空華 ー 日はまた昇る

小説の創作が好きである。私のブログFC2[永遠平和とアートを夢見る」と「猫のさまよう宝塔の道」もよろしく。

銀河アンドロメダの感想 4 (異星人)

2018-08-19 15:52:52 | 文化

今日は午前中、パソコンのトラブルを直すのに三時間もかけてしまった。パソコンはうまく動いている時は、魔法のような器械だと思うが、トラブルが起きて中身を見ると、物凄く奥が深い。いつだったか、この仕事をしていて、過労自殺した若い女性のことを思い出した。気の毒なことだと思った。かなり優秀で若いのに、期限付きで慣れない仕事をやれば、トラブルもおきるかもしれない。おきたら、この奥の深いパソコンの森の中に足を踏み入れなければならない。森なんて、そんな情緒のある所ではない。川もないし、花も咲いていないし、美しい鳥の声も聞こえない。

あるのは人類千年の理性だけで編み出した針金でつくられたような神経細胞が縦横無尽に走り回っている。へたな所を動かせば、トラブルはさらに大きくなる。その上、直すのがいつまでという期限がつく。寝る暇なんかない。 

そのうえ、上司のパワハラがくる。パワハラと思っていないで、指導だなんていうから、始末が悪い。

 

パソコンから、離れてこの二十年、三十年の世の中の進歩を見ると、人類はいい方向に進むのだろうか、いい方向に進んで欲しいという祈りみたいなものが湧く。

 

分かりやすい所から例をあげれば、携帯電話。今はスマホ。

いつの頃だったか、道を歩いていたら、大きな声で独り言を言っている人がいる。

あれ、このストレス社会で、少し頭をやられてしまったのかなと思った。しかし、それから、しょっちゅうそういう場面に出くわし、それが携帯電話というものであることが分かった。喫茶店で一人で話しているのが何かの即興劇のように面白く思われた時代があった。

 

ノートパソコンだって、私が最初に買ったのは四十万円もした。その前はワープロ時代だ。カメラだって、私がヨーロッパ旅行に持っていたのは十五万したミノルタのフイルム写真。

デジタルは最初に八万で買ったが、今から見れば、玩具ぐらいの性能しかなかった。

 

まあ、こうして進化するのは沢山のいい面を持つ。科学技術の発達の進化は素晴らしい。

 

ああ、そうほめてだけいたいのだが、そうもいかない。

軍事技術にそうした科学技術が使われているからだ。キューバ危機には人類破滅の寸前までいったという。最近では、宇宙軍をつくるなんて、アメリカの大統領が言っている。中国の軍事技術の進化もあと、十年したらどうなることだろう、と思う、

 

私の物語で、魔界とか魔王メフィストとか、魔とかいうものを出してきて、何か人類はそうしたものに引きずられているのではないのかという心配を象徴的に表現してみた。

 

異星人を持ち出してきたのはそこまで恐ろしいことは考えなくとも、人間は善と悪を両方持っているのではないかと日常的に経験することだ。

異星人程度の悪なら、人間の努力でなんとかなるし、法律で防げるという見通しがついてきた。これもフランス革命以来の人類の長い努力のおかげだ。

 

しかし、魔界はそうはいかない。最初に魔界に囚われの若い女で魅力的な女を出し、

それが愛によって、崇高な変身をとげるのはそこに人類の希望がかかっていると私は無意識に考えたのかもしれない。愛と大慈悲心が宇宙と人間の中核にあると、優れた宗教と優れた哲学は言っているのだ。

 

 

 

 

異星人

 

 並木道をさらに進むと、面白いベンチが見つかった。屋根のあるベンチである。

後ろに、立派なトイレがある。

そのベンチで鹿族の中年の男とうさぎ族の若い男は絵をかいている。

我々は興味を持って声をかけた。

中年の男は自分の家を持っているらしいが、若い男はホームレスだという。

話によると、若い男の方が絵ははるかにうまいというのだが、我々もそんな気がした。向こうに見える低い山を描いているのだが、どこかセザンヌを二人ともまねしているのかと思うほど、似ているような気がしたのは吾輩の目の錯覚か。

このあたりの伯爵は芸術、特に絵を好み、白壁に囲まれた町の中央の城のそばに美術館を置いている。時々、展覧会を開催し、入選した者には年金が支払われ、中でも優秀なものには名誉博士を与え、住宅などの生活が保障されるということだ。全国から集まる若者には、金のないものも多く、ホームレスも沢山になり、そういう者のためにも、ベンチには屋根がつけられ、万一のためにも、泊まれるようにしてある。(勿論、屋根のないベンチもたくさんあるが )   この国は大変温暖な気候なので、ホームレスが生きるのに困ることがないように、政治も自然もそうなっているという話だった。

中年の男は言った。

「わしは日曜画家になりさがったが、この男は才能がある」と若い男を指さした。うさぎ族の男は髭もそり、耳の長い所でやっとうさぎ族と分かるほど、顔が整い、服も小奇麗なブルーのトレーナーを着て、全体に清潔な印象を受けたので、我々は、ホームレスと聞いても信じられなかった。

我々は若者に数日分の食事代になるようにと、この国の通貨を渡したら、これまで書いた数枚の絵を見せてくれた。

 

その時、空で例の魔ドりがルリ、ルリリと鳴いた。皆、空を見上げた。樹木の指に数羽の魔ドリがいる。

「嫌な鳥が来たな」とハルリラが言った。

「そうですか。」と中年の男は「どうだい」と若い男の意見を聞いた。

「魔ドりは絵をかくには悪い時もあるけど、いい時もあるのですよ。何かインスピレーショーンみたいなものがわあーと吹き出すようになって、筆が動くのです。

 

 我々は絵をかいている二人と別れて、さらに歩いた。歩いている最中も、今のホームレス画家やゴッホなどの印象派の画家の話に花を咲かせた。

「魔界も物語に必要な時があるということかな」とハルリラは言った。

 

ゴッホの話は三人に人気があった。

「それだけの才能があっても、生きている間、認められない。信じられませんな」とハルリラが言った。

「それはきっと以前の絵の形式がいいという思い込みがあるからでしょ。新鮮なイメージで絵が創造されると、以前の形式しか知らない人には理解できないということはあります。こういう狭い視野で批判しようとする人はいつの時代にもいるものですよ」と吾輩は京都の主人のよく言っていた理屈を思い出し、同じようなことを言った。

「ゴッホは気の毒でしたな。この国のような画家を優遇する制度があって、御覧なさい」とハルリラはゴッホに盛んに同情した。

「ゴッホは物自体を見ようとして、それを書きたいと思った。それが彼の苦悩の一つであったのかも」と詩人、川霧は言った。

「物自体とは」

「物自体とは。例えばそこにある花そのもの、樹木そのものということです。それなら簡単で、分かりやすいかな。それとも、まだ分かりにくいかな」

「確かに花そのものを描く、誰でもやっていること」

 

 

 「でもね。キリストは野の百合の花は ソロモンの栄華より美しいと言った。その百合の花は、普通に我々が言う百合そのものとは違う。

真理【真如】の世界での百合の花なんですよ。

我々人間は物を見る時、脳の枠をつくり、それで見ている百合ですから、真理の世界の百合ではない、禅では主客未分の世界と言いますが、そうして見られた百合はソロモン王がつくった宮殿やその中のあらゆる豪華で華やかなものよりも百合一輪の方が美しいと言ったのです。」

「ゴッホの描いた椅子はそういう真理【真如】の世界の中での椅子なんですか」

「ゴッホがそれをめざしていたかどうかは分かりませんが、どちらにしても

椅子そのものを描こうとしたのでしょうが、彼の天才をもってしても、描ききれなかったのではないですか。それほど、真如の世界に入るということはむずかしいということでしょうね。昔の偉い僧は修行でそれが出来たということでしょう」

 

 

その時、大きさと形がカラスに似た茶色の鳥が吟遊詩人の肩に何かの液体のようなものを落とした。すると、不思議や、詩人の服が囚人服に変わってしまったのだ。

小さな穴がいくつもある太い黒い横縞の入った薄汚い黄色い服だ。

「魔ドリのいたずらだ。それにしてもひどい。着替えはないし」とハルリラが言った。吟遊詩人はそれほど困った顔をしていない。「魔界というのはあるようだね」

我々は詩人の言葉に呑気さを感じ、感心したが、しばらくその並木道の所で立ち止まり、ああでもないこうでもないと話していた。

「どうしたんですか」と言う女の声があった。吾輩は驚いて、彼女を見ると、見覚えがある。邪の道を双眼鏡で見た時にブルーの服を着た若い女がいたが、その女ではないか。

「あら、あなた。川霧さん。囚人服なんて着て町を歩くと、皆から、変な目で見られますよ。この国は囚人には厳しい国ですから」と女は緑の目を光らせて言った。

彼女はいきなりポケットから、横笛を出し、不思議な音色の曲を流した。

不思議や、詩人、川霧の囚人服は消えて、元の美しい青磁色のジャケットになっていた。

「あたし、知路と申しますの。よろしくね」

我々があっけにとられて、いると、彼女は、そばにあった自転車に乗って、さっと消えてしまった。

我々はまた彼女のことをああでもないこうでもないと噂ばなしをして、歩きつづけた。ハルリラの結論では、あの女は川霧が好きなのかもしれないが、気を付けた方がいいという話だった

やがて、土蔵や焦げ茶色の家が並ぶ所に、高い時計台があり、その横に案内所があった。そこを我々は中に入った。

案内所の中の壁に、大きな看板がかかっていた。

 

【異星人  よりの布告

価値観を変える株田真珠党に早急に入ることを歓迎する。 】

 

「あの看板は何だ」とハルリラが聞いた。

出てきた初老の鹿族と思われる背の高い男が説明した。

「つまりですね。株を配当して、金を集め、あの銅山を株式会社にしようとしているわけなんでしょ、株主には会社がもうかれば配当が配られるという風ですよ」

 

 

 「ふうむ。会社組織というのは既にあるというのは知っている。町のあちこちの看板に、会社の名前のついているのを見た。

しかし、株式会社というのは面白いアイデアではないか」とハルリラは言った。

「地球では、大変さかんですよ」と吾輩は言った。猫であった吾輩の主人の京都の銀行員の父親は株で億の単位で儲けて、京都の郊外に豪邸をかまえていると聞いたことがある。

「株式会社と言えば、我がテラヤサ国ではまだだが、隣のユーカリ国では、もう採用している」と初老の鹿族の男が言った。

「それを異星人が広めたというのかな」とハルリラが聞いた。

「そうですよ。そういうのって、異星人が広めたのですよ。でもね、わが国は伯爵さまがおられるから」

「伯爵さまはそういうの、嫌いと思っているのかね」とハルリラが言った。

「さあ、好きではないでしょう。我々庶民の多くはそう思っていますよ。伯爵さまは神々のいる町を理想としていらっしゃるから」

「神々のいる町とは」

「うわさでは、清流に木の水車を置き、町の家々に電気を送るというような自然そのものを大切にした町づくりだそうだ」
「水車で電気をつくる。いいね。株式会社そのものも面白いアイデアだと思う。その会社が有望だと思って、お金を投資し、伸びれば自分も配当をもらえる。経営者は工場をつくったり、機械をつくったりして、会社を大きくするには、資金が必要だ。そういう金は株主から集められる。中々、合理的ではないのかね」とハルリラは言った。

 

 「会社というのは生き物なんですよ。恐竜みたいになってくると、貪欲になる。こうやって、よその国の惑星にまで入ってきて、鉱山や工場では、よその惑星だからと言って、遠慮もなく、労働者をこき使う」と初老の鹿族の男は話し、さらに続けた。「安い賃金で長時間、働かす。

住宅はひどい所に住まわし、安くこき使う。もう随分と死者が出ているんですよ。

パワハラなんて日常的にありますし、過労死も、沢山あります。病気になるものもあとをたちません。新政府は異星人に何も言えない。なさけないですね。

株式会社は放っておくと、そうやって労働者を人間として扱わない。その方が会社の利益になりますからね。

そうやって、会社は大きくなり、儲けることを背後の株主も喜び、ギャンブラーのような心境になってしまうのですよ。株主もそうやって儲かるわけですから。

異星人がわがテラヤサ国に入ってきて、現にそういうことが、起きているわけです」

「確かに、過度の競争が株式会社を利益第一主義に追い立てることはあるし、それは良くないことだ。しかし、会社は働く人達のためにあるというもともとこのテラヤサ国にあった会社の理念をそのまま引き継げば、そんな心配は法律で規制すればいい」

「しかし、カジノと株式会社をセットして、異星人はわが国に輸出しようとしている。

異星人はカジノを貴族がやっていた歴史があるが、わが国はそんなことを許さないアニミズムの伝統がある。

わが国には邪の道と言われている所がいくつもあるが、議論の的になっている森林地帯がある。

 

 そこは熊族の祖先、熊と言う野獣の住処になっていることもあり、誰もよりつかない。熊の神様が、我々人間が入ることを禁止しているという信仰がある。

それを異星人は新政府に圧力をかけて、森林と熊を殺し、カジノをつくれと言っているのですよ。」

「それは魔界のメフィストのささやきのようにも聞こえる」とハルリラが言った。

「魔界? そこまでは考えていませんが、異星人の考えている株式会社と、あなたの考えている理想的なスタイルの株式会社とでは相当な違いがあるということですよ」

「お宅は中々の見識を持っているな」とハルリラは言った。

「私はスピノザ協会の会員なんです」

「ほお。スピノザ主義。わたしのもろもろの事物の中に、宇宙の真実が表現されているという信条と似ていて、大変面白い」と詩人、川霧が言った。

「スピノザ主義は拝金主義を嫌う。大自然の中に神を見るのですから。素晴らしい。その神の愛の意思の流れが我々人間になり、社会になっているのですから、我々はこの自然の法則の中で、社会の仕組みを考える必要があるのですよ。一体、熊の住む森林地帯に通じる道を我々は邪の道だなどと断定している。【確かにこの国にはいくつも邪の道といわれる所があり、本物の魔界【毒界】へ通じる道もあるかもしれないが、この森林地帯は違う 】

近代化路線が自然の法則にのっとって進化するためには、大自然にひそむ神の意思をくみとらねばならない。カジノなんてとんでもない。大森林も熊も一緒になって、我が国の発展を見守ってくれるような近代化が望ましいとは思いませんか。」

 

 吾輩にスピノザ主義の詩句が耳に響いた。 

「かぐわしい草花があたりに緑のじゅうたんとなる頃、美しい蝶が舞う。そして、樹木の上には梅の花から、桜の花へと、満開を楽しむと、それはやがてひらひらと地上に降り、土色の大地は雪が降ったように、白くなる。その白さの中に春のいのちのピンクが見えるのは何という美しさだ。スピノザの神はこのピンクのようなものだ」

 

美しい蝶は今、どこ

美しい鳥は今、どこ

ここはまだ平凡な並木道

雲は悠然と動いているが

川の向こうに城の壁が見え、そこに緑の樹木と果物が見える

ああ、その森と湖と町が混在した神秘な町に早く行きたいものだ

日暮れも近い

並木道に日差しにまぎれて夕べの香気がしのびよる

何故か、心は憂愁にひたる

ああ、ワインがあれば。

 

 

 

                                 [つづく ]