空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの猫の夢想  35 【神々の号泣】

2019-01-26 09:41:26 | 文化

 

  吾輩はネズミ族の特徴をここで書いておきたい衝動にかられた。高度の文明と金銭を持っているので、彼らの気位は天狗のように高いということである。

そういう文明をきらって、ただ、ひたすら良寛のように道を求めてシンアストランは宇宙に修行の旅にでたのであろう。

だから、彼はまれな存在だ。ネズミ族には彼のような大男は珍しく、小柄な人が多いし、教養レベルも高い人から低い人まで実にさまざまで、アンバランスな文化を築いている。ウサギ族のように耳が長いという目だったものはなく、目が丸く鼻が長いというのも、ネズミから高度の文明を持つヒトに進化する過程で洗練されているので、もしも地球のどこかの地下鉄にのったら、ハンサムな奴だと思われる程度に人類にも同化できるかもしれない。

 さて、そのネズミ族の大男シンアストランは再び、沈黙して、呼吸の瞑想をしているようだった。

吟遊詩人が静かにヴァイオリンをかなでる。

神界から流れてくるような荘厳な響きが急に悲しみの流れのような音色に変わり、胸を打たれている間に、やがて小川の流れのようなかろやかな響きとなる。

それから、彼は歌を歌った。

 

森と湖を突き抜けた涼しい風がわが頬をなでる

月光は庭の隅々を照らし

緑の葉に宿った露はしずくとなって流れ

銀河の星は天から降るようにまたたいている。

かわせみが飛んでいるせせらぎの音

時々響く雷のような戦争の砲火と轟き

我は病む 戦火の自然に及ぶ愚かさを悲しみ

 

 

「わしはね。君等、地球の人達に一つだけ助言したいことがあるのだよ」

「何でしょうかね」

「うん、わしのような乞食行者が言うのも恐縮とは思うのだが、ぜひ伝えたいと思うのは、親鸞の考えをもう少し、取り入れた方がいいと思ってな」

「ああ、親鸞といえば、あのヒットリーラの国に還相回向して、布教していることは知っておりますが」

「わしは彼と会って、しばらくの間、話したことがある。素晴らしい思想だ。まさに人間は愚かで、悪の要素を持つ生き物であるが、その愚かさを自覚した時に、知恵の光が彼あるいは彼女を包む。そうすると愚かな自我が消え、人はその智慧の光そのものになってしまう、少なくともわしは親鸞の考えをそう解釈した。

戦争を見ればよく分かる。どちらも自分達が正義だと主張する。そして相手を憎む。そして、殺し合いだ。これは個人のトラブルでもそういう場合が多い。自分は正しい。相手が間違っている。親鸞はそこのところを少し考え直せというわけだ。」

「確かにその通りだと思います」と吟遊詩人が言った。

「シンアストランさんは行者なんですね」とハルリラが言った。

「まあ、そんなものじゃな」

「それなら、あの先生にとりついている幽霊を取り外してやれば。

そうでないと、子供たちを管理している先生が妙な妄想の虜になるとおかしなことになるのじゃないかと心配です」

 

「どれどれ、ああ、あの方ね。確かに、異界から来た幽霊がいるね。しかし、あの兵士だって、幽霊みたいなものだ。

わし達みんな幽霊みたいなものさ。ただ、どこに足場を置いているかということだけで、現象は異なってくる。

そうではないかね。君達ヒト族も精密な生き物だが、一皮むけば原子からできているのだろ。その原子たるや、殆ど空っぽだっていうじゃないか。君達の目が粗くできているから、目に形ある人間さまと映っているだけの話じゃないか。

異界も霊界も色々あるのに、君達の目では、見えんな。ハハハ」

「僕には少し見えるよ」とハルリラが言った。

「剣舞の時は世話になったから、愚痴は言わないが、お宅の魔法よりも、このあたりの修行は年季がいるのさ。君はまだ若い」

 

 「そんなことよりも、あの子供たちの先生に、若い女の幽霊がとりついているということですけど、その女が悪さをすることはないですか」

「あの幽霊はね、猫族の女なんだ。新聞記者かなんかで取材をしていたのだと思う。」

「何で死んだんですか」

「さあ、そこまでは知らん。今喋ったことも、わしの直観だからね。

それじゃまた」

そう言って、行者は立ち上がった。

「え、もう行っちゃうんですか」

「うん。食堂車に行って、少しコーヒーを飲んでくる」

  

シンアストランが通ると、今までにぎやかに喋り笑っていた生徒たちは、シーンとなって、行者を見詰めた。

すると、シンアストランは急に雷のような声を出した。

まるでサンスクリット語のようで、何て言ったのだが、分からないが、物凄く綺麗な宝石のようなものを先生の方に飛ばしたような美しい呪文だった。

ハルリラの魔法の呪文とは違う。

 

 あら、不思議や、先生にはあの若い猫族の娘の霊が消え、元のいつもの中年の馬族の先生に戻っていた。

急に老けたような印象を吾輩はうけた。

「あら不思議なことをする行者だね」と吾輩はハルリラに言った。

すると、「不思議だけど、今まで行者がいた所に、あの猫族の娘があの先生から飛び出て、そこに座っているよ」

「え、ぼくには見えないけど」と吾輩は言った。

吟遊詩人は言った。「うん、何かしらの神秘な生き物が隣に座ったね。それだけは分かるが、姿が見えない。見えるのはハルリラだけか。何か聞いてみたら」

 

「どうして、銀河鉄道に?」とハルリラは吾輩には見えない幽霊に聞いた。

「銀河鉄道に来たのは、妹が乗ってはいないかと探しに来たということなの」とハルリラはうなづきながら、独り言のように言った。

「妹さんって、どんな風なの」とハルリラはさらに聞いた。

 

吾輩は猫で、特殊な耳をしているから、そこのあたりまでなんとか聞こえたが、妹の様子を言っている所は聞こえなかった。そうすると、ハルリラが通訳してくれた。幽霊の妹とは、何と、ついこの間まで一緒にいた虎族の若者モリミズの恋人、猫族の娘ナナリアではないか。今はモリミズ夫人になっている。

「ハルリラ君。教えてあげたら」

ハルリラは吾輩には見えない相手の幽霊に、なにやら一生懸命に喋り、幽霊の妹ナナリアがトパーズの惑星で結婚式をあげたことを教えたのだ。

彼女が喜びのため息をしたのを、吾輩も猫の耳でキャッチした。

「良かった」と彼女は言っているようだった。

そして、しばらくハルリラに何かを喋り、そこから消えた。それが我輩の直観でも分かった。幽霊の話はこうだった。

幽霊つまり、新聞記者はプロントサウルス教の取材をしていて、この教えの悪に気づき、それを宇宙インターネットに一部、発表している最中に消されたというのだ。

ハルリラが言った。「お礼の言葉を言っていたよ。そして、異界に帰るって」

そういえば、銀河鉄道のわれらの車両には少なくともいないことが、吾輩にも分かった。どこの車両にもいないだろう。彼女の行くべき異界に帰ったのだ。そう思い、吾輩はモリミズと結婚した猫族の娘ナナリアのことを思い出し、胸が苦しくなる思いがした。今ごろはきっと幸せな家族をつくっているだろう。子供ができると忙しくなるな。

幽霊の無念はどうすることも出来ない。我々はアンドロメダ銀河鉄道に乗って、動きがとれないのだから。メールでモリミズ夫人【ナナリア】に知らせることも考えたが、幸せのまっただかにいる彼女に知らせても、ロイ王朝が健在となってしまった今となっては、どうすることも出来ない。それに、幽霊の話には具体性がない。我々は相談して、知らせないことにした。

今、若者モリミズは、伯爵と同じように、新しいカナリア国で介護士になり、新しい幸せな生活が始動したばかりなのだ。

 

 それにしても、我らは幽霊の悲劇から表現の自由などの基本的人権の大切さを痛感したわけだ。この事件を守る砦が憲法であることは明らかなことであるし、スピノザ教会が独自にアンドロメダ銀河の惑星に広めようとしているカント九条の理念はまことに素晴らしいと感嘆する。なぜならば、惑星間や国通しの紛争解決のための武力行使はしない、そのために軍備は治安を維持するための最小限にとどめるというのだから、現実との背離があまりに大きいとはいえ、その理想主義には脱帽せざるをえないではないか。

基本的人権の宝庫とカント九条は平和を希求する人類の宝が凝縮されているのである。

 

吾輩はそう思いながら、伯爵と結婚したヒト族の娘のことも思いだした。

巌窟王の娘だ。彼女も幸せになったことだろう。

 

どちらにしても、次の惑星はどんなところだろう。

アンドロメダ銀河鉄道の窓の外を見ますと、美しい風景が広がっていました。

緑色に光る銀河の岸に、柳の並木の細長く垂れた葉や焦げ茶色の太い幹のある緑の桜の葉が、風にさらさらとゆられて、まるで何かの踊りを踊っているようでした。他は、全て、真空のヒッグス粒子のような何かの輝きのようで、波を立てているのでした。

しばらくすると、アンドロメダ銀河鉄道の先の方で蜃気楼のような白い宮殿が立ち、その周囲に花火のようなものが上がったのです。白い宮殿におおいかぶさるようにして、大きな花のような広がりは赤・青・黄色・と様々な色に輝き、薔薇の花のようなひろがり、百合のような花の広がり、向日葵のような花の広がりと直ぐに消えてしまうのですけど、再びその花火のような美しい大輪の薔薇、菊、百合の花は白い宮殿をおおってしまうのです。全てが夢のようで、また蜃気楼のようで、時々、ピアノの音のような美しい音を空全体に響かせているのは、宮殿で何かの催しをやっているようにも思え、宮殿の周囲にも白いミニ邸宅が並び、おそらくは人々がその不思議な光景を鑑賞しているに違いないと思わせるものがありました。

そして、確かに、銀河鉄道の列車の周囲の下の方は何か透きとおったダイヤのような美しい水が流れているのかもしれないのだと、ふと吾輩は思ったものです。

 

 

 何時の間に、シンアストランの行者がコーヒー茶碗を持って、そこに座っていました。

うまそうにして、珈琲を飲むと、満面に笑顔を浮かべて、彼は言いました。

「地球で死んだ人は、そのまま、銀河鉄道への旅に出ることがある。

アンドロメダ銀河の惑星で死んだ人は 幽霊となって、銀河鉄道に出て来る。ここは面白い所だ。そうは思わんかね」

「確かに不思議ですね」

「宇宙には、まだまだヒト族の理性では理解できない所がたくさんあるということだよ」

「そうなんですか」

「どちらにしても、いのちは永遠さ。この永遠の旅で、人は自分の魂を磨く、これを知らないと、人は愚かになって、そして争い、みじめになる」

「魂を磨くのですか」

「そうさ。色々な試練にあって、自分の魂を美しくしていく、そういう永遠の旅だ。しかし、人間には親鸞がおっしゃったように煩悩というものがある。この煩悩の重さは大変なものさ。ところで、君等の旅。次はどの惑星で降りるのかね」

「通称ブラック惑星と言われている所です」

「あの惑星ね。あそこには、わしの知人がいる」

「え、どんな方ですか」

「いや、あまり話したくないのだが、実は弟が」

「弟さんですか。それじゃ、ぜひお会いしたいですね」

「や、彼は金の亡者になってしまったからな。わしとネズミ王国を出る時には修行をして真実のいのちを見つけようと意気軒昂だったのだが、彼は途中で落ちこぼれ、堕落した」

「堕落した」

「金に目がくらんで、修業なんかくそくらえと思ってしまったのだ」

「そんなに簡単に」

「真実のいのちを見つける修行は厳しい。

吟遊詩人のヴァイオリンの奏でる天へと魂を運ぶ美しい音楽も魂を掃除して、一定レベル以上に引き上げないとその良さが分からない。絵画もそう。

物語もそうさ。物語を新聞を読むようにして読んで中傷するような奴は魂を引き上げる修行の意味が分からない。

魂は進化するのだ。その意味が分からない連中がブラック惑星には多いのさ。

自分の弟には、そうはなって欲しくないと思う。それだけは願ってるよ。なにしろブラックな所だからね。

親鸞が言うように、まず自分の中にある悪と愚かさを見つける時に、人は天空から降りて来る素晴らしい光の衣に包まれ、本当の人間になれる。

宗教の本質は大慈悲心である。このことを忘れると、全ての宗教は堕落する素質を持っている。良寛が漢詩で、江戸幕府に体制化した仏教を批判しているのを見ても分かる。堕落すると、尾ひれのついた人の噂をまきちらすような悪がにじみ出て来る。

悪っていうのは、ああいうブラック惑星の住人になってその雰囲気にひたると、直ぐにその人の魂の中に入り込もうとする。つまり、誘惑が大きいということよ。

もっとも、ブラック惑星にもそういう精神の荒廃と戦い、煩悩と戦い自分を磨いている立派な人も多い。弟がその仲間になってくれることを、わしは望んでいる」

 

どこから飛んできたのか、美しい赤いインコがシンアストランの肩にとまった。

「わしのペットだ」とシンアストランは微笑した。

 

 吟遊詩人は小鳥にほほえみ、歌を歌った。

 

雪がふる夜、ああ降りしきる白い雪の涙

薔薇は机に向かい古典を読んでいた

海のような音がする、ふと見る、窓の外、

幻のような、紫陽花のブルーの姿、ああ街角の悲しみの舞踏

 

吹雪の夜、ああ悲しみの嵐の神の号泣

薔薇は机に向かい静かに画集を見ていた

すすり泣きのヴイオロンの声がする、ふと見る、窓の外

蜃気楼のような、紫陽花のブルーの姿、ああ森の中を駆け抜ける

 

街角と自然、紫陽花のブルーの姿、あなたは舞踏が好きだ

あなたが舞う時、薔薇は古典を読んでいる

その時、永遠が舞う。雪のように永遠が舞う。

どこへ行くのだ、紫陽花よ。薔薇は君を愛しているのだ。

今ここの永遠の舞台の上で、静かに思い出の紫陽花のブルーの姿を見ていたいのだ

おお、人間は自らの悪を知るべきだ。

戦争、地球汚染、気候の温暖化、核の恐怖

紫陽花のブルーに学ぶべきだった。

あの清廉な魂の美しさに学ぶべきだった。

あの天界の色の胸に染み入ること

一輪もいいけど、紫陽花の森となるとね、それは極楽。

 永遠を見る薔薇よ、紫陽花と街角で会おう、そこで温かい珈琲を飲むか

 

  

  

                  【つづく】

 

 

 (ご紹介)

久里山不識のペンネームでアマゾンより短編小説 「森の青いカラス」を電子出版。 Google の検索でも出ると思います。

長編小説  「霊魂のような星の街角」と「迷宮の光」を電子出版(Kindle本)、Microsoft edge の検索で「霊魂のような星の街角」は表示され、久里山不識で「迷宮の光」が表示されると思います。

 

【 久里山不識より  】

 世界がより平和な方向に進むことを切に祈ります。そのためにも、日本は憲法九条を守り、平和と軍縮を呼びかける先頭にたてることが望ましいと思います。

経済格差が少なくなること、価値観の見通しが明るくなり、あおり運転など、一部の人のマナーの悪さもなくなること、これも今年の課題だと思います。すべての人に仏性があるというのが、お釈迦様の教えです。永平寺だけでなく、すべての人がこの仏性とは

何かということを考えるようになれれば良いなと思います。

 

 

 【憲法九条を守る意味 】

この文章はFC2の【猫のさまよう宝塔の道】2016年10月 3日に掲載したものです。今もあります。憲法九条を守るが物語の一番のテーマですので、物語をきちんと読んでいただければ「何故、憲法九条を守らねばならないかが、分かると思っているのですが、お忙しい方もいて、拾い読みする方もあるようで、そうすると、意味がきちんと把握できないという方も出てくるかもしれません。それで、以前書いた「憲法九条を守る深い意味」を思い出し。この場に付け足しておきます。【書いた時間が大分前なので、今と少し違和感がある文もありますが、直さないでそのまま掲載します 】

  



映画の感想を書いて、次の物語の備えをしていたら、たまたまコメントが入った。私の【the Pianistとアドルフに告ぐ】のブログを読んで、彼自身もその映画を見てみたいし、「アドルフに告ぐ」もいずれは読んでみたいという内容には、良いことだと思った。

しかし、そのあとに続く内容は私の日本国憲法を守るという立場とはかなり違う。
要するに、北朝鮮の脅威を言っているわけで、それに対する防備をしなければならないということだと思う。でも、北朝鮮の脅威は多くの日本人が感じていることだし、核兵器開発に恐怖を感じていることは、この日本国の大地に住む者は同じ思いだと思う。

どうやって、日本を守るか、政治家はもちろん、ジャーナリスト、学者、一般の人、みんなこの日本の大地を守り、日本の子供たちがこの大地で健やかに育つことを願っていると私は思う。
しかし、どうやって守るかで意見がわかれる。私は両方の意見を聞いて、考え、やはり、憲法九条を守る方が平和への道に近いと感じる。
勿論、人間ですから、色々な意見があって、改憲、憲法九条の廃止そして軍拡をして、もしかしたら核武装論にまでいく考えを持っている方もおられるのではないかと思いますが。
しかし、もしそうした立場に日本が突き進んだとしたら、中国や、北朝鮮、やロシアはどういう反応をするか、東アジアは今以上に不安定になり、軍拡競争がはじまり、いきつく先は核戦争ということになりかねない。
【人類は滅亡の道に進む可能性があるということです。少なくとも文明・文化は破壊され、第二次大戦を上回る死者も予想される。こういう恐怖は既にキューバ危機で人類は経験しているのです 】

では、憲法九条を守っていては、北朝鮮が図に乗って、何かの拍子に彼らのミサイルが飛んでくるではないかという心配はどうか。

確かに、そういう不安があるから、今、活発に外交が進んでいるのではないでしょうか。
安部首相がキューバのカストロ氏に会って、北朝鮮の核開発を押しとどめるように協力を要請しましたね。キューバは北朝鮮の友好国であり、カストロ氏は大の親日家であって、日本庭園を持っていると聞きました。
それにやはり、平和憲法を持っているという実績は安倍首相がカストロ氏と会った時に、口に出して言わなくとも(首相が改憲をたとえ、考えていたとしても)
、現実にある憲法九条の威力は 無言の世界の行くべき方向をカストロ氏に指し示していることが私には感じられるのです。

それから、憲法九条がアメリカ軍という占領軍の中でつくられたものだし、日本を軍事的に無力にするというご意見。それがたとえ、本当であるとしても、憲法の内容を吟味すると、軍を最小限にして、その金を国民の生活にまわすという発想はそれなりに、将来の人類の行くべき方向を指し示しているのではないでしょうか。

人類の歴史を見ていると、戦争の歴史である。ことにヨーロッパでは三十年おきぐらいに戦争をしていた。全く、人類は戦争が好きなのではないかと錯覚するくらいである。
事実、日本でも、日露戦争の時に、戦争反対ののろしをあげた歌人の与謝野晶子とキリスト教思想家の内村鑑三は一時、非国民と言われたのであるが、今や教科書に載る偉人である。

そのあと、人類は第一次大戦と二次大戦という怖ろしい戦争を経験してしまった。

今や、オバマ大統領のように、核兵器をこの地上からなくしたいという思い。これは人類の悲願なのではないでしょうか。出来れば、通常兵器も世界的に縮小していくことがのぞましい。
過去のように、軍拡が世界の雰囲気となったら、人類は生き残れないと思う。
既に、過去にはキューバ危機で、ソ連とアメリカが核戦争寸前まで行った。
最近では、パキスタンとインドの軍事衝突が核戦争一歩手前まで行ったと聞いている。
イスラエルも核兵器を持ち、アラブとの対立が懸念されている。
至る所で、戦争の火種がくすぶっている。

そこへ日本人が憲法九条を見捨てたら、戦争へ戦争へと突き進むことになることは火を見るより明らかではないだろうか。
憲法九条を守り、今の段階では、それなりに防衛力を強化して、世界に平和外交を展開する、それが日本の進むべき道だと私は思う。

 

最近、「日本会議」というのを耳にした。どうも、宗教右派といわれるごく一部の人達が中心となり、財界、政治家の一部と結んで、憲法改正、憲法九条廃止、国防軍の設立、ということを考えて立ち上げた運動のようである。

宗教というのは本来、平和を目指すものである。人間のいのちという素晴らしい奇跡の存在に驚きと感謝の念を持ち、そのいのちを守るために、平和を考えるのである。
その平和をつくる願いがストレートに実現している憲法九条を廃止するというのは理解しにくい。
お釈迦様が悟りをひらいたあと、お釈迦様が若い頃、王子であった国に隣の大国がせめてきたという話がある。
お釈迦様の所に、かっての家来たちがやってきて、「お釈迦様、どうぞ我々の総大将になって、あの大国に反撃していただけませんか」とお願いした所、
お釈迦様は悲しみの表情を浮かべ、座禅をしておられたそうである。もし、あの時、お釈迦様が総大将になったら、反撃はできても、仏教はこの二千年、人類に巨大な足跡を残すことが出来たであろうかという貴重な意見を聞いたことがある。

科学が生命を物質レベルでいくら探求しても沢山の知識は増えていく喜びはあるけれども、生命の不思議さは増すばかりという「いのち」の神秘を仏教は悟りの世界で解き明かしたものである。これは人類の宝である。宗教はキリストの言われたように、隣人を愛せよ、さらに敵さえも愛せよという教えに見られるように、愛と大慈悲心が根幹にあるのだから、宗教というのは 人と争うことを拒否するものである。

そんな呑気なことを言っていたら、北朝鮮が攻めてくるではないかという意見も分かる。
しかし、だからと言って、人類の宝 憲法九条を捨てるわけにはいかない、憲法九条を守りながら、平和外交を進めるしかないのでないかと思う。
私は文化の交流が大切であると思う。

今、多くの心ある方が文化と政治の面で、平和外交と平和へのコミュニケーションの取り方を研究し、それを少しずつ進めていると私は期待している。それを応援するしかないのではないかと思われる。



人類は憲法九条の指し示す【カントのいう永遠平和】に向かって、前進しようとしている気がするのですが。【現実の世界の状況はあまりに違うのは実に残念ですが、多くの人々はそのように努力している、そう思うようになりました】

                        【久里山不識】