空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの感想 6 (祭りの準備)

2018-08-24 08:54:56 | 文化

 

私は若い頃は萩原朔太郎の詩が好きでしたが、今は良寛が好きです。

 (かぐわしい草花があたりに繁茂し、春はまさに過ぎ去ろうとしている。桃の花びらがひらひらと川面に散って、川の水はゆったりと流れる。私はもともと僧として俗念を忘れた人であるが、この春の景色にはすっかり夢中になり、休むひまもないほどあちこち花を見に歩いていることだ。)

                                          (松本市壽氏訳 )

 

芳草萋萋(ほうそうせいせい)として春まさに暮れんとし

桃花乱点して水悠悠たり

我も亦従来 忘機の者なるに

風光に悩乱せられて殊に未だ休せず

 

 

この程度の作品を楽しめる人でないと、私の作品も理解しにくいと思います

こんな事を書いたのは、今は夏休みなので、かなり若い人がアンドロメダの言葉に引かれて、来てはみたけれど、何だろうという思いを持たれては気の毒だから、解説しておこうと思ったのです。

この物語の底を流れているのは、何十冊と、宗教哲学を古典で何十年と勉強してきた価値観がまず流れています。

それから、憲法については、若い頃、一流の教授の講義を一年間の教養課程で必死に聞き、そして今の世界情勢を見て、九条を守るのが人類と日本のために良いと判断しているのです。

今、東アジアでは、軍拡競争が起きています。

八十年も昔、イギリスとナチスドイツが軍拡をして、第二次大戦になったことがあります。

今の考えは、お互いに同じくらいの強力な軍事力を持っていれば、戦争は起きないという均衡論にのって、莫大な金額を使って、軍拡を進めているのです。

しかし、そうやって軍拡競争のはてには、偶発的に衝突がおき、一旦おきたら、第一次大戦のように、止められないで、強力な破壊力のために、人類は滅亡の方向に行くという危惧を感じるのです。

勿論、均衡論は理性的に考えられたものですから、説得力があります。しかし過去の歴史で理性的な戦争などというものは、ありません。

過去の戦争の歴史を学べば、感情的で、愚かな判断が大戦争になっているのです。

 

それよりも、憲法九条を守り、被爆国の日本が先頭にたって、世界平和を訴え、

軍備縮小を各国に訴えた方が、平和のためには、効果的だとは思いませんか。

現実問題として、防衛力は必要です。それは、国会で議論して決めることです。

それとは、別に日本と世界のために、憲法九条は必要なのです。人類の宝石なのです。

自分の頭で考えて下さい。今の日本の精神的風土に、自分に近い他の人がAと言ったから、自分もAと考えるような、自ら考えることを拒否しているような所があるような気がします。

 

 

 

6 祭りの準備

  楕円形の城壁の所に来た。

そして、その土手の下に鉄の門があり、関所のようなものがあって、旅行者は身分などを調べられる。

「この町に何しに来た」と男が大きな声で言った。

「あのう。わしは水車をつくることを得意としている。ここの殿様は町づくりに水車の電気エネルギーを使うと聞いている」白熊族の大男の唇が震えている。

「仕官だよ。おっさん。ここで何しているのよ」とハルリラは言った。

「わしのことをおっさんだと。わしはこのあたりの治安と旅行者を監視するのが任務の役人じや。ヒトが安全に商売して、国が豊かになるように仕事しているのじゃ。この国は農業以外に、焼き物と絹織物が盛んでな。名品が多い。

それに、今、祭りの準備で忙しい。

邪魔にならないようにな。

分かったか」

「祭りがあるのですか」

「年に一度の素晴らしい祭りじゃ。宮殿の近くの大広場を華麗な山車が練り歩く。その周囲では踊りさ」

「それはいいな。見たいものだ」

「お前たちは旅行者になるから、ここに名前を書いておけ。住所はないのか」

「我々はアンドロメダ鉄道の乗客だ」とハルリラは言って、カードを見せた。

「おお、そうか、それは失礼した」と役人はやや驚いたような顔をして、急に親切になった。

それで、ともかく通してもらえた。

 

我々は、役人に礼を言って、その場を離れると、ハルリラが早速

「ほお、踊りだとさ。レストランで話していたことが実現しそうな不思議な話だな」と言った。

「そうだ」と大男が答えた。

「『共時性』というのは科学の事実だと聞いたことがありますよ。つまり、部屋の中で蝶々の話をしていたら、窓からその美しい蝶が入ってきたというのかな。その不思議な一致が宇宙にはあると」と吟遊詩人、川霧が言った。

  

城は広い丘陵地帯の茶畑が広がっているその上のかなり高台になっている所に見える。その高台がいわゆる町で、無数の家とビルが立ち並び、中心にある城の周囲には広場や貴族の館があるのだという。小さな湖もある。その町に行くまでの道のりも中々到達できない仕組みになっている。

これは敵が攻めてきた時に守りやすいという城の掟によって、つくられた道だろうが、それにしても奇妙に入り組んでいる。ハルリラは故郷のと大分違うと思った。

しかし、小高い所にある町に到達するのには、行けどもいけども、くねくねとまがりくねっていて、人家と小さい要塞がその道に立ち並び、その裏に広大な平地は茶畑と野菜畑が広がっている

 

  やがて、寺院が見えた。太鼓の音が聞こえる。

寺院の後ろには座禅道場があった。ふと、見ると中に座っているのは三十名ほどの十才前後の少年ばかり。それを大人の坊主が二人で見ている。

ハルリラと大男に気づいて、一人の小柄なウサギ族の坊主が出て来た。

「どうです。座禅でもやっていきませんか」と坊主は声をかけてきた。

「でも、少年ばかりじゃありませんか」

「確かにね。でも、大人が加わってはいけないという規則はないのです。むしろ、旅人は色々な地方の話をしてくれるので、しばらくここにおられると、わしらもそういう話が聞けて勉強になる」

 

「異星人の話ですか。鉱毒の話は地元のおぬしの方が知っておるじゃろ」とハルリラが言った。

「お坊さんでもそんなことに興味を持ちますか。わしは帝都ローサに一泊してきてはいるが」と大男は言った。

「わあ、話を聞きたい。実を言って、わしらは坊主ではない。侍なのじゃ。伯爵さまから、子供達を座禅で鍛えてくれと、頼まれているのじゃ。向こうの方は本物の坊さんだけどな」

「世の中は動いているぞ。で、伯爵さまはそういうことで、腕のある者をめしかかえようとなさっているのかな」と大男は言った。

「いや、分からん。純真無垢な人での。民族の友愛主義者だ。人種偏見のような教養のない偏見を嫌う方だ。

国内の経済の発達と民の生活の安定を一番に考えておられる。ここは神仏のいらっしゃる田舎じゃ。しかし、わしは国王陛下のおいでになる帝都ローサ市の状況に興味がある」と坊主のように見えるウサギ族の侍が言った。

 

 

 ハルリラと大男と吾輩と詩人、川霧は座禅をすることにした。一時間ばかりという約束で、少年達の端っこに座った。ハルリラも座禅をするのは久しぶりだった。

ハルリラは「座禅は死ぬ気でやらなければな」と笑った。

大男は初めてらしく、不安そうな怪訝な顔をして、坊さんに足の組み方を教わってなんとか、座れたようだった。

三十分もしない内に、大男は寝ている。頭がふらふらしている。

子供たちは一斉に終わって、立ち上がったので、その時の物音で大男は目をさまし、また足をくみなおしていた。

ハルリラはみだれずに、足を組んでいたが、故郷のことが思い出されてならない。

 

故郷の川で泳いだり、魚をとったり、女の子に声をかけられたり、

ああ、あの子はどうしているかなと思ったり、ハルリラより三つ下の女の子で目が丸く、可愛らしかったが、いつもハルリラに竹刀でうちかかってくるのはまいった。彼はたいてい、外してしまうのだが、たまに、ごつんとやられると、「油断大敵では、強い武士にはなれぬぞえ」と笑う。

忘れようと思って、数を数えると、今度はハルリラの頭に、別の妄想が湧いてくる。

 

吾輩寅坊は自分でも座禅をしながら、吟遊詩人、「川霧」の座禅を何故か良寛のようだと思って見ていた。そして、吾輩の耳に、良寛の和歌が響いた。「良寛に辞世あるかと人問はば南無阿弥陀仏といふと答えよ」

良寛は禅僧で、道元を尊敬し、法華経、阿弥陀経、荘子、論語を読んだと言われ、法華経を賛美する漢詩をいくつも書いているのに、辞世はちょつと意外な気がしないでもなかった。でも、これが素晴らしい良寛の教えなのかもしれないと吾輩は思うのだった。

 

寺院では住職が歓迎してくれた。子供達を指導していたもう一人の禅の坊主は副住職のようだった。さきほどのウサギ族の侍も夕食の誘いを受けて、ハルリラさんたちの話を聞きたいと言った。

 

「帝都ローサ市では、坂本良士というのが活躍していてな」とハルリラは言った。

「おお、わしの所まで、そやつの名前は轟いているぞ。どんな奴じゃ。改革派なのか、それとも保守派なのか、どちら側なのか」とウサギ族の侍が聞いた。

「坂本良士は両方を結び付けようとしているようじゃ」と大男は答え、ため息をついてから、またしゃべり始めた。「国の中で争っていてはユーカリ国や異星人につけこまれるからな。

改革派の哲学はニヒリズムなんだ。良士は理解できるが好きにはなれんと言っているようだ。なにしろ、改革派は金銭至上主義で、ルールのない株式会社とカジノを導入すべきと異星人と同じような主張をしていた。良士は心情的には

保守派に共感しているのかもしれんな。今までどおりの働く人のための会社で良いとしている。

 

 異星人は改革派を応援しているが、中身が違う。金もうけ大いに結構という特殊宗教も押し付けてくる。そうだ。地球でもあったろう。安土桃山時代にキリスト教が入ってきて、信長・秀吉は歓迎したが、秀吉は途中から、キリスト教の目的は自分の国を占領することにあると思い、家康は鎖国した。あれを思い出せば、異星人のビジネスとこの特殊宗教はセットになっていると誰でも思う

のではないか。

この惑星は金と銅が豊富、鉄は海の下、宝石特にダイヤは豊富―異星人は商売でこの金とダイヤを手に入れたいらしい。銅はビジネスだな。大砲と戦車と車を銅でつくれと言っている

 

一応、彼らのビジネス宗教からすれば、戦争でものを奪うのはダメだから、ビジネスでということになる。そういう考えを広めようという魂胆なのだろう。すでに銅山を占有して、政府の許可が下りていないのに、株主を募集し、銅山の株式会社とその関連会社を軌道に乗せている」

「新政府はそれで黙っているのか」とウサギ族の侍は聞いた。

「分からん。政府の役人、林文太郎が今は実権を握っているが

いつこの二つの勢力に追い落とされるかしれない。日和見でなんとか、政権のトップにいるような男じゃ。異星人とはうまくやっているが、まあ、別の言い方をすれば、異星人の言いなりということではないか」

「改革派と保守派はことごとく意見が違い対立することが多いという噂も聞いているぞ」とウサギ族の侍は言った。

我々はそんな話をしながらも、めしを食べていた。玄米食だった。玄米食と言うのは初めてだった。よくかんだ方がいいという話は聞いていたから、ハルリラは大男が喋っている間、三十回ぐらい数を勘定してかんで食べていた。大男は時世についてよく喋っていたが、ハルリラが思うに、玉石混交の情報のようで、どれが正しい情報なのか、ちょつと考えてみたが、ふと気がつくと、太鼓の音が聞こえる

 

ハルリラはそこの寺院の窓から見える城を見ながら、ぼんやりと夢想に耽っていた。

 

 

 白い壁に金色の筋が入った立派な城は大きな白鳥を連想させたが、つやがあり、斜めから射すやわらかな日差しに美しく青空に伸びて、今にも飛び起つようだった。

「時代が変わるのかな」と侍が独り言のように言った。

「時代は変わったばかりじゃないか、革命からまだ三十五年しかたっていない。

帝都ローサ市が動揺しているようじゃ、異星人につけこまれる」と白熊族の大男が大きな口で言うのをハルリラは見て、大男が初めてまともなことを言ったような気がした。

「それじゃ、改革派と保守派の綱引きは当分続くということか」とウサギ族の侍は言った。

「ハルリラさん。おぬしは、どう思う。坂本良士が何かやらかすか。彼はどちらにも属していないからな。そしてどちらにも仲間が沢山いるという不思議な奴じゃ」と大男は聞いた。

「色々、噂はあるけどな。どれが正しいのか分からん。それより、わしはここの城に仕官に来たのじゃ。お前さまは取次が出来んのかな」とハルリラは答え、侍に取次のことを聞いた。

「もう城は昔と違う。ただの役所よ。伯爵さまも知事と中央の議員をかねておられる」と侍は答えた。

「でも、お宅は仕官している。立派なものじゃ 」と大男は言った。

「わしか。わしはここの城という名の役所では、自慢じゃないが、一番の下級武士よ。サムライはまだ廃止されていない。

そんな取次が出来るくらいなら、自分の帝都ローサ市行きを交渉しているよ。住職なら、少しは力があるから、彼に取り次ぎを頼んでみたら」

 

食事が終わって、ハルリラと大男は住職の部屋を訪ねた。

「仕官したいとおっしゃるか」

「ここで、座禅の本格的な修行をしてから、行った方がいいのじゃございませんか」

「禅の修行、わしらはそんな悠長なことを行っておられんのじゃ。第一、あんな風に座っていて、何年したって、同じじゃありませんか」と大男は言った。

「それじゃ、わしからは城に取り次ぐことは出来んな。しばらく先に行くと、村長がいる。祭りの支度に忙しいが彼が取り次ぐだろう」

 

庭に出て、座禅道場の近くを通ると、先ほどよりも年齢の高い男の子たち、十五才ぐらいかが二十人ほど集まっていた。

午後の部の座禅らしい。さきほどの侍もいて、にやにや笑っている。

侍は男の子数人と話している。どうやら、一人の背の高い少年に

我らを村長の所に案内するよう命じているらしい。

 

「君達は武士か」

「ぼくは百姓です。でも、伯爵さまがこれからの男子は百姓も武士もない、腕のある奴はめしかかえる。座禅と剣をみがけとおっしゃるので。でも、今は祭りの手伝いをしています」と彼は言った。
「村長さんとこにか」

「ええ、公民館の横に、山車を組み立てる建物があるんです。そこへ皆さんを案内しろといいつけられました」

 

  

「それはありがたい。村長さんがいらっしゃるのじゃろ」

「はい」

「案内してくれ」

我々は林の中を突き抜けて、三十分ほど歩くと、公民館らしい白壁のビルと横にそれよりも少し大きめの煉瓦づくりの建物があった。

少年の話によると、その建物が山車を納めて、祭りが近づくと組み立ての作業をする場所なのだそうだ。

 

「村長に会う前に、祭りの準備を見たいな」と大男が言った。

少年はうなづき、中に入った。

体育館のような広い空間の中に、焦げ茶色の美しい材木が並べられていた。

既に、何度も使用したものらしく、壁側の置き場に、整然と並べられ、

それを数人の男たちが取り出し、組み立ての作業をしているらしかった。

 

「向こうに村長さんがいらっしゃいます」と少年が言った。

「おお、わしらのことを紹介してくれ」

少年は村長の所にひと走りした。

村長はこちらに軽く、頭を下げたので、礼儀正しい人だと思った。

彼が近づいてきて、「ようこそ。アンドロメダ銀河のお客さんとか」と言った。

「それに、わしは仕官が目的じゃ」とハルリラは言った。

「仕官ですか。わたしが伯爵さまにご紹介しましょう」と村長は微笑した。

「今は祭りの準備が忙しくてね。もう夕方も近いですから、今晩は近くの宿も手配しますよ」と村長は言った

しばらく我々は 山車の組み立ての作業を眺めていた。

「素晴らしい祭りですよ。もう広場では踊りの練習が始まっていますよ。本番では、この山車が大きな広場をぐるぐる回り

その中を人々が踊りを熱狂的に踊るのです

あなた方も踊ると良いです。」

 

吾輩は京都の祇園祭と阿波踊りを思い出した

祇園祭は自分という猫を飼ってくれていた京都の銀行員に連れて行ってもらい一度だけ見たことがあるからである。阿波踊りは銀行員の家のテレビで、見た。

なんでも、パリにまで行って踊ったという有名な踊りなんだそうだ。テレビで見ていたら

阿波踊りなら、猫でも踊れると思い、ひそかに、一人【いや、失礼一匹】になった時

阿波踊りをやってみた記憶がある。しかし、あれはやはり、沢山の人と一緒にやるのが楽しいのだろうと思い、やめてしまったことを思い出した。

 その後、我々は一杯のお茶をご馳走になった。そのうまかったこと、天にものぼる心地というのはこのことをいうのかという思いが吾輩の脳裏をかすめた。

       

                                                          【 つづく 】  

 

久里山不識