goo blog サービス終了のお知らせ 
不適切な表現に該当する恐れがある内容を一部非表示にしています

日本社会が「安心・安全」でない中でオリンピック・パラリンピックの開催だけが「安心・安全」という両者関係には合理性は見い出し難い

2021-05-31 10:08:09 | 政治
 日本の首相菅義偉は緊急事態宣言を発出するたびに、あるいはまん延防止等重点措置をいずれかの地域に適用するたびに「しっかり感染防止に努めていきたいと思います」、「一日も早く感染拡大収束に努めていきたい、このように思っています」等々と公約するが、実際に感染が一定程度収まって緊急事態宣言を、あるいはまん延防止等重点措置を解除すると、再び感染拡大が始まって、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出に逆戻りをする繰り返しとなっていて、菅義偉の「感染拡大防止」や「感染拡大収束」はその場凌ぎの「思い」だけで終わらせている。

 緊急事態宣言下にあってもなくても、まん延防止等重点措置下にあってもなくても、いずれの状況下ではマスクをし、手洗いに励んでいる点についてはほぼ変わりはないが、唯一の大きな違いは人流の抑制を受けているかいないかである。となると、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が解除されると感染が拡大する傾向は確かにマスク着用も手洗い励行もそれなりに感染防止に役立っているだろうが、決定的に役立っている要因は人流の抑制であって、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の解除と同時に人流の抑制が解除されることによって感染が再び拡大していく原因となっていることを示している。

 このことは誰もが承知していることだろうが、要するに緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の発出と解除が感染拡大と感染縮小のメカニズムを伴うことになっている。つまり発出から程なくして感染縮小が始まり、解除から程なくして感染拡大が始まる。新型コロナウイルス感染症対策担当大臣である西村康稔が2021年4月23日の衆議院議院運営委員会で緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の発出に際しての国会説明で、「この新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こるわけであります。諸外国を見ていてもそうであります。そして起こるたびに大きくなってくれば、ハンマーで叩く。つまり措置を講じて抑えていく。その繰り返しを行っていく。何度でもこれを行っていくことになります」と発言していたことがこのことに当たる。

 このハンマーは感染拡大を叩くだけではなく、経済に打撃を与えるハンマーともなっている。

 当然、唯一の効果的な感染防止策は人流の効果的な抑制にかかっている。何のことはない、人流の抑制が自動的に3密回避という状況をつくり出すことに直結しているからである。人と人の出会う機会が減れば、感染の機会も減る。但し家庭内感染が感染場所の人数として一貫して多いのは家庭内は狭い空間の中に恒常的な人員で構成されていることが原因して人流の抑制が効かないからだろう。3密回避のためにカネ持ちなら、子どもをホテルでの生活に切り替えることができるが、一般家庭では、「感染から守るために外で寝ろ」と強制することはできない。

 新型コロナウイルス感染拡大を受けて東京、大阪、兵庫、京都の4都府県知事が要請、菅政権は3回目の緊急事態宣言を2021年4月25日に要請自治体に発出、発出期間を5月11日とした。だが、5月11日を前に感染が減らず、5月7日になって期限を5月31日まで延長。愛知県と福岡県を5月12日から対象地域に加えることを決定した。ところが思うような感染抑止に繋がらず、5月28日になって5月31日までの期限を6月20日にまで延長することを決め、さらに埼玉県、千葉県、神奈川県、岐阜県、三重県に発出していたまん延防止等重点措置も同じ6月20日までの延長と決めた。

 感染拡大を受けて発出した緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も人流の抑制を基本的な重点策としていながら、感染抑止のハンマーとしての効果が出なかった原因は従来株よりも感染力の強い変異株の広がりと宣言慣れ(重点措置慣れ)、あるいは宣言疲れ(重点措置疲れ)から人流の抑制が思うように実現できなかったことだと言われている。

 但し変異株がいくら感染力が強くても、徹底的な人流の抑制を実現できていたなら、人から人への距離は遠くなって、その遠さに応じて感染の機会も減ることになるから、やはり感染防止の鍵を握るのは人流の抑制を如何に徹底できるかにかかっている。

 菅義偉が2021年5月28日、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の延長決定を伝える「記者会見」を首相官邸で開いた。ここでは菅内閣のコロナの感染が広がる社会状況下での東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた動きについて取り上げる。

 菅義偉は冒頭発言で「感染を防止し収束へ向かわせる切り札が、ワクチンです」と断言している。要するに菅義偉は西村康稔が緊急事態宣言や重点措置の発出と解除に合わせて感染拡大と感染縮小の波を繰り返すと国会で発言していた、その波を断ち切る「切り札」がワクチンだと宣言したことになる。

 ところが日本のワクチン接種率は低く、菅義偉自身、続けて「接種回数は1日に40万回から50万回となり、これまでに1,100万回を超える接種が行われました」と発言しているが、この回数は1回接種と2回接種が混じっていて、平均すると、500万人にしか接種していないことになる。中国は全体で6億回を超え、アメリカは約3億回に迫っている。

 菅義偉は東京オリンピック・パラリンピックの選手や大会関係者へのワクチン接種や一般の国民と交わることがないようにすること、つまり一般国民と選手や大会関係者との人流の抑制を図ることで「安心・安全の大会とする」と発言しているが、オリンピック・パラリンピックだけが「安心・安全」で、日本社会がコロナの感染によって「安心・安全」でなくてもいいという道理とはならないはずだから、当然、東京オリンピック・パラリンピック大会の開催はワクチン接種人口にかかってくることになる。日本社会が「安心・安全」の中でオリンピック・パラリンピックの開催が「安心・安全」という関係を取らなければならないということである。日本社会が「安心・安全」でない中でオリンピック・パラリンピックだけが「安心・安全」という両者関係には合理性は見い出し難い。

 勿論、ワクチン接種が進まなくても、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置のみで感染を徹底的に抑えることができて、東京オリンピック・パラリンピックの開催期間中、日本社会が一定程度以上の社会経済活動が可能となる状況を獲得できていたなら、両者共に「安心・安全」ということになって、開催は一定程度の合理性を備えることになるが、緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の発出と解除が感染拡大と感染宿所の波を特性としている以上、今回の緊急事態宣言とまん延防止等重点措置を延長期限の6月20日に解除できて人流の抑制を解いた場合、オリンピック・パラリンピック開催期間の2021年7月23日から2021年9月5日までの約1カ月半の間に感染拡大の波が襲うことにならないかが問題となる。これまでの経緯から言っても、西村康稔の国会発言から言っても、感染拡大の波はどこかで襲うことになる。

 質疑応答から菅義偉の東京オリンピック・パラリンピック開催要件を見てみる。文飾は当方。

 清水東京新聞・中日新聞記者「東京五輪・パラリンピックについて伺います。IOCのコーツ調整委員長は、先週、緊急事態宣言下でも五輪を開催できると明言されました。開催国の総理大臣として、緊急事態宣言下でも五輪を開催できるとお考えでしょうか。

 また、各種世論調査では、この夏の五輪開催に反対の声が多数です。国民の命を守ることに責任を持っているのはIOCではなく日本政府ですので、国民が納得できるよう、感染状況がどうなれば開催し、どうなれば開催しないか、具体的な基準を明示すべきではないでしょうか。お考えを伺います。

 なお、記者会見での総理の御回答が正面からお答えいただけなかったり、曖昧なものが多くて、見ている国民の方が不満を抱いていたりしています。是非明確にお答えいただけるようお願い申し上げます

 菅義偉「まず、国民の命と健康を守るのは、これは当然、政府の責務です。

 オリンピックについて様々な声があることは承知しています。そうした声に耳を傾けながら、指摘をしっかり受け止めて取り組んでいるところです。まず当面は、緊急事態宣言を解除できるようにしたいと思います。そうした中で、選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて安心して参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく、これがまずは前提です。

 そうした中にあって、具体的な対策を3点申し上げます。第1に、入国する大会関係者の絞り込みです。当初は18万人が来日する予定でしたけれども、オリンピックが5万9,000人、パラリンピックが1万9,000人まで絞っております。更に削減を要請いたします。

 次に、ワクチンの接種です。入国する選手や大会関係者の多くはワクチン接種が行われ、ワクチンが広く行き渡るよう日本政府の調整の結果として、ファイザーからIOCを通じて、日本人を始め各選手団にはワクチンが無償で提供されることになっています。

 そして、日本国民との接触、これの防止です。海外の報道陣を含めて、大会関係者は組織委員会が管理するホテルに宿泊先を集約し、事前に登録された外出先に限定し、移動する手段は専用のバスやハイヤーに限定します。また、入国前に2回、入国時に加え、入国後3日目までは全員毎日検査し、その後も定期的に検査いたします。こうした関係者と一般国民が交わることがないように、完全に動きを分けます。外出して観光したり街中へ出入りすることはない。こうした対策により、テスト大会も国内で4回開催いたしました。大会期間中、悪質な違反者については国外退去を求めたいと思っています。

 この3つの対策について、組織委員会、東京都、政府と、水際対策を始め国民の安全を守る立場から、しっかり協力して進めていきたい、このように考えています」

 清水東京新聞・中日新聞記者「緊急事態宣言下でもできるとお考えでしょうか」

 菅義偉「テスト大会も国内で4回開催しています。今、申し上げましたように、こうしたことに配慮しながら準備を進めております」

 菅義偉は「国民の命と健康を守るのは、これは当然、政府の責務」云々を決り文句として国民の命と健康の保障を常々謳っているが、必ずしも守ることができていないことに心砕いていない。入院先が見つからず、自宅療養中に亡くなる感染者は後を絶たないし、感染を恐れて家に閉じこもる結果、健康を害する高齢者も後を絶たない。2021年5月29日時点で日本国内のコロナ累計死者数は1万2931人だと「NHK NEWS WEB」は伝えている。警察庁発表の2021年3月10日時点での東日本大震災死者数1万5899人(「Wikipedia」)にあと3000人と迫る死者数となっている。単なる数字ではなく、それぞれに持っていた生身の命のそれぞれの生き場を奪われて全てが消滅して生成される無の積み重ねを数字で表している。その積み重ねを止めることができないでいる。

 清水記者の「緊急事態宣言下でもできるとお考えでしょうか」の問に対して菅義偉は4回のテスト大会の開催を挙げて、開催可能だとしている。だが、4回のテスト大会は緊急事態宣言に於ける感染拡大防止策の基本である人流の抑制の最大値である無観客で行われているから、外国人観客を受け入れないことを決めているが、日本人の観客にしても、入場させない、無観客で行うと答えて初めて合理的な整合性を持つが、整合性を与えずに発言する辺りは無責任そのもので、清水記者が言う通り、「正面からお答えない、曖昧な」答弁となっている。

 2021年5月28日「NHK NEWS WEB」記事は組織委員会会長の橋本聖子が5月28日の記者会見で、「延長された宣言期間中の状況を見なければ、観客の上限を決めることは難しい。できるだけ早い段階で決めたいという思いがあったが、政府が示す宣言が解除されたあとの基準に沿って考えなければならない」と述べたと伝えている。

 この入場を認める「観客の上限」を決めかねて、その決定を何度か延期させている。要するに東京オリンピック・パラリンピックの外の日本社会が緊急事態宣言やまん延防止等重点措置で人流の抑制を図っているのにオリ・パラの世界だけ人流を無制限にするわけにはいかなくて、そのバランスに苦慮しているということなのだろう。但し日本人観客を入場させる前提に立っていることに変わりはない。

 感染状況次第で再度延長を行うこともあり得るし、感染が縮小して6月20日に解除できたからと観客人数を決めたとしても、解除と同時に人流の抑制が解かれて感染拡大に向かう波が1カ月後の開催時にどれ程の大きさになるかによって、決めた人数通りにはいかない可能性も出てくるが、こういったことを念頭に置いた発言なのかは疑わしい。

 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発出と解除を受けた感染拡大と感染縮小の波を解消する役割を菅義偉以下、ワクチンの接種に期待している。そのための菅義偉の「ワクチンの接種です。入国する選手や大会関係者の多くはワクチン接種が行われ・・・」云々の言葉である。ワクチンの接種を受けて一定以上の人口が免疫を持つと、感染者が出ても他者への感染が減って流行を終わらせる集団免疫の構築は人口の約70%のワクチン接種が目安と言われているが、この記者会見の質疑で記者が感染率低下の線引を「日本国民の半分、50パーセントの接種」に置いて、50パーセント接種達成の明確な期限の提示を求めた。

 対して菅義偉はイギリスの例を挙げて、「1回目を5割打ったら大体ものすごい効果が出たということで、今、マスクなしにしていますけれども」と言いつつ、「日本はまずは高齢者の方にしっかり2回打ちたい」とその点を優先させることを強調して、50パーセント接種達成の時期は計算できないことはないはずだが、計算せずに「今、具体的に申し上げることは控えます」と体よく逃げている。

 ワクチンは2回の接種が必要となっているが、菅義偉がイギリスでは1回の接種のみで効果が出たと言っていることと新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂もこの記者会見で接種が「半分ぐらいになると少しは効果が出てくる」と発言していることから、1回接種で50パーセント接種達成の時期を計算してみる。

 菅義偉は「現在、1日40万回から50万回でありますけれども、6月に入って中旬以降は、打ち手も含めて100万に対応できるような、そうした体制が中旬以降にはできてくる。このように思っています」と6月中旬以降、1日100万回の接種は可能だと請け合っている。これまでは接種は16歳以上としていたが、「NHK NEWS WEB」記事によると、ファイザーが海外の臨床試験(治験)で12~15歳に成人と同じ方法でワクチンを接種しても、有効性や安全性に問題はなかったとしたことを受けて、厚労省が国内治験は行われないまま、その年令での接種を承認したことから、12歳以上の接種となる。

 日本の2016年10月1日現在の推計全人口1億2693万3千人で、その50%は約6300万。この約6300万人の接種を12歳以上男女合計人口1億1453万7千人の中から行うことになる。7月末までに65歳以上高齢者3600万人+医療従事者400万人=4000万人の接種が完了していることを前提に計算すると、残る2300万人の接種が完了すれば、「日本国民の半分、50パーセントの接種」がほぼ達成できる

 この2300万人に対する1日100万回接種を65歳以上高齢者3600万人+医療従事者400万人に対する接種7月末完了後の8月初めから開始と計算すると、少なくとも8月23日頃には50%接種は達成が可能となる。但し東京オリンピックは7月23日から始まるから、1カ月遅い50%接種達成と言うことになる。但し東京パラリンピックには1日遅れで間に合うことになる。

 菅義偉の言うことをギリギリ信用して1日100万人接種を6月中旬以降達成可能だと見たとしても、「接種回数は1日に40万回から50万回となり、これまでに1,100万回を超える接種が行われました」の菅義偉の発言から5月28日時点で65歳以上高齢者だけで2500万人を残していることになり、1日100万回の接種となる6月中旬までの日数を20日間と多めに見て、1日50万回の接種で進めていった場合、50万回×20日間=1000万人の接種となるが、1500万人が残り、この1500万人を6月中旬から1日100万回で摂取していくと、必要日数は15日間で、かなり疑わしいが、6月中に65歳以上高齢者の接種は終えることができると見ることができる。7月初めから65歳以上高齢者以外の12歳からの半数と計算した残る未接種2300万人を1日100万回で接種を進めていくと、23日間で終えることになり、東京オリンピック開催の7月23日にギリギリ間に合うことができる。

 要するに菅義偉が自身の言葉に一分も違わずに「6月中旬以降ワクチン接種1日100万回」を厳格に実現できたなら、東京オリンピック開催の7月23日までに日本人口の50%の接種が達成できて、それなりの集団免疫が獲得可能となり、日本社会自体が「安心・安全」となり、オリンピック・パラリンピック開催の「安心・安全」と合理的な両立性を獲得しうる。つまり日本社会が「安心・安全」でないのにオリンピック・パラリンピックの開催に関しては「安心・安全」だという非合理性は解消できる。

 もし菅義偉が言う「ワクチン接種1日100万回」が「6月中旬以降」から大きくずれて、「日本国民の半分、50パーセントの接種」がオリンピック開催の7月23日までに間に合わなかったとしたら、延長した緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置の解除に伴う感染拡大に向けた波が東京オリンピック・パラリンピックの開催時期とかぶさらないように解除の時期自体をコントロールしなければならない。コントロールに失敗して、開催期間中に延長を、あるいは再発出をせざるを得なくなって、人流の抑制の観点から国民の社会経済活動を制約した中でオリンピックだけが「安心・安全」だからと言って開催するのはどのような合理性も見い出し難く、最悪である。

 とにかく質疑応答での菅義偉の答弁には誤魔化しが多い。記者が観客を入場させて競技を行った場合、人流の加速化を受けた新型コロナ感染拡大のリスクをどういうふうに分析してるのか問われて、「緊急事態宣言下でも野球やサッカーが一定の水準の中で感染拡大防止をしっかり措置した上で行っている」ことを例に感染者を出していないとする「事実」を以ってオリンピックでも入場制限をかけて行えば感染を防ぐことができる趣旨の発言をしているが、「人流」とは競技会場での観客のみを指すのではない。競技観戦のために飛行機やバスや電車等の交通機関で移動する、買い物に出かけることも「人流」に入り、オリンピック開催期間中、人を集めて競技の中継を観戦する「パブリックビューイング」会場が東京では11個所、各自治体で計15個所が設置されるということだが、このような会場設置自体が感染防止、あるいは感染抑止に抗う人流の促進に当たる。

 また野球やサッカーの観客の中から感染者を出していないとしている事実はどこで、誰から感染させられたか分からない感染経路不明者が感染者の約半数を占めていること、感染しても無症状の割合が、2割とか、3~4割とか、5割とか、色々な説があるが、このように一定でないことが状況次第で違いが出てくることを示していて、無視できない、気づきにくい感染機会となっていることを考えると、野球やサッカーの観客の中から感染者は出していないは必ずしも断言できる事実とは言えなくなる。

 菅義偉は2020年11月25日の衆院予算委員会で「先週(2020年11月)20日の日に専門家の分科会の提言においてGoToトラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは現在のところは存在しない、こうしたこともご承知だと思います」と発言しているが、GoToトラベルに於ける観光地での人の密集だけではなく、出発点のまでの往復の交通機関での移動でも、人と人の接触の機会が多くなって、感染拡大防止の基本対策となっている人流の抑制に反する人流の促進――3密回避とは逆の人と人との接触機会の頻繁化となる以上、野球やサッカーの観客が置かれて状況と同じことを言うことができる。誰一人無症状者と接触していなかったと断言できないし、あるいは自身が無症状者として街のどこかで誰かに二次感染させていなかったとも断言できない。こういったことから感染経路不明の感染者が出てくることになるはずである。

 感染の拡大を受けて緊急事態宣言かまん延防止等重点措置を発出して人流の抑制を図り、その効果による感染の縮小を受けてこれらを解除、人流の抑制をも解除するが、人流の増加によって再び感染が拡大していくという循環を取る以上、どのような場所の人流も感染に無関係とすることはできない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

安倍晋三のAERA・毎日大規模接種予約システム欠陥検証報道Twitter投稿「妨害愉快犯」は問題の本質から外れたお門違いな"報道妨害愉快犯"

2021-05-24 09:21:21 | 政治
 2021年5月17日付「AERA dot.」記事が自衛隊運営の「大規模接種東京センター」のワクチン予約システムに重大な欠陥があることをAERAdot.編集部の、いわゆる「検証予約」によって判明したと報道した。キッカケは「ワクチン予約に大変な欠陥が見つかった。システムのセキュリティが機能していない」との情報が防衛省関係者から飛び込んできたことだと記事は書いている。要するに杜撰過ぎるシステム設計を内部告発するリークがあったということなのだろう。

 予約の手続きは次のように案内している。防衛省の予約サイトにアクセス、地方自治体から送付された接種券に記載されている市町村コード(6桁)と接種券番号(10桁)と自身の生年月日を入力。終わって、「認証ボタン」を押すと、接種希望日時を選ぶ画面が出る。カレンダーから接種枠の空きがある日時を選び、予約完了。

 次に予約システムの欠陥の検証。6桁の市区町村コードも、10桁の接種券番号も、生年月日も、適当な数字を入れる。生年月日に関しては「1956年1月1日」としたのは接種対象者は65歳以上だから、65歳以上になるようにしたということなのだろうが、もし65歳下の年齢にしたとしても予約が取れたとしたら、滑稽だと思っていたら、同様の記事を書いた「毎日新聞」(2021/5/17 18:47)が、〈予約の対象は65歳以上だが、65歳未満となる生年月日を入力しても予約できることも確認。〉と伝えている。極端なことを言うと、0歳児の生年月日を入力しても予約は完成してしまうのかもしれない。

 要するに全て適当な数字入力であっても予約が取れてしまった。確認のために数字を変えてテストしても、予約が取れた。市区町村コードが6桁未満、接種券番号10桁未満の場合にのみエラーが出ると記事は書いている。
 
 記事はそのほかに予約システムの「セキュリティが機能していない」との内部情報を伝えた防衛省関係者の可能性として考えられるセキュリティ上の危険性を訴える発言等を紹介しているが、これらについては記事にアクセスしてご覧頂きたい。

 上記「毎日新聞」は、〈架空の数字を使って予約枠を「占拠」することもできるとみられ、予約システムの信頼性が問われそうだ。〉と危惧を示し、「AERA dot.」は、〈これでは北海道や沖縄、名古屋などどこに住んでいようが、何歳であろうが誰でも予約ができてしまう。〉と欠陥を検証している。

 この記事に対して岸信介の長男岸信和の家へ安倍晋太郎家から養子に入った、安倍晋三の実弟、安倍晋三よりもあくどさの点でずっとマシな防衛相の岸信夫が自身の Twitter に抗議の投稿を4回に分けて行っている。

 〈自衛隊大規模接種センター予約の報道について。

 今回、朝日新聞出版AERAドット及び毎日新聞の記者が不正な手段により予約を実施した行為は、本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為です。〉

 〈両社には防衛省から厳重に抗議いたします。

 不正な手段でのワクチン接種の予約は、本当に希望する方の機会を喪失し、ワクチンが無駄になりかねないと同時に、この国難ともいうべき状況で懸命に対応にあたる部隊の士気を下げ、現場の混乱を招くことにも繋がります。〉

 〈本センターの予約システムで、不正な手段による虚偽予約を完全に防止する為には、全市長区町村が管理する接種券番号を含む個人情報を予め防衛省が把握し、予約番号と照合する必要があり、実施まで短期間等の観点から困難かつ、全国民の個人情報を防衛省が把握する事は適切でないと判断いたしました。〉

 〈他方、今回ご指摘の点は真摯に受け止め、市区町村コードが真正な情報である事が確認できるようにする等、対応可能な範囲で改修を検討してまいります。〉

 「不正な手段」、「不正な手段」、「不正な手段」と3回も「不正」であることの印象操作を行っている。要するに「不正な手段による虚偽予約」を許し難い行為として断罪しているが、その断罪に正当性はあるのだろうか。

 防衛省側から見た「虚偽予約」を成功させてしまったことについての理由は3番目の投稿に書いてある。趣旨は「全国民の個人情報を防衛省が把握する事は適切でないと判断」した結果の止むを得ない見切り発車ということになる。具体的には上記「毎日新聞」が書いている、〈市区町村の予約システムと連結〉させていなかったことがシステムの欠陥の原因となった。住民台帳に基づいた接種券記載の氏名と市区町村コードと接種券番号と生年月日を防衛省予約システムに関連付けていなかったために市区町村コードも接種券番号も生年月日も、デタラメな数字入力であっても、承認してしまうことになった。自動販売機に10円を玉入れてもジュースがガシャンと落ちてくるような欠陥に例えることができる。

 但し防衛省側から見た虚偽予約だけが問題というわけではない。岸信夫にしても、あるいは防衛省にしても、問題の本質を見逃している。「毎日新聞」が防衛省人事教育局担当者の「入力する人の善意に頼ったシンプルな予約システム。いたずらで予約されては本来必要な人の予約が取れず、ワクチン接種ができなくなる。絶対にやめてほしい」と訴えている発言を伝えているが、役人にしては、あるいは役人だからこそなのか、単細胞な受け止め方をしている。「善意」が全て正しい予約に向かわせるわけではない。

 確かに両報道機関の防衛省側から見た「虚偽予約」は適当な数字を入力して成り立たせた意図的な行為ではあるが、故意に適当な数字を入力しても予約が成立するということは正規の予約でも数字の入力を間違えた場合は予約が成立してしまうという法則を取ることになる。ここにこそ問題の本質があるはずである。
 
 具体的には正規のワクチン接種者として接種を受ける目的で予約に臨んだものの市区町村コードや接種券番号、生年月日のうちいずれか数字の入力を1字間違えてもエラーが表示されないことから正しく入力したと思い込んでしまって、「認証ボタン」を押してカレンダーから接種希望日時を選ぶ。これで予約が成立したとホッとしてしまうケースが生じる可能性は否定できない。

 結果、既に触れているように接種会場に足を運んだとしても、予約情報と接種券情報との不一致によって接種を受けることができなくなる恐れが生じる。特に防衛省予約システムには氏名を記入する枠を設けていない結果、名無しでの予約登録となるから、持参した接種券の本人姓名で予約情報と照合することもできない。免許証か保険証を提示して、「これこれこのとおり接種券は私のものです」と証明できても、予約したのが本人かどうかの証明にまで行き着かないことになる。

 当然、数字の入力間違いによる予約成立のプロセスは「AERA dot.」や「毎日新聞」の防衛省側から見た「虚偽」の数字入力による「予約」成立のプロセスと同じ道を辿ることの証明、既に指摘した、故意に適当な数字を入力しても予約が成立するということは正規の予約でも数字の入力を間違えた場合は予約が成立するという法則の証明を果たすだけのこととなる。

「不正な手段による虚偽予約」だと大騒ぎしている場合ではない。

 正規の予約であっても、「善意」に裏付けされていたなら数字入力を間違えるケースがないと考えるのは、あるいは間違えることもあり得ることに気づかないでいるのは注意力散漫以外の何ものでもない。当然、故意の数字入力に備えた、あるいは数字入力の間違いに備えたシステムとすることが予約に関する危機管理の初歩中の初歩となる。

 だが、危機管理の初歩中の初歩を怠った。岸信夫は「全国民の個人情報」というプライバシーを防衛省が所有することの不適切性から止むを得ない見切り発車だといった趣旨の投稿をしているが、最初の投稿の不正手段の予約実施行為は、〈本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為です。〉と強く非難していたことに反して、4番目の投稿で、〈今回ご指摘の点は真摯に受け止め、市区町村コードが真正な情報である事が確認できるようにする等、対応可能な範囲で改修を検討してまいります。〉と、「不正な手段による虚偽予約」をシステム改善の思わぬキッカケとしている。

 でなければ、危機管理の初歩中の初歩を怠ったままでいることになる。怠らずに欠陥は欠陥と認めて、欠陥と向き合う危機管理を働かすことになった。

 だとすると、防衛省側から見た「不正な手段による虚偽予約」に対する強い非難の態度とその「虚偽予約」をシステム改善の思わぬキッカケとしている態度との間には大きな矛盾が生じることになる。前者の態度を基準として前後の態度に一貫性を与えるとしたら、危機管理の初歩を誤とうが何しようが、非難を維持して、システムの欠陥を放置し、システムの改善には手を付けないことであろう。

 放置した場合、非難を受けるのは「AERA dot.」や「毎日新聞」ではなく、防衛省であり、菅内閣ということになる。

 後者の態度を基準として前後の態度に一貫性を与えるとしたら、「不正な手段による虚偽予約」だとする非難はやめて、欠陥を素直に認めて、システムの改善のことだけを言うべきだろう。

 だが、一方で「極めて悪質な行為だ」と非難し、その一方で「今回ご指摘の点は真摯に受け止め・・・・対応可能な範囲で改修を検討してまいります」と矛盾した態度を見せている。言ってみれば、前者は自分たちのシステムの欠陥を棚に上げて報道機関を非難しているのだから、闇雲な自己正当化の態度であり、後者はシステムの欠陥を間接的に認めていることになるから、自己正当化の放棄ということになる。

 但しどちらの態度に重きを置いているかと言うと、明らかに前者である。「不正な手段により予約を実施した行為」、「本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為」、「本当に希望する方の機会を喪失させる」、「この国難ともいうべき状況で懸命に対応にあたる部隊の士気を下げ、現場の混乱を招くことにも繋がる」等々。

 自分たちのシステムに欠陥があるにも関わらずにかくまでも非難に重きを置いている。つまり自己正当化に重きを置いている。自衛隊大規模接種センターの予約がスムーズに進み、接種が滞りなく行われるか否かは菅内閣のコロナ対策の成果に関係することになるから、予約システムの自己正当化は菅内閣を守る手立ての一つとなる。逆に欠陥を決定的に認めたなら、菅内閣の失態の一つとなる。考えるに予約システムの欠陥がコロナ対策の不評判からただでさえ低い数字に喘いでいる菅内閣支持率のマイナス材料とされることを恐れて、「AERA dot.」と「毎日新聞」を強く非難することで菅内閣を守る目的で自己正当化に重きを置き、欠陥は最後にさり気なく認めたと見ることもできる。

 安倍晋三が2021年5月18日、〈岸信夫@KishiNobuo · 5月18日

 自衛隊大規模接種センター予約の報道について。

 今回、朝日新聞出版AERAドット及び毎日新聞の記者が不正な手段により予約を実施した行為は、本来のワクチン接種を希望する65歳以上の方の接種機会を奪い、貴重なワクチンそのものが無駄になりかねない極めて悪質な行為です。〉とするツイートに対して、〈「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯と言える。防衛省の抗議に両社がどう答えるか注目」〉とリツイートした、

 岸信夫の「AERA dot.」と「毎日新聞」に対する非難をバカっ正直に取れば、「妨害愉快犯」と言うことができるが、「不正な手段による虚偽予約」と激しく非難するだけでは済まない欠陥を抱えている防衛省の予約システムであり、最終的には防衛省が「AERA dot.」と「毎日新聞」の「指摘」を「真摯に受け止め」て、システムの改善の乗り出さざるを得なかった事実と、システムの欠陥を放置したなら、菅内閣のコロナ対策の失態、ひいては菅内閣支持率のマイナス材料とされる蓋然性が高いことを考えると、「極めて悪質な妨害愉快犯」は問題の本質から外れたお門違いな表面的受け止めとしかならない。

 大体が防衛省のワクチン接種予約システムに欠陥があったからこその「AERA dot.」と「毎日新聞」の検証報道である。何ら欠陥がなければ、両報道機関の検証報道は成り立たない。その欠陥も岸信夫自身が改修を約束しなければならなかった程の性格のものである。「極めて悪質な妨害」どころか、「AERA dot.」と「毎日新聞」が伝えたことは単なる検証報道では終わらずに啓発報道となった。合理性を持たせた理解なしに「妨害愉快犯」と決めつけるのは却って安倍晋三の方こそが"報道妨害愉快犯"と非難されて然るべきである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

菅義偉は五輪開催に向けた選手や大会関係者、観客の「安心」が国民の「安心」を奪う引き算となり得ることにも気づかずに開催を叫んでいる

2021-05-17 11:33:54 | 政治
 2021年5月10日衆院予算委

 立憲民主党の山井和則がコロナの感染状況如何に関係せずに東京オリンピック・パラリンピックを開催するのかと菅義偉に迫っていた。

 山井和則「今回、緊急事態宣言、解除できませんでしたが、私はこの間、ずっと思い増すのは菅総理の頭の中はオリンピックファーストで、結局コロナ対策、ワクチン接種、あるいは本当にコロナで苦しんでいる事業者や国民への対策が二の次になってしまっているとしか思えて仕方がないんです。

 そういう中で私も観光京都の地元でありますから、オリンピックを楽しみにしておりました。私の知り合いにもアスリートの方がおられます。しかし私の知り合いの介護施設でも、クラスターが発生し、そのために先頭に立ってクラスター対策に取り組まれた20代の介護職員の方がコロナでお亡くなりになりました。小さなお子さんを残してお亡くなりになりました。同僚の方々からはこれは戦死だと言われております。私の大切な、大切な方も感染され、集中治療室でコロナで入れられたということもありました。

 そういう中でオリンピックを優先と言っている場合じゃないんじゃないかと、自分自身のみならず、国民の命、あるいは、先程言いましたように多くのお店が潰れかかっている。多くの生活困窮者が残念ながら自ら命を絶つ事態にもなっているわけであります。そこで菅総理にお伺いしたいと思います。この(パネル『東京500人未満の宣言解除なら』)東京大学の専門家先生の予測ですね、今後、7(なな)月、8月に向かって再度リバウンドがあるかもしれない。感染拡大があるかも知れないという一つの試算です。

 つまり心配していますのはオリンピック、それは安全・安心できたらいいです。しかし二兎追うものは一兎も得ずという言葉がありますが、本当にこれは安心・安全なオリンピックってできるのか、ここにありますようにもしかしたら7(なな)月第1週に1500人を東京で超える感染拡大があるかもしれない。あるいは8月第3週に1800人を超える感染拡大があるかもしれない。こういう一つの試算もあるわけですね。

 そこで菅総理にお伺いしたいと思います。菅総理、これ、オリンピックが開催される7(なな)月8月、ステージ3の感染急増、あるいはステージ4の感染爆発、そういう状況でも、オリンピック・パラリンピック、これは開催されるんですか」

 山井和則は相変わらず無駄な質問が多い。質問の時間が持たないから余分なことをお喋りをする必要があるのかもしれない。「7月、8月にステージ3、ステージ4の感染状況に見舞われていても、オリンピック・パラリンピックは開催するのか」の一言で十分である。
 
 菅義偉「大変失礼だと思いますけども。わたしはオリンピックファーストでやってきたことはありません。国民の命と暮らしを守る、最優先に取り組んできています。そこは念入りに言わせて頂きます。オリンピック・パラリンピックですけども、先ず現在の感染拡大を食い止めることが大事だと思います。

 東京大会につていIOCは開催を既に決定を、各国にも確認をしています。開催に当たっては選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、安心の上、参加できるようにすると共に国民の命と健康を守っていくのが責務だと思っています。

 今般日本政府が調整をした結果、ファイザーとIOCを通じて各国選手にワクチン無償の提供が実現することになっています。これに加えて選手や大会関係者を一般の国民と交じらわないようにする。選手は毎日検査を行うなど、厳格な感染対策の検討を行っており、まあ、しっかり準備を進めていると、このように思っています」

 山井和則「菅総理、これ質問通告してるんですよ、先週金曜日。非常にこれ、基本的な質問です。感染急増のステージ3、感染爆発のステージ4。そのときにもオリンピックはやるんですか」

 菅義偉「今、私が申し上げましたけども、先ずは国民の命と健康を守っていくということが最優先で、そのために感染拡大は食い止めるために全力を上げていきたいというふうに思います。

 東京大会に於いて先程申し上げましたようにIOCは開催を既に決定し、各国にも確認をしており、開催に当たっては選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加をできるようにすると共に国民の命と健康を守っていく、これが開催に当たっては基本的な考え方です。今申し上げたのが私の基本的な考え方です」

 山井和則「感染の爆発のステージ4、感染急増のステージ3でオリンピック開催ですか」

 菅義偉「開催に当たっては選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加をできるようにすると共に国民の命と健康を守っていく、これが開催に当たっては基本的な考え方であります」

 山井和則「菅総理、これ国民の命がかかってるんです。かつ海外から来られるアスリートの方の命もかかってるんです。これだけ聞いても答えないということはこれ全国の医療従事者、コロナで苦しんでおられる方も見ておられます。感染爆発しても、菅総理はオリンピックされるというお気持ちなんですか」

 菅義偉「そんなことは全く申し上げておりませんよ。開催に当たって、よく聞いてください。選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加をできるようにする。それと同時に国民の命と健康を守っていく。これが開催に当たっては私の基本的な考え方であります」

 山井和則「菅総理、そんな感染爆発でもやるんですかって聞いたら、そんなことは言ってませんよということは感染急増のステージ3とか、ステージ4の感染爆発ではオリンピックはやらないというふうに理解してもよろしいですか」

 菅義偉「私が今申し上げたとおりでございます」

 山井和則「いや、その日本語を分からないんです。その日本語の意味が。その答弁されていませんよ。これは誰もが不安に思ってるんです。日本中だけしゃなくて世界中が一歩間違ってオリンピックでクラスターが発生したら大変だとみんな心配して思っています。あと、多くの命が安心・安全だったら、オリンピックはやった方がいいと思っている人も多いと思います。しかしできないかもしれないから、こういう議論、私もですね、なかなかアスリートの方のことを考えると、(議論は)やりたくないけれども、これやっぱり私たち国民の命を守らないとダメですから。

 これ、今日の配布資料の中に4ページ、毎日新聞の調査で、毎日新聞がですね、全国47都道府県の知事さんに東京オリンピック・パラリンピック、アンケートされてるんです。その中に質問1、配布資料の4ページですね、『感染状況に関わらず開催すべきか』、つまり今言ったような感染急増とか、感染爆発であっても、開催すべきだなんて答えている人はゼロなんです。

 だから、感染爆発したら、オリンピックやらない、できない。これ当たり前ですよねということなんですよ。そしたら、菅総理お聞きします。感染状況に関わらず
オリンピック・パラリンピックは開催すべきですか」

 菅義偉「私、先程来申し上げておりますけども、開催に当たっては選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心をして参加をできるようにすると共に国民の命と健康を守っていく。これが開催に当たっては私の基本的な考え方です」

 山井和則「だから、オリンピックファーストだと言われるんじゃないですか。オリンピックありきだなんて言われるんじゃないんですか。47都道府県の知事だけじゃなくて、日本国民の、世界の方々の多くがオリンピックやって欲しいけども、感染拡大、爆発したら、無理だよねというのが普通の考え方だと思いますよ。にも関わらず、その一番の権限を持つと言われる菅総理が感染爆発しても、感染急増しても、オリンピックやるかやらないか、やらないとも言わない。

 私はね、感染爆発しても、感染急増してもオリンピックやるというのは、それは危険だと思います。あり得ない。オリンピックって、平和の祭典じゃないんですか。オリンピックでクラスターが出たり、日本中で医療崩壊、今のように50人、100人、1日で亡くなっているかもしれない中で平和の祭典できますか。できますか。菅総理、ここは私は菅総理の基本姿勢をお聞きしたいんです。

 勿論、オリンピック、人命、両方必要ですよ。でも、もし(両方必要という関係を)回避することになったら、人命、日本人の人命が失われているいるという状況に於いてオリンピックを菅総理は強行されるんですか、されないんですか。その基本認識ぐらいはお聞かせ頂きませんか」

 菅義偉「私はさっきから何回も申し上げております。開催に当たっては、よく聞いてください。選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心をして参加をできるようにし、国民の命と健康を守っていく。これが開催に当たっての私の基本的な考え方でありす」

 菅義偉から同じ答弁しか引き出すことができないから、この辺で質疑の取り上げはやめにする。この日午前中に衆院予算委、午後に参院予算委が開催されたが、2021年5月12日付「asahi.com」記事によると、衆参の1日を通じて「国民の命と健康を守っていく」を計17回も繰り返したと報じている。同じ答弁を17回も繰り返す根気強さは官房長官時代に培ったのだろうか。

 山井和則は菅義偉が同じ答弁を2度繰り返した辺りで別の角度からの追及を試みるべきだったが、際限もなく似たような追及に自らはまり込んでしまって、抜け出せなかった。菅義偉が開催可能とする理由づけは「開催に当たっては選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じて、安心の上、参加できるようにする」云々の答弁から伺うことができる。先ず海外からの観客を受け入れないことを決定していること、日本人観客数の上限決定の判断先送りは開催時のコロナ感染者数が把握しづらいことからだろう。当然、感染拡大状況次第で国内の大規模イベントで許可している観客数に応じて収容人数50%や、5000人制限、あるいは無観客といったそれぞれの制限を設けることで観客に対しては感染防止対策を徹底させやすいことが先ず一つ挙げることができる。

 選手に関しては行動できる範囲を宿泊施設や練習会場、試合会場に限定していること、大会関係者は移動時の公共交通機関の使用禁止、検査に関しては選手は毎日、大会関係者は4日ごととすること、違反行為があれば、選手に関しては大会の参加に必要な資格認定証を剝奪する罰則を、大会関係者に関しては菅義偉が2021年5月14日の記者会見で強制退去措置を現在検討していると発言していることから選手と大会関係者に関しては行動管理がかなり容易で、その行動をコントロール可能と見ていて、感染防止対策が有効に働くと計算、観客に関しても開催時の感染状況に応じた入場人員調節による社会的ディスタンスを取りさえすれば、感染はより効果的に抑えられると踏んで、そのような想定の上に開催は大丈夫だと理由づけているのだろう。

 ましてやIOC=国際オリンピック委員会会長バッハが東京大会と北京大会で希望する選手や大会関係者に中国製のワクチンを提供する考えがあることを表明し、実現すれば、選手や大会関係者から日本の社会に感染していくという構図は極端に限定されることになり、残る危険性は日本人観客から一般的な日本人へという日本人同士の感染の経路のみとなるが、この危険性は社会的ディスタンスやマスク着用、手洗いの徹底によって限定されると見ているのだろう。

 しかしこういった想定上の開催可能性はオリンピック・パラリンピックという祭典が一般社会と深い関わりを持っていることに反して東京オリンピック・パラリンピックに於ける考えられる感染の程度と一般社会に於ける現実の感染の程度を別々に補足していることによって成り立ち可能となる。

 なぜなら、菅義偉の「開催に当たっては選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心をして参加をできるようにする」の言葉そのものが社会の感染状況を置き去りにしていることになるからである。

 つまり一般社会の感染状況がステージ3だろうが、ステージ4だろうが、そのこととは関係なしに東京オリンピック・パラリンピックという場から一般社会に向けて感染が広がる危険性を最小限に抑えることができれば、開催は可能だとしている菅義偉の「基本姿勢」となっている。但し菅義偉は総理大臣である以上、一般社会の感染防止対策とオリンピック・パラリンピック開催時の感染防止対策の両方に最終責任を負う。オリンピック・パラリンピック開催の感染防止対策がしっかりしていさえすれば、一般社会の感染はどうであってもいいとするのは両方に責任を負っていないことになって、無責任となる。

 と言うことは、東京オリンピック・パラリンピックの場所だけ感染に関しては安心できるということだけではなく、社会の感染も極力抑えて、一通りの安心ができる場所にしておく必要がある。

 具体的には開催に当たって緊急事態宣言にもまん延防止法に頼らずに一般社会の感染者を大きく抑えた状態にしておく責任を負う。大きく抑えて、一定程度の社会経済活動を保証できていたなら、誰からも何も言われることなく心置きなく開催できる条件が整う。結果、菅義偉は社会に対しても東京オリンピック・パラリンピックに対しても、両方共に責任は果たしていることになる。

 勿論、ワクチンに頼ってもいいが、そのために65歳以上高齢者ワクチン接種の7月末完了を急いでいるのだろうが、7月末完了が間違いなく実現させることができたとしても、〈以下接種人数は「日本のワクチン接種シナリオ」(2021年2月26日)から〉65歳以上⾼齢者の接種完了⽬途が⽴ち次第、優先順位から基礎疾患保有者(820万⼈)+⾼齢者施設従事者(200万⼈)+60〜64歳(750万⼈)+その他16歳以上59歳まで(約5,200万⼈)の計6970万人のうち、接種せずがいたとしてしても、6000万人がとこの接種が待ち構えている。この6000万人を65歳以上高齢者3600万人から未接種者を差し引いて約1.4倍と見たとしても、65歳以上高齢者は4月12日接種開始から7月末完了予定の3カ月半の約1.4倍、5カ月近くかかることになる。東京オリンピック2020の2021年7月23日から8月8日の日程と東京パラリンピック2020の2021年8月24日から9月5日までの日程終了までに希望していながら多くのワクチン未接種者を残すことになる。

 要するに菅義偉はワクチン未接種残る65歳以上高齢者や65歳以下の一般国民6000万人うちの多くの国民の安心・安全を置きざりにして、「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加をできるようにする」としている選手や大会関係者のみの「安心」を以って国民の安心・安全に代えることはできないにも関わらず、「それと同時に国民の命と健康を守っていく」としている言葉が示すようにさも代えることができるような物言いをするペテンを狡猾にも働かせている。

 第1波、第2波、第3波、第4波と続く感染の波を受けて積み重なっていく死者数、重傷者数を見ただけで、「国民の命と健康を守ってい」っている状況にはない。特に自宅療養中に体調が急変して医師に連絡しても、救急車を呼んでも入院先が見つからずに治療を受けないままに死に至らしめてしまう状況は「国民の命と健康を守っていく」の言葉が口先だけであることを暴露するのみである。2021年5月14日付「NHK NEWS WEB」記事は、コロナに感染して自宅などで療養中の患者が体調急変によって死亡したケースが4月は96人、前の3月の3倍だと伝えている。都道府県別では大阪が39人と最多、次いで兵庫21人、東京10人等としている。

 例えコロナに感染して自宅療養となり、体調が急変して重症化したとしても、望むままに病院に入院できて、万全な治療の提供を受けたものの、その甲斐もなく回復できずに死亡した場合は止むを得ないが、入院先を探したが見つからずにどのような治療を受ける機会も与えられずに亡くなっていく状況が継続・放置されているのだから、この1事例を取り上げただけでも、「国民の命と健康を守っていく」責任を果たしているとは決して言えない。

 要するに菅義偉は「国民の命と健康を守ってい」っていない場面が数々あることに目を向けることができないままにさも守っていっているかのように口先だけで言っているに過ぎない。 

 また、選手や大会関係者の「安心」の中には観客の「安心」も含めて、その一端を派遣要請を受けている医師200人、看護師500人が担うことになるが、国民へのワクチン接種とコロナ感染の入院患者治療の必要人員とされている関係から断る医師、看護師が出ている。つまり選手や大会関係者、観客の「安心」を引き受けることが逆に国民の「安心」を奪う引き算となることを弁えているがゆえの要請拒否である。

 菅義偉がこういった視点を持たないからこそ、守ってもいないのに「国民の命と健康を守っていく」と言うことができるのだろう。あるいは持っていても、持っていないフリをするのは総理大臣の責任行為としてある「国民の命と健康を守っていく」を禁句としなければならなくなるからだろう。

 上記衆院予算委員会開催日は2021年5月10日だったが、3日後の2021年5月13日に勤務医で作る労働組合「全国医師ユニオン」が厚労省を訪れ、東京オリンピック・パラリンピックの中止を求める要望書を手渡したと同日付「NHK NEWS WEB」が伝えている。

 要請書には例え無観客であっても全世界から選手や関係者ら数万人が来日することになり、危険性を否定できないことと医療関係者が長時間労働を強いられている中で地域医療を崩壊させかねない大会を開催し、最前線で闘う医療従事者にボランティアを求めることは無責任だと中止要請の理由が述べてあると書いている。

 要するに国の要望に応えることによって国民の「安心」を奪う引き算はできないということである。記事には組合員の医師からは「多忙のためワクチン接種でさえ協力が難しいのに、オリンピックのボランティアまでとても手が回らない」といった声が相次いで寄せられていると書き添えている。

 「全国医師ユニオン」植山直人代表(記者会見)「選手にはつらい話だが、大会中止は誰かが言いださなければならない。医療従事者は声を上げることが求められていると思うので、あえて要請を行った。

 コロナと闘う気があるのか、という政府への不信感が医療現場の感覚だ。国は国民の生命と財産を守る重大な使命があり、はっきりした姿勢を示すべき局面だと思う」

 どうも医療従事者には菅義偉たち国のコロナ感染防止対策の腰が定まっていないように映っているようだ。一方で東京オリンピック・パラリンピックの開催に関しては「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加をできるようにする。それと同時に国民の命と健康を守っていく」と頑なまでにねばり越しを見せている。

 要するに「全国医師ユニオン」の要請書は前者の「安心」が必ずしも「国民の命と健康を守っていく」ことに繋がらないことの証明を改めて示しているに過ぎない。となると、東京オリンピック・パラリンピック開催が国民の「安心・安全」を奪う引き算としないためには1日の新規感染者を極端に少なくして、国民の「安心・安全」を増加させる以外にない。医療も逼迫から解放され、余裕が出てきて、このような全体的な状況が与えることになる国民の「安心・安全」が選手や大会関係者や観客の「安心・安全」と一体性を持つことになって、開催に疑問符を付けられることはなくなる。

 2021年5月11日に東京都医師会の尾崎治夫会長が定例記者会見で東京オリンピック・パラリンピックを安全に開催するには都内での新型コロナウイルスの新規感染者数を100人以下とする必要があると発言したそうだが、となると菅義偉はただ「開催する、開催する」とバカの一つ覚えを繰り返すのではなく、東京オリンピック・パラリンピック開催の危機管理として、つまり国民の「安心・安全」と選手や大会関係者や観客の「安心・安全」に一体性を持たせるために、あるいはどこからも中止の横槍を入れさせないために1日の新規感染者数を何人とすることができたら、医師も看護師もその他のボランティアも協力の余裕が出て開催、できなかったら、国民の「安心・安全」を放置したまま開催することはできないからと中止を決定する計画書を作成すべきであろう。

 だが、山井和則との質疑でみてきたとおりに菅義偉にはサラサラその気はないようだ。「新型コロナウイルス感染症に関する菅義偉記者会見」
 
 江川紹子「フリーランスの江川紹子です。よろしくお願いします。

 オリンピックのことについてお伺いいたします。政府は、選手を守るということについてはすごくいろいろな工夫をされていると思うのですけれども、選手以外に、それよりはるかに多い最大9万人の外国人が来日するというふうに伝えられております。前回の記者会見でフランスのラジオ局の記者が海外の報道陣のことを挙げて、いろいろな取材をするつもりですと、行動監視は物理的に可能でしょうかというふうに質問されたのに対して、首相は、選手以外の方は様々な制約がある、水際も含めてありますとしかお述べになりませんでした。たとえ自主隔離を求めても守るとは限らないということもあります。五輪関係者、競技団体も含めて同じです。どうやってこの9万人もの人の行動をチェック、この人たちは一般ホテルに泊まるので、一般人と接触する可能性が大いにあるわけです。この問題をどういうふうにするつもりなのかを具体的に示していただきたいというふうに思います。

 そしてまた、尾身先生が国会で五輪に関して、感染リスクと医療の負荷について、前もって評価をしてほしいというふうに述べられたと思います。これについて政府はどう対応するのでしょうか。そういういろいろなケースを想定して評価するという場合には、それは国民にきちんと根拠とともに示していただけるのかと、このことをお伺いするとともに、尾身先生には、先ほどの感染リスクと医療の負荷についての評価が必要な理由についても教えてください」

 菅義偉「まず、私から申し上げます。前回の質問の際に、マスコミの方が確か3万人ぐらい来られるというような話があったと思います。今、そうした方の入国者というのですかね、そうしたものを精査しまして、この間出た数字よりもはるかに少なくなるというふうに思いますし、そうした行動も制限をする。そして、それに反することについては強制的に退去を命じる。そうしたことを含めて、今検討しております。

 ですから、一般の国民と関係者で来られた人とは違う動線で行動してもらうようにしていますし、ホテルも特定のホテルに国として指定しておきたい。指定して、そうした国民と接触することがないようにと、そうしたことを今、しっかり対応している途中だという報告を受けています」

 江川紹子「評価については」

 内閣広報官「すみません、自席からの御発言はお控えください」

 江川紹子「だって答えていただいていないので。

 感染リスクと医療の負荷についての評価をしてほしいというふうな尾身先生からのお言葉について、これを実行するおつもりはあるのかということを伺いました」

 菅義偉「この行動指針を決める際に、専門家の方からも2人メンバーになっていただいて、相談しながら決めさせていただきます」

 尾身茂「今の御質問は、なぜ医療への負荷の評価をしなくてはいけないかということですけれども、実は今、なぜこれだけ多くの人がオリンピックに関係なしに不安に思っているかというと、感染者が500行った、600行ったということよりも、今はやはり医療の負荷というものが、つまり一般医療に支障が来て、救急外来も断らなくてはいけない、必要な手術も断らなくてはいけない、しかも命に非常に直結するようなところまでという状況になっている。

 さらに、医療のひっ迫というのが重要なのは、これから正にワクチン接種というところに医療の人がまた、さらにいろいろな人が、オリンピックだろうが何だろうが多くの人が来れば、コロナにかかるかかからないかにかかわらず、多くの人が来ると一定程度必ず何か具合の悪いことになるというようなこともあるわけですよね。

 そういう中で私が申し上げた理由は、いずれ私は、関係者の方は何らかの判断を遅かれ早かれされると思うのですけれども、それは開催を仮にするとすれば、前の日にやるわけではないですよね。当然X週間、Xデー、Xマンスを、時間的余裕を持ってやるわけで、そのときの医療への負荷というものは、そのとき、分かりますよね、もう医療が本当にかなり良い状況、中くらいの状況、いろいろ分け方はあると思いますけれども、そのことの状況に応じて、仮にオリンピックをやるのであれば、そのX週間後にどのぐらいの負荷で、状況があれだけれども、更なる負荷ということになりますね。そのことをある程度評価するのは、オリンピックを開催する人たちの責任だと私は思います、ということで申し上げたということ」

 選手や大会関係者や観客の行動指針とコロナ感染者数のケースバイケースに応じた東京オリンピック・パラリンピック開催の是非の評価は似ても似つかない非なるものである。にも関わらず菅義偉は行動指針作成に専門家が2名加わっていて、相談していると誤魔化しの答弁をして平然としている。もし誤魔化しでなく、本当に混同していたとしたら、混同する程バカということになる。
 
 尾身茂は要するに東京オリンピック・パラリンピック開催に向けた「安心・安全」の確保のために国民の「安心・安全」を奪う引き算とならないよう、医療への負荷の程度を基準とした開催か否かの評価を政府の危機管理として作成しておくのが「オリンピックを開催する人たちの責任だ」と断言している。そして江川紹子は菅義偉に対してその評価は国民にきちんと根拠と共に示すべきだと要求している。

 尾身茂も江川紹子も当然のことを求めているに過ぎない。当然のこととしていないのは菅義偉のみである。安倍晋三のスピーチで獲ち取ったオリンピックと考えているのかどうか分からないが、開催に向けた選手や大会関係者や観客の「安心・安全」が国民の「安心・安全」を奪う引き算に早変わりする危険性には気づいていないことだけは確かなようである。

 山井和則は「東京オリンピック・パラリンピック開催期間中にステージ3、ステージ4の感染状況になって、治療やワクチン接種の医師・看護師が不足するようになったなら、東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて派遣養成していた医師・看護師を治療やワクチン接種に戻すことになるのか。それとも不足を放置したままでいるのか」と尋ねたら、別の展開を見い出せたかもしれない。

 いずれにしても菅義偉は国民の命と健康を守る危機管理の先頭に立つ資格はない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

山尾志桜里のJR無料パス公務外私的利用釈明にウソがあったなら、不祥事・不正与党国会議員・閣僚と同じムジナと化す

2021-05-10 10:20:54 | 政治
 
 山尾志桜里(46歳)という現在国民民主党所属議員は東大法学部卒、検事を経て、2009年8月に民主党から初当選、2012年の選挙では落選しているが、2014年、2017年と当選、10年近く国会議員を務めていることになる。国会質疑中継の山尾志桜里を見ていると、頭の回転が鋭く、弁舌が立ち、小気味良い攻撃的な質問ができる女性で、高い教養と言葉の才能を窺うことができる。

 ところが順風満帆だった議員生活に最初の試練がやってきた。2017年9月初め、民主党の後継政党である民進党の前原誠司新執行部発足当初、党ナンバー2の幹事長に内定していた山尾志桜里が内定から外され、9月5日の党本部での両院議員総会で幹事長は他の人物に充てられることになった。その真相は2017年9月7日発売の週刊文春の既婚の弁護士男性との不倫報道が明らかすることになった。山尾志桜里自身も既婚者であった。W不倫ということで、マスコミの好餌となった。
 山尾志桜里は9月7日の夜、記者会見を開いたが、記者団の前で文書を読み上げたのみで、記者の質問を受け付けなかった。弁護士男性は山尾志桜里の政策ブレーンで、一人で会うときも、複数で会うときもあり、頻繁にコミュニケーションを取る関係だと説明した。ホテルに同宿したと週刊誌に書いてることについては「私一人で宿泊をいたしました」と言い、「相手の男性とは男女の関係はありません」と不倫関係を否定、「誤解を生じさせるような行動で様々な方々にご迷惑をおかけしたこと、深く反省しお詫び申し上げます」と謝罪、「そのうえで、このたび、民進党を離れる決断をいたしました」と民進党の離党を以って責任の形とした。

 このことは「当ブログ」に取り上げた。記者団の前で文書を読み上げたのみで記者の質問を受け付けなかったことは他党議員や閣僚の不倫に関しての説明責任が文書朗読だけで終えても、それ以上は追及できない前例となりかねない。少なくともそうした場合、民進党は説明責任を十分に果たしていないと非難することはできなくなる。自分たちが十分に説明責任を果たしてこそ、他者に対しても十分に説明責任を求める資格が出てくると書いた。
 もし事実男女の関係がなかったなら、不倫報道自体がプライバシーの侵害となる名誉毀損の虚偽事実の不法な社会的暴露に当たる。どこに離党しなければならない理由があるというのだろうかということも書いた。

 このブログでは触れなかったが、「誤解を生じさせるような行動」であったとしている言葉自体に不倫関係の否定を含んでいることになる。つまりホテルに一緒に入ったが、自分一人で宿泊した。但し男女関係にある二人がホテルに一緒に入ったとしても、ホテルに泊まるのはどちらか一人ということもある。男女の関係を済ませあと、一人は家に帰り、一人はそのままホテルに泊まる場合である。あるいは二人共宿泊せずにホテルを出ていくということもあるだろう。

 当然、二人でホテルに入っている以上、宿泊したのは自分一人だからとすることによって不倫否定の証明とはならない。
 この場合の「誤解」とは周囲が自身の事実とは異なる解釈をしているという意味を取ることになるから、報道が不倫だと伝えた事実に関して「誤解」だとするには報道の事実とはなる自身の事実を合理的な説明を駆使して周囲に納得させなければならない。なぜなら、不倫のみならず、他の不祥事に関しても事実でありながら「誤解」という言葉を武器に「誤解」であることを証明せずに自らを免罪して自己擁護に走るケースが多々あるからである。

 また、それが周囲の、広く言えば世間の誤解ではなく、真正な事実であったとしたら、「誤解」というフレーズのみで世間の解釈に罪をなすりつけることになるだけではなく、合理的な根拠が示されないままに自己免罪とその免罪を通した自己擁護の罷り通りを放置することになる。

 麻生太郎は2020年1月13日、福岡県直方(のおがた)市で開いた国政報告会で「2千年の長きに亘って一つの場所で、一つの言葉で、一つの民族、一つの天皇という王朝が続いている国はここしかない。よい国だ」と述べたという。この発言が批判を受けると、「誤解が生じているならお詫びする」と謝罪した。

 つまり自身が日本に関わる歴史認識を誤解していたとしたのではなく、周囲が自分の発言を誤解した。自分の発言に対して世間が異なる間違えた解釈をした。当然、自己免罪すると同時に自己擁護を果たしていたことになる。だから、同じような発言を何ら責任を取らずに繰り返すことになっているのだろう。

 山尾志桜里は報道が伝えていた男女関係を不倫ではなく、いわば世間に「誤解を生じさせるような行動」、つまり世間が事実を違えて不倫だと解釈する行動に過ぎないとするのみで、それを裏付ける合理的な説明は一切行わなった。

 山尾志桜里はその後夫と離婚し、相手の男性も報道から2カ月後に妻と離婚、その妻が不倫報道から3年後に自殺したという事実は、山尾志桜里が「誤解を生じさせるような行動」としたことが単に自己免罪し、自己擁護に走ったに過ぎなかったことの証明となると同時に周囲の誤解だと装わせることで事実とは異なる解釈をしたと報道や世間に罪をなすりつけたことになる。

 断っておくが、不倫が問題ではない。事実を隠して周囲の勝手な解釈に過ぎない「誤解」だと世間の解釈に罪をなすりつけることが問題となる。国会議員ともなると、国民の投票で選ばれている関係上、こういったことをタブーとする自己規制は社会一般よりも厳しくなければならないはずだ。

 山尾志桜里の2017年9月の不倫報道には続きがあった。2021年4月27日付の同じ「週刊文春」ネット記事が国民民主党衆議院議員山尾志桜里(46)の国会議員支給JR無料パスの公務外の私的利用を報じた。記事は、〈一般的に、選挙区内の移動や公務出張の際には、新幹線、特急、指定を含むJR全線を無料で利用できる。〉と書いているが、国から国会議員宛に支給される無料パスだから、当然公務以外の私的利用は禁じられることになる。

 週刊誌の記者は二人の関係はまだ続いていると睨んで、山尾志桜里に張り付いていたのだろう。ご苦労なことで、その執念に感服する。

 週刊文春が伝えている山尾志桜里のJR無料パスの使用状況。2021年4月3日土曜日に三鷹駅から吉祥寺駅まで議員パスを利用、駅ビルのマッサージ店で1時間程の施術。吉祥寺駅から新宿乗り換え恵比寿まで無料パス、駅ビルで総菜を買い、近くのラーメン屋で食事、酒屋に立ち寄ったあと、タクシーで不倫相手とされていた男性の自宅訪問。男性は妻と別れ、山尾志桜里自身も離婚しているから、どのような関係も、国会議事堂以外のどのような場所での関係も自由となるから、他人の口出しできることではないが、記事は、〈山尾氏はこの日以外にも、4月10日土曜日、4月17日土曜日など週末を中心に、マッサージや買い物などプライベートを楽しむ目的で議員パスを不適切に使用していた。〉と恒常的な公務外私的利用を伝えている。

 週刊文春記者は4月25日、都内で山尾氏を直撃した。
 ――お買い物やエステに行かれるときも議員パスを使用されていることを確認しているのですが。

「ごめんなさい、全部紙でいただけますか」

 ――国民の血税ですので。

「全部紙でいただけますか」

 改めて山尾事務所に事実関係の確認を求める質問状を送ったが、以下のように回答した。

「法規にのっとり対応しております」

 この最後の「法規にのっとり対応しております」の返事はJR無料パスの私的利用の否定、公務利用とする正当性の主張以外の何ものでもない。つまり私的利用とするのは「誤解」だとしていることに相当する。報道が自身の事実とは異なる解釈をしているに過ぎないと。

 個人的買い物やエステのどこが法規に則った対応、JR無料パスの私的利用ではなくて、公務利用なのだろうかと全く以って腑に落ちなかったが、週刊文春記者の直撃を受けた3日後の2021年4月28日に投稿した山尾志桜里自身のツイッターに答があった。
 「議員パスの件について。公私の別を大切にする自分として、その区別があいまいに見える行動はよくないと深く反省しています。今後このことがないように十分気をつけてまいります。本当に申し訳ありませんでした」

 「【今後の対応について】
 東京で喜らし東京で働く環境で、議員パスを通じた公私の曖昧をなくすためには、東京都内の移動にパスを利用しないこととするのが、今私にできる最善の対応と考えています。改めてお詫びするとともに、仕事を通じた信頼回復に努めていきます」

 要するに山尾志桜里は公私の「区別があいまいに見える行動」だったと言っているが、JR無料パスを利用して移動した山尾志桜里を週刊文春記者が尾行して確認した行動の中に私用ばかりで、公用とすることができる所用があったのだろうか、何を言っているのだろうかと最初は不審に思ったが、タクシーで向かった不倫相手とされていた男性は不倫発覚後に山尾志桜里が自身の政策顧問に起用していたことを思い出した。男性宅訪問を政策についての打ち合わせといった公務に入れていて(酒店で何かの酒を買ったことは男性宅で男女の関係に持っていくためのムードを醸し出すアイテムと解釈できないこともないが、こういったことは考慮外に置こう)、マッサージ店の利用や総菜の購入、ラーメン屋での食事までは公務に向かう途中の序での用事だから、JR無料パスを利用することになったということなのだろう。

 一見、許されるように見えるが、序でが一つ程度ならまだしも、三つも四つもとなると、私用と分かっていながら、序でを装ってJR無料パスを利用した確信犯と看做されても仕方がない。当然、男性宅訪問を除いたそれぞれの用事を公私の「区別があいまいに見える行動」とすること自体が一種の誤魔化しとなる。

 このことは自身を「公私の別を大切にする自分」としていながら、感情的にか衝動的に咄嗟に取ってしまった無考えな振舞いからというわけではなく、外出先のごく日常的な振舞いの中で公私の「区別」を失って、その「区別があいまいに見える行動」を取ってしまうというのは前提と結果の間に大きな矛盾が生じることからも証明できる誤魔化しであろう。

 要するに公務目的のJR無料パスを私用目的と分かっていて利用していたのを「区別があいまいに見える行動」とすることで罪薄めを図ったといったところなのだろう。

 全ては推測である。ゲスの勘繰りかもしれない。だが、「今後の対応」として「東京で喜らし東京で働く環境で、議員パスを通じた公私の曖昧をなくすためには、東京都内の移動にパスを利用しないこととするのが、今私にできる最善の対応」だとしている、そうまでする過剰反応が逆に本当は私用目的の利用だと自覚していたのではないのかという疑いを抱かせる。

 求められている「最善の対応」とは以後、公私の区別をしっかりとつけること以外にない。東京都内の移動にパスを一切利用しないということではない。要するに公務と公務序での私用を切り離して前者の場合はJR無料パスを使うが、後者については公私を厳格に区別する対応を取って一切使わなければ済むことを、そういった妥当な線引きをするのではなく、公務も公務序での私用も区別せずに一切JR無料パスを利用しません、それが「今私にできる最善の対応」だと極端な結論に走るのは一種の反動形成に当たる。この場合の反動形成は山尾志桜里自身がJR無料パスについて何か隠していることがあるから、その反動として必要もない極端に潔癖なことを言い出したというところに現れていると見ることができる。隠すための前提として公私の「区別があいまいに見える行動」だと体裁のよい定義付けをしなければならなかった。

 少なくともJR無料パスの用途を公私の「区別があいまいに見える行動」とすることで自己免罪し、免罪を通して自己擁護していることは否定できない。

 国会議員である以上、自身の言動の非は非と認めて、それ相応の責任を負うことをしないと、野党議員としての国家権力に対する監視役を損ない、不祥事を起こし、不正を働く与党国会議員や閣僚と同じムジナと化すことになる。山尾志桜里はツイッターの最後に「改めてお詫びするとともに、仕事を通じた信頼回復に努めていきます」と述べている。

 この手の発言の多くは責任の要素とは関係させずに発せられるケースが多い。内閣総理大臣といった任命権者が任命した閣僚が不祥事を起こした場合、何ら責任を取らせずに「職責を果たすことで信頼回復に努めて欲しい」と免責したり、官僚の誰かが組織の秩序と規律を混乱させる事態を引き起こしたとしても、組織の長を監督不行届で何らかの責任を取らせずのではなく、「再発防止を図ることで責任を果たして欲しい」と監督不行届に目をつぶったりする。あるいは組織の長自体が組織の「信頼回復に努めていくことが私に課せられた責任です」と信頼失墜を招くことになった自らの責任は不問に付したりする。

 つまり山尾志桜里は仕事を通じた信頼回復でJR無料パスの不明朗な利用に関わる責任を回避したとも言える。与党議員や与党閣僚と何も変わらない。

 最後に一つ。夫との性格の不一致が妻をして不倫に走らせるということもあるのだから、そもそもの離婚の原因が夫側にあるのか妻側にあるのかは他人には窺い知れないが、山尾志桜里は離婚後に旧姓に戻っていて、山尾姓ではなくなっているということだが、山尾姓を名乗り続けている。「山尾志桜里」名で投票を受け、国会議員として「山尾志桜里」名で人目に映る活動をし、その成果が「山尾志桜里」名と切っても切れない関係で結びついている損得の利害上からの理由で山尾姓を私的利用しているのだとしたら、山尾志桜里が自身を「公私の別を大切にする自分」としていることに反する公私混同ということになって、「公私の別を大切にする」は信用できないキャッチフレーズとなる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天皇絶対主義は見せかけで、国民統治装置とは知らずに天皇と国のために戦い、命を犠牲にした戦没者を「ご英霊」と祭り上げる安倍晋三たちの矛盾

2021-05-03 11:50:32 | 政治
 安倍晋三が2021年4月21日午前9時前、靖国神社を参拝した。参拝のあと、安倍晋三は記者団に対し「国のために戦い、尊い命を犠牲にされた、ご英霊に尊崇の念を表するために参拝した」、そう述べたと2021年4月21日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。

 当ブログ記事のメインは安倍晋三の靖国参拝問題だが、「NHK NEWS WEB」記事のメインは首相の菅義偉が木札に「内閣総理大臣菅義偉」と記した真榊を奉納したことの情報の方となっている。こちらから先に取り掛かることにする。

 記事は菅義偉が総理大臣就任(2020年9月16日)後の10月に行われた秋の例大祭でも「真榊」を奉納しているとの情報を追加している。この真榊奉納について詭弁家の官房長官加藤勝信が午前の記者会見で「私人としての行動であり、政府としてそれに対してコメントを申し上げる立場にはない。靖国神社を参拝されるか否かは、菅総理大臣が適切に判断される事柄であると考えている」と発言しとを伝えている。

 木札に「内閣総理大臣菅義偉」と記した真榊を秘書官か誰かに持たせて靖国神社に奉納したのである。それを「私人としての行動」だと言う。詭弁とは「道理に合わない、言いくるめの議論」のことを言う。道理に合う言いくるめの議論など存在しないから、道理に合わないということになるのだが、なぜ言いくるめなのかは証明しなければならない。

 この「NHK NEWS WEB」記事は中国政府はこれまでのところ公式の反応を示していないとした上で中国国営新華社通信の報道を伝えている。

 新華社通信「日本の菅総理大臣が、内閣総理大臣の名義で靖国神社に『真榊』と呼ばれる供え物を奉納した。菅総理大臣は去年10月にも真榊を奉納したが、官房長官だった時期には奉納したことがなかったことから、安倍前総理大臣のやり方にならったとみられる。

 靖国神社には第2次世界大戦のA級戦犯がまつられており、中国は日本の政治家の誤ったやり方に断固反対するとともに、日本には侵略の歴史を直視して反省し、実際の行動でアジアの隣国と国際社会の信頼をえるよう求める」

 要するに菅義偉は官房長官時代は真榊の奉納はしていなかったが、首相就任後に去年10月と今回4月の真榊奉納を始めた。

 共同通信配信の2021年4月21日付「東京新聞」も、〈首相は官房長官時代は真榊を奉納していなかったが、首相就任後は安倍氏の首相在任時の対応に倣っている。〉と書いている。菅義偉本人は安倍晋三に倣っているわけではないと言うかもしれないが、官房長官時代にはしなかったことを首相になって始めたということは少なくとも安倍・菅政権は首相を仰せつかったなら日本国家を代表して内外の情勢が許すなら直接参拝を、許されないなら真榊奉納を習わしとするとしていることを意味することになる。

 このことを裏返すなら、菅義偉は首相になっていなかったなら、真榊の奉納はなかったことになる。となると、詭弁家加藤勝信が言うように「私人としての行動」と言うことはあり得ず、木札に記したように「内閣総理大臣菅義偉」としての奉納と言うことになる。それを「私人としての行動」とするのは加藤勝信が得意とする言いくるめの議論以外の何ものでもない。

 事実でないことを「事実です」と押し通せば、事実に変え得るという確信のもとに事実と装う薄汚い言いくるめを多々見受ける。詭弁家化加藤勝信は当然として、安倍晋三然り、菅義偉然り、接待疑惑で国会参考人招致された総務省官僚やその他の官僚然り。

 安倍晋三の場合は首相を退任して一国会議員の立場だから、何も問題はないだろうと見た靖国参拝かもしれないが、事実、上記「NHK NEWS WEB」記事もその他も菅義偉の真榊奉納に中国は既に触れたように「侵略の歴史への直視と反省」を求め、韓国は「深い失望と遺憾の意」を表すると同時に中国と同じく「歴史への直視」を求めているものの、安倍晋三個人に対しては直接的に非難する文言は見当たらない。

 と言うことは中国も韓国も、総理大臣として日本国家を代表する立場での参拝や真榊奉納に特段の疑義を持たせていることになる。安倍晋三自身もこのことを承知しているはずで、このことは総理大臣を辞任したあとの去年9月と10月に参拝していると上記「NHK NEWS WEB」記事が伝えていることからも窺うことができる。

 こういった点からも加藤勝信が菅義偉の真榊奉納を「私人としての行動だ」とするのは薄汚い言いくるめの議論に相当することが理解できる。

 安倍晋三が参拝後に記者団に述べた参拝理由を再び取り上げてみる。「国のために戦い、尊い命を犠牲にされた、ご英霊に尊崇の念を表するために参拝した」

 この「国のために」の「国」とは断るまでもなく天皇絶対主義体制下の大日本帝国国家を指す。民主主義国家日本は戦前は一度も存在したことがないのだから、靖国神社の戦没者はそのような国のために戦うことも、尊い命を犠牲にすることもできない。

 要するに安倍晋三本人が事実でないと言いくるめようと言いくるめまいと、安倍晋三が言う「国のために」の「国」とは「天皇絶対主義体制下の大日本帝国国家」を指していて、参拝後の常套文句は「天皇絶対主義体制下の大日本帝国国家のために戦い、尊い命を犠牲にされた、ご英霊に尊崇の念を表するために参拝した」という意味を取ることになる。

 また、「天皇絶対主義体制下の大日本帝国国家が起こした戦争のために戦い、尊い命を犠牲にされた」ことを受けて「ご英霊に尊崇の念を表する」としているのだから、安倍晋三は、当然、その戦争を「戦い、尊い命を犠牲」にするにふさわしい戦争だったと肯定的に歴史認識していることになる。

 大体が「尊崇の念を表する」とは「尊(たっと)び崇(あが)める」という最大級の称賛で評価していることになるのだから、肯定的な歴史認識で捉えていなければ、こういった評価はできない。戦没者を偶像化の一歩手前にまで持っていっている評価と言えないことはない。

 では、天皇絶対主義体制下の大日本帝国国家とはどのような国家で、その国家の戦争を国民はどのように戦うことになったのだろうか。
 
 昭和天皇が敗戦翌年の1946年2月に侍従長藤田尚徳に語ったとされる<「立憲国の天皇は憲法に制約される。憲法上の責任者(内閣)が、ある方策を立てて裁可を求めてきた場合、意に満ちても満たなくても裁可する以外にない。自分の考えで却下すれば、憲法を破壊することになる」>(2006.7.13.『朝日』朝刊/『侍従長の回想』)ことを以って開戦を阻止できなかった理由に挙げているという。

 大日本帝国憲法第4章「国務大臣及枢密顧問」は次のように規定している。

 第55条 国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
      凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス
 第56條 枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ応ヘ重要ノ国務ヲ審議ス

 【輔弼】「天子の政治を助けること。旧憲法で、天皇の機能行使に対し、助言を与えること」
 【諮詢】「参考として問い尋ねること」(以上(『大辞林』三省堂)

 要するに国務大臣(総理大臣を含む)は天皇の政治に助言を与え、その政治を助ける役目を負い、枢密顧問は天皇が意見を求めたことを審議する役目を負っている。この枢密顧問の役目は旧憲法下に存在した諮詢機関なる組織の役目を見れが理解できる。「天皇がその大権を行使するにあたって意見を徴した(求めた)機関」(同『大辞林』)とされていて、枢密院、元老院、元帥府などがこの機関に当たると言う。

 昭和天皇が侍従長藤田尚徳に語った言葉によると、国務大臣の天皇に対する助言も、枢密顧問の天皇の求めに応じた審議の結果も、「意に満ちても満たなくても裁可した」と言うことになる。このことが事実とすると、天皇は国務大臣や枢密顧問に対して従属的な立場に立たされていて、実質的な権限は天皇よりも国務大臣や枢密顧問の方が上と解釈しなければならなくなる。

 だが、大日本帝国憲法のどの条項を取っても、天皇は他の機関の上に位置していて、決して下には位置していない。求めた意見に対して「意に満ちても満たなくても裁可する以外にない」といった意志決定の構造はどこを探しても見当たらない。

 昭和天皇の言葉のように「憲法上の責任者」が内閣であるとすると、大日本帝国憲法の天皇に対する絶大なる権力の保障は見せ掛けと化し、天皇は単なるお飾りだったことになる。

 先ず大日本帝国憲法は前文に当たる箇所に、〈国家統治ノ大権ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ傳フル所ナリ朕及朕カ子孫ハ將來此ノ憲法ノ條章ニ循ヒ之ヲ行フコトヲ愆(あやま)ラサルヘシ〉と規定している。要するに「国家統治ノ大権」は代々の天皇に付属した権利ということになる。そして「憲法ノ條章ニ循ヒ」とは主として以下の「條章」を指す。でなければ、「国家統治ノ大権」とは言えない。

 第1章天皇

 第1条  大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス
 第3条  天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス
 第4条  天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬(統合して一手に掌握すること)シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ
 第11条  天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス
 第13條  天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ條約ヲ締結ス

 例え天皇が憲法に従って他の機関に助言や意見を求めることはあっても、大日本帝国国家の統治権者は天皇であり、「神聖ニシテ侵スヘカラス」絶対的な存在であり、大日本帝国国家の元首であると同時に統治権を一手に掌握していて、このような絶大な権能を妨げる憲法上の条項は見当たらない。見当たったなら、「神聖ニシテ侵スヘカラス」という絶対的な存在と自己矛盾を来すことになり、大日本帝国憲法から見た天皇の姿はとてものことにお飾りには見えないことになる。

 では、安倍晋三やその他が「国のために戦い、尊い命を犠牲にされた」とする戦争の開戦を宣言した昭和天皇の実在の姿を2007年4月号「文藝春秋」掲載の『小倉侍従日記』から探ってみる。日記の掲載は昭和14年5月3日から始まり、敗戦1日前の昭和20年8月14日で終っている。開始の5月3日から4日後の5月7日の日記に対する歴史家半藤一利氏の解説には「天皇このとき38歳。皇太子5歳」とある。

 『小倉侍従日記』昭和14年5月11日の日記には大本営陸軍参謀付などを務めた1歳年下の弟宮秩父宮殿下が昭和天皇との御対顔の申し出があったのに対して昭和天皇が「困ったな困ったな」と困惑した様子が記されている。この様子を半藤一利氏は『昭和天皇独白録』を用いて解説している。

「それから之はこの場限りにし度いが、三国同盟に付て私は秩父宮と喧嘩をしてしまった。秩父宮はあの頃一週三回くらい私の処に来て同盟の締結を進めた。終には私はこの問題については、直接宮には答へぬと云って、突放ねて仕舞った」

 昭和天皇は日独伊三国同盟の締結には反対だった。

 『『小倉侍従日記』〈昭和14年10月19日「白鳥〔敏夫〕公使、伊太利国駐箚(ちゅうさつ・駐在)より帰国す。軍事同盟問題にて余り御進講、御気分御進み遊ばされざる模様なり。従来の前例を調ぶるに、特殊の例外を除き、大使は帰国後、御進講あるを例とす。此の際、却って差別待遇をするが如き感を持たしむるは不可なり。仍(よ)つて、御広き御気持ちにて、御進講御聴取遊ばさるるようお願いすることとせり〉――

 在イタリア白鳥敏夫公使が帰国し、慣例となっている天皇への御進講に昭和天皇は乗り気ではなかった。小倉侍従は慣例を破ると差別待遇のような印象を持たせることになるから、広い気持ちになって御進講を受けるようにお願いすることにしたという内容である。

 この内容について半藤一利氏が解説している。「側近が、どうか広い気持ちで白鳥大使に会ってくださいと天皇に頼まざるを得なかったのはなぜか。三国同盟問題で、特に自動的参戦問題(日独伊三国同盟第3条自動参戦条項はドイツまたはイタリアがアメリカから攻撃を受けた場合は日本が自動的に参戦することを規定していた)について内閣が揉めているとき、ベルリンの大島大使ともども、駐イタリア大使白鳥敏夫は、何をぐずぐずしているのか、早く同盟を結べ、といわんばかりの意見具申の電報を外務省に打ち続けていた。これに天皇は怒りを覚えていた」

 第3条「締結國中何レカ一國ガ、現ニ歐州戰爭又ハ日支紛爭ニ參入シ居ラザル一國ニ依リ攻撃セラレタル時ハ、三國ハアラユル政治的經濟的及軍事的方法ニ依リ相互ニ援助スヘキ事ヲ約ス」
 
 アメリカとは書いてないが、アメリカを念頭に置いた条項だと言う。昭和天皇はこの第3条の自動参戦条項に反対していた。アメリカとの戦争に反対していたことと整合する。

 半藤一利氏が『西園寺公と政局』(原田熊雄著)に記してある天皇の発言を紹介している。「元来、出先の両大使が何等自分と関係なく参戦の意を表したことは、天皇の大権を犯したものではないか。かくの如き場合に、あたかもこれを支援するかの如き態度をとることは甚だ面白くない」
 
 大使や公使の分際で天皇自身が反対している自動参戦条項に賛成するような口の挟み方は天皇の大権を犯すようなものではないかと立腹した。だが、この立腹は同時に天皇の大権の無力を証明して余りある。天皇の大権を「第1章天皇」で規定してある各条項の権限に基づいて行使すれば、日独伊三国同盟の協議を直ちに打ち切るよう命ずることができたはずだが、直接内閣に命じて打ち切ることはできずに大使、公使に腹を立て、八つ当たりした。

 さらに半藤一利氏は解説している。

 「9月7日ヒトラーの特使スターマーの来日、1週間後の14日には大本営政府連絡会議、16日の臨時閣議で決定と、三国同盟の締結が承認されるまで、あれよあれよという早さである。16日の近衛首相上奏のとき、参戦義務によって国際紛争にまきこまれるのを憂慮した天皇は、『今しばらく独ソの関係を見極め上で締結しても、晩くはないではないか』と最後の反対意見を言ったが、それまでとなった。この日の御前会議ですべてが決したのである」

 この解説がが記している、天皇が「最後の反対意見」を述べたこと自体が、「憲法上の責任者(内閣)が、ある方策を立てて裁可を求めてきた場合、意に満ちても満たなくても裁可する以外にない」としていた天皇自身に課せられた役目としている従属性に反する意思表示であろう。

 日独伊三国同盟に対する昭和天皇のそもそもからの反対意思が内閣の決定過程に何ら反映されなかったということは日本帝国憲法「第1章 天皇」で描く絶対権力者としての天皇の姿に反して現実には自らの意思を国策に反映させるだけの力を有していなかったと見るべきが自然ではないだろうか。つまり天皇は「第1章 天皇」の規定に似ても似つかないお飾りに過ぎなかった。

 『小倉侍従日記』〈昭和15年9月27日(金)本夜8・15、ベルリンに於いて、日独伊三国条約締結調印を了せり。直に発表、同時大詔渙発せらる。〉――

 【大詔】「天皇の詔勅。みことのり」(『大辞林』)
 【渙発】「詔勅を広く発布すること」(『大辞林』)

 半藤一利氏の解説「9月24日の天皇の言葉。

 『日英同盟のときは宮中では何も取行われなかった様だが、今度の場合は日英同盟の時の様に只慶ぶと云ふのではなく、万一情勢の推移によっては重大な危局に直面するのであるから、親しく賢所に参拝して報告すると共に、神様の御加護を祈りたいと思ふがどうだろう』(『木戸日記』)

 昭和天皇の「万一情勢の推移によっては重大な危局に直面する」はアメリカとの戦争を危惧しての言葉であり、その危惧自体がアメリカとの戦争に反対意思であることを物語っている。

 そして大詔の一説。

 「帝国の意図を同じくする独伊両国との提携協力を議せしめ、ここに三国間における条約の成立を見たるは、朕の深くよろこぶ所なり」〉――

 【賢所】(かしこどころ)「宮中三殿の一。天照大神 (あまてらすおおみかみ) の御霊代 (みたましろ) として神鏡を奉安してある所。」(goo国語辞書)

 半藤一利氏の解説による昭和天皇の言葉は天皇自身の無力を語って余りある。日本帝国憲法「第1章 天皇」に規定された絶大権力を以ってすれば、反対していた日独伊三国同盟を葬り去ることができたはずだが、そのような力を持っていなかったことが露見しただけではなく、この条約の第3条自動参戦条項によって日本がアメリカと戦争を起こすことを恐れて、そうならないように天照大神の御霊に頼んで日本の平安無事を祈る。つまり国家統治ノ大権を有しながら、内閣を動かすことができずに神頼みに縋るしかなかった。

 しかも、条約の成立に反対していたにも関わらず、自身の意に反した成立を詔勅で「朕の深くよろこぶ所なり」と迎え入れなければならなかった。天皇という存在に対して無条件に従属的であった一般国民は天皇のこの詔勅の言葉によって「天皇陛下バンザイ」の気持ちで歓迎したに違いない。

 では、昭和天皇がアメリカとの戦争にも反対していたことと、その反対意思を内閣の決定に反映させることができなかった無力を半藤一利氏の解説を混じえた『小倉侍従日記』から拾い出してみる。

 『小倉庫次侍従日記』〈昭和15年1月29日(月)「歌会始 御製 西ひかしむつみかわして栄ゆかむ世をこそいのれとしのはしめに」〉――

 「年の初めに当たって、西も東も心を交わし合って世界が栄えることを祈ろう」。日米戦争反対意思の現れ以外の何ものもでもない。


 『小倉庫次侍従日記』〈昭和16年9月5日(金)(前略)近衛首相4・20-5・15奏上。明日の御前会議を奉請したる様なり。直に御聴許あらせられず。次で内大臣拝謁(5・20-5.27-5・30)内大臣を経、陸海両総長御召あり。首相、両総長、三者揃って拝謁上奏(6・05-6・50)。御聴許。次で6・55、内閣より書類上奏。御裁可を仰ぎたり。〉――

 内大臣(ないだいじん)は木戸幸一。陸軍参謀総長は杉山元(げん)。海軍軍令部総長永野修身(おさみ)。

 半藤一利氏解説「あらためて書くも情けない事実がある。この日の天皇と陸海両総長との問答である。色々資料にある対話を、一問一答形式にしてみる」

 天皇「アメリカとの戦闘になったならば、陸軍としては、どのくらいの期限で片づける確信があるのか」 
 杉山「南洋方面だけで3ヵ月くらいで片づけるつもりであります」
 天皇「杉山は支那事変勃発当時の陸相である。あの時、事変は1ヶ月くらいにて片づくと申したが、4ヵ年の長きにわたってもまだ片づかんではないか」
 杉山「支那は奥地が広いものですから」
 天皇「ナニ、支那の奥地が広いというなら、太平洋はもっと広いではないか。如何なる確信があって3ヵ月と申すのか」
 杉山総長はただ頭を垂れたままであったという。

 杉山元は陸軍参謀総長として海軍と協力して南洋攻略の戦略を立てていたはずである。その戦略を昭和天皇に丁寧に説明し、結論として導き出された作戦完了日数を「3ヵ月」と伝えなければならないはずだが、戦略との関連付けもなしに「3ヵ月くらい」云々のみで済ます。国家統治ノ大権を有し、「第1章天皇 第11条 天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」の規定によって一般の国務から独立するとされた陸海軍の統帥権を握っている天皇に対する扱いとしては、言葉や態度は丁寧であっただろうが、粗略に過ぎる。対して天皇としても、陸海軍の統帥権者の立場から精通していなければならない戦略を聞かされていなかった疑いが出てくる。つまり重要な国策決定の場から昭和天皇は排除されていた状景が否でも見えてくる。この状景は大日本帝国憲法の天皇に関する各条項が単なる名目に過ぎないことを教えかねない。つまり益々お飾りだったことの色彩を色濃くすることになる。

 『小倉侍従日記』〈昭和16年7月29日(火)本日、日本軍、仏印に平和進駐す。〉――

 半藤一利氏解説「前日の28日に陸軍の大部隊がサイゴンに無血進駐をした。『好機を捕捉し対南方問題を解決する』という国策決定にもとづく軍事行動である。アメリカは、ただちに在米日本資産の凍結、さらに石油の全面禁輸という峻烈な経済制裁でこれに対応している。海軍軍務局長岡敬純(たかずみ)少将は『しまった。そこまでやるとは思わなかった。石油をとめられては戦争あるのみだ』といった。」

 仏印とは現在のベトナム・ラオス・カンボジアを併せた領域だが、無血進駐を可能にしたのは1940年6月にナチスドイツ軍がパリに到達し、フランスは6月22日にドイツと休戦協定を締結、国土の北部半分をドイツが占領、南半分はドイツ傀儡の政権が誕生したからである。つまり仏印のフランス軍は本国からの支援は望めない状況で日本軍と対峙しなけれならなかった。仏印フランス軍は無血降伏が犠牲を最小限にとどめる最良の作戦だったに違いない。

 中国大陸には日本だけではなく、アメリカもイギリスもフランスも進出していて相互に競合関係にあり、日本の関東軍が1931年に満州事変を起こして翌1932年(昭和7年)3月に中国の東北部に建国した満州国をアメリカは不承認を決めたことでアメリカと日本の間に緊張関係が生じていただけではなく、1940年(昭和15年)9月27日の日独伊三国同盟締結によって日米の緊張関係はさらに悪化、、日本軍の1941年(昭和16年)7月29日の仏印進駐は南シナ海を挟んだフィリピンがアメリカの植民地であるという関係上、アメリカの警戒は危機管理上の想定内とする戦略を立てていなければならなかったはずだが、海軍軍務局長岡敬純少将の「しまった。そこまでやるとは思わなかった。石油をとめられては戦争あるのみだ」はフィリピンにまで目を向ける危機管理まで組み込んだ戦略を立てていなかったとしか思えない。

 戦略とは長期的・全体的展望に立った目的行為の準備・計画・運用の理論と実践方法を言う。国策には常に欠かすことができない方法論だが、陸軍参謀総長の杉山元と言い、、海軍軍務局長少将の岡敬純と言い、軍の中枢人物であるという事実に逆説する関係で戦略なるものに対する視点を欠いていたとは驚きである。こういった手合が日本軍の支配的位置に就いていた。

 日本はアメリカから在米日本資産の凍結や石油全面禁輸といった経済制裁を受けて、対米関係の修復に乗り出さざるを得なかった。1941年春から日本陸軍の中国大陸撤退を条件に、満州国の国家承認、日独伊三国同盟の是非、 日米通商関係の正常化などを論点とした交渉が野村吉三郎駐アメリカ大使とコーデル・ハル国務長官との間で開始された。(Wikipedia)

 『小倉侍従日記』〈昭和16年11月5日(水)第7回御前会議(東一の間臨御、10・35-0・30、休憩、再開1・30-3・10)(後略)〉――

 半藤一利氏解説「この日の御前会議で、11月末までに日米交渉妥結せずとなった場合、大日本帝国は『自存自衛を完うし大東亜の新秩序を建設するため、このさい対米英蘭戦争を決意』という『帝国国策遂行要領』を決定する。武力発動の時期は12月初頭と決められた」

 『小倉侍従日記』〈昭和16年12月1日(月)本日の御前会議は閣僚全部召され、陸海統帥部も合わせ開催せらる。対外関係重大案件、可決せらる。〉―― 
 
 半藤一利氏解説「開戦決定の御前会議の日である。『杉山メモ』に記されている天皇の言葉は、「此の様になることは已むを得ぬことだ。どうか陸海軍はよく強調してやれ」。杉山総長の感想は「童顔いと麗しく拝し奉れり」である」

 結局日米会談は決裂した。
 
 『小倉侍従日記』〈昭和16年12月8日(月)(前略)今暁、米、英との間に戦争状態に入り、ハワイ、フィリッピングアム、ウェーク、シンガポール、ホンコン等を攻撃し、大戦果を収む。前12・00(正午)防空下令、夕刻警戒官制施かる。〉――

 1941年(昭和16年)12月8日に日本海軍はハワイの真珠湾攻撃を決行、昭和天皇の意思に反して太平洋戦争に突入した。真珠湾攻撃の大戦果に国民は歓呼した。日米が開戦したことによって日独伊三国同盟の規定に従い、ドイツとイタリアはアメリカに宣戦布告し、その布告を受けて、アメリカは欧州戦線に自動的に参戦することとなった。日独伊三国同盟で昭和天皇が危惧したこととは反対の事態が発生した。イギリスのチャーチルはアメリカの参戦によってドイツの敗北を予想したと言う。
 
 かくこのように大日本帝国憲法に規定された天皇の国家統治の大権に反して天皇は国策決定に無力であった。その一方で一般的国民にとって天皇は大日本帝国憲法の規定とおりに絶対的存在であった。現人神であることを信じ、「神聖ニシテ侵スヘカラス」存在として奉り、天皇への無償の奉仕を心に決めていた。政治権力者たちは「天皇」と言う言葉を頭に置いて、国家権力が望む方向に国民を誘導していった。

 その典型的な例が井上毅や元田永孚らが起草して、天皇家と国家への奉仕を求めた『教育勅語』であろう。

 要するに軍部を含めた政治権力者たちは天皇を神格化し、その神性によって国民を統一・統制する国民統治装置として利用したが、国策の場では大日本帝国憲法で規定した天皇像が実在することを許さず、お飾りとも言える名目的な存在にとどめておく権力の二重構造で巧みに国家を運営した。あるいはそのような権力の二重構造によって憲法が見せている天皇の絶大な権限は国民のみにその有効性を発揮し、国民統治装置として機能していたが、軍部を含めた政治権力層には天皇の絶大な権限は通用させず、そのような権限の埒外に常に存在させていた。

 この二重の権力構造は律令の時代から日本の天皇制を覆って日本の歴史・伝統・文化としてきた。何度もブログに書いてきているが、物部氏から始まって、それ以降、歴代天皇を頭に戴いて権力を実質的に握ってきたのは蘇我氏、藤原氏、平家、源氏、足利、織田、豊臣、徳川、明治に入って薩長・一部公家、そして昭和の軍部であった。日本の歴史は常に権力の二重構造を描いていた。

 安倍晋三は「日本では、天皇を縦糸にして歴史という長大なタペストリーが織られてきたのは事実だ」と言って、天皇を日本の歴史と文化の中心に据えているが、天皇は日本の歴史を通じて歴代の世俗的な権力者にとって国民を統治する影武者に過ぎなかった。

 日中戦争を含めた太平洋戦争で日本軍の兵士は大日本帝国憲法に規定された天皇の姿が国民を統治するために拵えられた便宜的なものであり、軍部を含めた政治権力者たちは天皇を憲法どおりには扱っていなかったとは知らないままに、なおかつ陸軍も海軍も戦略を立案する満足な才覚もなしに仕掛けた戦争を通して「国のために戦い、尊い命を犠牲にした」。或いは「天皇陛下バンザイ」と叫んで死地に飛び込んでいった。

 死後、安倍晋三がしてきたように靖国神社に祀られている「ご英霊に尊崇の念を表する」云々と参拝されたとしても、少なくとも歴史を学んでいるはずの現代の日本人は素直には受け取れず、矛盾を感じないわけにはいかないはずだ。

 当然、安倍晋三のようにはその戦争を「戦い、尊い命を犠牲」にするにふさわしい戦争だったと肯定的に歴史認識することもできないなずだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

西村康稔の指摘どおりにコロナ感染は拡大と縮小の繰り返しを予定調和としているなら、「ハンマー&ダンス」は時期を選ぶべし

2021-04-26 11:50:33 | 政治
 2021年4月23日、首相の菅義偉が午後8時から緊急事態宣言発出の決定を伝える「記者会見」を首相官邸で開いた。

 対象地域は東京都、京都府、大阪府、兵庫県、期間は4月25日から5月11日まで。その他まん延防止等重点措置に期限を同じくして愛媛県を追加。既にまん延防止等重点措置対象地区としていた宮城県と沖縄県の期限を5月5日から5月11日までに延長。

 ここに来ての大都市の感染拡大の原因を従来株よりも感染力が強い変異株による感染の広がりを危惧し、その抑え込みの必要性からの緊急事態宣言の3回目の発出としている。

 菅義偉「変異株の動きです。陽性者に占める割合は、大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割に上昇するなど、強い警戒が必要であります。このまま手をこまねいていれば、大都市における感染拡大が国全体に広がることが危惧されます。

 こうした中で、再び緊急事態宣言を発出し、ゴールデンウィークという多くの人々が休みに入る機会を捉え、効果的な対策を短期間で集中して実施することにより、ウイルスの勢いを抑え込む必要がある。このように判断をいたしました。私自身、これまで、再び宣言に至らないように全力を尽くすと申し上げてきましたが、今回の事態に至り、再び多くの皆様方に御迷惑をおかけすることになります。心からお詫びを申し上げる次第でございます」

 緊急事態宣言を使った感染拡大抑制の対策は飲食店の酒類提供の停止、20時までの時間短縮、カラオケの提供停止等の要請。デパート、テーマパーク等、一定規模以上の商業施設や遊興施設等に対する休業要請、イベントやスポーツの原則無観客での開催要請、一般市民の不要不急の外出の自粛要請、感染拡大地域との往来の自粛要請、テレワークや休暇の活用による出勤者の例年並みの7割減の要請等々となっているが、相当な社会経済活動の打撃となる。

 これが止むを得ない打撃なら、補償では補いきれない損失を被る各国民はそれなりに打撃を引き受けざるを得ないが、政府の対策不足の不始末なら、不当な社会経済活動の制限ということになる。

 では、変異株に対してどのような対策を打ってきて、結果として「陽性者に占める割合は、大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割に上昇」するに至ったのだろうか。質疑で記者が質問している。 

 ジャパンタイムズ記者杉山「総理にお伺いします。昨年末には既に海外で変異株の報告がありました。そして、専門家が警告を発している中で総理は2度目の緊急事態宣言の解除に踏み切りました。結果としてまん延を許し、感染が急拡大しましたが、政権の変異株に対する認識が甘かったのではないでしょうか」

 菅義偉「先ず先般の緊急事態宣言の解除(大阪は2021年3月1日解除)については、感染者数や病床など、状況に基づいて専門家の意見を伺った上で解除しました。例えば大阪ですけれども、実際は、当時、解除したときは、新規感染者数は72名でした。私たちはステージ4からステージ3になれば、1つの目安に、解除するものとしておりました。ステージ3が315まで、ステージ2が189までです、大阪では。それが72名。そして病床も、ステージ4が50、そしてステージ2が20。そのとき病床は29.8でありましたけれども、全体としてこのような状況の中で解除をしたということであります。

 そして、今回の緊急事態宣言に至ったというのは、やはり変異株が、私、冒頭申し上げましたけれども、大阪、兵庫では8割が変異株でありますから、そうした変異株の対策を行うことが大事だというふうに思っています。ただ、その対策を講じることというのは、基本的な従来の対策をしっかりやること、そういうことの中で対策を、そちらの勢いの方が強かったということだというふうに思います。それで、今回、人流を、このゴールデンウィークを中心として、短期間の間ですけれども止めさせていただく、そういう対策を講じたということです」
 
 言っていることは「基本的な従来の対策」をしっかりと行ってきたが、変異株の感染力が強くて、結果的に「基本的な従来の対策」が用を成さなかったという意味を取る。だが、変異株の感染力が従来株以上であることは最初から海外からの報告で分かっていたはずだ。

 国民側の基本的な従来の対策とはマスクの着用、手洗い、消毒、ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の維持等々であるが、国・地方自治体側の基本的な従来の対策はPCR検査、医療体制の保持、法律に基づいた社会経済活動の大なり小なりの制限その他である。

 PCR検査はコロナ感染に特有とされる症状が出て感染を疑って受診する例と陽性の判定を受けた者との濃厚接触者が主な対象者となる。このような例の場合の感染判明は受動的な把握という経緯を取る。一方、感染はしているものの症状が出なくて、自分は感染しているとは露程も疑わない無症状者(無症状病原体保有者)はPCR検査を受ける機会もなく、2次感染、3次感染の媒介者となり得ると見られている。その割合は東京都の例として、「コロナ感染 2割は陽性判明時に無症状 60代以降も高い割合 東京」(NHK NEWS WEB/2021年1月20日 19時13分)記事が題名で平均を示している。但し無症状の人数は20代、30代が多い。2020年6月10日付「NHK NEWS WEB」記事は、〈WHO=世界保健機関は、新型コロナウイルスに感染した人のおよそ40%は、無症状の感染者からうつされているとする見方を明らかにした〉と伝えている。このような無症状者に対しては受動的な把握は困難で、何らかの能動的な把握の方法を見つけなければならない。

 では、変異株の場合、どれくらいの無症状者が存在するのだろうか。「日本国内で報告された新規変異株症例の疫学的分析(第1報)」(国立感染症研究所/2021年4月5日)によると、〈新規変異株症例については従来株症例に比べてより広範囲に濃厚接触者を特定し検査が行われていることから、診断時における無症状の割合が過大評価となる可能性がある。〉との条件付きではあるが、変異株の〈VOC-202012/01症例のうち男性が49.7%、18歳未満が17.6%、65歳以上が22.4%であった。無症状の割合は21.5%であった。〉とある。変異株と従来株の無症状の割合は変異株の条件を考慮すると、ほぼ変わらないと見ることができる。

 では、両者の感染力の違いはどの程度なのだろう。〈2021年4月現在、日本国内における最初のVOC-202012/01症例の発生は2020年12月下旬にさかのぼる。以降、国内感染例は増加傾向にある。一方、501Y.V2、501Y.V3の国内感染は散発的に確認されている。本報告の解析では、VOC-202012/01と従来株症例の実効再生産数は平均でそれぞれ1.23 (95%信頼区間 1.18-1.28)と0.94 (95%信頼区間 0.90-0.97)であった。〉 

 変異株VOC-202012/01の実効再生産数は平均で1.23 。従来株の実効再生産数は平均で0.94 。実効再生産数が1人以下と1人以上では大きな差があるはずである。無症状の割合がほぼ同じで、感染力にこれだけの差があるとすると、感染者の受動的な把握という対策以上に何らかの能動的な把握を可能とする対策が必要になる。政府はそのような対策を採ってきたのだろうか。

 2020年12月23日の開催の「新型コロナウイルス感染症対策分科会(第19回)」(2020年12月23日の議事次第資料「直近の感染状況の評価等」に変異株について次のような記述がある。文飾は当方。
 
 〈英国で、最近の流行の主な系統となった変異株については、ECDC等からは、重症化を示唆するデータは認めない一方、感染性が高いとの指摘がなされており、医療への負荷が危惧される。この変異株については、これまでのところ国内では確認されていないが、流入リスクについて留意が必要である。

 さらに、国内の厳しい感染状況の中で、英国等で見られる変異株の流入による感染拡大を防ぐことが必要である。このため、関係国との往来の在り方や検査・モニタリングの在り方について、適切な対応を速やかに行うべきである。〉・・・・

 2020年12月23日時点では変異株の国内での感染は確認されていなかったが、4カ月後の2021年4月時点では「大阪、兵庫で約8割、京都で約7割、東京でも約3割」を占めるまでに至った状況から見ると、感染者の能動的な把握対策が見えてこない。〈検査・モニタリングの在り方について、適切な対応を速やかに行うべきである。〉と変異株感染抑止の方法を早急に確立するようにとの提言は「分会」自身が生かすことはなかったように見える。

 2021年1月25日衆議院予算委員会

 尾身茂「もう先生(立憲民主党今井雅人のこと)御承知のように、今、現段階でいろいろなサンプルを基に調査している限りの調査では、今のところ、国内の地域において、この変異株が地域の中で蔓延しているというふうには今のところ考えておりませんが、しかし、変異株ということの性質上、これが地域の中で感染を、これが主流になってくる可能性は否定できないので、これからそうした最悪のことに備えて様々なことを、対応を準備していくことが私は必要だと思っております。

 今井雅人「総理、最後にちょっとお願いがありまして。

 イギリス型の変異種は(2020年)9月ぐらいにはもう何かあったという話もありますけれども、実際に話題になってきたのは12月です。12月の14日だったと思いますが、イギリスの政府の方から、これはかなり大きく拡大しているといって、WHOも同時に声明を出していまして、イギリスにもう100ぐらいの症例があるというふうに言っていました。日本がイギリスから入国者を禁止したのはその10日後です。この10日間は放置状態になっていました。

 水際対策というのは、国内の感染防止とは違って、外から入れてくるのを止めるわけですから、はっきりしているわけですね。はっきりしているんですよ。だから、ここは本当に、南アフリカ、それからブラジルの由来のはワクチンが効かないかもしれないと言っています、だから、是非、水際対策として、どういう状況になったら開けていくのかとか、そういうことの基本計画をしっかり作るべきだというふうに尾身理事長もおっしゃっておられますから、そういうものをしっかり示して、変異種が日本に入ってこないような厳しい対応をしていただきたいと思いますが、いかがですか」

 菅義偉「そのように致します」

 今井雅人「と言うことは、そういうものをしっかりと作って、総理の方から国民にしっかり説明して頂けるということですね。それだけお願いしたいです」

 菅義偉変異株について、私自身は強い危機感を持っています。そして、引き続き諸外国の感染状況を注視するとともに、国内における水際対策の強化や変異株に対する監視体制の強化、こうしたものを、感染拡大防止対策、しっかりと行ってまいります」

 菅義偉は「変異株について、私自身は強い危機感を持っています」と口では言っているが、今井雅人が変異種流入防止の基本計画をしっかり作るべきだと進言しているのに対して「そのように致します」としか答えない辺りからは強い危機感は見当たらない。あるいはそんなことは言われなくても分かっていると反発したせいで、素っ気ない答弁となったのか。と言うのも、この質疑から8日後の2021年2月2日に決定した、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」で、〈政府及び都道府県は、再度の感染拡大の予兆を早期に探知するため、歓楽街等における幅広いPCR検査等(モニタリング検査)やデータ分析の実施を検討し、感染の再拡大を防ぐこと。〉と提言しているからである。

 この決定は2021年1月7日に首都圏4都府県に2回目の緊急事態宣言発出し、2021年1月13日に大阪、京都、兵庫、愛知、岐阜、福岡、栃木に同じく2回目の緊急事態宣言発出後のことである。東京等への発出から14日後、大阪等への発出から10日後のことである。そして実際に繁華街などで検査キッドを無料配布してPCR検査を行い、それをモニタリングする活動を開始したのは20日後の、〈栃木県が2021年2月22日から、岐阜県で3月4日(木)、大阪府、京都府、兵庫県で3月5日(金)から、愛知県、福岡県で3月6日(土)から、神奈川県で3月18日(木)から、千葉県で3月19日(金)から、東京都、埼玉県で3月20日(土)から、北海道で4月1日(木)から、沖縄県で4月2日(金)から〉(「内閣官房新型コロナウイルス感染症対策」)等となっている。

 確かに準備に時間がかかる事情は理解できるが、感染抑止は準備の時間を見込んで先手、先手で取り組むべきだと思うが、東京、大阪等の2回目の緊急事態宣言解除を経て、さらに各地へのまん延防止等重点措置適用、解除を経て、3回目の緊急事態宣言となったということと、この宣言が感染力の強い変異株の影響で感染者が急拡大し、その感染拡大を抑えることが宣言の根拠となり、そのために従来以上に強い社会経済活動の制限となったということは明らかに変異株対策に見るべき効果を打ち出すことができなかったことになる。

 となると、緊急事態宣言発出によって受ける個人商店主その他の社会経済活動の打撃は政府の対策不足が原因となって、その不当性は計り知れないものとなる。菅義偉の3回目の緊急事態宣言発出の記者会見に先立って経済再生担当相の西村康稔が発出の説明を行った2021年4月23日衆議院議院運営委員会の質疑から政府の感染対策の適否をさらに見てみる。

 盛山正仁(自由民主党)「まん延防止等重点措置、今月5日から大阪府、兵庫県、12日から東京都、京都府で講じているにも関わらず、このように発令後に2週間、3週間といった短期間で緊急事態宣言を再発出することになったことはまことに遺憾です。

 国民の間からは政府、地方自治体の対応はコロコロ変わる。国民生活への影響について十分に検討がなされているのか、措置について医学的・科学的な根拠はあるのかなどの声が上がっていませんか。

 今回の3回目の緊急事態宣言の発出に当たって、今度こそ、新型コロナウイルスに対する万全の対策を講じることはできると考えているのかお答ください」

 以下2点纏めて質問するが、この緊急事態宣言発出の効果についての質問に対する西村康稔の答弁のみを取り上げる。自民党盛山正仁としては親分の菅義偉が大阪府のまん延防止等重点措置の適用要請に対しての2021年3月31日の会見で、この措置は「緊急事態宣言に行かないような、また、感染拡大防止につながるような対応策です」と受け合ったものの、緊急事態宣言を発出せざるを得なくなった手前、いつものヨイショ質問では済まなく、少しは強く言わざるを得なかったのだろう。

 西村康稔「この新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こるわけであります。諸外国を見ていてもそうであります。そして起こるたびに大きくなってくれば、ハンマーで叩く。つまり措置を講じて抑えていく。その繰り返しを行っていく。何度でもこれを行っていくことになります。

 今度も起こり得ると思います。そのためにまん延防止等重点措置を新たに設けて頂いて、この機動的な活用も含めて、大きくなってくれば、感染を抑えていく。こうした姿勢で臨んでいきたいと考えておりますし、このことは以前から申し上げているとおりであります。

 そのまん延防止等重点措置でありますが、宮城県では新規陽性者数がピークの4分の1まで減少してきております。また大阪府でも、確かに陽性者数は高い水準ですけども、先週、1週間前から1100人、1200人の水準で高止まっている。これはちょうど4月1日からまん延防止等重点措置を始めましたので、2週間経った頃から効果が、一定の効果が出てきていると思います。

 しかしながら、なかなか減少傾向にならない。これは変異株、感染力が極めて強いからであります。こうした状況を見る中にですね、これまで以上に強い措置を講じないと、この変異株の感染拡大を抑えられない。こうした強い実感を持っているところであります。

 そのために今回緊急事態宣言を発出させて頂いたわけであります。是非、国民の皆さんのこれまで以上に徹底した感染防止対策、特にゴールデンウイーク、大型連休を機に対策を強化しますので、これまで以上の外出自粛をやって頂いてですね、ステイホーム、お願いしたいというふうに思います」

 要するに変異株感染抑止の対策も空しく、変異株感染者を増やしてしまった。となると、政府の対策失敗ということになる。

 西村康稔は「この新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こるわけであります。諸外国を見ていてもそうであります。そして起こるたびに大きくなってくれば、ハンマーで叩く。つまり措置を講じて抑えていく。その繰り返しを行っていく。何度でもこれを行っていくことになります」と言っている。つまり緊急事態宣言をいくら発出しても、その当座は感染者数が減るものの、宣言を解除すれば、再び感染者が増える。増えた場合はハンマーで叩くように緊急事態宣言のように強い措置を講じなければならない。その繰り返しだとしている。

 このことは政府のコロナ対策がこれまでは緊急事態宣言を使った人の移動の制限(人流阻止)以外の有効な手立てがなかったのだから、当然のことである。2021年2月1日の当ブログ《菅義偉の「個々の研究についてはコメントを差し控えています」の答弁をそのままスルーさせる野党追及の甘さ加減 - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に次のように書いた。

 〈2021年2月1日の朝のNHKニュースで菅内閣は医療提供体制の逼迫状況の点から緊急事態宣言を延長する方向で調整に入ったと伝えていたが、解除に障害となる点を全てクリアして解除されて人の移動も再開された場合、緊急事態宣言再発令によって現在減少傾向にある新規陽性者は人の移動と感染が密接な相関関係にある以上、再び増加傾向を取ることになる。そしてこの繰り返しは国民の大多数がワクチンを接種するまで続くことになる。

 この繰り返しの波の頭を少しでも抑えるためには感染して、ウイルス保有者となりながら、無症状なためにPCR検査を受けないままに市中に放し飼いの状態に置くことになる、その多くが新規陽性者の半数前後を占めている感染経路不明と考えられる無症状感染者を如何に効率よくPCR検査の網にすくい取るかにかかってくることになるはずである。〉
 要するに感染者増と感染者減の波に任せるだけで、無症状感染者を効率よくPCR検査の網にすくい取って、陽性者を隔離、2次感染、3次感染を防ぐ前以っての効果的な対策を取れずにいた。勿論、今後効果的な対策を取れるかどうかは以後の取り組みにかかってくる。

 感染の大きな波が来れば、緊急事態宣言で「ハンマーで叩く」と言っていることは2020年7月3日の「記者会見」で自身が述べている。

 西村康稔「小さな波は今後も来るわけですけれども、それが大きな波にならないように我々は努力していく、ハンマー&ダンスで叩いていくわけですが。クラスター対策、そして、それより何より検知もしっかりやってクラスター対策をやっていくわけですけれども、仮に大きな波が来たとしても、それに応えていく対策を議論していただきたいと思っております。検査態勢、あるいは保健所機能、そうしたサーベランス(調査監視)のあり方、こういったことについて、是非、議論していただきたいと思っております」

 「ダンス」とは社会経済活動に関して自由にダンスするように自由な行動に任せるということなのだろう。勿論法律の範囲内の行動だが、自由な社会経済活動は許されているから、問題は政府が打ち振るうことになる、自由な社会経済活動を阻害することになる「ハンマー」と言うことになる。その阻害が公権力上妥当セ性を持ちうるかどうか。

 西村康稔は「大きな波にならないように我々は努力していく、ハンマー&ダンスで叩いていく」と言い、「何より検知もしっかりやってクラスター対策をやっていく」と大波を防ぐ対策を述べているが、大きな波と小さな波が繰り返すのは人の移動次第(人流次第)なのだから、これ以外の政府対策は効果は殆どないか、たかが知れていると見なければならない。
 松尾明弘(立憲民主党)「緊急事態宣言の解除から1ヶ月でまた宣言をしなければならないのは完全に政府、大阪府、東京都等の失敗であると言わざるを得ません。今回の緊急事態宣言が実効性を持つのかどうか、いくつか質問させて頂きます

   ・・・・・(中略)・・・・・

 総理はですね、再び宣言をしないようにするのは私の責務とまで話していたのですから、自ら(国会に出て)報告しないのはあまりにも無責任であると考えますがそこのところは如何ですか」

 西村康稔「これまでも申し上げておりますように、先程も答弁させて頂きましたとおり、様々流行は何度も起こりますので、それに対して機動的に対処していくことが必要というふうに考えておりますが、(総理も)同じ認識をされております。

 総理からも様々な場面に於きましてコロナ対策について丁寧が説明が今後もなされるものというふうに思います」・・・・・

 ここでも「流行は何度も起こります」との文言で緊急事態宣言の発出は止む無しとした上で、「機動的に対処していくことが必要」と政府の対策を正当化しているが、飲食店の酒類提供の停止、20時までの時間短縮、カラオケの提供停止等の要請。デパート、テーマパーク等、一定規模以上の商業施設や遊興施設等に対する休業要請等々、人の移動の極端な制限(人流次第の極端な制限)は機動的対処のうちに入るのだろうか。

 「機動的」という言葉は従来株無症状者だけだはなく、特に変異株無症状者をPCR検査で把握・隔離し、2次感染、3次感染を極力防いでいく活動にこそ使うべきだろう。このような活動ができず、特に変異株感染者を増やしてしまった。

 このような活動ができなかったことは次の質疑に出ている。

 清水忠史(日本共産党)「変異株ですが、既に3月中旬には兵庫県でも猛威を振るい始めておりました。政府の認識と対応はやっぱり甘かったのではないでしょうか」

 西村康稔「先ず12月19日に英国政府から変異株に関する公式公表がございました。その後厚労省のアドバイザーリポートでの評価を経て12月23日には英国からの新規入国を一時停止を私共行っております。1月23日には全ての入国者に対して誓約書の提出。反した場合には氏名の公表、あるいは退去強制手続き、これを対象とするといったような厳しい措置も講じたところであります。

 他方、国内に於きましてはスクリーニング検査ですね、40%程は拡大することにしていまして、既に3割超行っておりますが、いずれにしましても、各地域で変異株に対する危機感は非常に強いものがありますので、国と自治体と連携しながら、しっかりと監視しながら、行ってきておりますし、さらにこのことを強めていきたいと思います」

 清水忠史「日本はやはりPCR検査数が世界145位と少過ぎます。PCR検査の社会的検査について高齢者施設にとどまらず、病院、学校、保育所に拡大すべきだとお見ますが、大臣、どう思いますか」

 西村康稔「ご指摘のようにですね、PCR検査につきましては戦略的に拡充してきているところであります。3月には高齢者施設・・・・、もし検査数が必要であれば、また申し上げますが、集中的に従事者の方に実施をしてきておりますし、またこのことを4月から6月にかけて頻回で実施するということにしております。

 さらには私共はモニタリング検査でですね、特にリスクの高い無症状者の方を見つけ出していく、感染源を特定していくためにですね、大学や作業場、こういたところと連携しながら、今取り組みを勧めているいるところでございます。

 いずれにしましても、検査キッドもありますので、こういった活用も含めて、戦略的に拡充していければというふうに考えております」

 先ず「スクリーニング検査」、「40%程は拡大することにしていまして、既に3割超行っております」としているが、3回目の緊急事態宣言発出を抑えることはできなかった。

 「PCR検査」は「戦略的に拡充してきているところであります」との言葉で拡充途中であることを曝け出し、さらに「4月から6月にかけて頻回で実施するということにしております」と今後の話としている。要するに緊急事態宣言の後手に回っている。

 東徹(日本維新の会)「今回3回目の緊急事態宣言の発令ということになりました。非常に今回の新型コロナウイルス、非常に重傷者が多いという状況にあります。医療の逼迫どころかですね、溢れている状況を見ますとですね、これは出さざるを得ないというふうに思います。その中で感染拡大の要因についてお聞きしたいと思います。

 大阪の感染状況を見ますと、今年初めに行われた2回目の緊急事態宣言ですね、1月13日から2月28日だったんですけれども、宣言が出された2週間後に新規感染者の7日間平均は3割減ったんです。そのあと4月5日、まん延防止等重点措置、これではですね、午後8時までの時短要請やってたんですね。やってたんですけども、まん延防止等重点措置ですね、これ(感染者数が)、減らなかったということがあります。

 そして重症患者がどんどん増えてきた。これは今回急激に感染者の拡大が生じたのはですね、これまでは飛沫を防げば感染を抑えられるのではなく、空気感染、こういったものもあり得るということで、今回、人出自体を抑えようとしているのか、この点について伺いたいとおもいます」

 西村康稔「大阪でのまん延防止等重点措置、私共、効果がなかったとは思っていなくてですね、4月5日から始めて15日頃に1200人ぐらいまでに1日の感染者がありましたが、その後、1週間ぐらいずっと1100、1200で、これ以上伸びることを抑えている効果はあるんじゃないかと見ております。変異株の感染力の強さとまん延防止等重点措置の強さのせめぎ合いの、こう、今、1100、1200ぐらいでとどまっているのか、今後下がっていくのか、また上がるのかですね、これちゃんと見ていかなければいけないと思っておりますが、いずれにしても、何で広がったのかと。明らかに変異株でありまして、これまで感染していなかった人も感染をしておりますので、そういう意味で細かく飛沫なのか、マイクロ飛沫なのか、まだ分析はできておりませんけども、とにかく感染力は強いことは明らかだというふうに思います。

 その意味で例えばマスクをするときも、できれば不織布のマスクで、こう(指でマスクの上から鼻を抑えて)隙間なくするとかですね、これまで以上に距離を取るとかをやらなければいけませんし、ここまで来ると、大型連休中、徹底的なステイホームをお願いをしてですね、人と人との接触を減らす。

 そのために人流を減らさないと、これ、感染を抑えられない。こんな状況にまでなっているということの危機感を強く持っている次第であります。そのために緊急事態宣言、今回お願いしているということでございます」

 要するに変異株に対する感染防止対策、あるいは前以っての危機管理が不足していたために緊急事態宣言という「ハンマー」に頼らざるを得なかった。

 同日の参議院議院運営委員会から一つ。

 山下芳生(日本共産党)「衆議院の質疑を聞いていますと、西村大臣から驚くべき答弁がありました。緊急事態宣言の再発出となった今の状況について問われて、西村大臣は何度も流行の波が起こる、今後も起こり得る、と。答弁しましたのですね。
 
 耳を疑いました。政府にはコロナを封じ込める意思がないのか。何度も流行の波が起こる、今後も起こり得るというのは、そういうことですね。コロナを封じ込める立場には立たないと言うことですね。これから3度目の宣言を発出しようというときに国民の皆さん、医療従事者の皆さん、中小事業者の皆さんが不安を抱えながらも歯を食いしばって頑張っていこうというときにあまりにも酷い発言、あまりにも酷い姿勢だと言わなければなりません。

 先程、西村大臣はこの発言は総理も同じ立場だと仰いましたけども、西村発言というのは政府の公式の立場ですか」

 西村康稔「あのー、私は担当大臣として政府を代表してここに立っておりますので、私の発言は政府の認識ですございます。そのうえでこれまでも何度も説明してきておりますし、答弁をしてきております。何度も流行は起こるんです。どこの国を見ても起こっています。ただ、それをできればゼロにしたいと我々は思っています。しかしゼロにできない。

 東京でも50人、100人、できるだけ低くしたい。その思いはもう、みなさんと同じ。あるいはそれ以上の、私は責任者として持っております。ただ、これはなかなか難しい。徹底的な対策をやりながらも、どこで感染したかも分からない。そういう特に変異株はそういう状況になってきております。これをここで抑える。東京も、また医療機関も極めて厳しい状況になっておりませんけども、今の段階から、大阪は厳しい状況ですので、そうならないようにするために今の段階から緊急事態宣言を発出させて頂いて抑えていく。

 大きな波にしたくない。小さな波で叩いていく。これは感染症の専門家も、みなさん、言われていることであります。できれば低くしたいですけれども、しっかり大きな流行にしないように全力を上げていきたいと思います。

 山下芳生「何度も流行の波が起こる。今度も起こり得るというのはこれからも繰り返すということを担当大臣がこれから宣言を発出するときに発言してしまったんですよ。あまりにもこれはね、国民に対するメッセージとしてはね、誤ったメッセージにしてしまってるんだと思うんですよ。今ね、頑張っていると言ってるけども、先程からどの国でもね、繰り返すんだとおっしゃってたけども、ハンマー&ダンスって衆議院で仰いました。ただ、ハンマー&ダンスはもう破綻したんですよ。何遍偽りを繰り返すのかとみんな、疲れ切っていますよ。

 イギリス、今ワクチンの接種、これを広げること。それから徹底した検査。1軒、1軒のご家庭に検査キッドをお配りして、そして無料で配布してるんですよ。このワクチンと徹底した検査で一時、1日数万件の感染者数だったのがいまぐうーっと抑え込んで、いまお店でね、家族で食事を、友人と食事をやってるじゃありませんか。コロナを封じ込めるんだという立場に立たなかったら、何度も繰り返すんだという立場に立っちゃったなら、全く展望ないじゃないですか。

 あのね、私はそういう姿勢だからね、政府はコロナを封じ込めるための大規模検査をやらないと。日本の人口比のPCR検査数は世界146位ですよ。先進国としてあまりにも恥ずかしいという消極的姿勢になっている。中小企業への十分な補償もやらない。医療機関への減収補償もやらない。その背景には、どうせ何度も流行の波は起こる、今度も起こり得るという姿勢があると言わざるを得ません。そんな姿勢で、そんなに低い志で、一体どうやって国民の命と暮らしを守るんですか」

 西村康稔「あの、私自身、何としてもこの感染拡大を抑えたい、誰よりも強く思っています。夜中に何度も目が覚めます。ずうっと考えています(感情的に声を強める)。私は誰にも負けないくらい勉強をし、勉強というよりも研究をし、専門家の皆さんもハンマー&ダンス、これはもう感染症の常識だと言われています。そのことを私は申し上げているんです。

 勿論、ゼロにしたいです。しかしなかなか出来ない。だけれども、大きな流行にならないように強いハンマーを今回お願いをしているところでありますが、勿論、大阪では病床はもう厳しい状況になっておりますけれども、その上で検査については戦略的に拡充していきたいと考えております。

 確かに人口当たりの検査数は少ないです。ただ、色んな見方、これは尾身会長も紹介されておりますけども、日本の場合は亡くなった数も非常に、ひと工夫、先進国の中では抑えてきておりますが、亡くなった方当たりの検査件数で見ると、これは非常に少ない、いや、非常に多い件数になっておりまして、つまりしっかりと検査で死者を、亡くなる方、重症化する方を抑えてきたという効果はあるものという評価がなされております。

 いずれにしても、私も検査を広げていきたいと思います。検査キッドを、これはあの感度の問題、精度の問題、それから偽陽性の問題もありますので、陰性だから大丈夫だと。その日のうちに感染してしまうかもしれない。様々な課題がありますけども、それを乗り越えて、乗り越えて、頻回に検査をやっていくことを含めて、今、モニタリング検査も私共、拡充をしておりますので、そういったことを含めてですね、戦略的にさらに拡充していきたいと思います」

 山下芳生「いくら言ってもね、146位ですよ。言い訳できませんよ。私はコロナを封じ込める立場に立たない政府の姿勢こそ、今一番の問題だと思います。今政治が成すべきことは何か。コロナを封じ込めるための大規模検査を実行することです。中小業者のみなさんが事業を続けられる十分な補償を行う。

 そして医療機関の減収補填に踏み切る手立てを尽くすことです。そして東京オリンピック・パラリンピックは中止して、コロナの収束に全ての力を集中する。やるべきことをやって、何としてもコロナを封じ込める。感染を封じ込める。今、そのことこそ、政治の責任だということを申し上げて終ります」

 緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も感染の結果である。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に頼らずに感染者を減らすことができなければ、緊急事態宣言もまん延防止等重点措置も繰り返すことになる。西村康稔が言うように大きな波と小さな波が繰り返すことになる。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に至らないように前以って感染者数を減らすには山下芳生の言うように大規模なPCR検査以外に手はない。

 それもコロナ感染に特有とされる症状が出て感染を疑って受診し、陽性と判定された患者とその濃厚接触者を主な対象者とする受動的なPCR検査だけではなく、感染はしているものの症状が出なくて、自分は感染しているとは露程も疑わ図に活動している無症状者(無症状病原体保有者)を能動的に拾い出して感染の有無を判定していくPCR検査をより広く実施しなければならない。繁華街などで検査キッドを無料配布してPCR検査を行い、それをモニタリングする活動が感染者の能動的な把握ということになるが、まだ動き出したばかりの遅さである。

 となると、今回の緊急事態宣言で相当な社会経済活動の打撃を被る個人商店主等にとって止むを得ない打撃ということではなく、政府の対策不足の不始末からの打撃に相当する。

 このような打撃を少しでも和らげるためには西村康稔が「新型コロナウイルスは何度も流行の波が起こる」と確信的に主張している以上、「ハンマー&ダンス」の時期を選ぶべきだったろう。3回目の緊急事態宣言で言うなら、4月5月の大型連休期間を避けて、3月半ばから4月半ばまでに「ハンマー」を打ち下ろして感染者を抑え、4月半ば以降、好きに「ダンス」を踊らせていたなら、社会経済活動の打撃を少なからず和らげることはできたはずだ。

 もし東京オリ・パラを開催予定でいるなら、今回の緊急事態宣言で感染者が減らないようなら、6月中を期限とした緊急事態宣言と言う「ハンマー」を前以って打ち下ろして、徹底的に感染者を減らしてから、開催すべきだろう。

 感染拡大防止にも無策、緊急事態宣言で与えることになる社会経済活動の打撃に対しての配慮をも欠いているようでは菅政権の責任は決して小さくはない。

 最後に厚労相の田村憲久が2021年4月25日のNHK「日曜討論」で「ハンマー&ダンス」を取り上げていたから、触れてみる。

 中川俊男(日本医師会長)(キャスターに今回の感染急拡大のこれまでと違う実感について尋ねられて)「今回の変異株について兵庫県の開業医の先生から声掛けを頂きまして、発熱外来をやっているのですけれども、来た患者さんにPCR検査をしますと、殆ど全員陽性だと言うんですよ。最初から結構な重篤患もありですね、全く第3波と様相が違うと。

 自分感覚ではヨーロッパのロックダウンみたいな、必要なぐらいにまで危機感、恐怖感すら持っているという状態なんです」
 
 田村憲久「ご承知の通り日本の国はヨーロッパのロックダウンできません。法律がそうなっておりまして、個人の方々ですね、家から出たら罰金を取るという、そういう制度はできないわけで、よくまあ、ハンマー&ダンスという感染症の専門家の方々が仰られて、こういう感染症は強い措置を先ず感染が拡大すると打つと。そしてある程度収まったら、もういつまでも、それ、やれませんから、人の生活を止めるということは。

 それを解除してダンスを踊っていただくと。また増えてくるとハンマーを打つ。こういう繰り返しだというのが感染症の対策だと言われるのですが、日本の場合はハンマーは強い、そういう武器はないわけで、今、私はファイヤーベルって言ってるんですが、半鐘ですよね、感染が増えているぞというそういうような危機感を感じて頂いて、感染を止めて頂く。ま、こういうことをやってきているんですけども、まあ、ヨーロッパのようなロックダウン、全てが家から出ちゃダメだというような中で、しかしそれでもですね、ワクチンをあれだけ打って抑えているイギリス、今1日新規感染者2200人だと思いますが、これと今同じレベルの人口当たりの感染者でやるということは本当に国民の皆さまの方の色んなご努力の中であると思いますので、これ以上増やさないと。これ以上ヨーロッパのようにしないという意味での今回の緊急事態宣言、これでやっていくというふうにご理解を頂きたいと思います」
 
 日本医師会長の中川俊男は現在の感染状況に対して「ロックダウンが必要なぐらいの危機感、恐怖感を持っている」と表現しただけのことで、「ロックダウン」をしろと主張したわけではない。それを田村は「日本の国はヨーロッパのロックダウンできません。法律がそうなっております」と発言趣旨を平気でねじ曲げることのできる頭の感覚は素晴らしい。

 「ハンマー&ダンス」について「日本の場合はハンマーは強い、そういう武器はない」と断言しているが、西村は緊急事態宣言自体を「ハンマー」に譬えているだけで、何の間違いもないことは、事実倒産が増えていることからも、ハンマーで打ち付けられる以上の社会経済活動の打撃と解釈する個人事業主の存在もいるだろうから、明らかである。この比喩に気づかない頭の持ち主が厚労相を努めている。答弁が達者な早口だからなかなか気づかないが、答弁を仔細に眺めると、結構出たらめな発言が多い。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

共産党一党独裁下の中国統一台湾は香港・新疆ウイグルの二の舞いとなる恐れがあり、現状の国家体制では「一つの中国」は認められないとすべき

2021-04-19 10:20:06 | 政治
 基本的人権は人類が等しく認められるべき普遍的な価値観である。ゆえに人権問題に国境を設けてはならない。一国の人権抑圧に対する他国の非難を「内政干渉」だと国境を設けることは如何なる正当性も持たないことになる。

 日本の覇気のない首相菅義偉と就任早々いやに張り切っているアメリカ大統領との初の首脳会談が2021年4月16日午後(日本時間17日未明)行われた。ネットで調べてみると、会談後に共同声明を発出し、次に共同記者会見、その次に日本記者団に対するぶら下がり会見の順で行われたようだ。バイデンとの共同記者会見前にぶら下がりを行うのは不躾と見られる可能性が生じるからである。

 日本政府が今後、中国に対してどのような外交姿勢で臨んでいこうとしているのか、その姿勢と関連する香港問題、新疆ウイグル問題と共に共同声明と共同記者会見での菅発言、ぶら下がりから関係する箇所を拾ってみた。

 先ず日米首脳共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」(外務省/2021年4月16日)

 「普遍的価値及び共通の原則」という言葉が4回出てくる。

 「海が日米両国を隔てているが、自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントが両国を結び付けている」

 「両国は共に先頭に立ってきた。日米両国の長年にわたる緊密な絆を祝福し、菅総理とバイデン大統領は、消え去ることのない日米同盟、普遍的価値及び共通の原則に基づく地域及びグローバルな秩序に対するルールに基づくアプローチ、さらには、これらの目標を共有する全ての人々との協力に改めてコミットする。日米両国は、新たな時代のためのこれらのコミットメントを誓う」

 「日米同盟は揺るぎないものであり、日米両国は、地域の課題に対処する備えがかつてなくできている。日米同盟は、普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントに基づく自由で開かれたインド太平洋、そして包摂的な経済的繁栄の推進という共通のビジョンを推進する」

 「日米同盟は揺るぎないものであり、日米両国は、地域の課題に対処する備えがかつてなくできている。日米同盟は、普遍的価値及び共通の原則に対するコミットメントに基づく自由で開かれたインド太平洋、そして包摂的な経済的繁栄の推進という共通のビジョンを推進する」

 「菅総理とバイデン大統領は、インド太平洋地域及び世界の平和と繁栄に対する中国の行動の影響について意見交換するとともに、経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した。日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく」――

 日米は「自由、民主主義、人権、法の支配」という「普遍的価値」と、「国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序」という「共通の原則」の二つを国際社会に於ける基本姿勢――国際秩序とすると規定している。このように謳うのは「普遍的価値」と「共通の原則」を国際秩序としていない、特に中国を睨んだ文言なのは最後の「経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有し」、その「懸念」に対して「日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく」との文言で中国に対して「普遍的価値及び共通の原則」のルールを以ってして対抗していくとの文意に現れている。

 では、中国の普遍的価値に基づかない行動に触れた箇所を見てみる。

 「日米両国はまた、地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する。日米両国は、東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対する。日米両国は、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明するとともに、国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形で航行及び上空飛行の自由が保証される、自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認した。日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する。日米両国は、中国との率直な対話の重要性を認識するとともに、直接懸念を伝達していく意図を改めて表明し、共通の利益を有する分野に関し、中国と協働する必要性を認識した」

 「普遍的価値」と「共通の原則」という土俵に中国を乗せようと心づもりしているが、「中国との率直な対話の重要性を認識する」にとどめている。日米が反対するとしている「東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試み」の「あらゆる」の中には、勿論、武力を用いた一方的な現状変更の試みが入る。台湾に対しては中国による武力統一の懸念がくすぶり続けている。中国と台湾の「両岸問題の平和的解決」を促しているが、アメリカが台湾海峡、その他で行っている「航行の自由作戦」は中国の台湾武力統一には武力を以って対抗する意思表示であろう。

 台湾有事の際は憲法解釈で集団的自衛権を認めている関連から、日本も無関係ではいられない。

 香港及び新疆ウイグル自治区に関してはその人権状況への深刻な懸念を日米は共有するとしている。間接的に中国に対して「自由、民主主義、人権、法の支配」という「普遍的価値」の両地域での履行を求めていることになるが、共産党一党独裁体制で国民を上から統治し、自治区の他民族に対してはその文化や制度までも強権的に中国と同化させようとする普遍的価値の尊重とは真逆の国家意志のもとでは簡単に求めに応じることはないだろう。

 次に「日米共同記者会見」(首相官邸/2021年4月16日)から中国向けの外交姿勢とその覚悟の程を示す菅発言を見てみる。
  
 菅義偉「米国は日本の最良の友人であり、日米は、自由、民主主義、人権などの普遍的価値を共有する同盟国であります。日米同盟は、インド太平洋地域、そして、世界の平和、安定と繁栄の礎として、その役割を果たしてきましたが、今日の地域情勢や厳しい安全保障環境を背景に、同盟の重要性はかつてなく高まっております。

 このような共通認識の下で、本日の首脳会談では、お互いの政治信条、それぞれが国内で抱える課題、そして、日米が共有するビジョンなどについて、幅広く、率直な意見交換を行うことができました。

 バイデン大統領とは、先月の日米『2+2』で一致した認識を改めて確認し、その上に立って、更に地域のために取り組むことで一致いたしました。『自由で開かれたインド太平洋』についても話し合いをしました。この地域の平和と繁栄を確保していくために、日米がこのビジョンの具体化を主導し、ASEAN(東南アジア諸国連合)、豪州、インドを始めとする他の国々、地域とも協力を進めていくことで一致いたしました。

 また、インド太平洋地域と世界全体の平和と繁栄に対して中国が及ぼす影響について、真剣に議論を行いました。東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、そして地域の他者に対する威圧に反対することでも一致しました。その上で、それぞれが中国と率直な対話を行う必要もあること、そして、その際には、普遍的価値を擁護しつつ、国際関係における安定を追求すべきであることでも一致いたしました」――

 中国が画策している「東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、そして地域の他者に対する威圧に反対する」としているが、「力による現状変更の試み」の対象地域として尖閣諸島の言葉も台湾という言葉も使っていない。前者の言葉が出てくるのは「バイデン大統領からは、日米安保条約第5条の尖閣諸島への適用を含む、米国による日本の防衛へのコミットメントを改めて示していただきました」のみで、中国の「力による現状変更の試み」に反対する直接的で明確な意思表示とはなっていない。

 つまり中国が台湾に対して「力による現状変更の試み」を実行した場合は中国に対して明確に反対を示すとする直接的で明確な意思表示は見えない。

 このことは「日米首脳会談等についてのぶら下がり会見」(首相官邸/2021年4月16日)の中の台湾問題に触れた発言からも見て取れる。

 菅義偉「あと、台湾の問題ですけども、やはりこの台湾海峡、また尖閣周辺でも、厳しい状況が続いていることは事実だというふうに思います。

 その中で、やはり解決は、平和裏に解決をすると、そうしたことを最優先にしていく。そうしたこともお互いに、そういう方向で、平和と安心・安全、そうしたことを進めていこうということで合意しましたので、中国に対して、必要なことは、言うべきことははっきり言っていく中で、この地域の安定・平和に寄与していきたいと思います」――

 「尖閣周辺」も含めて「台湾の問題」、「台湾海峡」が「厳しい状況が続いていることは事実だというふうに思います」と断定を避けて、推測の範囲に置いている。「尖閣周辺」は日本の首相である以上、当事者の立場にある。「台湾の問題」にしても中国によって武力統一されて直接的な中国領土となった場合、尖閣諸島や沖縄は中国本土からよりも台湾からより近い距離となって、直接的に日本の安全保障に関わってくる。

 それを厳しい状況は「事実だというふうに思います」と腰の引けた、当事者であることをどこかに置いた発言ができる。推測するに中国に対してアメリカと共に直接的に「力による現状変更の試み」に反対姿勢を示したのはバイデンの勢いに引っ張られてしたことであって、今までのように中国が何かしたなら、犬の遠吠えにもならない、型通りの抗義で済まして現状を容認する事勿れな態度に終始したかったのかもしれない。

 日米共同声明で台湾に言及したのは日中国交正常化前の1969年の佐藤・ニクソン会談以来の約半世紀ぶりだそうだが、中国が経済及び軍事大国化する前で、安全保障環境も現在のようには厳しくなっていなかった。厳しくなった要因は中国の経済力と軍事力を背景とした海洋進出の国家意志であり、武力行使も辞さない台湾統一の国家意志である。特定の国家意志が高まっているとき、それに対して経済的軍事的に対立する大国がそれなりの大国と共に共同声明という形で中国側がルールとしていない普遍的価値と共通の原則を楯に異議申し立てに出れば、中国は当然、激しく反発する。その反発を2021年4月17日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えている。

 駐米中国大使館報道官談話(記者の質問に答えて)「台湾と香港、新疆ウイグル自治区に関わる問題は中国の内政であり、東シナ海と南シナ海は中国の領土と主権、海洋権益に関わるもので、干渉することは許さない。我々は強い不満と断固とした反対を表明する。中国は国家の主権と安全、発展の利益を断固として守る。

 2国間の関係の範囲を完全に超えており、第三者の利益や、アジア太平洋地域の平和と安定を損なうものだ。時代に逆行し、地域の人々の心に背こうとする企ては自身を傷つける結果になるだろう」

 駐日中国大使館報道官談話(記者の質問に答えて)「中国に対して謂われのない非難を行い、中国の内政に干渉し、領土と主権を侵害しており、われわれは強い不満と断固とした反対を表明する。中国側はすでに日米双方に厳正な申し入れを行った。

 台湾と新疆ウイグル自治区、香港などは純粋に中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない。(尖閣諸島は)中国固有の領土であり、日米が何を言っても、中国に属するという客観的事実を変えることはできない。

 最近、日本側は中国に関わる問題で相次いで消極的な行動をとり、政治的な相互信頼を著しく損ない、双方の関係発展の努力を妨害している。我々は日本側に対し、両国関係が振り回されず、停滞も後退もせず、大国間の対抗の渦に巻き込まれないよう忠告する」

 台湾も新疆ウイグル自治区も香港も、それぞれに純粋に中国の内政問題であり、尖閣諸島は客観的事実を変えようもない中国固有の領土だから、いわば外国の口出しは許すことはできないと猛反発している。

 中国が自らと台湾の統一に関して武力の行使を選択肢としているのは外国が中国に国交締結を求めた際に台湾は中国の一部であるという条件を承認させてきた経緯があるものの、その後50年間一国二制度の維持を謳う香港基本法が全国人民代表大会会議によって1990年4月に成立、そして香港は1997年7月1日にイギリスから返還されるが、中国が徐々に共産党一党独裁に基づいた専制主義の姿を露わにして、香港の民主主義をなし崩し的に侵食していき、その集大成が2020年6月施行の国家安全維持法であって、中国の従来からのこのような専制的な姿勢が統一した場合の台湾にも適用されるのではないのかと台湾自身だけではなく、西欧各国に懸念を持たれた結果、世界基準とは異なる中国の平和的なとしている台湾統一が困難になったからであろう。

 例えば「国家安全維持法」「第4条 香港特別行政区は、国家安全を維持するために人権を尊重し、保障するとともに、香港特別行政区基本法と《市民的及び政治的権利に関する国際規約》、《経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約》に基づいた言論・報道・出版の自由、結社・集会・行進・デモの自由などを法に基づいて保護しなければならない」云々と基本的人権の保障を全面的に認めているように見えるが、あくまでも国家安全維持の範囲内を条件とする基本的人権の保障である。中国にとっての好ましい「国家安全」とは共産党一党独裁体制の維持可能な状況を言う。この体制が少しでも脅かされた場合、国家安全を維持できないとして基本的人権の恣意的な解釈に基づいた罰則が幅広く可能になる。

 結果、台湾に於ける新疆ウイグル自治区や香港、あるいはチベットで吹き荒れている民主主義の壊滅状況への二の舞である。普遍的価値を奉じている西欧民主国家にとって簡単には看過できない中国による台湾統一に向けた懸念ということになり、このような懸念への焦りから出ている中国の台湾武力統一への欲求意志の現れということなのだろう。

 米中の正式国交正常化は1979年1月1日だが、1972年2月28日の「上海コミュニケ(ニクソン米大統領の訪中に関する米中共同声明)」によって事実上の相互承認が行われた。(一部抜粋)

 〈双方は、米中両国間に長期にわたつて存在してきた重大な紛争を検討した。中国側は、台湾問題は中国と米国との間の関係正常化を阻害しているかなめの問題であり、中華人民共和国政府は中国の唯一の合法政府であり、台湾は中国の一省であり、夙(つとに)に祖国に返還されており、台湾解放は、他のいかなる国も干渉の権利を有しない中国の国内問題であり、米国の全ての軍隊及び軍事施設は台湾から撤退ないし撤去されなければならないという立場を再確認した。中国政府は、「一つの中国、一つの台湾」、「一つの中国、二つの政府」、「二つの中国」及び「台湾独立」を作り上げることを目的とし、あるいは「台湾の地位は未確定である」と唱えるいかなる活動にも断固として反対する。

 米国側は次のように表明した。米国は、台湾海峡の両側のすべての中国人が、中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。米国政府は、この立場に異論をとなえない。米国政府は、中国人自らによる台湾問題の平和的解決についての米国政府の関心を再確認する。かかる展望を念頭におき、米国政府は、台湾から全ての米国軍隊と軍事施設を撤退ないし撤去するという最終目標を確認する。当面、米国政府は、この地域の緊張が緩和するにしたがい、台湾の米国軍隊と軍事施設を漸進的に減少させるであろう。〉

 かくしてアメリカは台湾は中国の一部であり、台湾問題は中国の国内問題であって、そのことに口を出すことは内政干渉となるという中国の「立場に異論をとなえない」ことを誓った。

 では、日本の1972年9月29日の日中国交正常化と同日の「日本国政府と中華人民共和国政府の共同声明」を見てみる。(一部抜粋)

 二 日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する。
 三 中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。

 ポツダム宣言第8項とは、〈カイロ宣言の条項は履行せらるべく、また、日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並びに吾等が決定する諸小島に局限せらるべし。〉

 日本も「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」ことを「十分理解し、尊重」することを中国に対する約束とした。

 だとしても、チベットや新疆ウイグル自治区に於ける人権抑圧状況は米中国交正常化、日中国交正常化当時と比較にならない程に深刻化し、香港に於いても
民主化要求デモに対して一国二制度を自らが真っ向から否定して、徹底的弾圧で臨む強権姿勢は西欧民主国家が奉じる「自由、民主主義、人権、法の支配」といった普遍的価値観の中国に対する影響力の無力を突きつけている。
 
 当然、中国の「台湾と新疆ウイグル自治区、香港などは純粋に中国の内政であり、いかなる外部からの干渉も許さない」と主張する内政干渉説を打ち破らなければ、西欧民主主義国家が望む人権状況、普遍的価値観の中国への波及は期待できない。

 日米共同声明で「自由、民主主義、人権、法の支配、国際法、多国間主義、自由で公正な経済秩序を含む普遍的価値及び共通の原則」を世界共通のルールとして望んだとしても、中国やロシア、北朝鮮等の独裁国家、専制国家が壁となって立ち塞がることになる。

  人間が人間として生きるべく保障されている基本的人権は人類が等しく認められるべき普遍的な価値観である。ゆえに人権問題に国境を設けてはならない。一国の人権抑圧に対する他国の非難を「内政干渉」だと国境を設けることは如何なる正当性も持たないことになる。

 もし国境を設けたなら、人類が等しく認められるべきとする要件を破ることになる。「内政干渉だ」と国境を設けることは等しく認めることから外れて人権抑圧を正当化する口実としているに過ぎない。

 もし中国が共産党一党独裁から離れて普遍的価値観を全面的に奉ずる民主国家に変貌を遂げたなら、香港や新疆ウイグル、チベット等の人権抑圧も過去の問題となり、中国の海洋進出も国際ルールに則った行動となり、台湾を中国の不可分の領土として統一することも認めることができると、こういった道理を特に中国に向けて発信しなければならない。

 民主国家とならなければ、台湾は独立した存在としておかなければ、台湾国民の基本的人権は守ることはできないと。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北朝鮮の独裁体制民主化を条件に核保有を認め、民主主義体制に敵対する独裁体制こそが世界を危険な状態に陥れる悪の根源とするメッセージとせよ

2021-04-12 10:29:22 | 政治
 2021年3月25日、北朝鮮が国連安保理決議違反となる弾道ミサイル2発を発射した。

 日本の首相菅義偉は北朝鮮の弾道ミサイル発射当日に首相官邸エントランスホールに集めた記者たちに対してテーブルに置いた原稿に目を落とし、落としして「先程、北朝鮮が弾道ミサイル2発、発射いたしました。昨年の3月29日以来、約1年ぶりのミサイル発射は、我が国と地域の平和・安全を脅かすものであります。また、国連決議違反でもあります。厳重に抗議し、強く非難いたします」と北朝鮮には一切通じない抗議と非難を表明した。

 アメリカ大統領バイデンも同日、ホワイトハウスでの記者会見で、「発射されたミサイルは国連安全保障理事会の決議1718号に違反する。同盟国や友好国と協議し、北朝鮮が事態をエスカレートさせることを選べば、相応の対応をする。外交を通じて対応する用意もあるが、非核化を最終目標にしたものでなければならない」(NHK NEWS WEB)とあくまでも非核化オンリーを求める姿勢を強調した。

 果たして北朝鮮に通用するのか。

 対して北朝鮮は3月27日、国営メディアである朝鮮中央通信がミサイル発射に立ち会った金正恩側近の朝鮮労働党のリ・ビョンチョル書記の談話を発表したと2021年3月27日付NHK NEWS WEBが伝えた。

 「発射は主権国家としての自衛権に基づいた行動であり、米韓合同軍事演習に対抗するための措置である。国連安保理決議違反だとするバイデンの発言は北朝鮮の自衛権に対する露骨な侵害で挑発だ。バイデン政権は始めから間違っている。我々は自分たちがすべきことを分かっており、継続して圧倒的な軍事力をつくっていく」

 言っている米韓合同軍事演習は米バイデン政権発足後初めてとなるもので、2021年3月8日から18日までの11日間行われたという。

 要するに北朝鮮は米、日、世界の抗議と非難を他処にミサイル・核開発の継続を高らかに宣言した。北朝鮮の金正恩が絶対使命としていることは実質的には北朝鮮国家の安全保障ではなく、父子三代に亘る北朝鮮独裁国家の安全保障であって、ミサイル・核開発の放棄及びその成果物の放棄は自らのに絶対使命と反して金正恩独裁体制を守るどのような安全保障にもならないからである。いわば核・ミサイルこそが金正恩独裁体制を死守できるとしている。

 この国連決議違反の北朝鮮の弾道ミサイル発射に対する経済制裁には中国もロシアも加わって経済制裁を科してきたが、依然としてミサイル開発・核開発に巨額の国家予算を注いでいる。北朝鮮の中国に頼った経済はコロナ対策の国境封鎖で中国との貿易総額が前年比80%減だと報じられているが、あくまでも表に現れた数字に過ぎないことが他の報道によって明らかになる。

 北朝鮮が2020年1月から9月までの間に不正輸入した石油精製品の量は国連安保理の制裁決議が定める年間の輸入上限のおよそ9倍にのぼる可能性があると指摘する報告書を国連安全保障理事会の専門家パネルが纏めたと2021年2月15日付の「NHK NEWS WEB」が報じている。

 同じ「NHK NEWS WEB」が2021年2月10日付で、北朝鮮がサイバー攻撃によって2020年までの2年間で3億ドル以上を不正に入手、核とミサイル開発に充てている疑いがあるとする報告書を同じく国連安全保障理事会の専門家パネルが纏めたと報じている。

 これらが国連の対北朝鮮経済制裁の抜け穴となっているということになる。

 2017年1月20日に発足したトランプ政権は大統領選挙戦期間中から中国との貿易不均衡問題を取り上げ、大統領就任後、中国製品に対する追加関税措置と中国による報復関税措置の応酬がエスカレートしていって、いわゆる米中貿易戦争へと発展していった。このような状況が中国に北朝鮮をなお一層引きつけておく必性が生じたのだろう、これまでも中朝国境の密貿易を黙認したりしていたが、人道名目に当たるために国連制裁には抵触しない、一時停止していた食糧や肥料の無償支援を再開したり、ロシアと共に国連安全保障理事会に北朝鮮への制裁一部緩和を求める決議案を提出したりして、北朝鮮擁護の姿勢を取ってきた。そして2021年3月23日付「asahi.com」記事は2021年3月23日に朝鮮中央通信が北朝鮮の金正恩と習近平が「口頭親書」を交換したと伝えていると報じた。

 金正恩「敵対勢力の挑戦に対して両国が協力を強化する」
 
 習近平「両国人民にさらに立派な生活を与える用意がある」

 習近平は北朝鮮の金正恩独裁体制の終末を臨んではいない。なぜなら、類似の独裁国家であるから、西欧の民主主義国家から批判されたり、非難を受けた場合の独裁手法に対して相互に自己正当化の味方とし得る関係を築くことができることと、中国がアメリカと決定的に事を構えそうになったときに弾道ミサイルと核を保有している北朝鮮を味方につけておけば、アメリカに対して心理的にも軍事的にも強い牽制となるからである。金正恩にしても自らの独裁体制を守るために中国を味方につけておくことは大きな安全保障となるし、北朝鮮を味方につけて置こうとする中国の思惑とは利害の一致を見る。

 北朝鮮の金正恩と習近平が「口頭親書」を交換したと朝鮮中央通信が伝えた2021年3月23日2日後の2021年3月25日に北朝鮮は弾道ミサイル2発を発射させた。中国の改めての力強い後ろ楯が金正恩を強気にさせた、2020年3月29日以来の約1年ぶりの国連安保理決議違反となる弾道ミサイル2発発射という可能性は否定できない。

 2021年3月17日、米韓の外務・国防担当閣僚協議(2プラス2)が開催された。ブリンケン米国務長官は北朝鮮に関して「専制政権が自国民に対し組織的で広範な人権侵害を続けている。我々は基本的人権と自由を求める人々を支援し、これを抑圧する者に対抗しなければならない」と述べたと2021年3月17日付「ロイター」が伝えている。

 周知のことだが、北朝鮮の人権侵害を問題視するのはバイデン政権が初めてではない。アメリカの歴代政権が批判の俎上に載せてきた。国連総会も2020年12月16日、欧州連合(EU)提出の北朝鮮人権侵害非難の決議案を16年連続で正式採択している。多分、今年も12月に入れば、同じことの繰り返しが起きるに違いない。

 国連人権理事会は2021年3月23日、北朝鮮の人権状況非難決議を14年連続で採択した。採択は投票に持ち込まない形で決定されたという。日本政府は北朝鮮との拉致解決に向けた日朝対話の必要性からこのような決議に積極的な関わりを控えていたそうだから、投票に持ち込まないことから賛否の態度が表に出ない採択は日本にとって好都合だったはずだ。

 つまり日本政府は拉致解決のためには北朝鮮の人権状況に目をつぶってもいいとする、自分の都合に応じて態度を変える機会主義を選択したことになる。だから、ミャンマー軍事政権が自らの軍事独裁を死守するために独裁反対のデモを仕掛けているミャンマー市民を何人虐殺しようとも、口では非難するが、具体的な制裁の動きを見せていないのは全て日本政府の機会主義から来ているのだろう。

 金正恩の独裁体制とその独裁体制下の北朝鮮国民に対する人権侵害は表裏一体の関係にあることは断るまでもない。独裁体制を維持するためには自由、民主主義、基本的人権、法の支配といった普遍的価値観を無視しなければならない。国民が求めたなら、普遍的価値の要求共々、そういったことをする国民を踏みにじらなければ、独裁体制は守ることはできない。中国が香港で警察の武力を使って民主化運動を弾圧し、ほぼ成功しているのは共産党一党独裁体制を守るためであり、新疆ウイグル自治区で反中国ウイグル人を強制収容所送りとしていることも、イスラム教徒男女に強制不妊手術を施して、一種のジェノサイドとなるウイグル人口の減少を策しているのも、終局的には共産党一党独裁体制を守るためである。

 ミャンマーで軍事政権がその独裁体制に反対してデモを仕掛けているミャンマー市民を銃で無差別に殺戮する権行為も軍事政権が自らの軍事独裁を守るためである。

 かくかように独裁体制と人権侵害は表裏一体の関係にある。あるいは独裁体制と普遍的価値観の否定=民主主義の価値の否定は表裏一体の関係にある。つまり国家規模の人権侵害は独裁体制によって産出される。あるいは普遍的価値観の否定=民主主義の価値の否定は独裁体制が自らを守るための拒絶反応として現れる。人権侵害なくして独裁体制は守ることはできない。独裁体制は守るためには人権侵害が必要になる。

 そして金正恩が自らの独裁体制を守る手立ての一つが中国の後ろ楯であり、自らが開発・保有している弾道ミサイルと核であり、人権侵害である。

 ミャンマー軍事政権が自らの軍事独裁を守るために核やミサイルを保有していなくても、中国を後ろ楯にすることによってミャンマー市民の生命を無差別に殺戮できる人権侵害を世界の非難を無視して敢行できる。

 このような状況を抱えている以上、金正恩はアメリカや日本、その他の西欧世界の核放棄の求めに応じることはない。今までも応じなかったし、これからも応じることはない。中東のクウェートにある北朝鮮大使館で代理大使を務め、おととし韓国に亡命した外交官がアメリカメディアの取材に応じ、核は体制の安定に直接関わるため北朝鮮が完全に手放すことはないだろうとの見方を示したと2021年2月1日付「NHK NEWS WEB」記事が伝えていたが、核やミサイルの保有を独裁体制安定の絶対的要件としているということであり、体制安定のために人権侵害を抱き合わせとしている以上、国連が北朝鮮の人権状況非難決議をいくら採択しても、その状況を変えることができないことになる。

 となると、菅義偉の北朝鮮の核・ミサイル開発についての「全ての大量破壊兵器とあらゆる射程の弾道ミサイルの完全、検証可能かつ不可逆的な廃棄、いわゆるCVIDを求めていく方針に変わりない」とした2021年3月25日参院予算委員会でのいつもと変わらない答弁(同日付「時事ドットコム」記事)は杓子定規の域を出ないことになる。

 金正恩が核とミサイルの廃棄の意志がないことは前々から分かっていたことで、2018年1月8日の当《安倍晋三の鈍感・無知な点は金正恩が独裁者ゆえに核保有を体制死守の最大国益としている点に気づかぬこと - 『ニッポン情報解読』by手代木恕之》に次のように書いた。
 〈独裁国家は民主国家と経済上の国益を一致させることができても、国民統治に関しては基本的人権の点で国益を一致させることができない。その点で国益を一致させたなら、独裁国家はたちまち独裁国家でなくなる。

 独裁者は独裁体制を危険に陥れる国内の勢力に対しては言論の抑圧や集会の制限、あるいは禁止等の方法を用いて強権的な取締まりを行い、国外の勢力に対しては軍事的手段で独裁体制を守ろうとする。

 北朝鮮の金正恩にとっては国外の勢力からの独裁体制を死守する唯一無二の保障が核ミサイルの装備であって、そうである以上、放棄することはあり得ない。

 以前トランプが核放棄の条件として北朝鮮の国家体制の保障を口にしたことがあるが、金正恩は父子継承の金一族の独裁体制の国民統治と民主体制のそれとの国益上の利害の不一致・価値観の不一致が一度の保障によって解消されない永遠性を弁えていて、独裁体制死守の絶対的保障をアメリカ本土攻撃可能な核ミサイルの保有から変える意志を持っていないはずだ。〉・・・・

 要するに北朝鮮が民主化すれば、核を保有していたとしても、他の民主国家との経済上の国益の一致のみならず、民主化によって自ずと人権抑圧状況は改善していくことになり、人権問題で北朝鮮が世界の民主国家と対立することもなくなって、基本的人権の点でも世界の国々と国益を一致させることができるようになる。当然な結果としてアメリカや日本、その他の西欧国家との間の緊張関係は解けていく。このことはイギリスやフランスの核がアメリカや日本にとって脅威ではないことが証明する。アメリカの核が日本やイギリスやフランスの脅威とはなっていないことが証明する。

 民主化した北朝鮮がアメリカを後ろ楯にすれば、共産党一党独裁を国家体制とした中国と言えども、下手な手出しはできない。但しあくまでも仮定の話であって、現実は北朝鮮の民主化は金正恩自身の独裁体制維持という絶対使命とは相反する利害を形成する要因となり続けて、受け入れられることはない。

 この状況を変えることはできないのは目に見えているが、アメリカも日本も、「北朝鮮の完全な非核化を求める」とする効果のない杓子定規な要求を繰返すよりも、「北朝鮮の国家体制の民主化を条件に核保有を認める」とした場合、金正恩がこのような提案を飲むことはあり得ないが、世界を危険な状態に陥れる悪の根源は核やミサイルではなく、民主主義体制に敵対する独裁体制であるというメッセージとすることができる。
 このメッセージを北朝鮮だけではなく、中国やロシアが無視しても、世界の多くの国々に民主主義体制の必要性をより強く自覚させる契機とする可能性は否定できない。この必要性は独裁体制こそが国家体制として異質であるという気運を盛り上げていかない保証はない。

 世界から独裁体制国家が消滅し、民主国家ばかりとなったなら、核やミサイルの必要性は減少していく。独裁国家の出現に備えて完全な核廃絶はできなくても、その独裁国家が核兵器を保有した場合に備えて、国連が数発の核を保有し、世界の脅威を管理する世界体制とすることができれば、他の国の核は廃絶の可能性もでてくる。要は世界から独裁体制国家を消滅させることができるかどうかにかかっている。先ずは中国という巨大・凶悪な独裁国家の消滅に世界の民主国家は力を尽くさなければならない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

PCR検査陰性を条件に飲食店・カラオケ店でのマスク無し、時短無しで感染を防ぐ

2021-04-05 10:11:07 | 政治
 コロナ感染が止まらない。緊急事態宣言発令期間のみは感染が縮小するが、宣言終了後暫くして徐々に増え始めて、再び緊急事態宣言を発令せざるを得なくなる増減サイクルを繰り返している。

 最近のこの繰り返しを振り返ってみる。2020年7始めから8月中旬までの第2波の感染者数を遥かに上回る2020年11月初旬以降のコロナ感染第3波を受けて、政府は2021年1月7日、東京、神奈川、埼玉、千葉の首都圏4都県を対象として期間は1月8日から2月7日までの1カ月間とした緊急事態宣言の再発令。さらに1月13日に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を再発令の区域に加えることになった。主な柱は飲食店に対する営業時間午後8時まで、酒類提供は午前11時から午後7時まで。午後8時以降の不要不急の外出自粛等となっている。

 この緊急事態宣言は首都圏を除く大阪、兵庫、京都の関西3府県と愛知県、岐阜県、福岡県の合わせて6府県に対して2021年2月28日に解除決定。大阪、兵庫、京都の関西3府県は3月1日から飲食店などへの時短営業要請を緩和することを決め、大阪府は対象エリアを府内全域から大阪市内に縮小、午後8時までの営業時間を午後9時まで1時間延長することにして、なおかつ無症状の人へのPCR検査を繁華街などで行い、再拡大の予兆がないか継続的に監視することにした。

 一方、特に感染者が多かった首都圏東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県1都3県の2月7日期限とした緊急事態宣言はさらに2月8日から3月7日までの1カ月の延長を決定。ところが期限とした3月7日を迎える2日前の2021年3月5日、1都3県の緊急事態宣言を2週間延長し、3月21日までにすることを決定。そして決定どおりに3月21日に解除の運びとなった。

 但し2021年2月28日に解除決定した大阪府の感染者が3月中旬頃から徐々に増加。増加を受けて大阪府の吉村知事は解除約1カ月後の2021年3月29日に緊急事態宣言が出されていなくても集中的な対策を可能にする「まん延防止等重点措置」の適用を国に要請する方針を示した。この際、適用された場合はマスク会食の義務化を実施したい考えを示した。

 そして2日後の3月31日に適用を要請した。この日の大阪府内の感染者数は報道によると、1日としては過去5番目に多い599人にのぼっている。

 こういった感染経緯は緊急事態宣言の発令以外に感染拡大阻止の手立てはないことを証明している。だから、緊急事態宣言の発令と解除の繰り返しに応じて感染者数の増減サイクルも繰り返すことになる。

 マスク会食の義務化は飲食店や飲食を伴うカラオケボックス等を対象としていることになる。つまり食べ物と飲み物を口に運ぶときだけに限ってマスクを外すことができる義務化でもある。食べたり飲んだりには会話が付き物で、そのどれもが愉快な気分を誘い、高める源泉となる。そしてそのような愉快な気分はときには興奮状態にまで達することがある。どれ程の人間が食べ物と飲み物を口に運ぶときだけマスクを外し、口に入れ終わると直ちにきちんとマスクをし、それから会話に打ち興じるといった繰返しのルールをきちんきちんと厳守することができるのだろうか。

 求めるとおりの厳守に不安を感じたのか、翌4月2日になって大阪市の松井市長は大阪府と合同で「見回り隊」を作り、市内の飲食店などへの巡回を始める方針を示した。約5万軒ある大阪市内の飲食店を4、50人の職員で個別に巡回、監視する方針だと言う。

 この「見回り隊」については2021年3月28 日付け、4月1日変更の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(新型コロナウイルス感染症対策本部決定)の、〈三 新型コロナウイルス感染症対策の実施に関する重要事項 (3)まん延防止 8)緊急事態措置区域及び重点措置区域以外の都道府県における取組等〉の⑤に、〈政府は、関係団体や地方公共団体に対して、飲食店に係る業種別ガイドラインの遵守徹底のための見回り調査、遵守状況に関する情報の表示や認定制度の普及を促すとともに、関係団体等と連携しつつ、クラスターが発生している分野等(飲食・職場など)を対象とした業種別ガイドラインについて、見直し・強化を図り、徹底する。〉と記されている。(文飾当方)

 要するに飲食店や飲食店利用者の自主性に任せていたのでは感染防止はできない、感染防止に関わるガイドラインの遵守徹底を図るためには関係団体や地方公共団体のより強力な関与が必要だというわけなのだろう。

 なぜかくも飲食を伴う場での感染に神経を使っているのかと言うと、ここ数日は東京都よりも大阪府の1日の感染者数が上回っているが、これまで最も多かった東京都の感染者の半数前後が感染経路不明ではあるが、感染経路判明の濃厚接触者の内訳はクラスターの発生場所と発生状況に応じて順位が入れ替わることがあるが、大体に於いて「家庭内」が最も多く、次いで「施設内」か「職場内」、最後が「会食」となっているものの、新型コロナウイルス感染症対策分科会会長尾身茂が、〈歓楽街や飲食を介しての感染が感染拡大の原因 家族内感染や院内感染は感染拡大の結果である〉と見ているからである。少々大袈裟な言い方をすると、感染拡大の目の敵にすべきは飲食の場であるというわけである。

 この言葉は「新型コロナウイルス感染症対策分科会(第19回)」(2020年12月23日)の中で新型コロナウイルス感染症対策分科会会長尾身茂が「現在直面する3つの課題」と題してグラフ入りで分析し、警告を発している見方である。

 その他にも次のように分析し、警告を発している。

 〈見えているクラスターだけを見ても飲食店でのクラスターが多い〉、〈クラスターの発生は飲食店で先行した後に医療・福祉施設で発生する〉、〈レストランの再開が感染を最も増加させる〉等、いわば飲食店元凶説を掲げている。

 さらに感染経路不明者の感染についても飲食店元凶説に立っている。

 〈例えば東京都では”見えている感染”だけを見ると家族内感染が最も多いが、“見えない感染”を”見る”と・・・

1. 東京などの都市部では、感染者数が多いことに加え、人々の匿名性が地方に比べ高いことから、感染経路不明(”見えない感染”)の割合が多い(東京都では約6割)。
2. しかし、この感染経路が分からない感染の多くは、飲食店における感染によるものと考えられる。その理由は以下a b cである。

 a. これまでのクラスター分析の結果、日常生活の中では、飲酒を伴う会食による感染リスクが極めて高く、クラスター発生の主要な原因の一つであることが分かっている。
 b. 感染経路が判明している割合の高い地方でも、飲酒を伴うクラスター感染が最近になっても多く報告されている。
 c.欧州でもレストランを再開すると感染拡大に繋がることが示されてる。〉

 勢い飲酒を伴う会食の場への「見回り隊」という発想が出てくるのも無理はないということになる。元凶を抑えることができなければ、緊急事態宣言の発令と解除の繰り返しか、まん延防止等重点措置に頼ることになるということなのだろう。

 最初に挙げた「見回り隊」についての記載がある「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に次のような記載がある。

 〈新型コロナウイルスに感染した人が他の人に感染させる可能性がある期間は、発症の2日前から発症後7日から10日間程度とされている。また、この期間のうち、発症の直前・直後で特にウイルス排出量が高くなると考えられている。

 新型コロナウイルス感染症と診断された人のうち、他の人に感染させているのは2割以下で、多くの人は他の人に感染させていないと考えられている。〉

 後段の「他の人に感染させているのは2割以下」であっても、飲食店が感染拡大の元凶説としている以上、、飲食店での感染の危険性を抑えなければならない。

 新型コロナウイルスの潜伏期間(病原体に感染してから、体に症状が出るまでの期間)は1〜14日程度で、平均の発症期間は5~6日程とWHOは報告している。つまり感染したその日に発症する場合もあれば、2週間後に発症するというケースもあるが、平均すると、感染してから5~6日後程度の発症ということになる。

 この平均値を取るとして、先の〈新型コロナウイルスに感染した人が他の人に感染させる可能性がある期間は発症の2日前から発症後7日から10日間程度とされている。〉としている予測を当てはめると、感染後の平均的な発症期間5~6日から他人に感染させる可能性期間である発症2日前を差し引くことによって感染から3~4日後程度で他人に感染させる2次感染源になり得るという計算が成り立つ。あるいは平均での遅いケースでは発症後5日から8日程度は2次感染源となり得る可能性は消えないということになる。

 この早いケースの場合のみを逆の方向から言うと、感染から1~2日後程度は2次感染源になり得ない、他人に感染させる可能性は少ないということになる。と言うことは、PCR検査をして翌日に陰性と判定されれば、検査当日の検査後にか、検査翌日に感染したとしても、その間は他人に感染させる可能性は低いことになる。あくまでも「低い」であって、絶対ではないが、可能性としては成り立つ。

 そしてこのことは感染していてもウイルス量が少ないために陰性と判定された場合でも、ウイルス量が増えて人に感染させるまでに1~2日程度は余裕を見ることができるから、当てはめ可能となる。

 PCR検査の結果について翌日に判定することは決して不可能ではないはずだ。「NHK NEWS WEB」記事がプロ野球の巨人軍は2021年4月3日に監督やコーチ、選手、スタッフの合わせて101人にPCR検査を行った結果、二人の選手が陽性判定、一人が再検査となったと報じていた。2021年4月4日 13時23分の報道だから、検査翌日に結果を伝えられていたことになる。PCR検査を行っている民間病院の中には翌日結果判明を謳っているサイトを見受けることができる。

 PCR検査の翌日結果判定の体制を整えさえすれば、陰性判定された対象者はその翌日に飲食店、その他で飲酒を伴う会食をしたとしても、他人に感染させる可能性はかなり低く見積もることができる。勿論、PCR検査日と結果判定日を入れた陰性証明書の発行が必要で、その提示者のみの入店を認めれば、マスク装着をさ程厳しくしなくても、あるいは見回り隊などと物々しい体制を敷かずとも、現況以下に感染を抑えることができることは否定できないし、飲食店元凶説も、遠い話とすることができる。

 こういった状況を招くことができれば、時短も必要なくなる。飲みたくなったら、その都度PCR検査を受け、陰性証明書を持ってた客のみの入店を許可すればいい。時短が必要なくなれば、経済もそれなりに回すことができる。

 但し全てのPCR検査を無料の行政検査としなければならない。現在、感染再拡大を防ぐために不特定の市民に対してPCR検査を通した街頭モニタリング検査を各地で行っているが、方法は希望する無症状者に唾液を使ったPCR検査キットを無料で配布、持ち帰って唾液を専用容器に入れ、指定場所に送ると、検査結果が返ってくる仕組みだということだが、それをその場で専用容器に唾液を採取(唾液はペッと吐くのではなく口の中に溜めて容器に垂らす方法を厳守させれば採れば、飛沫は飛ばない)、検査側が回収してその日のうちに検査機関に持ち込めば、翌日の判定は可能とすることができる最善の方法になると思うが、このようなPCR検査と併行して飲食店に行く予定者を特定的に行政検査の対象とする体制に持っていく。

 これまで飲食店等に対する時短要請で受ける飲食店側等の損失に対してその補償を行ってきたが、時短が必要でなくなれば、その補償金が浮いて、無料の行政検査費用にまわすことができる。

 この方法は不可能だろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

菅義偉の無症状感染者関係の危機管理欠如がコロナ対策を失敗に導き、ワクチン接種のリスクコミュニケーション欠如が信頼喪失を招く

2021-03-29 10:54:05 | 政治
 緊急事態宣言は首都圏を除く6府県に対して2021年2月28日に解除決定。但し特に感染者が多かった首都圏1都3県の緊急事態宣言はさらに2月8日から3月7日までの1カ月延長されることになった。我が日本の首相菅義偉は2月28日の解除決定を伝える2月26日の「記者会見」で次のように勇ましく宣言した。

 菅義偉「今後改めて、今申し上げました1都3県については解除の判断を行いますが、3月7日に全てが解除できるように、正に、感染拡大防止の、飲食の時短を始めとして、やるべきことを徹底して行っていきたい、このように思います。政府としてはあらゆることを考えておりますが、今大事なのは、やはり、感染拡大防止を徹底して行って、3月7日、全国で解除することが大事だと思います」

 「やるべきことを徹底して行っ」た結果、2021年3月5日の「記者会見」で次のように述べることになった。

 菅義偉「先ほど新型コロナ対策本部を開催し、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県において緊急事態宣言を2週間延長し、3月21日までにすることを決定いたしました」

 言っていることとやっていることが異なる有言不実行は、当然、国民の信頼を獲ち得ない。

 この記者会見でワクチンの効果についてある情報が伝えられる。

 岩上安身(フリーランサーIWJ代表)「ワクチンだけが全ての決め手になる。何かワクチン万能論のような感じが世の中にあふれかえっているわけですけれども、しかし、実際にはワクチンには発症や重症化の予防効果はあっても、感染そのものの予防効果はないということが明らかになっております。

 これは、2月24日の(記者会見で)田村厚労大臣が私どもIWJの記者の質問に答えて、感染予防が十分なエビデンスはないとはっきり明言されておりまして、この頃、ファイザーのワクチンがイスラエル等で感染予防効果があったというロイター等の報道はありますけれども、査読前の論文です。これを確認しました、厚労省にです。厚労省の担当課は、この件について、国としての姿勢として、感染予防効果はないという姿勢を、これらの報道で改めるつもりはないというふうにはっきりとおっしゃっています。

 感染予防効果がないということは、実は、発症しない人を増やすということであって、感染しても発症しない、本人が気付かない、無症状者を増やすに等しいことであって、かえって無症状者による市中感染を増やす可能性があります。ということは、これは同時に、無症状者に対する無差別のPCR検査を大量に行っていく必要がある。片方でワクチン、片方でPCR検査の社会的検査を無差別に拡充するということをやると。そこで陽性者を洗い出していくということをやっていって、初めて成り立つものではないかなというふうに思います

   ・・・・・・

 PCR検査の拡充について質問させていただいたのですけれども、全量検査は必要ないと当時、総理はおっしゃったのですね。その御認識は変わらないでしょうか」

 要するに岩上安身氏はワクチンには感染予防効果があるわけではない。発症予防効果と重症化予防効果があるのみだから、感染しても、発症しないままに、重症化しないままにさらに感染を広げていく可能性は否定できない。その過程で予防効果が常に絶対と言うことはないから、中には発症し、重症化する例も出てくる。当然、ワクチンを接種したから、全てオーケーというわけではなく、ワクチン接種の過程や接種後に無症状感染者が出るのを少しでも抑え込むために現在から無差別のPCR検査を大量に行って、無症状感染者を割り出して、隔離、陰性に持っていく必要があると主張していることになる。

 それが「片方でワクチン、片方でPCR検査の社会的検査を無差別に拡充する」と言うことになる。

 岩上安身氏が「全量検査は必要ないと当時、総理はおっしゃったのですね」と指摘していることは2020年12月25日「記者会見」で同じ岩上安身氏が「中国が全量検査を徹底して、感染を抑え込み、経済を回復させた中国と比べて日本は全量検査に熱心ではない」と質問したのに対して菅義偉が「全国、全員ということは、私は、色んなところに相談しますけど、そうした必要性はない。こういうふうに思っています」と発言したことを指す。

 野党はPCR検査の拡充を一貫して要求していたが、政府は同じく一貫してその必要性を認めてこなかったが、菅義偉のこの発言にもその姿勢が如実に現れている。

 岩上安身氏が上記2021年3月5日の記者会見で社会的PCR検査の無差別な拡充を求めたのに対して菅義偉と新型コロナウイルス感染症対策分科会会長の尾身茂のそれぞれの答弁を取り上げてみる。

 菅義偉「私自身もワクチンは発症、重症の効果がある、このことの理解を示しています。発症と重症化にはワクチンは効果がある、こういう中であります。ですから、一日も早く国民の皆さんにワクチン接種をしたい。それと同時に、検査の充実、これも必要だと思います。先ほど私、最初の一連の挨拶の中で高齢者施設に対して集中的に今月中に3万か所やるということを申し上げました。さらに、繁華街でモニタリング検査を実施する。こういうこともこれから大都市でやっていきたい、このように思っています」

 菅義偉自身もワクチンは発症予防と重症化予防には効果があると保証している。裏を返すと、感染予防効果が絶対的にあるわけではないとしていることになる。その上で感染防止対策として3万か所の高齢者施設に対して集中的にPCR検査を行う。繁華街でPCR検査を通した感染状況のモニタリング検査を実施する。この二つの実施共に感染が判明する前の検査であって、当然、無感染者であるか、感染はしているものの、無症状者であるかの判別を行ない、後者の場合は2次感染、3次感染を防ぐために病院等への隔離に持っていくということになる。

 勿論、菅政権として今まではしてこなかったこのPCR検査の拡充は既に触れたようにワクチン接種の過程や接種後に無症状感染者が出るを少しでも防ぐために無症状感染者の数を少しでも減らしていくための方策であろう。

 この姿勢は野党のPCR検査拡充の要求に一貫して消極的であった菅政権の180度の政策転換を示すことになる。180度の政策転換は前の政策が間違っていたことを意味する。2020年10月29日の衆議院本会議代表質問で共産党委員長志位和夫が「無症状の感染者を把握、保護することを含めた積極的検査への戦略的転換を宣言し、実行に移すべきではありませんか」と求めたのに対して菅義偉は「医療機関や高齢者施設等に勤務する方や入院、入所者、さらには感染者の濃厚接触者等に対しては、既に無症状であっても行政検査の対象とするなど、積極的な検査を実施しているところです」と答弁。要するに医療機関や高齢者施設等で感染が確認された場合はその濃厚接触者も含めて、つまり全員、無症状であっても行政検査の対象とするが、感染が確認されない場合は行政検査の対象とはしないと答えている。

 言っていることはPCR検査の実施は感染して症状が出るまでは待つという姿勢でいたことになる。医療機関や高齢者施設、あるいは劇場や飲食店、家庭等の人が集まる閉鎖空間では感染者が出れば、その濃厚接触者は割り出し可能となって、PCR検査を実施、陰性のみを病院等に隔離していけば、概ね事は片付いていく。だが、最初にコロナウイルスを持ち込んだ人間は感染していると思っていなかったから、持ち込んだのであり、閉鎖空間での濃厚接触者扱いとなって、感染経路不明者とは扱われにくくなる。つまり発症時間に個人差があるから、感染が誰から始まったのか把握しにくく、逆に感染経路不明という事態が起こりやすくなる。

 さらに現実には人が集まる閉鎖空間での感染ばかりとは限らず、東京都の殆どの場合、感染者の半数か半数近くを占めてきた感染経路不明者は誰から感染したのか分からない、どこから感染したのか分からないということからの感染経路不明ということなのだから、その大半はコロナウイルスに感染はしているものの無症状の感染者(無症候病原体保有者)からの市中感染と見るのが妥当で、だから、感染経路不明に繋がっていくという危機管理意識を当初から持っていなければならなかったはずだ。だからこその野党側の無症状感染者に対するPCR検査拡充の要求であった。

 菅政権が野党の要求に応じてこなかったのは感染経路不明者の多くは無症状の感染者からの感染の可能性を疑う危機管理に立つことができなかったからだろう。そしてワクチン接種という段階に至ってから、初めてこの手の危機管理の考え方を採用することになった。ワクチンが発症予防効果と重症化予防効果はあるものの、感染そのものの予防効果は必ずしも保証するものではないというその性格上、感染があった場合、無症状の感染者からの感染と限定せざるを得なくなり、今からPCR検査等を通して無症状感染者を減らしていく必要に迫られた。

 そのため政策転換であるはずだが、感染経路不明者の大半が無症状の感染者からの感染の可能性を疑う危機管理に立ち、PCR検査を通して市中に放たれている無症状感染者を割り出す政策を怠ってきたことのこの場に至ってのPCR検査の拡充であって、従来からのPCR検査体制の失敗を物語ることになる。

 尾身茂「今、おっしゃる重症化あるいは発症化予防。これが非常に重要で、しかし、それだからといって、実は仮に、よく分かりませんけれども、普通の常識を使えば、日本の(ワクチン接種の)候補者になる人々の恐らく90パーセントが接種することはないでしょうね。国民の7割が仮に打ったとしますよね。子供さんとかは別に。そうなっても、実は、私は、時々のクラスターはそれからも起きると思います。なぜならば、ワクチンの感染力防止ということと同時に30パーセントは打っていないわけですよね」

 国民の7割がワクチンを接種すると予想。30パーセントは接種しない。この30パーセント内で感染と被感染が繰り返されたなら、当然、クラスター発生の可能性も出てくる。但し30パーセント内での感染だけとは限らない。ワクチン接種の7割内でも無症状感染者を出す可能性は否定できないのだから、7割の中の無症状感染者から無接種の30%に対しての被感染の可能性も否定できず、東京都の場合、感染確認のうち約20%は無症状だということだから、無接種の30%に対して無症状の約20%はほぼ維持するかもしれないが、ワクチンを接種していない分、残りの80%分から重症患者を出す少なからずの可能性にしても否定できないことになる。

 岩上安身氏が取り上げた2月24日の田村憲久の記者会見での記者とのワクチンの感染予防、発症予防、重症化予防についての遣り取りを見てみる。

 記者「昨年10月2日の第17回厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会の『ワクチンの有効性・安全性等副反応の捉え方について』という資料の中で、ワクチンの効果についてというページがございます。接種した人は感染しないという効果については実証が難しいと書かれています。ある意味心配な記述ですが、その後これについての見解の変化ということはございますでしょうか」

 田村憲久「感染予防の効果があるかということですかね」

 記者「そうです」

 田村憲久「これは今のところ、世界中で、感染予防効果があるということ自体が認められているということではない、と我々は理解しています。実際例えばファイザーのワクチンに関しても、我が国においては発症予防に関しては確認できていると。

 重症化予防に関しては重症者の事例が少ないため確認はできていないのですが、ただ重症化予防というよりは重症者が減るかということから考えると、発症者が減れば重症化しないわけですから、発症者が減った分は重症者が減るのだろうと思っております。

 ただ、感染予防という意味からすると、これは十分にエビデンスがまだないので、そういう意味では我々はこれを確認できておりません。あるかないかが分からない」

 かくこの通り発症予防と重症化予防についてはそれなりの効果はあるはずだとし、感染予防については「十分にエビデンスがまだない」

 記者はコロナワクチンの予防効果についての情報根拠を2020年10月2日の「第17回厚生科学審議会予防接種ワクチン分科会」の「資料3 ワクチンの有効性・安全性と副反応のとらえ方について」に置いている。どんな記述になっているか見てみる。

 「新型コロナウイルス感染症のワクチンの接種に関する分科会の現時点での考え方(一部抜粋)新型コロナウイルス感染症対策分科会」(2020年8月21日)

 〈新型コロナワクチンの治験に関する論文報告(概説)

 誘導された免疫による発症予防効果や重症化予防効果の有無、免疫の持続期間については、まだ評価されておらず不明。

※ 自然感染においては、抗体が比較的早期に低下するとの情報がある。〉

 〈一般的に、呼吸器ウイルス感染症に対するワクチンで、感染予防効果を十分に有するものが実用化された例はなかった。従って、ベネフィットとして、重症化予防効果は期待されるが、発症予防効果や感染予防効果については今後の評価を待つ必要がある。しかし、今から、安全性と共に有効性が妥当なワクチンが開発されたときに備えて準備を進めていく必要がある。〉

 結論は、〈誘導された免疫による発症予防効果や重症化予防効果の有無、免疫の持続期間については、まだ評価されておらず不明〉であり、〈発症予防効果や感染予防効果については今後の評価を待つ必要がある。〉とどちらも「不明」の評価を下している。

 だが、この分科会の「議事録」では次のような発言となっている。

 林予防接種室長「ワクチンが開発されたときに効果があるかどうかが分かるのは、発症予防、重症化予防という観点の効果だと考えます。感染予防の効果については、まず治験を行っても、その瞬間には分からない、社会の中でしっかり使ってみないと分からないという性格のものであるということです。

 これは内閣官房のほうの分科会でも議論になったと承知していますが、なかなか呼吸器感染症のウイルスのワクチンで、感染予防に効果があるというものはこれまで開発されていないという御指摘もありますので、開発されたときには発症予防や重症予防、期待できるとしてもそのようなものが期待でき得るという考えの中で、いろいろな優先順位も含めて考えていく必要があるのではないかというのが、今の時点の内閣官房の分科会の議論も含めた現時点の考え方だと思います」

 ワクチンが「開発されたときには発症予防や重症予防、期待できるとしても」、「感染予防の効果」は「社会の中でしっかり使ってみないと分からないという性格のものであ」り、「呼吸器感染症のウイルスのワクチンで、感染予防に効果があるというものはこれまで開発されていないという指摘がある」と感染予防効果にかなり懐疑的になっている。総合すると、発症予防効果や重症化予防効果は期待できるが、感染予防効果は期待しにくいということになる。

 そしてこのような情報の国民に対する取り扱いについて1人の委員が発言している。

 大石委員「私も、前半の議論を踏まえて意見を述べたいと思います。臨時接種の接種勧奨・努力義務ということについて、あるいは接種率の目標について、やはり重要なのは、国民にワクチンのリスクコミュニケーションをしっかりしていくことだろうと思います。ワクチンを接種することで、個人の重症化予防ということだけではなくて、医療の逼迫を最小限にするといった社会的役割を国民にしっかり伝えていくことが大変重要なのだろうと思います。そうすることで、ワクチン接種の理解が接種率の向上に当然つながってくるわけですから、義務だとか言うよりも、やはり国民の理解を高めることが一番肝要になってくるのだろうと私は思います。以上です」

 2020年10月2日の時点でワクチンの感染予防効果や発症予防効果、重症化予防効果について議論が行われていながら、少なくとも菅義偉が記者の指摘に応じて公に取り上げたのは5カ月後の2021年3月5日の記者会見ということになる。しかも大石委員が指摘したようにワクチン接種のリスクを国民にしっかりと伝えて、そのリスクを国民と共有する目的のコミュニケーションという体裁を取ったものではない。質疑応答で記者に質問されて、その質問に手短に応じて伝えるべきリスクの類いではない。

 リスクコミュニケーションの意図を有していたなら、冒頭発言で早々にこのリスクを具体的に明らかにしておかなければならなかった。だが、そうはしていなかったのだから、コロナワクチンは発症予防効果や重症化予防効果は一応認められるものの、感染予防効果についてはかなり疑問符がつくというリスクに関しての情報を、少なくとも公にははっきりとさせない意図の隠蔽を働かせていたことになる。

 菅政権が現在着手し始めている高齢者施設に対しての集中的なPCR検査と繁華街でのPCR検査、それらのモニタリング検査が無症状感染者を少しでも多く割り出して隔離に持っていくことで、今から無症状感染者を抑え込んでいき、コロナワクチン接種後の無症状感染リスクを最小限にとどめるための政策であるはずであることからすると、無症状感染者をピックアップするためのPCR検査に消極的であった従来の政策が誤りであったことを証明となるにも関わらず、その誤りを認めないばかりか、コロナワクチン接種のリスクを国民と共有するためにそのリスクを公にする情報開示とは逆の、リスクを曖昧にしておく形での情報隠蔽まで働いている。

 菅義偉は常々「国民から信頼される政府を目指します」を謳っているが、自分では逆の信頼を失うことをしていることに気づかないでいる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする