素粒子は次の2つに分類できる。
Bose(ボーズ)粒子とFermi(フェルミ)粒子である。
Bose粒子は場をなし、Fermi粒子は物質をなすことはαにおいて説明した。
今回は私たちの仲間である「5番目」様の質問に答えるという形で、この2つの粒子について説明したいと思う。
とても簡単な話なので気楽に聞いていただきたい。(もし簡単でないとしたら、悪いのは私の説明である。)
まずは分類のための基本原理から述べてしまおう。
それは、量子の世界において粒子に同一性(アイデンティティー)は必要ないということである。
たとえばここに粒子1と粒子2が存在していたとしよう。
古典力学では、この2つは異なる存在である。
しかし量子力学では、この2つは同じものであるとして区別しないのである。
我は汝にして、汝は我である。
ここで粒子1と粒子2が状態Aもしくは状態Bになれるとしよう
まずはこの2つを古典力学の約束に従い、区別して扱うとどうなるだろうか?
するとこの場合、次の4つの可能性が考えられる。
| | | |
|1と2| | |
|___| |___|
A B
| | | |
| | |1と2|
|___| |___|
A B
| | | |
| 1 | | 2 |
|___| |___|
A B
| | | |
| 2 | | 1 |
|___| |___|
A B
これを数式で表現すると
F(A;1)F(A;2)
F(B;1)F(B;2)
F(A;1)F(B;2)
F(B;1)F(A;2)
となる。F(A;1)はAの状態に粒子1が存在することを意味している。
しかし量子の世界では事情が異なる。
先ほど述べたように粒子1と粒子2は区別されないのだ。
上の図の下2つは、同じものとして等号で結ばれる。
| | | | | | | |
| 1 | | 2 | = | 2 | | 1 |
|___| |___| |___| |___|
A B A B
古典世界では状態Aにある粒子1と状態Aにある粒子2は異なる存在だが、「粒子1」=「粒子2」ならばこの2つは同じことになる。
これを数式で表現すると
F(A;1)F(B;2) = F(B;1)F(A;2)
もしくは F(A;1)F(B;2) = F(A;2)F(B;1)
となる。粒子の状態を表わす関数Fが、上のような「交換関係」を満たすとき、それをBose粒子と呼ぶ。
この式が粒子の交換に対して符号を変えないことから「関数は対称性を持つ」「パリティ偶数である」と言われる。
そしてこの場合は、考えうる可能性は「1」=「2」=「●」として、次の3つに減る。
| | | |
|● ●| | |
|___| |___|
A B
| | | |
| | |● ●|
|___| |___|
A B
| | | |
| ● | | ● |
|___| |____|
A B
さてBose粒子の関数は対称性を持っていたが、Fermi粒子はどうであろうか?
こいつは反対称性を持つ。
つまり、こうだ
F(A;1)F(B;2) = -F(B;1)F(A;2)
上の式と比べて、粒子の交換に対してマイナス符号がついていることに注目していただきたい。
このような「反交換関係」を満たす粒子をFermi粒子と呼び、「関数は反対称性を持つ」「パリティ奇数である」と言う。
この場合、考えられる可能性は次の1つだけである。(今回も「1」=「2」=「●」とする)
| | | |
| ● | | ● |
|___| |___|
A B
何故これだけなのか?Bose粒子における上2つは、どうして消えたのか?
その答えは、「反交換関係」に注目すると分かる。2つの●がAもしくはBの状態にだけなったとしよう。これを式で書くと
F(A;●)F(A;●) = -F(A;●)F(A;●) もしくは
F(B;●)F(B;●) = -F(B;●)F(B;●)
である。これを書き換えると
2F(A;●)F(A;●) = 2F(B;●)F(B;●) = 0
つまりこの場合、関数Fは必ず0となって消滅してしまうのだ。つまり、2つ以上の粒子が同一の状態は占めることはありえない、不可能なのである。
だから許されるのは、1つの状態に1つの粒子だけが対応する上の図だけなのである。
これは「同一の状態(量子数)に2つ以上のFermi粒子が存在できない」というパウリの排他律と呼ばれる法則である。
物質である「原子の周期表」もこの法則から説明することができる。
(クーロンポテンシャルのもとで波動方程式を解いて、求まった量子数の一つ一つに順番に電子を配置していくと周期表が完成する。
そこでは一つの量子数に2つ以上の電子を配置することは許されない。)
ちなみにBose粒子は同一の状態に無限に重複して存在することができる。
分類の原理はこれだけである。
以下は余談である。
*******************************
ところで粒子の同一性をつきつめると、どのような考えにいたるのであろうか?
それは全ての電子は同一である、という考え方だ。
先ほどの同一性は単に区別ができないということに過ぎなかった。
しかしこれは、この世に電子はたった1個しか存在しないという考え方である。
全ては我なり、なのだ。
意味が分かるであろうか?つまり私の体を構成する数千兆、数千京の電子は全て1個の電子だと言うのだ。
そして私とあなたは同じ一つの電子からできているのだ。
それだけではない。森も海も、空も太陽も星も銀河も宇宙も、そこに存在する無限の電子は実は一つの電子だということだ。
これはファインマン氏の師匠であったホイーラー教授の考えたことだ。
「物理法則はいかにして発見されたか」から引用しよう。
「ファインマン君、なぜ電子がみんな同じ電荷、同じ質量を持っているのか、わかったよ。それはね、みんな一つの電子だから!」
「時空における世界線というやつだがね。電子が時間軸で上向きに行くだけでなく、上下に進んで、こんがらがった組み紐のようになっているとしよう。そいつをある時刻一定の面で切ったら、たくさんの電子があるように見える。
ただ未来の方から戻ってくるときは固有時、4元速度の符号が変わってしまう。これは電荷の符号を変えることと同等だよ。逆戻りの世界線は陽電子のように振る舞うことになるのだ」
これは一つの電子が未来へ行ったり、過去に戻ったりしているということだ。
一つの電子が未来へ行き、過去へ戻って来て、また未来へ行くと、私の目には電子が2つあるように見える。
その電子が再び、過去に戻ってから未来へ行くと、更にもう一つ電子が増えたように錯覚する。
これを無限回繰り返せば、全宇宙に存在する電子の出来上がりだ。
ファインマン氏は、この検証不可能なアイデアそのものは信じなかったが、「未来から過去へ行く電子は陽電子のように見える」というアイデアだけを採用して、あのファインマン図を作ったのである。
*******************************
Bose粒子はいくつ集まってもBose粒子である。
しかしFermi粒子は偶数個集まるとBose粒子のように振舞う。
たとえば物質である「陽子」や「中性子」はFermi粒子であるクォーク3つからなるので、Fermi粒子だが、
核力(場)の原因である「中間子」はFermi粒子であるクォーク2つからなるので、Bose粒子となる。
これは式で書くと分かりやすい。「中間子」を2つの反対称関数の積
F×G
と書いてみる。この「F×G」は個々の関数は反交換関係にあるために
F(A)×G(A)×F(B)×G(B) = (-1)の4乗 × F(B)×G(B)×F(A)×G(A)
となり、全体的には交換関係を満たす。よってボソンとなるのである。
*******************************
古典力学は扱う粒子の数が3つ以上になるだけで、計算が複雑になる。
ましてや気体などの分子や原子が無数に集まった集団の性質を知るためには、古典力学を使うことはできず、統計的性質に頼るしかない。
その統計力学においては、それぞれの粒子の配置について、いくつの可能性があるかは大事な要素である。
さきに挙げた3つの図では、古典、ボソン、フェルミオンかによって、その可能性の数が4つ、3つ、1つとまるで違ってしまう。
事実、この3つのそれぞれを使って統計力学の計算をすると、異なる結果が出る。
たとえば古典を用いて求めたウィーンの公式は近似的にしか正しくないが、Bosonを用いると正しいプランクの公式になることが知られている。
また光子気体はボソンの統計に従い、電子気体はフェルミオン統計に従うことが実験で確かめられている。
*******************************
最初にプランクの公式を導いたのがインド人のBose氏である。氏はうっかり確率の計算を間違えて、4つの可能性を3つの可能性で計算してしまった。
しかし、そうすると実験と一致する正しい答えが得られたのである。
それに注目したアインシュタインが、これを理論化した。
これがBose-Einstein統計と呼ばれるゆえんである。
*******************************
最後に、細かい話ではあるが、粒子の交換に対して対称なものと反対称なもののいずれかが生じる原因を説明しておく。
量子力学において粒子を表わす波動関数は次の性質を持つ。
それは波動関数は定数倍しても同じ状態を表わすということだ。
F(A;1)F(B;2) = Constant × F(A;1)F(B;2)
そして粒子1と2の交換に対して状態が変わらないということは
F(A;2)F(B;1) = F(A;1)F(B;2) = C × F(A;1)F(B;2)
ということになる。そこで、もう一度、粒子1と2を交換してやると
F(A;1)F(B;2) = C × C × F(A;1)F(B;2)
となる。
C × C = 1
なのでConstantは+1か-1となる。前者が対称関数であるBose粒子、後者が反対称関数であるFermi粒子となる。
Bose(ボーズ)粒子とFermi(フェルミ)粒子である。
Bose粒子は場をなし、Fermi粒子は物質をなすことはαにおいて説明した。
今回は私たちの仲間である「5番目」様の質問に答えるという形で、この2つの粒子について説明したいと思う。
とても簡単な話なので気楽に聞いていただきたい。(もし簡単でないとしたら、悪いのは私の説明である。)
まずは分類のための基本原理から述べてしまおう。
それは、量子の世界において粒子に同一性(アイデンティティー)は必要ないということである。
たとえばここに粒子1と粒子2が存在していたとしよう。
古典力学では、この2つは異なる存在である。
しかし量子力学では、この2つは同じものであるとして区別しないのである。
我は汝にして、汝は我である。
ここで粒子1と粒子2が状態Aもしくは状態Bになれるとしよう
まずはこの2つを古典力学の約束に従い、区別して扱うとどうなるだろうか?
するとこの場合、次の4つの可能性が考えられる。
| | | |
|1と2| | |
|___| |___|
A B
| | | |
| | |1と2|
|___| |___|
A B
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| 1 | | 2 |
|___| |___|
A B
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| 2 | | 1 |
|___| |___|
A B
これを数式で表現すると
F(A;1)F(A;2)
F(B;1)F(B;2)
F(A;1)F(B;2)
F(B;1)F(A;2)
となる。F(A;1)はAの状態に粒子1が存在することを意味している。
しかし量子の世界では事情が異なる。
先ほど述べたように粒子1と粒子2は区別されないのだ。
上の図の下2つは、同じものとして等号で結ばれる。
| | | | | | | |
| 1 | | 2 | = | 2 | | 1 |
|___| |___| |___| |___|
A B A B
古典世界では状態Aにある粒子1と状態Aにある粒子2は異なる存在だが、「粒子1」=「粒子2」ならばこの2つは同じことになる。
これを数式で表現すると
F(A;1)F(B;2) = F(B;1)F(A;2)
もしくは F(A;1)F(B;2) = F(A;2)F(B;1)
となる。粒子の状態を表わす関数Fが、上のような「交換関係」を満たすとき、それをBose粒子と呼ぶ。
この式が粒子の交換に対して符号を変えないことから「関数は対称性を持つ」「パリティ偶数である」と言われる。
そしてこの場合は、考えうる可能性は「1」=「2」=「●」として、次の3つに減る。
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A B
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A B
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A B
さてBose粒子の関数は対称性を持っていたが、Fermi粒子はどうであろうか?
こいつは反対称性を持つ。
つまり、こうだ
F(A;1)F(B;2) = -F(B;1)F(A;2)
上の式と比べて、粒子の交換に対してマイナス符号がついていることに注目していただきたい。
このような「反交換関係」を満たす粒子をFermi粒子と呼び、「関数は反対称性を持つ」「パリティ奇数である」と言う。
この場合、考えられる可能性は次の1つだけである。(今回も「1」=「2」=「●」とする)
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A B
何故これだけなのか?Bose粒子における上2つは、どうして消えたのか?
その答えは、「反交換関係」に注目すると分かる。2つの●がAもしくはBの状態にだけなったとしよう。これを式で書くと
F(A;●)F(A;●) = -F(A;●)F(A;●) もしくは
F(B;●)F(B;●) = -F(B;●)F(B;●)
である。これを書き換えると
2F(A;●)F(A;●) = 2F(B;●)F(B;●) = 0
つまりこの場合、関数Fは必ず0となって消滅してしまうのだ。つまり、2つ以上の粒子が同一の状態は占めることはありえない、不可能なのである。
だから許されるのは、1つの状態に1つの粒子だけが対応する上の図だけなのである。
これは「同一の状態(量子数)に2つ以上のFermi粒子が存在できない」というパウリの排他律と呼ばれる法則である。
物質である「原子の周期表」もこの法則から説明することができる。
(クーロンポテンシャルのもとで波動方程式を解いて、求まった量子数の一つ一つに順番に電子を配置していくと周期表が完成する。
そこでは一つの量子数に2つ以上の電子を配置することは許されない。)
ちなみにBose粒子は同一の状態に無限に重複して存在することができる。
分類の原理はこれだけである。
以下は余談である。
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ところで粒子の同一性をつきつめると、どのような考えにいたるのであろうか?
それは全ての電子は同一である、という考え方だ。
先ほどの同一性は単に区別ができないということに過ぎなかった。
しかしこれは、この世に電子はたった1個しか存在しないという考え方である。
全ては我なり、なのだ。
意味が分かるであろうか?つまり私の体を構成する数千兆、数千京の電子は全て1個の電子だと言うのだ。
そして私とあなたは同じ一つの電子からできているのだ。
それだけではない。森も海も、空も太陽も星も銀河も宇宙も、そこに存在する無限の電子は実は一つの電子だということだ。
これはファインマン氏の師匠であったホイーラー教授の考えたことだ。
「物理法則はいかにして発見されたか」から引用しよう。
「ファインマン君、なぜ電子がみんな同じ電荷、同じ質量を持っているのか、わかったよ。それはね、みんな一つの電子だから!」
「時空における世界線というやつだがね。電子が時間軸で上向きに行くだけでなく、上下に進んで、こんがらがった組み紐のようになっているとしよう。そいつをある時刻一定の面で切ったら、たくさんの電子があるように見える。
ただ未来の方から戻ってくるときは固有時、4元速度の符号が変わってしまう。これは電荷の符号を変えることと同等だよ。逆戻りの世界線は陽電子のように振る舞うことになるのだ」
これは一つの電子が未来へ行ったり、過去に戻ったりしているということだ。
一つの電子が未来へ行き、過去へ戻って来て、また未来へ行くと、私の目には電子が2つあるように見える。
その電子が再び、過去に戻ってから未来へ行くと、更にもう一つ電子が増えたように錯覚する。
これを無限回繰り返せば、全宇宙に存在する電子の出来上がりだ。
ファインマン氏は、この検証不可能なアイデアそのものは信じなかったが、「未来から過去へ行く電子は陽電子のように見える」というアイデアだけを採用して、あのファインマン図を作ったのである。
*******************************
Bose粒子はいくつ集まってもBose粒子である。
しかしFermi粒子は偶数個集まるとBose粒子のように振舞う。
たとえば物質である「陽子」や「中性子」はFermi粒子であるクォーク3つからなるので、Fermi粒子だが、
核力(場)の原因である「中間子」はFermi粒子であるクォーク2つからなるので、Bose粒子となる。
これは式で書くと分かりやすい。「中間子」を2つの反対称関数の積
F×G
と書いてみる。この「F×G」は個々の関数は反交換関係にあるために
F(A)×G(A)×F(B)×G(B) = (-1)の4乗 × F(B)×G(B)×F(A)×G(A)
となり、全体的には交換関係を満たす。よってボソンとなるのである。
*******************************
古典力学は扱う粒子の数が3つ以上になるだけで、計算が複雑になる。
ましてや気体などの分子や原子が無数に集まった集団の性質を知るためには、古典力学を使うことはできず、統計的性質に頼るしかない。
その統計力学においては、それぞれの粒子の配置について、いくつの可能性があるかは大事な要素である。
さきに挙げた3つの図では、古典、ボソン、フェルミオンかによって、その可能性の数が4つ、3つ、1つとまるで違ってしまう。
事実、この3つのそれぞれを使って統計力学の計算をすると、異なる結果が出る。
たとえば古典を用いて求めたウィーンの公式は近似的にしか正しくないが、Bosonを用いると正しいプランクの公式になることが知られている。
また光子気体はボソンの統計に従い、電子気体はフェルミオン統計に従うことが実験で確かめられている。
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最初にプランクの公式を導いたのがインド人のBose氏である。氏はうっかり確率の計算を間違えて、4つの可能性を3つの可能性で計算してしまった。
しかし、そうすると実験と一致する正しい答えが得られたのである。
それに注目したアインシュタインが、これを理論化した。
これがBose-Einstein統計と呼ばれるゆえんである。
*******************************
最後に、細かい話ではあるが、粒子の交換に対して対称なものと反対称なもののいずれかが生じる原因を説明しておく。
量子力学において粒子を表わす波動関数は次の性質を持つ。
それは波動関数は定数倍しても同じ状態を表わすということだ。
F(A;1)F(B;2) = Constant × F(A;1)F(B;2)
そして粒子1と2の交換に対して状態が変わらないということは
F(A;2)F(B;1) = F(A;1)F(B;2) = C × F(A;1)F(B;2)
ということになる。そこで、もう一度、粒子1と2を交換してやると
F(A;1)F(B;2) = C × C × F(A;1)F(B;2)
となる。
C × C = 1
なのでConstantは+1か-1となる。前者が対称関数であるBose粒子、後者が反対称関数であるFermi粒子となる。