海江田元経産相国会事故調参考人出席発言から見る菅仮免共々の情報処理能力の欠如

2012-05-18 13:01:21 | Weblog

 昨日5月17日(2012年)、福島原発事故発生時の海江田元経産相が国会設置の事故調(正式名:東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)に参考人として出席、政府の福島原発事故初期対応について証言した。

 最初に記事《海江田氏“伝言ゲームのよう”》NHK NEWS WEB/2012年5月17日 19時32分)を参考に、これまでブログに書いてきたことと重なる部分があるが、政府の緊急事態宣言発令の遅れと東電が申し出たとしている福島第1原発からの全面撤退について主として取り上げてみる。

 海江田元経産相は国会議員として最初の参考人出席だそうだ。

 この記事には書いてないが、地震発生から緊急事態宣言発令までを時系列で追ってみる。

 2011年3月11日午後2時時46分――東日本大震災発生。 
 2011年3月11日午後3時42分 ――第1原発1~4号機非常用電源喪失
 2011年3月11日午後4時45分 ――東電、福島第1原発冷却機能喪失と政府に通報
 2011年3月11日午後7時3分   ――原子力災害対策特別措置法に基づく「原子力緊急事態宣
                   言」発令

 東電の政府への通報から約2時間20分遅れた緊急事態宣言発令となった。

 この遅れに関して――

 海江田元経産相「ご指摘のとおりだ。『まずは対策本部をつくることが必要だ』と言ったら、どこに根拠となる法令があるのかとなり、探していて時間が経過した。菅前総理大臣の理解を得るのに時間がかかった」

 「どこに根拠となる法令があるのか」がこの発言からでは誰による最初の疑問提示なのか分からないが、誰の疑問提示であっても、「菅前総理大臣の理解を得るのに時間がかかった」と言っている以上、菅仮免も情報共有していた疑問であったはずだ。

 だが、この「理解」が対策本部設置に関する「理解」なのか、「原子力緊急事態宣言」関する「理解」なのか、はっきりとしない。

 《国会事故調:海江田氏「伝言ゲーム」…情報共有が不足》毎日jp/2012年05月18日 00時51分)では次のような発言となっている。

 海江田元経産相「原子力災害対策本部設置の根拠がどこにあるか、というやり取りをしているうちに(菅氏が野党7党との)党首会談に入って時間が経過した。首相の理解を得るのに時間がかかった」

 要するに菅仮免は「原子力災害対策本部設置の根拠」さえ理解していなかった。

 このことは2011年12月27日当ブログ記事――《原発事故報道番組が改めて証明する菅のお粗末な認識と判断能力 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》で既に書いたが、12月25日(2011年)日曜日TBSテレビ『「報道の日2011」記憶と記録そして願い』(第三部) 「官邸初動5日間 原発事故緊迫の舞台裏 初動を検証 ブラックボックス リーダーたちの初動の5日間」が海江田元経産相の「原子力緊急事態宣言」発令に関する発言を取り上げている。
 
 海江田経産相「私は、あのー、事務方から、あー、報告受けましたから、えー、すぐに、うー…、まあ、そのー、すぐに(原子力緊急)事態宣言を、オー、発して、貰えるものだと思っておりました」

 法律の、おー、“たてつけ”と申しますか、ま、そういうことについて、えー、質問がありました。ま、うまく答えられなかったと、言うこともあって、ま、時間がかかったと思います」――

 ここでは原子力災害対策本部設置の根拠となる法令捜しに手間取ったと言うよりも、「原子力緊急事態宣言」発令の根拠となる「原子力災害対策特別措置法」を詳しくは把握していなかったために「原子力緊急事態宣言」発令に手間取ったという説明となっている。

 だが、「原子力緊急事態宣言」発令も原子力災害対策本部設置も、平成11年(1999年)施行の「原子力災害対策特別措置法」に規定されていて、この法令を根拠とすることを義務づけている。

 「原子力災害対策特別措置法」

 (国の責務)

第四条  国は、この法律又は関係法律の規定に基づき、原子力災害対策本部の設置、地方公共団体への必要な指示その他緊急事態応急対策の実施のために必要な措置並びに原子力災害予防対策及び原子力災害事後対策の実施のために必要な措置を講ずること等により、原子力災害についての災害対策基本法第三条第一項 の責務を遂行しなければならない。

 (原子力緊急事態宣言等)

 第十五条  主務大臣は、次のいずれかに該当する場合において、原子力緊急事態が発生したと認めるときは、直ちに、内閣総理大臣に対し、その状況に関する必要な情報の報告を行うとともに、次項の規定による公示及び第三項の規定による指示の案を提出しなければならない。

一  第十条第一項前段の規定により主務大臣が受けた通報に係る検出された放射線量又は政令で定める放射線測定設備及び測定方法により検出された放射線量が、異常な水準の放射線量の基準として政令で定めるもの以上である場合

二  前号に掲げるもののほか、原子力緊急事態の発生を示す事象として政令で定めるものが生じた場合

2  内閣総理大臣は、前項の規定による報告及び提出があったときは、直ちに、原子力緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(以下「原子力緊急事態宣言」という。)をするものとする。

 上記TBS番組はこの規定に関して、“15条通報”の何たるかを知るために総理執務室の隣の首相秘書官室で秘書官たちが六法全書のコピーに追われていたと関係者の話として伝えている。

 いわば原子力発電所過酷事故が発生した場合、どのような法律を根拠として行動したらいいのか情報処理できずに、菅仮免を筆頭として首相官邸はドタバタ劇を演じていた。まさに喜劇である。だが、被災者にとっては迷惑な喜劇――悲劇そのものと言わざるを得ない。

 但し菅仮免はこの「原子力災害対策特別措置法」を知っていなければならなかった。当然、「菅前総理大臣の理解を得るのに時間がかかった」という菅仮免の不手際な情報処理は存在してはならなかった。

 このことも当ブログの幾つかに書いたが、首相当時の菅仮免を政府原子力災害対策本部会議本部長とした、静岡県の中部電力浜岡原発緊急事態想定の原子力災害対策特別措置法に基づいた「平成22年度原子力総合防災訓練」を2010年10月20日と21日の2日間実施しているのである。

 この訓練は「原子力災害対策特別措置法」「第十三条」を根拠としている。

「原子力災害対策特別措置法」

(防災訓練に関する国の計画)

第十三条  第二十八条第一項の規定により読み替えて適用される災害対策基本法第四十八条第一項 の防災訓練(同項 に規定する災害予防責任者が防災計画又は原子力事業者防災業務計画の定めるところによりそれぞれ行うものを除く。)は、主務大臣が主務省令で定めるところにより作成する計画に基づいて行うものとする。

2  前項の規定により作成する計画は、防災訓練の実施のための事項であって次に掲げるものを含むものとする。
一  原子力緊急事態の想定に関すること。
二  第十条、第十五条及び第二十三条の規定の運用に関すること。
三  前二号に掲げるもののほか、原子力災害予防対策の実施を図るため必要な事項・・・・・・

 菅仮免は 「原子力災害対策特別措置法」「第十三条」に基づいて自身が政府原子力災害対策本部会議本部長として参加した「平成22年度原子力総合防災訓練」を行なっていながら、原子力災害対策本部設置に関してであったとしても、原子力緊急事態宣言発令に関してであったとしても、実際に原発事故が発生した際、どのような法律に基づいて行動するのか、どう行動したらいいのか情報処理できないままにドタバタ劇を演じていた。

 情報処理に関わるこの無責任・無能は計り知れない。

 次に「NHK NEWS WEB」記事に戻って、東電の全面撤退問題についての海江田経産相の発言を見てみる。

 海江田元経産相「東京電力の清水社長からの電話で覚えているのは『第一発電所から第二発電所に退避』という言葉があった。『一部を』という話は一切なかったと記憶している。頭の中で『全員が』という認識をした」

 清水東電社長から電話があり、菅仮免が東電本店に乗り込むまでを時系列で並べてみる。

 2011年3月15日未明――清水東電社長から海江田経産相に電話、撤退を申し込む。
 2011年3月15日午前3時頃――菅、海江田経産相から、東電が全面撤退の意向を示しているこ
                とを伝えられる。
 2011年3月15日午前4時過ぎ――菅、清水東電社長を官邸に呼ぶ。
 2011年3月15日午前5時半過ぎ――東京・内幸町の東電本店に乗り込み、「撤退なんてあり得
                   ない!」と怒鳴ったとされる。

 海江田元経産相の上記発言は、《福島第1原発事故「人為ミスもゼロではない」海江田氏》MSN産経/2012.5.18 00:26)では次のようになっている。

 海江田元経産相「『全員』という言葉はなかったが、社長がわざわざ私に電話してくるのは重い決断が後ろにあったのだろう」

 要するに「全員」は海江田経産相の憶測による判断だったことになる。

 勿論正しい憶測かどうかが問題となる。

 海江田経産相の参考人出席を求めた《東京電力福島原子力発電所事故調査委員会》の動画で確認してみたが、新聞記事が示しているとおりの憶測の情報把握であったことを裏付けただけであった。

 海江田元経産相「清水さんが電話をしてきたことの意味を考えますと、私はそれは大事な結論だったんだなあというふうに思います。ほんとうに必要な人を残して、まあ、みなさん、必要なんでしょうけども、ある程度残して、一時的に避難していただくというのは、当然ある話でありまして、それは現場の吉田所長で判断できることではないかと。

 私にまでわざわざ電話をかけてくると言うことは、そこには重い決断が後ろにあったんではないかというふうに思いました」――

 言っていることに矛盾がある。全面撤退だろうと部分撤退だろうと、現場の最終判断は吉田所長であったとしても、それを許可するのは余程の緊急時なら吉田所長が兼ねるということもあるだろうが、東電上層部が謀って、許可の最終判断は清水社長が下すことになるはずだ。

 もしそこで清水社長が東電の許可判断だけで撤退したなら、あとで官邸から何を言われるかわからないと考えたとしたら、最終許可を官邸に求めたとしても不思議ではない。

 何しろ事故対応を全面的に東電に任せていたわけではない。菅仮免は事故発生翌日の3月12日に第1原発に直接乗り込んで口出ししているのである。そこで何かうるさいことを言ったなら、そのことが記憶にあって面倒を避ける意識が働き、官邸にお伺いを立てたということもあり得る。

 なぜ海江田元経産相は東電清水社長から「第一発電所から第二発電所に退避」の許可要請があったとき、憶測ではなく、清水社長に確認しなかったのだろう。誰の判断であろうと、誰の許可であろうと、全面撤退は事故発生中の原子炉を放置することになるのである。

 憶測による情報処理というケースもあるが、この場合は正確を期すために事実の確認を通した情報処理が必要だったはずだ。少なくとも全面撤退した場合は原子炉はどうなるのか聞くべきだったろう。

 東電にしても、もし全面撤退だったなら、全面撤退した場合の原子炉の状態を吉田所長共々議論したはずだ。海江田元経産相が全面撤退した場合の原子炉の状態を尋ねていたなら、東電側の議論の結末を伝えたはずだ。

 海江田元経産相は憶測による情報処理によって自分から伝言ゲームに参加し、情報の歪曲に自ら手を貸したようにしか見えない。

 この海江田元経産相の伝言ゲームと同様の伝言ゲームを菅仮免は演じている。

 そのことを証明する次のインタビューはブログで何度も使っている。

 《菅前首相インタビュー要旨》時事ドットコム/2011/09/17-19:58)

 記者「東電は『撤退したい』と言ってきたのか」

 菅前首相「経産相のところに清水正孝社長(当時)が言ってきたと聞いている。経産相が3月15日の午前3時ごろに『東電が現場から撤退したいという話があります』と伝えに来たので、『とんでもない話だ』と思ったから社長を官邸に呼んで、直接聞いた。

 社長は否定も肯定もしなかった。これでは心配だと思って、政府と東電の統合対策本部をつくり、情報が最も集中し、生の状況が最も早く分かる東電本店に(本部を)置き、経産相、細野豪志首相補佐官(当時)に常駐してもらうことにした。それ以降は情報が非常にスムーズに流れるようになったと思う」・・・・・

 清水社長が全面撤退か部分撤退か、いずれかの撤退許可を求めるために海江田元経産相に電話した事実に変わりはない。

 いわばいずれかの撤退の意思を持っていた。

 また菅仮免の全面撤退は「とんでもない話だ」ということは、自身も国会答弁で何度も言っているように、また東電本店に乗り込んで怒鳴ったように、「全面撤退はあり得ない」ということであるはずだ。

 菅仮免が「全面撤退はあり得ない」としている以上、清水社長の撤退意思が全面撤退であったとしても、「全面撤退はあり得ない」という事実をその場で相手をして共有の事実とする情報処理を行わなければならなかった。

 でなければ一国のリーダであることの意味を失うし、原子力災害対策本部長としての意味を失う。

 だが、全面撤退した場合の原子炉の状態を尋ねたのどうか分からないが、清水社長は「否定も肯定もしなかった」ということは「全面撤退はあり得ない」という事実を相手をしてその場で共有の事実とする情報処理を行い得なかったことを物語っている。

 この自分自身で証明している説得力のなさ、指導力のなさ、つまりは情報処理能力の欠如は責任能力の欠如へとつながっていくずだ。

 菅仮免は清水社長の撤退意思に関する情報の歪曲に自ら手を貸したとまでは言えないが、撤退意思の情報確認を怠ることによって、結果的に正しい情報につなげていく伝言ゲームのルールから自ら踏み外す失態を犯したのである。

 いや、正しい情報につなげていくことができなかったという意味で、間接的な情報の歪曲と言えないこともない。

 菅仮免にしても海江田元経産相にしても、かくまでも情報処理能力を欠いていた。内閣全体に言えることなのだろうが、満足な情報処理能力を有していなかったことが福島原発事故初期対応に於いてドタバタ劇――不手際を演ずる原因となったに違いない。

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