での会議の成功を誇った。
いわばG8で各国首脳を動かすべく働かきかけるのではなく、5月18日G8を遡る4日前5月14日の野田首相、胡錦涛、李明博三者首脳会談で北朝鮮の挑発行為を自制させるべく何としてでも胡錦涛主席に働きかけ、自制の方向に動かすべきだった。
だが、中国を些かも動かすことができず、14日の北京日中韓サミットの共同宣言に日韓双方が望んだ北朝鮮の核実験意思、あるいは様々な挑発行為を自制させるどのような文言も盛り込むことができなかった。
野田首相は対北朝鮮外交に於いて管仮免と同様に申し上げるべき相手を間違える同じ轍を踏んだのである。あるいは外交的先見性に関して同じ軌跡を辿っている。
中国を動かして初めて誇ることができる対北朝鮮外交のはずだが、野田首相は、菅首相がトロントG8サミットで自身の外交能力を誇ったように5月16日の自身の官邸ブログで、日中韓サミットでは「申し上げるべきことは申し上げた」と自身の外交能力を誇る見当違いを自覚もなく、さらに判断能力もなく犯している。
二人共G8では「申し上げるべきことは申し上げた」だろうが、相手を間違えていただけではなく、実効能力の点で誇ることのできる点は何もなかった。
関連ブログ案内――2010年6月29日記事――《菅首相のカナダ・トロントG8存在感、自画自賛 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》