《渡部氏 代表選後は挙党態勢で》(NHK NEWS WEB/2011年8月28日 23時59分)
渡部恒三民主党最高顧問は、東京都内で小沢元代表と会談。どの候補が勝利しても、選挙後は互いに協力して挙党態勢を確立すべきだという考えを伝えたと記事は書いている。
渡部恒三「政権交代させてくれた国民の期待に応えられる最後のチャンスだ。これまで党が2つに割れていたことが、政治を小さくしていた。選挙では戦っても、終わったあとは誰が代表になろうと、1つになって新しい政権に協力しよう」
小沢氏同調。
会談後にNHKの取材に対して。
渡部恒三「所属議員一人一人が、国民の世論で選ぶと確信しており、世論に逆行するような結果にはならないと思う。小沢氏の命令で動くようでは笑われる」
「所属議員一人一人が、国民の世論で選ぶと確信」とは奇麗事のご都合主義の最たるものであろう。
世の中、国民の世論のみが利害ではない。国民世論をどの程度の利害とするかによって、国民世論との距離が決まってくる。菅仮免は自己政治の否定につながるため、首相就任後と昨年9月の民主党代表選当時以外は常に国民世論に距離を置いてきた。
渡部恒三はまた、「世論に逆行するような結果にはならないと思う」と言っているが、世論が期待に対する評価・判断と結果責任に対する評価・判断の二つの側面を持っているにも関わらず、その二つを混同して世論を把える視野狭窄に陥っているばかりか、昨年(2010年)9月14日の民主党代表選の今日に至る結末、いわば結果責任に対する学習能力ゼロを曝け出して、カエルの面にショウベンを演じて平然としている。
記事はまた渡部恒三が小沢元代表が支持している海江田経済産業大臣以外の候補者を支持することを伝えたと書いているが、「所属議員一人一人が、国民の世論で選ぶと確信しており」と言っている以上、世論の数値が一番高い前原誠司に1票を投じるということでなければならない。
前原以外の候補者に1票を投じることは世論で選択しないことになって、厳密には言っていること自体が矛盾していることになるが、全体としては世論に逆行しない結果、世論に従った結果となるということを言って、昨年の菅選択の失敗に懲りない世論信奉の主張となっている。
昨年の代表選前の菅内閣支持率は不支持を少し上回っていた。但しその前回の内閣支持率は不支持が上回っていた。この逆転は小沢元代表が立候補に名乗りを上げたことからの反小沢風潮が押し上げた反動に過ぎないことは世論調査のいくつかの質問項目を見れば歴然とする。
9月14日民主党代表選約10日前に行った朝日新聞世論調査。
菅内閣支持
支持 ――49%(前回8月7、8日調査 37%)
不支持――30%(前回8月7、8日調査 43%)
反小沢風潮に助けられて前回調査から支持・不支持が逆転しているものの、最も要求される肝心の政治能力の面で前回調査と殆んど変化がないままに不支持が支持を上回っている。
政策の面
支持 ――20%(前回8月7、8日調査 20%)
不支持――27%(前回8月7、8日調査 30%)
実行力の面
支持 ――13%(前回8月7、8日調査 9%)
不支持――51%(前回8月7、8日調査 49%)
この政治能力面の不支持・支持の前回調査と殆んど変わらない現象こそが内閣支持率の前回調査と比較した逆転が反小沢風潮の成果であることを明確に物語っている。
以上の項目が示している数値は世論調査に於ける期待に対する評価・判断に対する対応値ではなく、直近の菅政治の結果責任に対する評価・判断であるはずである。
どちらが次期代表に相応しいか
菅 ――65%
小沢――17%
実行力の面での期待度
菅 ――34%
小沢――49%
国民は菅仮免の肝心の政治能力に関しては評価していないものの、次期代表としての期待は小沢氏に対して大差を付けている。この数値はあくまでも小沢氏を比較対象とした世論調査に於ける期待に対する評価・判断を示しているに過ぎない。
他の世論調査も似たり寄ったりの傾向を示している。例えば8月28日、29日に行った読売新聞世論調査。
菅内閣
支持 ――54%(8月6~8日前回調査 44%)
不支持――35%(8月6~8日前回調査 46%)
どちらが次期代表に相応しいか
菅 ――67%
小沢――14%
指導力
菅 ――1%
小沢――40%
毎日新聞社8月28、29日実施の世論調査。
菅内閣
支持する 48%(7月24、25日の前回調査 41%)
支持しない 35%(7月24、25日の前回調査 40)
次期代表に相応しいのは。
菅 ――78%
小沢――17%
菅仮免と小沢元代表とを比較した政治能力の調査は行っていない。
かくかように昨年の代表選では小沢元代表を対立候補とした場合の国民の菅仮免に対する期待からの評価・判断はその政治能力が表した結果責任に対する評価・判断は低いものの高い数値を示した。
世論調査が示したこの高い期待値が民主党国会議員ばかりか、地方議員、党員、党友、サポーターにも大きく作用した菅当選であったはずだ。渡部恒三の言葉を借りると、大半の「所属議員一人一人が、国民の世論で選」び、「世論に逆行するような結果」の選択を拒否した。
だが、世論調査が大きく影響した菅選択の結果は散々だった。神奈川11区比例復活の新人議員横粂勝仁は投票日近くまで迷った末、世論調査に従って菅に投票した。
その成果が6月2日(2011年)菅内閣不信任案賛成の1票であったが、不信任を突きつけただけで満足できずに菅仮免の政治家としての存在自体に対する拒絶感を高じさせて、7月21日国会内で記者会見、次期衆院選で菅仮免選挙区の東京18区から無所属で立候補することを表明。
落選させることでその存在を抹消したい衝動に駆られたというわけである。
横粂勝仁「ただひたすらに延命を図る首相の政治を終わらせるため直接、堂々と戦いたい」(MSN産経)
大体が渡部恒三自体が菅選択を後悔している。当時の世論調査に対する自己否定であるが、そのことに自ら気づいていない。
渡部恒三「とにかく小沢を代表にしちゃいけないというので、みんな菅に入れたけど、本当にひでえのにやらせちゃったな」(MSN産経)
「とにかく小沢を代表にしちゃいけない」と言うのは小沢拒絶感の国民世論に従った、いわば国民世論に「逆行」しない趨勢として受入れた自分たちの態度でもあったはずだ。
自分たちが小沢氏に拒絶感を持っていたとしても、国民世論が拒絶感を持っていなかったなら、大分薄めなければならなかった趨勢であったろう。
いずれにしても昨年の代表選当時の「どちらが次期代表に相応しいか」の国民世論の大差の菅判定は正しい評価・判断ではなかった。
もし渡部恒三がこのことを厳密に学習していたなら、「とにかく小沢を代表にしちゃいけないというので」云々と言っている以上、厳密に学習していなければならないはずだが、「所属議員一人一人が、国民の世論で選ぶと確信しており、世論に逆行するような結果にはならないと思う」などとは決して言えなかったはずだ。
学習していないままに単に菅を選択して「ひでえ」目に遭ったからとこれまでの推移を表面的に解釈して反省しただけで終わらせているから言えるのであって、厳密に学習していない以上、ご都合主義の世論調査の利用ということになる。
二つの側面を持つ世論調査に於ける結果責任に対する評価・判断は内閣の政治の結果を見ての評価・判断だから、小沢アレルギーの反動といった特別の事情が付け加わらない限りほぼ当たると言えるが、結果を見ないうちの期待に対する評価・判断は必ずしも期待通りの成果を生むとは限らない。
何ら学習能力がないことからすると、何のために民主党最高顧問に就いているのか意味不明である。
確かに次期代表としての期待値が高い前原誠司は国交相や外相を経験していて、大臣時代の結果責任を例え評価していたとしても、首相は未経験であって、首相としてのどのような結果責任も誰も見ていないから、期待することはできても、結果責任に対する評価・判断は不可能である。
但し参考となるのは民主党全体を率いていた代表時代に根拠も裏付けも確かめもせずに虚構の事実を振り回しただけのメール問題に自ら深く関わって責任を取り辞任するという、リーダーに必須の能力である情報管理と情報駆使という点でリーダーに相応しくない失態を犯している。
時間の経過が政治家として成長を果たしているだろうが、それでも世論調査に於ける期待に対する評価・判断は常に正しい
姿を取るとは限らないという事実に変わりはない。
期待に対する評価・判断を示す世論調査を振り回すのは単なるご都合主義に過ぎないということである。 |