防災ブログ Let's Design with Nature

北風より太陽 ソフトなブログを目指します。

論文デビュー

2009年03月28日 | 技術動向
日本地すべり学会から、私が執筆していた論文の別刷が届きました。いまもいくつか執筆中ですが、なんとかデビュー作として日の目をみることになりました。

趣旨は、2004年新潟県中越地震を題材として、地すべりには人の人生に似た変遷史(誌)があるということを模式的に示して、今後の対策の大局観をつかもうとするものです。

いまだけ、そこだけ、をみてとりあえず、あるいはさしあたっての対策ばかりでは、結局つぎはぎだらけ、定額給付金的な話になってしまうわけです。いままでの日本は土木工事最優先で来てしまったゆえに、形なきものに対する価値をみとめようとはしませんでしたが、維持管理の時代になると、やはりどう維持されてきたか、いろんなスパンで見る目がないと、適切な管理もなされません。

ところで、いろんな人にこの論文をおくったんですが、その送り状にちょっと遊び心を入れてみました。地すべりってどんなもんか、、、さりげなく点検状況の写真も入れたりして、、、事務的な送付状もよいですが、封を開けた時に、おっと楽しんでもらおう?と言うわけです。

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2 コメント

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祝論文デビュー (今岡)
2009-03-31 11:13:09
論文を拝読いたしました。
全体の感想として、まず「地すべり」と「表層崩壊」と「河床堆積物」という3つの題材が共存しているため、盛り沢山な内容だなと感じました。
今後、個々の題材について深めていけば、それぞれで1本づつの論文ができそうに思います。

特に、地すべりの段階性に言及しておられる部分は地形学で言うところの地形輪廻にも通ずる気がして興味深いです。
地すべりにも発生してから消滅するまでの、言わば「一生」があって、
それは長い時間軸を持つ一種の地質現象なのだということを意識させられます。


こうした時間軸を認識することは、これからの防災分野では非常に重要だと思います。

下河さんの論文が示唆しているのは、
「地すべりの4期(8段階)に区分された一生は、ただ時間の経過とともに漠然とジワジワ進むばかりではなくて、
実は地震という突発的なインパクトを何度となく経験しており、その都度々々急激に進むことがあるのかもしれない。」
…という点が挙げられるのではないでしょうか。
特に、第二期(漸移期)から第三期(滑動期)への発展は、時とともに連続的に移行するのではなくて、
地震動というインパクトを引き金として急激に起こるケース(可能性)が多いかもしれませんね。

これは、「地すべり対策においては地震動を考慮しない(ことが多い)」という既往のセオリーに一石を投ずる部分であり、
地震動は地すべり現象にはもはや無視できないファクターであることを示すものだと思います。
将来的には、地震動というインパクトが、地すべりの「一生」の"どこ"で、"どのように"関与してきているのかを解明していくことが課題であろうと考えます。
それによって地震時における地すべり地域での防災上の留意事項が見えてくる気がします。
例えば「地震に弱い地すべりは、どのタイプか?どの部位が危険なのか?」といったことです。
そのように地すべりタイプ別の耐震性を評価する指標が見えてくれば、「全ての地すべり対策に耐震性を求める」ような過大設計(無駄)も抑制できるので、防災上大いに役立つのではないでしょうか。



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コメント有難うございます (下河)
2009-03-31 16:07:09
大変参考になるコメントを頂きありがとうございます。

>全体の感想として、まず「地すべり」と「表層崩壊」と「河床堆積物」という3つの題材が共存しているため、盛り沢山な内容だなと感じました。今後、個々の題材について深めていけば、それぞれで1本づつの論文ができそうに思います。
>「全ての地すべり対策に耐震性を求める」ような過大設計(無駄)も抑制できるので、防災上大いに役立つのではないでしょうか。

 この論文を書こうと思ったきっかけは、地震が起きたことによって砂防や治山の予算がついた!やってしまえ!!というムードに対する一種のアンチテーゼです。2004年に起きたことは一見派手ですが、対象地域の自然の気持ちになって考えれば、ストレス発散のためのいつもの出来事にすぎないということですよね。砂防でも、発達史的背景から考えると、あんな緩勾配でヘドロしか堆積しようのないところに「土石流対策ダム」なんていらんのです。洪水による農地侵食を防止する護岸でいい(余力があれば多自然型)のです。でもあまりに露骨だとリジェクトされそうなので、、、、
 
>特に、第二期(漸移期)から第三期(滑動期)への発展は、時とともに連続的に移行するのではなくて、
地震動というインパクトを引き金として急激に起こるケース(可能性)が多いかもしれませんね。

これまで地形学の分野では、最終氷期に地すべりの多発期がある(言いかえれば、地すべりの発生頻度は、ある程度気候変動に呼応しているんじゃないか)といった論調があります。でも、それは、ではなんであんな巨大な地すべりブロックができるのかという、規模を証明するところまでは論じきれていませんでした。
中越地震は、情報化社会になって始めて発生した地すべり地帯での直下型地震です。昨年の岩手宮城の地震では、地すべりから活断層の活動周期を逆算すべしという内容の報告も見られるようになりました。そこまで突っ込んだコメントをしとけばよかったですね。

>「地震に弱い地すべりは、どのタイプか?どの部位が危険なのか?」といったことです。
人生に例えるならば、若くて、しわのない(侵食谷が発達してない)ヤツということでしょうね。

>そのように地すべりタイプ別の耐震性を評価する指標が見えてくれば、「全ての地すべり対策に耐震性を求める」ような過大設計(無駄)も抑制できるので、防災上大いに役立つのではないでしょうか。
 これに関しては、年代を測定し、安定解析など定量解析に結び付けられれば、「報告」から「論説」になりますといわれました。定性的モデル化→定量的な検証の流れの前半部が軽んじられているので(今岡さんの地表地質踏査のスレッドにもそのようなコメントがありましたが)、もっとでかい一石を投じてみたいと考えています。
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