とじこめられた夜が
ゆるんでゆくねじの隙間から
地面にこぼれおちると
ゆるやかな最後の回転をすませた
花のなかに
光がすいこまれていって
それが
朝顔のとても短い青春
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
堤防にひとり坐って
海に目を投げている少女がいる
本当の心は解るはずはないのに
わたしは遠い日の自分に結びつけて
青くおだやかな海にむかいながら
少女はきっと
心に冬の海の拡がる
淋しい少女だときめこんでしまっている
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
短い時間のなかに
精いっぱい愛を投げ込んだとしても
わたしにみえるのは
くずれかけた土塀に寄りかかるように
咲く小さな花だけだ
雨の空さえまぶしいほど
哀しみを抱いて俯くひとの目に
映るだけの
あなたが別れ際にいつも
小さく頭をふるくせが
そんな花を
わたしの心にふやしてゆく
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
目をそらせて外をみつめていたのは
あなたが嫌なせいではありません
あなたの想いが
わたしには強すぎるからなのです
あなたの想いを心の帆いっぱいに受けて
思いきり走りつづけ
空に遊ぶ一片の雲のように
いつの間にかあなたの視線を
ゆっくりとたどってみたいのに
あなたはわたしにとって幼すぎるし
わたしの心は廃船のように
年月の永さのなかに
半分埋もれてしまっていて
あなたの想いだけを受けて走りつづけ . . . Read more
ふとあなたが
いなくなってしまうような気がする
重くなりすぎたわたしの想いを
せめてわたしの好きな
白い貝殻をちりばめた
波荒い海辺に埋めて
さっぱりと
走っていってしまうような気がする
サヨナラを言う
あなたの顔が明るすぎて
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
目をこらしていたのに
虹の消え去った瞬間は
わからなかった
遠い日
あなたの想いが
いつ消えてしまったのか
わからなかったように
わたしの心に
ひっそりとしたものを
放りこんで
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
眠ってください
深々と
わたしの胸をしびれさすほどに
わたしにしっかりと身体を寄せて
そうでないとわたしは
あなたの愛を
本当に信じられないのです
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
窓際の席に
あなたは黄昏の街に目を投げている
ざわめいているコーヒーショップの
そこだけが
とてもひっそりとしている
わたしは通りのこちら側から
そんなあなたを眺めている
約束の時間を過ぎて
あなたの頬に
夕陽をなくした空が宿ったとき
わたしは美しいと思いながら
少し痛みのある心を抱いて
まっすぐに扉に向かって足をふみ出した
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more
子供たちが
池に小石を投げて
ひろがってゆく水の輪の大きさを競っている
水の輪をおこした小石は
もう無関係にひっそりと池の底にある
そんなふうになりたいのに
わたしはまだ
昨日あなたに告げた言葉が
あなたの心に拡がってゆく様子を
考えながら
落ち着かない一日を過ごしている
塚原将『閉ざされた愛』より . . . Read more