鹿沼軽自動車水没事故/危機管理無能力を徹底検証すべき(1)

2008-08-28 10:42:25 | Weblog

 市、消防、警察の対応の拙劣さから集中豪雨で増水した東北自動車道高架下市道で通行中に冠水した軽自動車の運転者の女性が警察と消防に通報しながら救助を受けることなく死亡した栃木県鹿沼市の事故。昨8月27日の2記事とも同じ「毎日jp」記事だが、≪栃木・鹿沼の車水没死:遺族「悲劇、繰り返さないで」 市長が対応を謝罪≫から「事故の経過」を、≪鹿沼の車水没死:鹿沼市長が謝罪、再発防止策策定へ 防災対応の盲点露呈 /栃木≫からはそれぞれの対応の様子を窺ってみる。

 まずは「事故の経過」を。

 8月16日午後
  5時10分 市内で6時10分までの1時間に85ミリの雨量観測
    33分 現場の路面冠水を知らせる装置が作動
    54分 現場で最初の水没事故があり、目撃者が消防に通報(被害者は自力脱出)

  6時15分 市から委託されたバリケード設置業者が現場に到着(この箇所は「東京新聞」電子版)
  6時19分 高橋さんの水没事故を目撃した人から県警に通報(県警は現場近くの別事故と勘違いし
        出動指示せず)

    21分 高橋さんから県警に通報(県警は発信位置を特定できず)
    22分 高橋さんの電話を受けた母親が消防に通報。「娘から『さようなら』と電話があった」
        と話した(消防は断片的な情報のため正しい位置を把握できず、別地点に出動指示)
    26分 高橋さんの事故の目撃者から消防に通報
    29分 さらにもう1件、消防に通報(この2件の通報について消防は5時54分通報の事故と混
        同し、出動を指示せず)

  7時30分 付近を巡回中の警官が高橋さんの車を発見、救助したが高橋さんは心停止状態。搬送先
        の病院で約1時間後死亡確認
              (以上)

 佐藤市長は26日の市役所での定例記者会見でそれぞれが<適切な対応が取れなかった原因について、「かつてない1時間に85ミリを超える雨が集中的に降った」ことと、市内の各所から通報が相次ぎ、対応する職員が手いっぱいになってしまった問題を挙げ>(≪鹿沼の車水没死:鹿沼市長が謝罪、再発防止策策定へ 防災対応の盲点露呈 /栃木≫
)て、救助が手遅れだった理由を述べたという。

 市長は「かつてない」という表現で「想定外」だったことを伝えているが、同記事は<事故現場となった市道は、東北自動車道が開通した1972年と同時期に開通した道路で、これまで、冠水により95年に車両3台と01年に2台の合計5台が水没したことがあったという。ただそれらはいずれも約1メートルの深さの冠水状態だった。>と過去の冠水事故の水位は「1メートル」だったとしている。

 当日の事故現場の高架下は「最高水位195センチを記録」と≪栃木・鹿沼の車水没死:遺族「悲劇、繰り返さないで」 市長が対応を謝罪≫が書いている。

 要するに市長にとっては「1メートル以内」は想定内で、「1メートルを超えた場合」は想定外ということなのだろう。だが危機とは想定外の事態を言うはずである。すべてが想定内で納まる「危機」であったなら、そのことに対する備えは怠りないだろうから、厳密には「危機」とは言えない。そのような「危機」に関して対応側が何らかの混乱や問題を生じせしめたとしたら、危機管理能力は話にならないことになる。

 過去に1メートルの増水があったから、1メートルを「想定内」として対応策を構築してそれでよしとするのは「想定外」に対する備え・危機管理を放棄することを意味する。

 過去に発生した危機を想定した、その範囲内の対応であるなら、過去の危機をなぞっただけの危機管理と堕す。市長の弁明は責任逃れの言葉でしかない。

 「東京新聞」インターネット記事≪鹿沼水没事故 会見で市長が謝罪 人命優先第一を強調≫(2008年8月27日)は<当日の十六日午後五時三十三分、冠水が二〇センチを超えたことを現場の路面冠水装置が感知。周辺四カ所の掲示板が「通行止め」を表示した。冠水時、市は委託業者に通行止めのバリケードを設置するよう依頼しているが、連絡が遅れ業者の現場到着は同六時十五分。すでにバリケードの保管場所自体が水没し、取り出せなかった。>と伝え、「毎日jp」記事≪鹿沼の車水没死:鹿沼市長が謝罪、再発防止策策定へ 防災対応の盲点露呈 /栃木≫は<道路入り口付近に保管してあるバリケード2カ所は既に冠水していて設置できず、ガソリンスタンドの店員6人と市の委託業者2人が、手サインで車両の誘導に当たった。

 しかし、大雨で視界が悪かったことなどから、誘導に気付かなかったドライバーもいたものとみられ、すべての車の進入は阻止できなかった。>と伝えている。

●16日午後5時33分に冠水20センチ超えの「路面冠水装置」が感知。市はバリケード設置を委託し
 ている業者に「連絡後れ」の状態でバリケード設置指示の連絡。
午後54分、現場で最初の水没事故があり、目撃者が消防に通報したが、被害者は自力脱出して
 無事。
午後6時15分、業者従業員2人、現場到着。
●バリケード保管場所が水没状態で設置不可。
●業者従業員2人はガソリンスタンドの店員6人の応援を受けて、手サインで高架下への車両進入禁止の誘導
  に当たった。
午後6時19分、被害者の水没事故を目撃した人から県警に通報
午後6時21分、被害者本人から県警に、22分、被害者から母親へ、母親から消防
  に、26分、目撃者から消防に、29分、もう1件消防に通報。
●最後の2件は消防は「自力脱出」した5時54分通報の事故と混同し、出動を指示しなかった。

 なぜ市は「連絡が遅れ」たのだろう。最初の間「水位20センチ」ぐらいならたいしたことはないと放置していたとしたら重大な責任となる。

 市委託のバリケード設置業者の現場到着は6時15分。その21分前の5時54分に既に最初の冠水事故が起きているし、死亡被害者の水没事故を目撃した人からの県警への通報は業者到着4分後の6時19分である。

 このことは業者が6時15分に現場に到着した時間よりも前に軽自動車は高架下に進入していて、冠水状態となっていたことを示す。先を急いでいて車のスピードを上げていたとしても、既に冠水するまでに増水状態になっていた水の中に突っ込んていったとしたら、水圧と驚いて踏んだブレーキの制御圧力でそう先には進めないだろうからだ。増水しているが通行できるだろうと思って車を進めたものの予想を超える急激な増水で車のエンジンが停止して立ち往生したところへなおも増水して冠水状態となってしまったと言うことではないのか。

 危機管理が有効に機能しなかった問題点として連絡が遅れた理由と遅れた時間の検証を行わなければならない。「連絡後れ」は想定外だったという弁解は成り立たないはずだ。

 市の委託業者従業員2人はバリケードが取り出せなかったためにガソリンスタンドの店員6人と計8人で「手サインで車両の誘導」に当たった。これは当然の行為であろう。バリケード設置は交通止めの手段であって、目的はあくまでも通行止めだからだ。例え委託契約書に明記してなくても、バリケードに代る通行止めの手段を取る責任を有するはずだ。

 バリケードを取り出せませんでした、では帰りますでは済まないだろう。バリケードを設置して通行止めを完了させたところで委託された責任は完遂する。設置できなければ、通行止めを可能とする代替措置を取らなければならない。

 だが、高架下への進入禁止を知らせるために「手サインで車両の誘導」を行ったものの、既に進入していたかもしれない車両の可能性まで考慮しなかった。このことに委託業者は全然責任はないだろうか。

 市は最初に業者を現場に向かわせるためにどんな指示を出したのだろうか。「連絡するのが遅れた。大至急現場に向かってくれ」と指示したのか。「連絡後れ」には一切触れずに、ただ単に「水位が20センチを超えたから、現場に向かってくれ」とだけ指示したのだろうか。

 もし「連絡が遅れた」の一言があったなら、バリケード保管場所が既に冠水しているのである、連絡が遅れた間に高架下に進入して立ち往生している車両の可能性に考えを巡らす余地を与えはしなかっただろうか。

 そもそも水位が20センチを超えたところで交通止めにするのは車両の冠水を防ぐ目的からであろう。そのことを委託業者は承知しているだろうし、「連絡が遅れ」、バリケード保管場所が既に冠水しているということであったなら、高架下で冠水している車両の存在を疑って然るべきではなかったろうか。疑わなかったのは「連絡が遅れ」の一言がなかったからとも疑うことができる。

 また業者は保管場所が既に水没していてバリケードを取り出せないことを市へと連絡して、どうしたらいいか指示を仰いだはずである。それとも水没した場合を想定して、代替措置がマニュアルに明記してあって、それが「手サインで車両の誘導」だったのだろうか。

 市が委託業者に最初に指示する際にどのような言葉で指示を出したのか、「連絡後れ」に触れていたかどうか、あるいはバリケードが取り出せないと連絡があったのかどうか、あったとしたら、その際どのような指示を与えたのか、既に進入している車の可能性にまで言及したのかどうか、「手サインで車両の誘導」がマニュアルに記入してあることなのかどうか、連絡を受けた市が指示したことなのかどうか、指示した措置であるとしたなら、「手サインで車両の誘導」のみの指示で、高架下への車両の進入の可能性まで指示しなかったと言うことになるから、すべてを詳しく検証してそれぞれの落ち度を暴き、責任の所在を追及しなければならない。

 「大雨で視界が悪かったことなどから、誘導に気付かなかったドライバーもいたものとみられ、すべての車の進入は阻止できなかった」を弁解として成立させてはならない。あくまでも「車両進入禁止」が目的であって、「手サインで車両の誘導」を行っていた委託業者の2人は高架下に既に進入した車両の有無を確認できる場所、もしくはその近くに位置していたはずだから、確認する責任を有しているはずで、もし本人たちがそこまで考えを巡らすことができなかったとしても、市は指示を出すべき確認事項だったはずである。

 消防が目撃者からの午後6時26分の通報と同じく他の目撃者の午後6時29分の通報を5時54分通報の事故と混同し、出動を指示しなかったのは「自力脱出」を把握できていなかったから止むを得ない不可抗力だとすることができるのだろうか。

 被害を受けた当事者やその近親者からの通報ではなく、目撃者という事故とは直接関係のない第三者からの通報であり、比較的落着いていた相手だったはずで、場所をはっきりと確認すれば別事故だと簡単に判断できることを、消防の方で同じ事故だと勝手に思い込む省略意識が働いた「混同」の疑いは捨てきれない。

 なぜ30分前の通報の事故と混同したのか、混同の原因を徹底検証して、その理由を明らかにしなければならない。

 消防も警察の仕事の慣れから、「冠水している(=水没している)」=「車の中に閉じ込められている危険性」を想像し、その緊急性・危険な事態を思い巡らす感覚に麻痺を起こしていなかっただろうか。 

 あるいは単一事故の場合、現場を通行中の複数の車両のそれぞれが自分が最初の目撃者だと思い、既に消防・警察に通報済みであることが分からずに所持している携帯で通報するといったことはよくある場面であろう。何しろ殆どの人間が携帯を持っている時代であって、簡単に同じ情報が錯綜することになる。

 消防・警察にそのことへの先入観がなかっただろうか。

 例えば同じ街で放火でない以上、同じ時間に別々の場所で二つの火災が起きることは滅多にない。例え単純火災であっても、同時に複数の火災が起きる可能性は遮断すべきではないだろう。それが「想定外」に備えた危機管理というものであるはずである。

 5時54分通報の事故に出動した消防は30分経過後も現場に到着していなかったのだろうか。何分後に到着しようとも、到着後、存在するはずの冠水した車の影も形も見ることができず、「自力脱出」を把握したはずである。そのことを直ちに消防本部に伝えたのだろうか。

 伝えたはずで、それが何分後なのか、明らかにしておかなければならない。判断できなかったこととはいえ、「自力脱出」によって存在しない冠水した車に振り回され、人命を失わせているのだから、後の危機管理の教訓とするためにも混同した原因と共にすべてを明らかにしておくべきだろう。

 消防が別事故と混同したのとは別に110番通報を受けた県警は被害者の緊急救助要請に対して発信位置を特定できず、別の事故と混同して出動せず、消防は被害者の母からの救助要請に断片的な情報のために正しい位置を把握できず、別地点に出動指示を出した。だが、東北自動車道高架下の現場となった市道は95年と01年に車両冠水事故を発生させているし、警察・消防が別事故と混同したように当日も別の場所で冠水事故が発生している。東北自動車道高架下道路や似たような冠水状況を抱えた道路を大雨が振った場合の危険箇所情報として把握していなければならない危機管理機関に所属しているはずである。

 正確な位置を特定できなかったなら、県警は危険箇所情報に基づいてすべての冠水危険箇所に交番の警察官、白バイ、パトカーを緊急派遣する配慮をなぜ示さなかったのだろう。そうすることによって、初めて「人命の尊さ」を口にする資格を持つことができる。

 危機管理機関でありながら、責任として有している正確な情報収集も行わず、正確な行動も取らずに、それとは正反対の不確かな見込み行動を取る。この一事を以ても危機管理機関としての責任を果たしていたとは言えない。

 被害者の長男が「警察や消防は混乱していたというが、大地震が起きたら救助できるのか疑問に思う」(≪栃木・鹿沼の車水没死:遺族「悲劇、繰り返さないで」 市長が対応を謝罪≫)と、その危機管理能力の拙劣さを批判したということだが、上は下を従わせ(上の言うこと・することをなぞらせ)、下は上に従う(上の言うこと・することをなぞる)「なぞり」を基本原理とした権威主義を行動様式とし、それと同じ構造の暗記教育に慣らされて意思伝達・情報伝達をなぞる形式で成り立たせている関係から、想定外の事態に対してこそ発揮されるべき「なぞり」を踏み出した臨機応変な満足のいく危機管理は「想定外」の行動様式であるゆえに望むべくもないに違いない。

いずれにしても、徹底検証と責任の所在の明確化、責任の軽重に応じた厳罰を行わなければならない。

 「鹿沼軽自動車水没事故/危機管理無能力を徹底検証すべき(2)」に続く 

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鹿沼軽自動車水没事故/危機管理無能力を徹底検証すべき(2)

2008-08-28 10:27:57 | Weblog

 ≪栃木・鹿沼の車水没死:遺族「悲劇、繰り返さないで」 市長が対応を謝罪≫(毎日jp/2008年8月27日 東京朝刊)

 栃木県鹿沼市で16日、集中豪雨で冠水した高架下に軽乗用車が水没し、同市千渡(せんど)の派遣社員、高橋博子さん(45)が死亡した事故で、佐藤信市長は26日、市の冠水対策が実質的に機能しなかったことを明らかにしたうえで謝罪した。遺族からは対応を批判する声が上がった。警察庁は110番に正確、迅速な対応をとるよう同日付で全国の警察に指示することを決めた。【中村藍、松崎真理】

 佐藤市長は市役所で会見し「情報が錯綜(さくそう)し、結果として救助出動がされなかったことは申し訳ないこと」と謝罪した。現場には路面冠水を知らせる装置が設置してあり、水深20センチを超えると、近くに保管してあるバリケードを置き、通行止めにすることになっていた。しかし、16日はバリケードの保管場所が水没したため設置できなかった。市は今後、バリケードの設置場所を増やす方針。

 市によると、事故当日の夕方の豪雨で問題の高架下は最高水位195センチを記録。市消防本部には浸水などの通報が殺到した。これらの対応に追われ、県警鹿沼署に出動要請済みの別の水没事故と混同し出動指令を出さなかったという。

 一方、高橋さんの長男雅人さん(19)は市長の謝罪について「母は必死に生きようとしながら死んでいった。このような悲劇を二度と繰り返さないでほしい」と怒りを押し殺して話した。中国留学から帰国し、高速バスで鹿沼インターに到着した雅人さんを迎えに行く途中の事故。雅人さんがバスから「もうすぐ着く」と電話すると、高橋さんは「すぐ行くからね」と答えた。それが最後の母の声だった。雅人さんは「警察や消防は混乱していたというが、大地震が起きたら救助できるのか疑問に思う」と緊急時の対応に苦言を呈した。
 ==============
 ◆栃木県鹿沼市で起きた車両水没死亡事故の経過◆
8月16日午後
 5時10分 市内で6時10分までの1時間に85ミリの雨量観測
   33分 現場の路面冠水を知らせる装置が作動
   54分 現場で最初の水没事故があり、目撃者が消防に通報(被害者は自力脱出)

  (業者現場到着/6時15分/東京新聞)
 6時19分 高橋さんの水没事故を目撃した人から県警に通報(県警は現場近くの別事故と勘違いし出
       動指示せず)
   21分 高橋さんから県警に通報(県警は発信位置を特定できず)
   22分 高橋さんの電話を受けた母親が消防に通報。「娘から『さようなら』と電話があった」と
       話した(消防は断片的な情報のため正しい位置を把握できず、別地点に出動指示)
   26分 高橋さんの事故の目撃者から消防に通報
   29分 さらにもう1件、消防に通報(この2件の通報について消防は5時54分通報の事故と混同
       し、出動を指示せず)
 7時30分 付近を巡回中の警官が高橋さんの車を発見、救助したが高橋さんは心停止状態。搬送先の
       病院で約1時間後死亡確認 


  ≪鹿沼の車水没死:鹿沼市長が謝罪、再発防止策策定へ 防災対応の盲点露呈 /栃木≫
(毎日jp/08年8月27日) 

「想定を超えてしまった」

 鹿沼市茂呂の東北自動車道高架下の市道が今月16日、集中豪雨のため冠水して通り掛かった同市千渡、派遣社員、高橋博子さん(45)の軽乗用車が水没し、死亡した事故は、市消防本部、県警に続き、地元の佐藤信・鹿沼市長も対応の不備を認める異例の事態に発展。緊急を要する事故・防災対応に盲点があることが露呈した。冠水した現場の市道にバリケードの設置などができなかったことについて佐藤市長は26日、市役所で開かれた定例記者会見で、謝罪の言葉を述べるとともに、再発防止策を策定する考えを明らかにした。【中村藍、松崎真理】

 消防や行政で適切な対応が取れなかった原因について、佐藤市長は会見で、「かつてない1時間に85ミリを超える雨が集中的に降った」ことと、市内の各所から通報が相次ぎ、対応する職員が手いっぱいになってしまった問題を挙げた。

 同市によると、事故現場となった市道は、東北自動車道が開通した1972年と同時期に開通した道路で、これまで、冠水により95年に車両3台と01年に2台の合計5台が水没したことがあったという。ただそれらはいずれも約1メートルの深さの冠水状態だった。

 しかし16日は、冠水部の水深が約2メートルに達するほどの集中豪雨だった。道路入り口付近に保管してあるバリケード2カ所は既に冠水していて設置できず、ガソリンスタンドの店員6人と市の委託業者2人が、手サインで車両の誘導に当たった。

 しかし、大雨で視界が悪かったことなどから、誘導に気付かなかったドライバーもいたものとみられ、すべての車の進入は阻止できなかった。佐藤市長は「想定を超えてしまったというところが最大の問題であった」と釈明した。

 市は今後の再発防止策として、
(1)路面冠水装置が作動した場合に設置するバリケードと設置個所を6カ所、8基に増やす
(2)路面冠水装置が水深10センチを感知した場合、市消防本部は現場に急行する
(3)広報紙でも冠水注意個所の周知を図る
(4)現在、市内に6個設置している赤色回転灯を18個に増やす
(5)雨量が1時間40ミリを超えると予想される場合、市消防本部は職員を招集する--などを挙げた
   。
 ◇遺族、怒りあらわ 「早めに連絡ほしかった」

 高橋さんの長男・雅人さん(19)は26日、宇都宮市で報道陣の取材に応じ、鹿沼市消防本部や県警の水没事故への対応を批判した。

 「想定外の大雨だったことが大きな要因」。釈明を繰り返す市に対し、雅人さんは「事故現場は十数年前から危険な場所と言われてきた。想像できない大雨だったことは分かるが、事前に改善できなかったのか」と怒りをあらわにした。

 高橋さんは中国での短期の語学留学を終え、成田空港から高速バスで鹿沼市に戻ってくる雅人さんを迎えに行く途中に事故に遭った。雅人さんはバスの中で母に2回電話をした。「そろそろ、鹿沼に入るから。雨が強いから気をつけてね」。高橋さんは「こっちもすごい土砂降り。すぐに行くからね」と答えたという。

 雅人さんは「母は泥水にのみ込まれて、苦しんで必死に生きようとした」と言葉を震わせた。

 また「謝罪やミスを認めるにしても、もっと早めに連絡をほしかった」と悔しさをにじませた。今後の対策については「犠牲者をこれ以上出さないために、排水設備の改善や道路の角度を直すなどしてほしい」と話した。その一方で、「警察、消防は対応のミスを認め、市も謝罪してくれたので気持ちは軽くなった」とも述べた。 
≪鹿沼水没事故 会見で市長が謝罪 人命優先第一を強調≫(東京新聞/2008年8月27日)
 事故に対する見解や今後の対応を述べる佐藤信市長=鹿沼市役所で

 「対応できず、心からおわびしたい」。鹿沼市の市道で豪雨のために軽乗用車が水没し、会社員高橋博子さん(45)が死亡した事故で、二十六日に記者会見した佐藤信市長はこう謝罪。再発防止策を公表した。行政の不手際が指摘される中、市は教訓を生かせるのか-。 (横井武昭)

 佐藤市長は冒頭で「結果として消防の救助出動ができず申し訳ない。心からご冥福を祈る」と神妙な面持ちで陳謝した。 

 市によると、当日の十六日午後五時三十三分、冠水が二〇センチを超えたことを現場の路面冠水装置が感知。周辺四カ所の掲示板が「通行止め」を表示した。冠水時、市は委託業者に通行止めのバリケードを設置するよう依頼しているが、連絡が遅れ、業者の現場到着は同六時十五分。すでにバリケードの保管場所自体が水没し、取り出せなかった。

 消防も同六時二十九分に「車二台が水没した」という通報を受けながら別の水没事故と混同し出動しなかった。大雨洪水警報が出た午後六時に非常招集をかけたが、全職員三十人のうち十八人しか集まらなかった。

 対応の不備や市の責任について市長は「経験したことのない豪雨だった。行政の不備というより、すべてが想定の範囲を超えていた。人命優先がとにかく第一。そのためにいち早く通行止めにすることが求められる」と強調した。

 死亡した高橋さんの長男雅人さん(19)は「もう少し早く説明してほしかった。悲しい事故が二度と起きないよう改善されることを望みます。母の死が無駄にならないように」と話した。

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