玄文講

日記

内田春菊「犬の方が嫉妬深い」

2005-06-25 18:47:01 | 
内田春菊さんの「犬の方が嫉妬深い」は実体験を元にして、というか実体験そのままを偽名にして公表した本である。
某漫画家の子供を身ごもり、その人ではない別人である前夫と結婚。その後、その前夫のではない、また別の男性の子供を出産。さらに現夫の子供を身ごもり、家出、そして離婚、再婚。
彼女はその実体験を文章やマンガにしている。
生き方そのものが商売道具というか、見せ物になっている人である。

「犬の方が嫉妬深い」は前夫に愛想をつかして、現夫の子供を妊娠して離婚するまでの過程を書いたものである。
西原理恵子さんは「鳥頭紀行くりくり編」でホモの人からの「友達が失恋して悩んでいます。どうすればいいでしょうか?」という相談に対して

前のと同じ型でちょっと上物をあてがう。

そうするとアラ不思議。
簡単に心を開いてすぐやっちゃうし
前の奴のこと急に何てゆうか知ってる?

石よ、石。石呼ばわり。
せめて生命体で呼んであげるもんじゃない。

これが女心とホモ心の不思議。


と言っていたが、この本がまさにそれ。前夫を石扱いである。

無能、対人恐怖症で役立たず、寝てばかりでぶくぶく太っていく、自分の稼ぎを際限なく浪費していく寄生虫、どれだけ体調が悪くても無理矢理働かせる冷血漢、子供の扱いが雑、相談しても反応しない薄情者、性的不能で不潔。

ここまで一方的に書かれているのを見ると、前夫には「お気の毒様」としか言い様がない。
しかし第三者としては無責任に楽しめる。ただ、この本に不快感を感じる人も多いであろう。
そのあまりの悲惨さに読んでいて気分が悪くなる人、一方的な悪口に被害妄想やヒステリックなものを感じてうんざりする人、その下品さや乱暴さに呆れる人、愚痴ばかりでユーモアがないと思う人、自分が前夫の立場だったらと恐怖する人。まぁ、批判される要素の多い本ではある。

田山花袋氏や佐藤春夫氏のように昔からスキャンダルな実生活を娯楽として世間に提供する人は多かったが、最近では女性もそういうことをするようになったわけである。
私はモラリストでもフェミニストでもないので、そのことについては何の感慨もない。ただ与えられたものを無節操に楽しむだけである。

特に「私たちは繁殖している」などに描かれた「ほのぼの家族」ぶりと比べながら読むと面白さが倍増する。
この幸せそうな夫婦が実は、、、というわけだ。「私たちは繁殖している」最新刊では現夫との「ほのぼの家族」ぶりが描かれているが、彼もただの「石ころ」にならないことを願っている。
これは皮肉ではなく、本心でそう思っている。

そういうえば唐沢俊一氏の「壁際の名言」に春菊さんと現夫の結婚式のときの現夫のお父さんの挨拶が紹介されている。

両家を代表いたしまして、、、両家といってもうちだけでございますが。

いいお父さんである。
そして唐沢氏がこのお父さんに対して「最初の子供の父親の友人でございまして」と挨拶したら、大笑いされたそうである。唐沢氏は

この先何があってもこのお父さんがいれば、この家庭は大丈夫なのではないかと、そんな気がした。

と書いている。離婚するかしないか、夫婦生活がうまくいくかどうかは、本人たちだけはなく、その家族との関係によるところも大きい。
そして確かにこのお父さんならば、その点は問題がないと思われる。